MYne から KAMIYA へ「新参者」としての覚悟|KAMIYAデザイナー 神谷康司
ファーストコレクションである2023年秋冬シーズンのテーマは「NEW JACK」。
<KAMIYA>として、軸足をどこに置いてブランドを展開していくのか。2023年秋冬シーズン始動直後とRakuten Fashion Week TOKYO 2024 S/Sに初参加が決まったタイミングで、神谷康司に現在の心境や胸に秘める今後の展望を訊いてみた。
「神谷康司らしさ」に感じた手応え
—マインであってもカミヤであってもディレクターであることは変わりませんが、心境の変化みたいなものはありますか?
神谷:ブランドを率いていく、束ねていくという意味ではマインの時も、カミヤになってからも役割は基本的には変わりません。ただ、覚悟として自分の名前をブランド名に掲げるということはどんな困難なことがあっても逃げ出すことは許されないです。
自分はメゾンミハラヤスヒロという母体があるからこそカミヤというブランドで自分の色を出していくことができます。常日頃、自分はとても恵まれた環境で働けていると感じる瞬間が多いんです。ありがたいことに、マインのファンであり神谷康司のファンでもあるって言ってくれる方もいらっしゃって、そんな方たちはカミヤというブランドタグが付いた服が着られることがうれしいとも言ってくれています。ファーストコレクションとなった2023年の秋冬シーズンも自然と自分のルーツカルチャーが表現されているのか、僕のことを知ってくれている人たちは「いいじゃん、やっぱり神谷はこれだよね」って声もいただけてましたね。
—カミヤのクリエーションに三原さんは関わることは全くないのでしょうか?
神谷:全く無い、とは言いませんが、クリエーションに関しては概ね任せて頂けています。また、神谷康司というデザイナーのクリエーションを世の中に浸透させるためにもブランド名をカミヤにしてみるのはどうだろう?ときっかけを下さったのも三原さんでした。マインの時代はディレクターとして「ブランドらしさ」を意識しつつ、そこに自分らしさを加えシーズン毎にブラッシュアップしてきた経緯がありました。こうしたひとつひとつの積み重ねから、バイヤー様やショップの方からも自分の服作りに対して評価いただける声が増えていったんです。
三原さんや前任のディレクターが築き上げたマインのイメージがある中で、神谷康司らしさが、ファッション好きな人たちに浸透している手応えを感じ始めたのもここ数シーズンです。その手応えが、原動力となりマインからカミヤへ名前を変えてもこれまで自分が愛情を注ぎ続けたブランド同様、変わらずに自分のクリエーションを愛してもらえるのかもしれないと確信した理由でもあります。
ブランド名にはデザイナー自身の名前が付けられた
—「自分の色」というものを強く打ち出した服という点において意識していることはありますか?
神谷:洋服のデザインって個人のクリエーションのような印象でも実際にはチームで動かしていることが多いのですが、僕は一人で考えて、一人で動いていくタイプです。「知る」ということに関心が強く、アートを鑑賞したり、書籍を読んだり、そこからいろいろなことを自分なりに吸収していくのが好きなんです。自分でも自覚しているのですが、服作りにおいて試してみたい興味や好奇心がかなり強いのかもしれません。あれもやってみたい、これもやってみたいが尽きないんです。一見すると自由にやっているように感じられるかもしれませんが、実際は常に自問自答の連続で、不安に駆られることも多々ありますね(苦笑)。
23AWの商品、デザイナー神谷氏が得意とする加工が随所に落とし込まれている
シーズンテーマに込める「決意表明」
—2023年秋冬のシーズンテーマとして「NEW JACK」を選んだ理由はなんでしょうか?
神谷:ブラックミュージックのカテゴリーにある「NEW JACK SWING(ニュージャックスウィング)」を語源としているんですが、「新参者」という風に意訳することができます。始動させたばかりのKAMIYAはブランドとしては1年生、そんな意味もあり「NEW JACK」を選びました。
—「NEW JACK」を2023年秋冬コレクションにどのように落とし込んだのでしょうか?
神谷:テーマと洋服を連動させ過ぎると制約が生まれることもあるので、「NEW JACK」にしてもクリエーションの源泉というよりは、「これからファッション界をジャックしていきたい!」という決意表明に近いと思っていただければ幸いです。「NEW JACK SWING」からのインスピレーションをデザインやディテール、加工、生地感にこう落とし込みましたというのはコレクションリリースとしてはわかりやすいのかもしれませんが、シーズンテーマと服作りを紐づけることはカミヤのスタートを機にやめにしたんです。
2024年春夏のテーマもすでに決めていますが、それも同様に今の自分の中にある価値観や感情みたいなものにハマった言葉を選んでいます。マインの頃はテーマに沿った服作りを意識していましたが、これからはテーマを表現するというよりもシンプルに自分が今作りたいと思う服であることを優先していこうと思っています。ただ、決意表明自体はモチベーションアップにも繋がりますから大枠のテーマはこれからも毎シーズン発信していくつもりです。
—確かにシーズンテーマやコンセプトなどは自分たちのように取材する側が欲しがるところもあります。ですがデザイナーたちの本心としては「自分が着たい服を作る」という声は圧倒的に多いです。
神谷:コロナ禍を経験して、明日がどうなるのかもわからないことを身をもって知りました。それならば、トレンドやマーケティングを熟知した上で、本能的に感じていることをアウトプットしていきたいと思うようになたのかもしれません。90年代に話題になった都市伝説の一つにノストラダムスの大予言がありますが、どこまで信じていたかは別としても「世紀末はどうなるかわからない、それなら自分が表現したいことを思い切ってやっていく」って先輩方が大勢いたんだと思います。そんなデザイナーの先人たちが今日までファッションシーンを盛り上げてくださったとも思っています。
そして超えることが難しい高い壁として未だにシーンの最前線で活躍されています。だからこそ諸先輩から学んだことを自分のデザインワークに落とし込みつつ、洋服を手にした方がどこかしらに新鮮さを感じていただけるような物作りをしていくつもりです。
今後の展望
—新ブランドとしてスタートしたばかりですが、カミヤになったからこそやってみたいなど今後の展望を教えてください。
神谷:近年、インフルエンサーや芸能人、YouTuberなど色んなジャンルの方々がブランドを立ち上げることも珍しくはなく、ファッションが気軽に参入できるコンテンツのように思われている節もあります。でも、実際はそんなに単純なことばかりではない。少ないながらもブランドを推進する経験を積んだ今だからこそ、そんな風に思うんです。
だからこそ、同世代のデザイナーたちとはいい意味で切磋琢磨しつつ、ファッションの熱量を1人でも多くの人へ伝えていきたいって思いはあります。ファッションにおいて本当に誰もやったことがないアプローチを見つけるのはとてつもなく難しいのですが、だからこそ自分たちの世代は若さを活かしてどこまで無茶できるかってことにも挑戦していきたいんです。
そのひとつとしてカミヤとしてはショー形式での発表にこだわっていきたいという思いを強く持っています。三原さんが日本でのショーでかなりのサプライズを仕掛けてきましたが、ファッションの未来を考え抜いての演出だったのは近くにいたからこそ知っています。周囲からも三原さんのショーを超えるのは相当ハードルが高いと言われ続けています。このことは自分でもよくわかっていますが、「服を見にきたんだっけ?ショーを見にきたんだっけ?」って、オーディエンスの方々が没入しきれるレベルの、前例がないようなことをゆくゆくは実現していきたいですね。
Rakuten Fashion Week TOKYO 2024 S/Sに初参加。 8月28日 19:00から発表される。
https://rakutenfashionweektokyo.com/jp/brands/detail/kamiya/
店舗情報
THE PHARCYDE
公式HP:https://miharayasuhiro.jp/products/list.php?maker_id=13
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