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成田凌 – 熱は映画に宿る

Nov 30, 2024
漫画家・つげ義春の短編作品を原作に、成田凌と森田剛が演じる2人の男と、中村映里子が演じる1人の女が織りなす純粋な愛の物語。ほぼ全編、台湾でロケを敢行した映画『雨の中の慾情』が公開を迎えた。
30歳という節目を迎えた成田にとって重要な作品となった本作について、たっぷりと思いを語ってもらった。

成田凌 – 熱は映画に宿る

Nov 30, 2024 - FILM
漫画家・つげ義春の短編作品を原作に、成田凌と森田剛が演じる2人の男と、中村映里子が演じる1人の女が織りなす純粋な愛の物語。ほぼ全編、台湾でロケを敢行した映画『雨の中の慾情』が公開を迎えた。
30歳という節目を迎えた成田にとって重要な作品となった本作について、たっぷりと思いを語ってもらった。

よりよい作品にするため、みんなが常に模索していた

― すごい映画ができましたね。

ありがとうございます。なかなかすごいものができました。

― どう表現すればいいのか考えたんですが、やっぱり「すごい」というのが正解なのかなと。

そうですよね、自分もその表現だと思います。撮影中は毎日毎日、みんな極限まで戦っていたので。

― その熱量はスクリーンからも伝わってきました。映像表現もユニークで、「どうやって撮ったの?」というシーンもたくさんあって。

撮影監督の池田(直矢)さんが、ずっといい画を撮り続けてくださいました。本当にみんなタフで、時間のある限りトライし続けていて。

中村(映里子)さんも、福子を演じるのは身も心も大変だったと思うんですけどずっと素敵で。みんなとてつもない体力でした。

― つげ義春さんらしい叙情的で郷愁を感じさせる不思議な世界観で、美意識がすみずみまで徹底されていました。シュルレアリスティックな作品はチープにもなりかねませんが、最後まで冷めることなく没頭できました。

そう言っていただけるとうれしいです。

― 本作はほとんどが台湾ロケですよね。

そうですね。9割8分ぐらいは台湾で撮影してきました。

― 撮影期間はどれぐらい?

1か月ぐらいですね。本当に贅沢に時間をとっていただいたなと思っています。異国の地で撮っていると作品のことだけを考えていられるので幸せでした。

― そうですよね。日本にいるとなかなかひとつの作品に集中するのは難しい。

他の仕事はもちろん、家事や生活のことに煩わされず、作品に集中できる環境だったのですごくありがたかったです。

― 台湾で撮影したことで、大きな違いは感じましたか?

やっぱり常に漂っているムードが違いました。たとえば(成田さん演じる義男が)福子さんと初めて出会うシーンで、オレンジの光と青い光が入っているんですけど、これは台湾だから違和感なくできたことだと思います。

― 確かに。日本でセットを組むのともやっぱり違うんですね。

そこにあるエネルギーも映画になっているので。現場の熱量がスクリーンを通してもみなさんに伝わったらいいなと思っています。

でも熱量といっても、頑張ったことに対して自分たちだけが満足できるような作品は絶対に嫌で、よりよい作品にするために何ができるかをみんなが常に模索していました。

― がむしゃらなだけでなく、試行錯誤しながら作っていった。

とあるシーンを撮るために片道2時間ぐらいかけて砂漠に行ったのですが、現場で準備をしていたら監督が来て「やっぱりここでは撮りません」と。いい作品をつくるためにそういう決断をするって本当にかっこよくて感動しました。最終的には日本に帰ってきて、牧場みたいなところで撮影したのですが、それだけの意味がある、とても素晴らしいシーンになっていました。

最初のころはそこまでこだわるのかと、毎回台湾のスタッフの方々が驚かれていて(笑)。でもその働きを見て、そして撮れた映像を観て、台湾のスタッフもすごく現場を愛してくれるようになりました。みなさん本当にやさしくて、それに熱量が交わっちゃうからすごく仲良くなって。いい現場でしたね。

 

台本を読んだときの鮮度そのままに演じたい

― 本作に限らず、普段からお芝居をする際に意識していることがあれば教えてください。

事柄に対する鮮度でしょうか。固定化されていくと鮮度を失っていくので、台本を初めて読んだときの鮮度そのままに演じられるのが理想ですね。

― 片山慎三監督からは役についてどんな説明が?

衣装合わせの時に「義男は走るときに腕を振らないと思うんですよね」とおっしゃって。僕も義男として走るなら、速くなさそうな走り方をするだろうと思ったので、すごく納得しましたね。

― 終盤で駆け回るシーンの走り方が印象的でした。

あのシーンが義男という人間と、この物語を表していると言っても過言ではないので、走り方は大事だなと思いました。

― 先ほども話にあがりましたが、福子を演じた中村さんは本当に素敵でしたよね。

ヒロインが魅力的な映画っていいですよね。福子さんがただそこにいるだけで、ムードが漂って、空気感が変わる。義男がひとりで漫画を描いている時や寝ている時と、あの家に福子がやってきた時とでは、空気感が全然違いました。それはたぶんスタッフ全員が感じていたと思います。

福子さんがいると、いつもの義男の部屋がまるで違う場所のような空気に変わる。それはたぶんスタッフ全員が感じていたと思います。

― 福子さんに強く惹かれる義男に共感しながら観ていました。「わかるぞ、義男」と。伊守を演じた森田剛さんとの共演はいかがでしたか?

お芝居はもちろんですが、存在そのものがまわりを惹きつける、本当にかっこいい方でした。

あと、森田さんが着られていたTシャツを2色買いました(笑)。

― どういうことでしょう?

台湾で「いいな」と思っていて、日本に帰ってから真似して買いました。靴も真似して。森田さんのことめっちゃ好きじゃんってなりましたね(笑)。

― 芝居について話し合うこともありましたか?

撮影の合間でもあまりお話ししたことはなくて、ただそばにいるだけだったんですけど、いざ役に入ると全部わかる。そこに伊守が本当にいるんですよね。僕は勝手に、完璧に通じ合った気持ちになっていました。

― 尾弥次を演じた竹中直人さんの存在も大きいですよね。つげ義春の映画といえば竹中さんというイメージも強いので。

台本を読んでいるとき、尾弥次は勝手に竹中さんで読んじゃっていたぐらいなので、「竹中さんで決まりました」と聞いたときは、とてもうれしかったです。

片山監督って、竹中さんの監督作品の助監督をやったことがあるんですって。その関係性もおもしろいなと思いました。

― 竹中さんがいることで、シュールさが際立ちますよね。竹中さんとは撮影外でも交流を?

竹中さんが「近くで見つけたんだよ」と言っていた鶏肉飯(ジーローハン)屋さんが本当においしくて。時間ができたら中村さんと「竹中さんにお肉を食べさせてもらおう」って連絡して、ごちそうになっていました(笑)。

 

こういう作品がやりたくてこの仕事をやっている

― できあがった作品をご覧になって、どのような魅力を感じましたか?

観終わって、ひとりで考えたんです。これを超えられるのか、ちょっと不安になったというのが、最初の素直な感想ですね。

― 今後、成田さん自身が本作を超えられるのかと。

あとは単純におもしろかったので、みんなに観てほしいなと。こういう作品がやりたくてこの仕事をやっているんだと思えたので。

― 作品にとっても一番うれしい言葉ですね。

でもこの作品のおかげで、これ以降の作品も高い熱量で臨めるようになりました。もちろんどの作品にも全力を注いできましたが、「そうか、熱というものはこうやって作品に入れられるんだな」って明確になったというか。不安もあるけど、今後の仕事もとにかく一生懸命やろうと思っています。

30歳という節目も相まって、成田さんのフィルモグラフィーにおいて重要な作品となりましたね。

自分の人生に、いい点を打てました。

― 本作の撮影はとくに本当に大変だったと思うんですけど、大変なことって嫌じゃないですか。

本来そうですね。でも、大変って楽しいんです。

― 毎作品、大変な思いをしながらも続けていくモチベーションはどこにあるのでしょうか?

むしろもっと苦労しないとなと思っています。せっかく観ていただくので。

― だれかに観てもらいたいという気持ちが強い?

そうですね。作品ってたくさんの人が集まって、本当に一生懸命作っていて。その時間と熱量は、みなさんに届けたいという一心でかけているものです。だから観てほしい。

― どういう人に届けたいですか?

たとえば若い俳優やこれから俳優になるかもしれない人たち、もしかしたらこの作品を観て映画を撮りたいと思った未来の映画スタッフ、映画監督がいるかもしれない。そういう人たちに、何年後か何十年後かに会って、『雨の中の慾情』に影響を受けたと言ってもらえたら、これほどうれしいことはないですよね。

― 若い世代はもちろん、同世代の俳優やクリエイターもきっと嫉妬しますよね。「ここまでできるんだ」って。

観てくださったみなさんの感想を聞きたいですね。今日1日、取材してくださる方たちがすごく熱をもった感想を伝えてくださるので、本当にうれしいです。

 

Profile _ 成田凌(なりた・りょう)
1993年生まれ、埼玉県出身。2014年「FLASHBACK」(フジテレビ)で俳優デビュー。2018年、映画『スマホを落としただけなのに』『ビブリア古書堂の事件手帖』で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。2019年、『チワワちゃん』『愛がなんだ』『さよならくちびる』などの演技が評価され、第93回キネマ旬報ベスト・テンや第44回報知映画賞ほか数々の助演男優賞を受賞。主演を務めた『カツベン!』では、第74回毎日映画コンクールで男優主演賞を受賞。以降、『窮鼠はチーズの夢を見る』(20)『まともじゃないのは君も一緒』(21)『街の上で』(21)『くれなずめ』(21)『ちょっと思い出しただけ』(22)ほか、多数の映画・ドラマに出演。近作に「1122 いいふうふ」(24/Amazon Prime Video)「降り積もれ孤独な死よ」(24/読売テレビ・日本テレビ)、映画『スマホを落としただけなのに 〜最終章〜 ファイナル ハッキング ゲーム』(24)ほか。12月20日には映画『【推しの子】-The Final Act-』の公開も控えている。
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jacket ¥430,000・knit ¥310,000・tank top ¥120,000・pants ¥265,000・shoes ¥210,000 / AMIRI (Staff International Japan Client Service 0120-106-067), Other stylist’s own

 


 

Information

映画『雨の中の慾情』

2024年11月29日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中

出演:成田凌、中村映里子、森田剛、足立智充、中西柚貴、松浦祐也、梁秩誠、李沐薰、伊島空、李杏 / 竹中直人
監督・脚本:片山慎三
原作:つげ義春「雨の中の慾情」

映画『雨の中の慾情』公式サイト

© 2024「雨の中の慾情」製作委員会

  • Photography : Yuta Matsuyama
  • Styling : Kawase 136(afnormal)
  • Hair&Make-up : Go Takakusagi
  • Art Director : Kazuaki Hayashi(QUI)
  • Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)