コレクションを彩る音楽に注目!あのブランドが起用したアーティストを調査! vol.1
コレクションに彩りを加える音楽は、視覚だけではなく、聴覚でブランドイメージやシーズンテーマを感じ取ることができる重要な役割を担う。
脳裏に焼き付いたコレクション音楽が脳内で鳴り始めることを契機にして、当時のコレクションを思い返すことも多々あるはず。
コレクションに欠かせない音楽。あのブランドは、誰をどのような思いで起用したのかを掘り下げていく。
The American Dollar / Goldmund ー APOCRYPHA. 2022年秋冬コレクション
The American Dollar
2005年にニューヨークのクイーンズで結成されたアメリカのポストロックバンド。メンバーは、ドラマー/キーボード奏者のジョン・エマヌエーレとギタリスト/キーボード奏者/プロデューサーのリチャード・クポロ。
Goldmund
アメリカ合衆国の音楽家、作曲家、プロデューサーのキース・ケニフの活動の一つ。インディーズバンド「Mint Julep」として活動する他、「SONO」「Helios」などの名義での活動も行なっている。
APOCRYPHA. デザイナー 播本鈴二
「基本的に過去の楽曲を必要とする発表形式の時は必ず自作の楽曲を使用していました。趣味でもあり、細部まで拘りたいが故にです。しかし、このシーズンは直感的に楽曲を選択する必要性を感じていました。コレクションテーマは THE TWILIGHT。薄明時の部屋、異性との儚くも苦しい思い出を表現していたからです。ファッションで現代的な純文学を描きたい、そんな想いで描かれています。主に制作過程で意識したのは太宰治が得意とする「女性独白体」。女性目線の男性像を描きたかったのです。見た人が何処か心が騒つくような、そんなショーにしたかったのです。
ランウェイ全体で4曲の構成になっています。様々な選曲のアイデアがあり、初期構想はdavid Langのpiercedのアルバムで全編構築しようと思っていたのですが演出家と相談した結果、何処かエモーショナルでもっと現代人に刺さる楽曲が良いのではないか?との案が出てきました。そこで私自身が日常でその時間帯に流すプレイリストから数曲、選ぶ事となりました。
ショーの冒頭は真っ暗で、オールブラックの過去品番による5ルック。これは「記憶」を意味しています。会場の大きな窓には東京、青山の夜景が煌々と広がり、その光を逆光にぼんやりとシルエットを認識できる程度の時間が流れます。ここでは見る人をこれから始まる「とある夜の記憶」に誘いたかったのです。そんな一曲目に相応しいと思ったのはニューヨークのクイーンズで結成されたバンド、The American DollarのAnything You Synthesize。彼らの持つ背景と南青山の夜景は見事に重なり、そのしっとりとしたテンポとメロディラインに対して一音一音力強く奏でられるわざとらしいEPやクリーントーンのギターによる電子音は都会の夜の喧騒を客観的に眺めるような心理描写をドラマティックに表現できると思いました。また、2000年代中盤エレクトロニカ、フォークトロニカブーム真っ只中に青春を謳歌した私にはしっくりくる選曲でした。
5体目のモデルが歩き終えると同時に一曲目はフェードアウト。次に会場はぼんやりとライトアップされ、カーテンを模した壁一面の白い垂れ幕には深い夜をイメージしたネイビーのライトが当てられます。そしてここから始まる二曲目。キース・ケニフによるGoldmundのBreaking。高音域の神秘的なコードの羅列とシンセパッドのみのシンプルな楽曲。それらはまるで深い夜の暗い部屋で耳鳴りと吐息だけが聞こえる様なイメージです。静かで神秘的な空気の中、ネイビーからブルーで構成されたルックがしばらく続きます。
ショーの中盤に差し掛かるとカーテンを照らしていたライトは緩やかにオレンジへと切り替わり、ルックも少しずつピンクへと変化していきます。そのほんの少し前から3曲目へ。不自然な間を作らないよう緩やかに変化をつけるため、選んだのはGoldmundのThrenody。ほぼ同じ曲の構成の為繋がりは自然。ただこちらはほんの少しだけメロディアスで中音域のピアノリフ。先ほどよりも感情的で暖かく、ぼんやりと明るくなった朝へと向かう彼は誰時(かわたれとき)に相応しい曲だと感じています。
会場は朝焼けの様なサーモンピンクのルックが並び、薄明時の空の様なグラデーションが生まれます。ラストルックが見えなくなると同時にフィナーレに向けて楽曲をGoldmundのSometimeへと繋ぐ。これもまた同じ様な構成ですが、比較的ポジティヴなコード進行で音の間隔は埋まり、音域と音数が増え、朝へ向かうイメージに最適だと思い、採用しました。
もちろんそれぞれの曲が持つ意味やタイトルもそれぞれのシーンを表すのに最適なものを選んでいますが、やはり今回は見る人の感情を動かすためにある程度会場の空気を優先した直感的な選択をしています。」
GANZ HASE ー SEVESKIG 2023年春夏コレクション
GANZ HASE
日本のハードコア・バンド。メンバーは、ボーカルのUCARY VALENTINE、MOP of HEADのギター Kikuchi、999999999のベース Ryochi、QUESTRAKTのドラム too_shitで構成。
SEVESKIG デザイナー NORI
「SS23は『PERFECT BLUE』をオマージュしたコレクション映像になっています。作品はCHAMのコンサートシーンから始まるのですが、そのシーンのオマージュし、野外音楽堂でバンドが演奏する構成に仕上げました。映画自体二重人格的なイメージの作品なのですが、ボーカルのUCARYちゃんはソロの時には大人しく優しい曲を歌うんですけど、 GANZ HASE(バンド)になると180度違うパンクな曲を歌います。そんな二重人格的な彼女のイメージが今回のコレクション映像にぴったりで起用させてもらいました。」