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Comme des Garçons Homme Plus 26年秋冬コレクション、“黒”のあとに残された“白”という場所

Jan 30, 2026
<Comme des Garçons Homme Plus(コム デ ギャルソン オム プリュス)>の26年秋冬コレクションが掲げたテーマは「ブラックホール」。
この「ブラックホール」は、すべてを吸い込み、光さえも脱出できない現代社会そのものを指している。サブタイトルとして添えられた “Let’s get out of the black hole.” には、川久保玲の、怒りとも悲しみともつかない感情がにじみ出ているのだろう。

Comme des Garçons Homme Plus 26年秋冬コレクション、“黒”のあとに残された“白”という場所

Jan 30, 2026 - FASHION
<Comme des Garçons Homme Plus(コム デ ギャルソン オム プリュス)>の26年秋冬コレクションが掲げたテーマは「ブラックホール」。
この「ブラックホール」は、すべてを吸い込み、光さえも脱出できない現代社会そのものを指している。サブタイトルとして添えられた “Let’s get out of the black hole.” には、川久保玲の、怒りとも悲しみともつかない感情がにじみ出ているのだろう。

分断と緊張が日常化し、閉塞感が漂う現代において、資本主義や民主主義が前提としてきた「自由」は、理念として存在しながらも、実感としては機能しにくくなっている。
その構造は、情報の渦という形で、SNSにおいてとりわけ可視化される。言葉狩りやフェイクニュースが拡散されるなかで、事実よりも感情や印象が優先され、社会のなかに吸い込まれていく。
自由や多様性が許容されているように見えながらも、実際には無数の圧力によって同じ“正解”へと吸い寄せられていく社会では、声を上げることは常にリスクを伴い、沈黙すれば、存在そのものが消えてしまう。

このコレクションは、そうした不可視化の構造に抗い、失われつつある「声」を取り戻そうとする意志と、その行為への讃歌として機能する。


その意志は、ショー全体を貫くモチーフの選択において、最も明確に可視化されていた。象徴的だったのが、すべてのモデルが着用していたマスクである。顔や口元を完全に覆い隠すのではなく、部分的に開かれた造形によって、語ることと沈黙のあいだに置かれた、発話の不確かな状態が示されていた。


そのマスクが、フォーマルウェアと組み合わされることで、より社会的な文脈へと引き寄せられていく。ジャケットやシャツといったフォーマルウェアは、役割や立場、責任を可視化する社会装置として機能してきた服だが、その装いは、歪んだ構造のまま提示される。重心のずれたジャケットや、ねじれたレイヤー、浮遊するようなコートのシルエットが、社会と接続しながらも、容易に言葉を持てない個の存在を浮かび上がらせる。


さらに、多くのルックの足元には、「WEAR YOUR FREEDOM」という言葉が記されていた。語ることが困難な状況において、自由は理念や主張として掲げられるものではなく、日々の行動や選択を、主体的に選び続けるなかで立ち上がってくるものだという姿勢が示されていた。

 

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フィナーレでは一転して、モデルたちは白一色のルックに身を包んで再登場する。そこに現れた“白”は、光や救済を象徴するものではない。すべてを吸い込み、声や意味を消し去る、ブラックホールのような世界を通過したあとに、もう一度思考を始めるための場所としての“白”が提示されていた。その先にある可能性を見据えるように。

川久保玲は一貫して、破壊を通じて新たな思考の可能性を切り開いてきた。

情報が氾濫し、価値観の秩序が揺らぐこの時代において、それでもなお、美と思想を両立させる26年秋冬コレクションは、声を奪われた社会に対し、「語ること」を諦めないという意志そのものを提示した。



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  • Text & Edit : Yusuke Soejima(QUI)

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