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doublet 2026年秋冬コレクション──抗う素材に見えない呼吸を宿して

Mar 16, 2026
空気という目に見えない存在と向き合った<doublet(ダブレット)>の2026年秋冬コレクション「AIR」。CO₂由来の糸や、温室効果ガスを食べる微生物が生み出す素材。思い通りにならない素材と格闘しながら、それでも前へ進み続けた時間の裏側を追う。

doublet 2026年秋冬コレクション──抗う素材に見えない呼吸を宿して

Mar 16, 2026 - FASHION
空気という目に見えない存在と向き合った<doublet(ダブレット)>の2026年秋冬コレクション「AIR」。CO₂由来の糸や、温室効果ガスを食べる微生物が生み出す素材。思い通りにならない素材と格闘しながら、それでも前へ進み続けた時間の裏側を追う。

毎シーズン、ユニークな題材で私たちを驚かせるのが同ブランドの真骨頂だが、目に見えない物質と向き合うとは、どういうことなのだろう。コレクションノートを一読すると、そこには空気中の二酸化炭素から生まれた糸や、温室効果ガスを分解する微生物が生成するバイオベース樹脂、排気ガス由来の炭素を原料としたインクの使用が明記されていた。正直、どうやって作られているのか想像もつかなかったが、果てしない技術の進歩と、衣服という形を成すはるか前の段階から思考を巡らすその姿勢に、強く好奇心を掻き立てられた。視覚で捉えられる領域を越え、無数に広がる未知の世界に思いを馳せたコレクションとは、一体どのようなものか。


ファーストルックで現れたのは、闇夜よりも深く沈むオールブラックのスタイル。オーバーサイズの重厚なダブルブレストコートに身を包み、手元でゴールドのチャンキーなチェーンを光らせる姿は、想像していたどのパターンとも異なる極めてストイックなものだった。しかし、よく目を凝らすと、そのチェーンもまた一筋縄ではいかない。そこには萎んだ黒い風船があしらわれている。一見ラグジュアリーに映る装いの中に潜むこの違和感は、ブランド特有のチャーミングなユーモアを感じさせると同時に、今季のテーマ「AIR」を象徴するディテールでもある。空気を失った風船というモチーフが、“見えないが確かに存在するもの”へのまなざしを示し、重厚なコートスタイルに軽やかなコンセプトの層を重ねていた。続くルックも、端正なセットアップや、ハイネックニットにアシンメトリーなスカートを合わせたスタイルなど、ラグジュアリーな世界観を存分に見せつける。しかし足元に目を落とせば、まるで空気が抜けた風船のようなペタンコのレザーシューズに空気弁のディテールが施されており、静かな佇まいの中にもテーマへのコンセプチュアルな遊び心が潜んでいる。






また、バックステージで捉えられたアイテムたちは、ブランドの思想をさらに軽やかかつユーモラスに体現していた。特に目を引いたのは、メタリックに輝くチェック柄のセットアップに合わせられた、梱包用の緩衝材(エアークッション)をそのまま繋ぎ合わせたかのような斬新なバッグだ。「空気を持ち運ぶ」という極めて直接的でアイロニックなアプローチには、思わず笑みがこぼれる。さらに、ラックに掛けられたブラウンのジャケットは、空気を孕んで膨らんだかのような独特のボリューム感と、全体に刻まれた有機的なシワのテクスチャーが秀逸だ。見えない空気をいかにして衣服の構造や質感として可視化するかという、実験的なプロセスが随所に息づいていた。






鮮烈な赤のニットは、肩に膨らみを持たせたユニークなフォルムで空気の存在感を可視化。柔らかな質感と構築的なシルエットが共存し、淡いブルーデニムとの対比が美しい。鮮やかなブルーのベロア調トラックスーツは、空気をはらんだようなボリュームと滑らかな光沢をまとい、ストリートの文脈を未来志向の素材感へと更新していた。さらに、ブラウンのスーツスタイルはクラシックなテーラリングを基盤にしつつ、あえてラフに結んだネクタイやずらしたレイヤードで“未完成”の美学を提示。空気のように掴みどころのないバランス感覚が、装いに揺らぎを与えている。また、表面の装飾やポケットのディテールが、ユーモアを交えてデザインへと昇華していた。

本コレクションが提示するのは、単なる衣服の完成形ではない。扱いづらく、思い通りにならない素材と向き合い続けた時間そのものが呼吸となり、服に宿っている。「AIR」は空気から生まれた服であり、未知なる可能性を信じ続けた時間から生まれた服だ。見えないものを信じること。その積み重ねが、未来の輪郭を描き出す。<doublet>は今季、空気という存在を通して、ファッションの新たな可能性を再び大きく吸い込んだと言えるだろう。

 


 

doublet

東京モード学園卒業後、企業デザイナーを経て、2005年よりミハラヤスヒロにて靴・アクセサリーの企画生産に従事。 2012年にパタンナーの村上高士氏とともに<doublet>を立ち上げ、2013春夏より展示会デビュー。 デビューした2013年に「TOKYO新人デザイナーファッション大賞」のブロ部門のビジネス支援デザイナーに選出され、最高位の東京都知事賞を受賞。

doublet 2026AW COLLECTION はこちら

  • Photograph : Jiro
  • Edit : Miwa Sato

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