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KAKAN 2026年秋冬コレクション──人間本来の感覚的な知性を纏う

Mar 23, 2026
2026年3月16日(月)、<KAKAN(カカン)>は「Rakuten Fashion Week TOKYO」にて、2026年秋冬コレクション「WILD, NOT PURE」を東京・渋谷の渋谷ヒカリエ内Aホールにて発表した。

KAKAN 2026年秋冬コレクション──人間本来の感覚的な知性を纏う

Mar 23, 2026 - FASHION
2026年3月16日(月)、<KAKAN(カカン)>は「Rakuten Fashion Week TOKYO」にて、2026年秋冬コレクション「WILD, NOT PURE」を東京・渋谷の渋谷ヒカリエ内Aホールにて発表した。

デザイナー工藤花観による<KAKAN>の2026年秋冬コレクションは、彼女自身の制作態度と思想を色濃く反映したものとなった。

コレクションのタイトルの「WILD, NOT PURE」を直訳すれば、「純粋ではなく、野生である」。しかし工藤氏はそのニュアンスを「Beauty is wild, not only pure」と説明する。美しさとは純粋さだけによって成立するものではなく、揺らぎや矛盾、そして野性の気配を含んだ存在であるという考え方だ。

人はよく純粋さや正しさを理想として求めるが、実際の人間は、愛らしさや健全さを持ちながらも、同時に複雑な感情や矛盾を抱えながら生きている。<KAKAN>はその矛盾を排除するのではなく、むしろ抱きしめるように表現することを試みた。



コレクションの中心に据えられているのは、ブランドの象徴ともいえる手紡ぎ糸による手編みニット「HANDSPUN」シリーズ。<KAKAN>のニットデザインは、既に完成された素材から出発するのではない。糸を紡ぐところから制作が始まる。糸の太さや撚り、色彩、そして編み方。そうした要素を自由に組み合わせながら、素材そのものを構造として設計していく。手紡ぎ糸は均質ではない。糸は細くなったり太くなったりし、撚りの強さも一定ではない。その不規則さは編み地に予測できない変化を生み、密度や表情に独特の揺らぎをもたらす。<KAKAN>はその偶然性を排除するのではなく、むしろ積極的に受け入れていく。工業製品のような均質さではなく、手仕事が生み出す野生的な魅力をファッションとして提示すること。それが今回のコレクションのテーマであり、<KAKAN>のニットウェアの特徴だ。

ニットウェア以外にも、彫刻のようなヘッドピースにブラックのテーラードジャケットにワイドパンツを合わせたルックが登場。インナーを排した大胆なスタイリングが、身体のラインと緊張感を強調する。顔を覆い隠すほどの大ぶりなホワイトのヘッドピースは、羽毛やレースのような繊細な素材が重層的に重なり、まるで可視化された空気の塊のような存在感を放つ。ミニマルな黒と有機的な白の対比が、今季のテーマを象徴している。

続くルックでは、ブラックのスラックスにファー素材のビスチェを合わせたスタイルが登場。素肌を大胆に露出したコンパクトなトップスは、繊細さと野性味を同時に感じさせる。手元にはぬくもりを添えるファーのアームウォーマー。ニットのカバーを纏ったレザーバッグは、それ自体が唯一無二のピースとして目を引く。その中からそっと顔を覗かせる花束は、「これから大切な誰かに会いに行くのだろうか」と、見る者の想像を温かい物語へと誘っていく。クラシックなパンツスタイルとの組み合わせによって、フェミニティは単なる装飾ではなく、衣服の骨格やフォルムそのものとして美しく提示されていた。

数あるルックのなかでも、ひと際ミニマルな提案として目を引いたのが、白のオーバーサイズシャツを1枚で纏ったルック。あえてボトムスを排する大胆な引き算によって、衣服と身体の境界線を曖昧にぼかしている。足元のフラットシューズや、ざっくりとしたニットで覆われた大ぶりのボストンバッグから覗く黄色い花といった日常的な小道具が温もりを添える一方で、全体にはどこか現実から遊離したような不思議なムードが漂う。装飾を極限まで削ぎ落としながらも、緻密に計算された「細部の違和感」によって、コレクションの思想を鮮烈に印象付けていた。

今回のコレクションの思想的背景には、人類学者クロード・レヴィ=ストロースによる著作『野生の思考』がある。この書物は、合理性や効率性を重視する近代的な思考とは異なる、人間が本来持っている感覚的な知性について論じたものだ。現代社会では、明確な分類や合理性によって世界を理解する方法が重視されるが、物事を管理し、効率的に処理するためには有効な思考であるとされている。しかしその一方で、人間がもともと持っている感覚的な知性が見落とされてしまう可能性もある。たとえば、理由は説明できないけれど安心する匂い。どこか懐かしさを感じる形。言葉にはできないが惹かれてしまう感覚。そうした曖昧な感覚もまた、人間が世界を理解するための重要な知性である、そしてそれは工藤氏の中でニットの構造とどこか似ていると感じたという。手紡ぎ糸の不規則な太さ、編み進めるなかで生まれる密度の違い、偶然と意図が重なり合う構造。それらは完全に整った秩序ではなく、曖昧さを含んだ秩序として現れた。

本コレクションのノートには、工藤氏がなぜ「ファッション」というフォーマットでデザインを続けるのか、その切実な理由も綴られていた。「わたしはコンテンポラリーアートが特に好きですが、美術作品を鑑賞するときわたしたちは多くの場合それらに触れることを許されない。けれど、衣服は直接着るひとの素肌や粘膜に触れ、作り手の思いや哲学を届けることができる と思っています。わたしは人々に「ダイレクトにメッセージを伝える」というファッションデザインが持つ素敵な個性を、コミュニケーションとして取り組みたいと思っています。」

工藤氏が語る通り、誰かの思想や哲学が形になった衣服は、日常のなかで誰かに着られることで初めて、社会と交わる生きたコミュニケーションとなる。ファッションとは、身体を通じて行われるコミュニケーションでもある。<KAKAN>の服を着ること。その日常的な選択が、着る人の人生の一部となること。未来について考えながら、仲間や顧客、そして自分自身のために服を作り続けていくこと。それが<KAKAN>の掲げるブランドの姿勢である。

揺らぎや矛盾を抱えながらも前に進んでいく人間の姿。<KAKAN>の2026年秋冬コレクションは、その複雑さを受け入れることから始まる新しい美しさを提示していた。

 


KAKAN

1998年東京生まれのデザイナー工藤花観が手がける<KAKAN(カカン)>は、「纏うことは、生きること」という思想のもとに生まれたブランド。Central Saint MartinsやIstituto Marangoniでの学び、さらに<Yohji Yamamoto(ヨウジ ヤマモト)>や<CHANEL(シャネル)>での経験を背景に、身体と手仕事の親密な関係を探求する。原毛から糸を紡ぐ〈HAND SPAN〉シリーズに象徴される驚くほどの軽やかさと、物語のように展開するニットコレクションが特徴。着る人が自分をありのまま受け容れ、自由に生きるための一着を提案する。

KAKAN 2026AW COLLECTION はこちら

  • Edit : Miwa Sato

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