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セレクトショップの次なる視線|coelacanth 田島尚幸

May 9, 2026
その名の通り、オーナーやバイヤーの審美眼がフルに発揮される「セレクトショップ」。
トレンドをとらえたブランド、趣味や嗜好性が表れた服、目利きがキャッチした新世代のデザイナーなど、コンセプトが明確なショップであるほど、ファッションに対する美意識は店内の品揃えからも一目瞭然だ。そんなショップを訪れるファッションフリークが気にしているのは、常に新しい刺激を提案してくれるオーナーやバイヤーの次なる動向や関心。
今回は「ずっと残り続けていくような洋服を販売したい」という想いをショップ名に込めた「coelacanth(シーラカンス)」の田島尚幸さんにお話を伺った。

セレクトショップの次なる視線|coelacanth 田島尚幸

May 9, 2026 - FASHION
その名の通り、オーナーやバイヤーの審美眼がフルに発揮される「セレクトショップ」。
トレンドをとらえたブランド、趣味や嗜好性が表れた服、目利きがキャッチした新世代のデザイナーなど、コンセプトが明確なショップであるほど、ファッションに対する美意識は店内の品揃えからも一目瞭然だ。そんなショップを訪れるファッションフリークが気にしているのは、常に新しい刺激を提案してくれるオーナーやバイヤーの次なる動向や関心。
今回は「ずっと残り続けていくような洋服を販売したい」という想いをショップ名に込めた「coelacanth(シーラカンス)」の田島尚幸さんにお話を伺った。
Profile
田島尚幸
coelacanth オーナー

1989年富山県生まれ。愛知県の美術大学および大学院にてジュエリーを専攻。学生時代より古着に傾倒し、古着店で約7年間の勤務を経て独立。2021年にセレクトショップ「coelacanth」をオープンする。2025年からは石川県金沢市にてギャラリー「拠旧」の運営も行う。

Instagramをチェック!
@coelacanth.aoyama

ゆっくり服を選んでほしいからお店は奥まった場所へ

渋谷で「coelacanth」をオープンされたのはいつですか。

田島:2021年の11月です。

田島さんは自分のセレクトショップを開きたいという思いはずっとあったのでしょうか。

田島:僕は大学、大学院と美大でジュエリーの勉強をしていて、将来の夢はジュエリーデザイナーでした。それが大学生のときに古着にハマって、古着屋でバイトするようになり、そこで接客業、販売業の楽しさに目覚めて、ジュエリー造りという職人のような世界を目指していたはずなのに夢が古着屋をやることに変わったんです。

自分の洋服屋を開きたいと思ったんですね。

田島:大学院を卒業後は、そのままバイトをしていた古着屋に正社員として就職したのですが30歳までには独立したいという思いがありました。大学が名古屋だったこともあって名古屋でショップをオープンさせることも考えたのですが、「どうせ勝負するなら東京でやってみよう」と29歳で上京したんです。

勝負の年と決めた30歳になる前に?

田島:それまで旅行で訪れたことがある程度で、東京の街のことをほとんど理解していなかったので、30歳を前に上京しました。まずはリサーチ期間として、オンラインストアのみで古着の販売をスタートし、約1年間運営していました。その後、実店舗のオープンを予定していましたが、コロナ禍の影響もあり、結果的にオープンまでに約2年ほど時間がかかってしまいました。

「coelacanth」って一度聞いたら忘れられないショップ名ですよね。「生きた化石」と呼ばれる魚の英語表記を初めて知りました。

田島:それはまさに狙っていたことです。読めないけれど、聞いたら誰もがわかる、そして記憶に残りやすい。あとは何億年も前から生態を大きく変えずに生き続けていて、それは僕がセレクトしたいと思っていた古着にも通じるものがあったんです。流行り廃りとは関係なく、ずっと残り続けていくような洋服を販売することが理想だったので、ショップ名を「coelacanth」にしました。

ショップは渋谷と表参道のちょうど中間のような位置で、どちらの街からもアクセスできますが、どちらの街からも少し離れてもいます。そんな場所を選んだ理由は?

田島:少し閑散としたような場所でやりたいという思いがあったからです。自分がお客さんだったとしたら雑音の少ない場所で落ち着いて服を選びたいですし、ショップ側としても一人一人のお客さんときちんと接したかったからです。一度に多くのお客さんが訪れるような場所だとそういう接客も難しいので。

ナビを頼りにして「coelacanth」に来店される方はきっと服好きだと思いますが、お客さんはどんな方が多いですか。

田島:ファッション好きや上級者ばかりというわけではなく、最近になって服に興味を持ち始めたというお客さんも多いです。ただ、学生の方は比較的少なく、年齢層としては30代から50代の大人の方が中心ですね。

田島さんは接客で心がけていることはありますか。

田島:服を買うだけならオンラインストアでも十分なわけで、リアル店舗だからこそのエンターテインメント性は大切にしています。お客さんとの会話をフレンドリーに楽しむこともそのひとつで、わかりにくい場所にあるショップなので入店時のお客さんの表情からも「ここであっているのか?」みたいな若干の不安が見て取れることもあります。だからこそ「気持ちよく安心して服を選んでもらうために温かく迎えてあげよう」とスタッフにはよく言っています。

お客さんにとって心地よい環境を心がけているということはリピーターも多そうですね。

田島:ありがたいことに何度も足を運んでくださるお客さんは本当に多いです。僕たちとしても2度目、3度目となるとお客さんともコミュニケーションを深めやすいので、コーディネートの提案も踏み込みやすいですし、雑談なども増えますね。ただ、過去に初来店のお客さんから開口一番に「不安になるような音楽を流しているんですね」って言われたことはあります。店内のBGMは基本的にアンビエントミュージックで、こちらとしては不安にさせるつもりは全くないのですが(笑)。

服を見た瞬間にどう思ったかの直感を大切にしてほしい

オンラインストアからリアル店舗に業態を変えるときに、どういったお店を作りたいなどの構想はあったのでしょうか。

田島:ショップを構えた初期は古着がメインで、現在はセレクトしたブランドだけで古着は一着も置いていません。なのでオンラインストアからリアル店舗に移行した当時と現在ではお店作りの考え方がそもそも変わっています。

古着屋だったのが完全にセレクトショップに変わったのは何か理由があったのでしょうか。

田島:ここ数年、古着の人気が高いこともあって古着屋もすごく増えています。母数が増えるとコンテンツとしては薄まりますし、ヴィンテージというのは次から次へと生まれるものでもないので、自分の目に魅力的に映る古着が少なくなってきたんです。それとは逆に今作られているファッションは技術の発展などもあって、機能性でも実用性でもすごくクオリティが上がっている。自分が自信を持ってお客さんにおすすめできる古着は減ってきているけど、新品は増えてきている。そういう状況から自然とセレクトブランドの比率が上がっていきました。

「自信を持っておすすめできるブランド」ということでいえば、服の陳列もディスプレイも秩序があって、それぞれのブランドが個性を主張しているような印象があります。

田島:お客さんが服を見やすい、選びやすいということは常に意識していて、商品点数もごちゃつかないようにコントロールしています。現在のハンガーの置き方や商品の見せ方は1年ぐらい続けていますが、僕は飽き性なので陳列やディスプレイは部屋の模様替えのように気分によってちょこちょこ変えたくなるんですけどね(笑)。

飽き性となるとショップもいつかは別のエリアに移転することもある?

田島:実は移転は考えているんです。

移転先はどういう条件を優先して選ぶつもりですか。

田島:今と同じような閑静なロケーションは重要視したいです。店内のスペースは2倍ぐらいに広げたいと思っていますが、それは商品の量を増やしたいというわけではなく、「coelacanth」で取り扱っているブランドは高額なアイテムもあるので一点一点をゆっくり吟味してもらえるような環境にしたいからです。それこそギャラリーのような雰囲気を作り上げたいです。エリアに関しては大きく変えるつもりはないです。

移転の計画もあるというのはショップとして順調な証だと思いますが、最初からうまくいっていたのでしょうか。

田島:そんなことは全くないです。古着屋で服の販売、接客、仕入れの経験もあるので「ショップさえ構えたらお客さんは来る」ぐらいに思っていましたが、オープン1年目はそんな自分の全く根拠のない自信をことごとくへし折られました。

「coelacanth」がやっていけるかもしれないと思えたのはどの瞬間ですか。

田島:まだ古着がメインだった頃、セレクトしていた唯一のブランドが<ANCELLM(アンセルム)>でした。その<ANCELLM>の飛躍とともに、ブランドが有名になる前から取り扱っていた「coelacanth」のことも知られるようなったんです。

<ANCELLM>だけは最初からセレクトしていたのはどういう理由からですか。

田島:デザイナーとは「coelacanth」をオープンさせる前からの知り合いで、展示会に招待してもらったんです。僕としてはバイイングが目的というよりも知り合いの展示会に遊びに行く感覚でもあったのですが、デザインも品質もコレクションのクオリティがあまりにも高くて、<ANCELLM>はいち早く取り扱わないと他のショップに取られてしまうと思いました。もしかしたら<ANCELLM>と出会っていなかったら、ずっと古着屋のままだったかもしれません。

大量の古着に埋もれるような状態だったとは思いますが、<ANCELLM>へのお客さんの反応はどうでしたか。

田島:「coelacanth」で取り扱いを始めたのは<ANCELLM>の2シーズン目で認知度は低かったと思います。お客さんにとっても未知のブランドだったはずですけど選ぶ方は多かったですね。しっかりと丁寧に作り込まれた服のパワーはすごいなって思いました。古着好きは<ANCELLM>の凝った加工に惹かれますし、だけどヴィンテージにはない洗練された表情もあって、そこが僕としても魅力でした。

「coelacanth」がブランドをセレクトする際のポイントはありますか。

田島:「大人のためのデイリーウェア」というのがショップの方針ではあります。年齢を重ねるほど何年も愛着を持って着続けていけるような上質なウェアを求めると思うんです。なので上品さや品格を感じるようなブランドやアイテムを選ぶというのは念頭にあります。気負って着るような服ではなく自然体で着られる、だけど上質感も漂う日常着というのが「coelacanth」のセレクトです。

確かに「coelacanth」にはモノづくりにおいてはすごくストイックだけれど、これ見よがしではないブランドが多いかもしれないですね。

田島:僕が職人気質なデザイナーが好きなんです。でも、そういうデザイナーはSNSなどで自分たちのモノづくりを発信するのに長けていない方も多くて、そこをフックアップするのが僕たちの仕事だと思っています。自分の琴線に触れてきたブランドをお客さんに届けたいという気持ちはいつも持っています。

ブランドの思想や哲学のようなこともきちんと見極めてセレクトしているんですね。

田島:ブランドのモノづくりに共感できるかどうかは大切ですが、その服を僕自身がほしいかどうか、着たいかどうか、という直感的なことも大切にしています。最近はブランドのモノづくりの背景などをお客さんに説明することは控えているんです。まずは、その服を見てどう思ったかをお客さんには大切にしてほしい。「デザイナーの考え方に共感したからその服を選びました」でもいいんですが、それだけが理由だとその服を着る頻度は少ない可能性もありますよね。やっぱり自分が着たい、自分に似合うというのを服選びの最初の動機にしてほしいです。

シーラカンスのように自分のスタイルはきっと変わらない

新しいブランドはどうやって探すことが多いですか。

田島:展示会に足を運びますし、SNSもチェックしています。SNSに関しては仕事のためのリサーチというよりも単純に服が好きだからいろいろ見たい、知りたいという感じで、ほとんど趣味の領域ですね。

趣味のようなリサーチだとしても目に留まったことをきっかけにショップでの取り扱いにつながることもありますよね。

田島:それはありますね。ただ、アイテムが単品としてかっこよくてもコレクション全体で見たときに、テーマから外れて浮いているような服をセレクトすることはないです。そういうアイテムは実際のところはわかりませんが、僕にはブランドとしての表現よりも売ることを優先して作ったように見えるんです。あくまで個人的な感覚ではありますが。

田島さんは口調なども穏やかですけど、言葉の節々からオーナー、バイヤーとしての強い信念を感じます。

田島:そうですか?すでに知名度もある、売れているブランドは「coelacanth」で取り扱わなくてもいいかなって天邪鬼なだけだと思います(笑)。<ANCELLM>は直営店もオープンしましたがお互いが無名の頃から協力しあって一緒に成長してきたので、どれだけ大きなブランドになってもショップには置き続けると思います。全ラインナップはブランドの直営店で見てもらって、「「coelacanth」が提案したい<ANCELLM>」をこれからもお客さんに楽しんでほしいです。

もともとはジュエリーデザイナーを目指していたのに、現在はジュエリーブランドの取り扱いはないですね。

田島:ジュエリーもショップに置きたくてずっと探してはいます。でも、自分がジュエリーを作ってきたこともあって他のアイテムに比べるとどうしてもハードルが高くなってしまって‥。「これだ!」と思えるブランドと出会えていないんです。

ジュエリー以外にもラインナップに加えたいアイテム、ジャンルなどはありますか。

田島:古着ブームも落ち着いてきているので、逆に古着をもう一度触っていきたい気持ちは生まれています。オブジェやインテリアとしての古物にも興味はあります。

「coelacanth」というショップ名で古物を取り扱ったとしたら、ちょっとハマりすぎですね(笑)。

田島:そうですね(笑)。アイテムやジャンルを増やすにしても、まずは移転計画を実行して、広くなったスペースでどれぐらいの点数までなら商品を見やすく、美しく並べることができるのかを吟味してからになると思います。

自分の直感を信じて、世の中の変化にも動じずに、右往左往せずに悠然としているのは、まさに「coelacanth」ですね。

田島:僕はファッションは好きでしたがトレンドにはずっと無関心でした。流行とは関係なく、自分が好きなデザイン、テイスト、シルエットを選び続けてきて、それらの好みは今も同じなんです。これからも「自分の好き」はずっと変わらないと思います。

田島尚幸がレコメンドする3ブランド

<Fujimoto(フジモト)>

デザイナー自らが加工を行う完成度の高さと、ナチュラルながら力強い天然素材が魅力で、トップスからボトムスまでトータルコーディネートでかっこよさが一段と映えるブランドです。文学や音楽からインスピレーションを得た思想的なモノづくりも特徴です。粗野でありながら洗練されているという矛盾したような表情に惹かれて選ぶお客さんが多いです。

Instagramをチェック!
@fujimoto_____

<barbell object(バーベル オブジェクト)>

「coelacanth」ではファーストシーズンから取り扱っています。モノづくりの考え方としてはちょっと天邪鬼ではあるのですが、それをデザインに落とし込んだ時のかっこよさがデビュー時から抜群でした。ひとつのアイテムにさまざまなファッション要素がミックスされていて、それが結果的にベーシックアイテムでも既視感のない表情を生み出しています。

Instagramをチェック!
@barbell_object

<YUTA MATSUOKA(ユウタ マツオカ)>

日本の毛織物産地と協業して生地開発から独自に行なっているので風合いなどの美しさは群を抜いています。服は生地を身に纏うものなので、着心地からも見た目からもクオリティに高さが伝わってきます。アルチザンブランドと印象もあるのでコアなファンが多いです。表情は素朴なアイテムが多いのでゆるっと着こなしつつ、足元はハイテクスニーカーで締める、そんなスタイリングがおすすめです。

Instagramをチェック!
@yuta.matsuoka

 


 

coelacanth

2021年に設立。長く愛用できること、そして経年によってより美しさが宿ることを軸に、国内外のデザイナーズブランドや作家の作品をセレクト。大人が気負わずに着られる日常着に、さりげない遊び心を添えたスタイルを提案している。

オンラインサイトはこちら

〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2丁目3−3 2F

Instagramはこちらから!
@coelacanth.aoyama

  • Photograph : Junto Tamai
  • Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLe)
  • Edit : Miwa Sato(QUI)

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