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FEATURE

SNACK NGL 庄村聡泰 × イリエナナコ − THE MULTISENSE vol.3

Jul 21, 2021
ファッションデザインとは異なるバックグラウンドを持ったアーティストだからこそ生み出せるファッションの新たな価値に、自身も映画監督やコピーライターとして活動しながらワンピースブランド<瞬殺の国のワンピース>を手掛けるイリエナナコが迫る連載“THE MULTISENSE”。

第3回のゲストは、ロックバンド[Alexandros](アレキサンドロス)の元ドラマーの庄村聡泰。かつてからファッションに並々ならぬ情熱を傾けてきた庄村が、アパレルの各分野で活躍する3人のメンバーともにスタートしたプロジェクト SNACK NGL(スナック エヌジーエル)とは?

SNACK NGL 庄村聡泰 × イリエナナコ − THE MULTISENSE vol.3

Jul 21, 2021 - FEATURE
ファッションデザインとは異なるバックグラウンドを持ったアーティストだからこそ生み出せるファッションの新たな価値に、自身も映画監督やコピーライターとして活動しながらワンピースブランド<瞬殺の国のワンピース>を手掛けるイリエナナコが迫る連載“THE MULTISENSE”。

第3回のゲストは、ロックバンド[Alexandros](アレキサンドロス)の元ドラマーの庄村聡泰。かつてからファッションに並々ならぬ情熱を傾けてきた庄村が、アパレルの各分野で活躍する3人のメンバーともにスタートしたプロジェクト SNACK NGL(スナック エヌジーエル)とは?

長くやっていくためにダラダラする

イリエナナコ(以下、イリエ): サトヤスさんは2021年3月21日のステージをもって[Alexandros]を勇退し、その翌日にファッションプロジェクト<SNACK NGL>の始動を発表されたとのことですが、アパレルに取り組むきっかけはなんだったんですか?

庄村聡泰(以下、庄村):ある日突然ドラムが叩けなくなったときに、心配した友人たちが毎日入れ替わり立ち替わり飲みに誘ってくれて。残念ながら女性はほぼいなかったんですけど(笑)。そのなかにファッションスタイリストの有本(祐輔)という男がいたんです。

有本は僕と同年代で、見てきたものも近ければ、趣味もかぶっているところがあるんですね。2人で飲みながら「あんなことあったよな、あれは良かったよな」とか話していくなかで、これは実際に三次元化できるものがあるなとなってきて。

イリエ:有本さんとの会話のなかに、<SNACK NGL>に繋がる種があったんですね。

庄村:そして有本の周りには、アパレルの企画や制作ができる(マーチャンダイザーの近藤)良大さんと(バイヤーの山口)翼さんという方がいて。僕らは四者四様やりたいことを比較的やりたいようにやってご飯を食べてきた人間だと思うんですけど、それでもやり残してきたこともあって。4人で一度、本当にやりたかったことに注力したらおもしろいものができるのかもしれないね、と。

イリエ:4人でやるというのは、サトヤスさんのなかでは自然な流れでしたか?

庄村:今まで「ファッションブランドをやらないの?」と聞かれることも多かったんですけど、たとえば「SATOYASU SHOMURA」みたいな個人のブランドを立ち上げる気は一切無かったんです。なぜなら洋服がずっと好きで、今さら自分がゼロからものづくりする必要が無いくらい“いいもの”を知ってしまっていたので。

ただ、4人でやるというごった煮感とか、部活みたいなノリはすごく居心地がよくて。四者四様の一部であれば、他の3人とはまた違う自分の縄張りみたいなもので僕もちゃんと機能できるかなと。

イリエ:<SNACK NGL>でのメンバーそれぞれの役割は?

庄村:有本が代表でありオーナー、良大さんと翼さんが具体的な企画や制作を担当しています。そして僕は世間様の矢面に立って発言することや、アパレルの仕事をしていない見地からボールを投げるという立ち位置ですね。

ただ、責任の所在とかが良くも悪くもうやむやになっていることで、みんな楽しくほどよい形で関わっていけるというか。僕はダラダラって良い言葉だと思っていて、長くやっていくうえでダラダラするのはすごく大事なんですよね。

イリエ:今私が書いている長編映画の脚本が、ダンサーが踊れなくなったあとの物語なんです。自分の価値が寿命より先に終わるというとてつもない瞬間がきたときに、どうやって次に進むのかという。サトヤスさんともリンクするところがあるなと思ったんですが、もし<SNACK NGL>のメンバーと出会わなければ、サトヤスさんはどこに辿り着いていたのでしょう?

庄村:死んでしまうか、すべて手放して東南アジアにでも行っていたんじゃないかな。でも僕は幸いなことに、ドラマーである以前にただの音楽好きで、バンドマンとしてでなく純粋な洋服好きだったんです。そして好きなものが取っ散らかっていたから趣味の友達がたくさんいて、バンド以外のことを見てくれている人もすごく多くて。

彼らのためなら僕は生きたいって思ったし、彼らのためならドラムを叩けなくなっても楽しく生きていけるなと思えました。でもそれを失ってしまうのは今度こそまずい気がするので、ダラダラ長くやっていけるというところに価値を見いだしています。

イリエ:いろいろな余地を残しているいう意味でのダラダラなんですね。「これ以外はやらない」とガチガチになると、終わるときは終わってしまいますもんね。

庄村:そうですね。物事に取り組むときに一本槍だと、折られた瞬間に立ち直れなくなってしまう可能性もあるので。

 

あの11年が最高の自分だったと思わない人生を

イリエ:<SNACK NGL>という名前の由来はなんですか?

庄村:NGLは「(I’m) not going to lie」の略でして、「ぶっちゃけ」という意味合いです。そして僕らは日本に住んでいて、日本が好きで、日本のものづくりが好きなんですが、飲み屋としての「スナック」ってすごく日本的なんですよね。日本特有のくだをまく飲み方で「まあまあもう一杯!」みたいな(笑)。中身のない会話で楽しく過ごせるあの感覚ってすごく大事ですし、そんなときに人間のコアが出ることもあって。スナック文化からいろいろ着想を得たいなと思ったんです。

イリエ:なるほど。

庄村:かつ、代表の有本がそこに「スナック感覚で気軽に」というような意味もつけてくれて。もちろんプロダクトはちゃんと作っているんですけど、一本槍ではない感覚というか。それぞれの人生の傍らに置いておける余地のあるものを作っていきたいなと。それが、ダラダラ長く愛せるものに繋がっていくと思っています。

イリエ:「スナック」は場所でもあるし、そこで過ごす時間のことでもあるし、そこで話す内容全部ひっくるめての世界観ですね。ブランドの運営で大変だったことはありますか?

庄村:良大さんと翼さんはたぶん大変だろうなと。最近はアパレル全体でもタームが短くなっていると思うんですけど、<SNACK NGL>はその最先端のことをやっていて、商品化してくれるスピードがすごく早いので。

イリエ:今アツいことを生のうちに出したいですもんね。ものづくりのアイデアはどこから?

庄村:4人で定期的に打ち合わせをしていますし、もともとよくご飯を食べに行く仲なので、その時に「こないだ見たあれがさー」とか話しながらものづくりが始まっていきます。4人の視点が違うので、持ち寄ったものをそれぞれが「俺だったらこうするかな」と発展させていくパターンが多いです。

イリエ:そういうやり方、楽しいですよね。私も映画を撮るときはチーム戦で思いもよらぬ方向に行くこともあるけど、逆にそれを求めている感じもあって。ごった煮にして、そのなかで自分がピンときたものを形にしていきたいんです。スナックもまさに「混ざる」という感覚ですよね。

庄村:いろんな人が来ますし、酔い方もみんな違いますし、スナックだから許されることもありますよね。僕は今<SNACK NGL>以外にもライター業やスタイリスト業、音楽とパフォーマンスのチーム「不楽、足る。(フラクタル)」の制作総指揮などもやらせてもらっているんですけど、飲みの場から話が転がっていくことが多くて。あと最近は、お前と合わせたいヤツがいると紹介されるパターンも結構ありますが。

今はいろんな活動をしていますが、昔から自分の個性というか特性にだけは超自信があって、何をやってもそれが庄村聡泰でなくなることは絶対に無いので。自分のなかで一番大きいアイデンティティだったドラムが無くなってからもそういう考えで生きています。

イリエ:今は第二の人生だと捉えていますか? それとも、ずっと地続きですか?

庄村:地続きです。やっぱり人間っていろんな枝葉があるんですよ。そのなかのドラムという枝が切られてしまったんですけど、今は他の枝がちゃんと伸びてきている状態なので。

イリエ: [ALEXANDROS]で活動してきたことは強烈な経験だったと思うんですけど、得たものはすごかったですか?

庄村:はい、もうすごかったです。あまりにもすごかったからこそ、あの11年が最高の自分だったなって絶対思わないような人生を送りたいということだけは思っています。そういう意味ではとんでもないものを背負ってしまったなという。同じくらいシゲキックスな日々を送っていきたいし、それくらいのことをやっていかないとドラムを叩けなくなった人間がドラムを叩かなくてもいいかもしれないとはならないはずなので。

イリエ:ドラマーとして得たものが、今のクリエイションに活きていると感じるところはありますか?

庄村:大いにありますね。ドラムというポジションで、自分の個性にすごく自信を持ちながら物事を俯瞰で見てきたので。その視点は、今のインタビューやライター業にも活きているなと思います。

 

楽しい物事や新しい遊び方を継いでいく

イリエ:そもそも、サトヤスさんはなぜファッションが好きなんですか?

庄村:子供のころから変身願望が強くて。夢は声優さんでした。俳優さんもいろいろな人間になれるんですけど、性別を越えたり、宇宙人になれたり、変身の余地が一番あるのは声優さんだったので。そして、アニメや空想の世界を2.5次元的にやってくれたのがビジュアル系バンドだったんです。もう激ハマりして、結果的に自分も音楽に進むことになったという。

イリエ:変身願望のあらわれとしてのファッションだったんですね。服に求めることってありますか? デザインが奇抜であるとか、快適であるとか。

庄村:特に無いです。自分自身が洋服に合わせていくというやり方をとっているので。

イリエ:それは服自体が好きで、どんな服でも料理できるという感じですか?

庄村:その自信はありますね。デザインの主張が強いものも好きなんですけど、それをブランドイメージと真逆で扱うことが僕は好きです。

イリエ:では、これまでのファッション遍歴もお聞きしていいですか?

庄村:マルイ発、ドメブラ経由、コレクションブランド行きという遍歴です。そして、おっさんになってからストリートが良いなと思うように……。<SNACK NGL>の中では唯一、裏原ブームのときにマルイに行ってたタイプ。90年代みんながナイキの話とかしているときに、トルネードマートのトンガリ靴とか履いてました(笑)。

イリエ:ビジュアル系の影響もありそうな。

庄村:でも今また、マルイで買った服を引っ張ってきて合わせてみると、これがおもしろいんですよ。

イリエ:<SNACK NGL>の今後についてビジョンはありますか?

庄村:そもそも<SNACK NGL>の理念として「さまざまな人、物、事を継(ツギ)ったり包(バオ)ったりする」というのがあって、みんなにその行為をおもしろがって欲しいなと思っています。一番最初に出したのが、ヴィンテージのノースフェイスやパタゴニアをパッチワークしたブルゾンだったのですが、世の中から拾ってきたものを商品化して、それをまた誰かに着てもらって。そしてそこからまた何かを感じてもらって…という形で、どんどん文化や楽しい物事、新しい遊び方とかをどんどん継いでいきたいんですよ。

イリエ:むしろこっちが思ってもいなかった遊び方をしてもらえた方がおもしろいですよね。

庄村:おっしゃる通り。現状は初台のスナックで展開しているんですけど、ゆくゆくは地方のスナックを借りて、そこで流行ってる着こなしとかもどんどん継いでいって、悪酔いしたって許されるようなスナックのあの空気で包んでいきたいんですよ。

理想は、令和の行商人になりたくて。いろんなところに行って、いろんなものを得て、それをまたものづくりに活かしていきたいと考えています。

 

Profile _

左:庄村聡泰(しょうむら・さとやす)
ロックバンド[Alexandros]のドラマーとして2010〜2021年まで在籍した後、勇退。バンド時代の収入ほぼ全てを注ぎ込む程傾倒した音楽や洋服を中心として、それ以外にも映画や漫画、アニメやグルメ、世界各地の珍スポットなど枚挙に暇がない程のカルチャーに精通し、これらの知識と経験を存分に活かせる場だとして2021年3月22日、SNACK NGLに合流する事を発表。また、並行して“過激な歌劇団”「不楽、足る。」(フラクタル)の発足並びに制作総指揮を担当する事も同日に発表。上記二足の草鞋を軸に、その他スタイリングや執筆など、多岐に渡り活動。

Instagram SNACK NGL

右:イリエナナコ
東京生まれ。コピーライティング、クリエイティブディレクション等の仕事のほか、映画制作、絵の作品「図」シリーズの発表、言葉の作品の展示等、作家活動を行なっている。映画監督作に『愛しのダディー殺害計画』など。次回作『謝肉祭まで』の製作が決定。2021SSよりワンピースブランド<瞬殺の国のワンピース>スタート。

Instagram Twitter www.irienanako.com 瞬殺の国のワンピース

  • Photography : Kei Matsuura(QUI / STUDIO UNI)
  • Styling : Satoyasu Shomura(SNACK NGL)
  • Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
  • Interview : Nanako Irie
  • Text : Sayaka Yabe
  • Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)

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