【BEHIND THE RUNWAY】SEVESKIG/(un)decided が追求する、壁をなくした先にある光|Rakuten Fashion Week TOKYO 2024S/S
『実際に商品を手に取り、着て感動する物作り』をコンセプトに掲げ、自身が通ってきたカルチャー、サブカルチャーなどをスタンダードなアイテムに落とし込んでいる。レザーアイテムは個体も国内の破棄される動物を使用し、2016 年からは害獣駆除、頭数制限などで落とされた狩猟革 (蝦夷熊、ツキノワグマ、蝦夷鹿、本州鹿など)を使用している。 世界に誇れる日本の生地産地に足を運び、シーズンテーマにあった生地を開発。 古着の仕入れをしていた事もあり、ブランド立ち上げ当初から古着を表地やライニングに使用。 デザイナー長野 剛識は、もともとグラフィックデザイナーであったことから、グラフィックやイラストを得意とし、コレクション内でも柄物を多く扱う。
2023年に設立した<SEVESKIG>のデザイナー長野 剛識が手がけるレディースブランド。これまで触れてきた文化やサブカルチャーをベースに、目まぐるしく変化する時代を自分自身にも縛られることなく、常に自由に楽しむ女性のイメージをデザインに落とし込む。
毎シーズンのテーマに加え、ブランドコンセプトである女性の強さとしなやかさを、シルエットやオリジナル素材(日本製生地・ニット)で表現している。
「IF WE BREAK DOWN THE WALLS」というテーマを提げた2024S/Sコレクションの発表に選んだ場所は、鶯谷駅に程近い老舗ライブハウス・東京キネマ倶楽部。ライブ感の演出に加え、客席の来場者とモデルの間の”壁を取り払う”昇降式のステージがあることが、ロケーション選びの決め手となったという。
我々が到着した頃は、ちょうどリハーサルが始まる直前。ランウェイを手がけるスタッフは、スタイリストの百瀬豪を始め、ブランドが信頼を寄せ、毎シーズンともにコレクションを創り上げているクリエイターで主に編成されていたこともあり、リハーサル前には和やかな空気感さえ漂っていた。
デザイナーの長野は、以前QUIで行ったインタビューで、「買ってくれた方や見てくれた方が、何かの気づきになってもらえれば良いなと思い、コレクションを考えている」と話していた。
今シーズンは、それらを巡るデザイナーの思考が導き出した純粋でストレートなテーマをもって表現された。
戦況が混沌としている昨今の戦争や、外交や国内経済を鑑みた政治的な判断で、分断されていく世界。
“IF WE BREAK DOWN THE WALLS”というテーマを掲げ、民族間の分断等の壁を取り払うことができた先にある希望の光を追い求めた。
制作のバックグラウンドにある預言や神話、都市伝説といった土着の信仰は、コレクションを語るうえで外せない要素の一つ。
デザイナー長野は、昔から疑問に思ったことを調べることが好きで土着の信仰にのめり込んでいったと語る。
先シーズンからは、熊本県上益城郡山都町にある「幣立神宮」に伝わる「五色人文明」に着目。
「幣立神宮」には「五色神面」と呼ばれる木製の彫像面があり、『正統竹内文書』には、かつて世界には「赤人」、「青人」、「黄人」、「白人」、「黒人」の5つの根源的人種があったことが記されている。
先シーズンは、資本主義の加速化により人類の破滅を予言するネイティブ・アメリカンのホピ族=「赤人」にフォーカスしたコレクションを展開。
今シーズンは、戦火の中にいるスラブ民族など「青人」にフォーカスし、スラブの伝統的な民族衣装に見られるギャザーやシャーリング、花の刺繍やクロスステッチなどのディテールに、デザイナーファッションのベースであるアメカジがミックスされたコレクションを展開している。
コレクションを通して「五色人」を掘り下げていくことは、「五色人」が手を取り合う平和な世界になることを願うという意図があるため、残り3民族についても、来シーズン以降のコレクションでフォーカスする予定だそう。
コレクションに登場したボーダー柄やストライプ柄は、分断する壁や境界線のメタファーとして機能しており、赤・青・白からなる汎スラブ色のボーダー柄が解れてフリンジ状になったニット、ボーダー柄が”NOBORDERNOHUMAN”という皮肉なフレーズとともに消えていく今治タオル地のセットアップは、ブランドのメッセージが色濃く出ているアイテムだ。
戦争によって傷ついた人々の心は、レーザーカットでボロボロに穴の開けられたデニム、表面の顔料が薬品で剥がされたレザーやクラックレザーのライダースジャケットなど、グランジ調のアイテムで表現された。
破れた生地を修復するように散りばめられた花の刺繍は、人々の心の傷を癒すような願いが込められている。
また、コレクションの随所に登場するキラキラと光る生地で、壁を取り払った先にある希望の光を写し出した。
デザイナーは、今までもコレクションにARを取り入れる技術を駆使し、コラボレーションを行ったアニメ作品の世界観を、衣服という究極にアナログな世界にデジタル表現を加えたアイテム制作を行ってきた。
このように、現実と虚構の境界線を探求して落とし込むことも、ブランドにとっては欠かせないデザインの手法となっている。
今シーズンは、AIとの対話を行い、デザインを制作した。
AIによって画像生成を行う「Midjourney」を用いて花の画像を生成したことや、AIを用いたチャットボット「ChatGPT」によるミスリードも敢えてそのまま取り込んだ。
スラブ神話には様々な神々が登場するが、AIによって「トラの頭を持った神」や「赤いの毛皮を着た魔女」など、AIによってもっともらしく語られる架空の神々の姿が、日本のアロハシャツブランド<nipoaloha(ニポアロハ)>とのコラボレーションによるトラ柄のアロハシャツを始め、転写プリントで衣服表現の世界を広げる<TOLQ(トルク)>とのコラボレーションによるヒョウ柄を転写したコーチジャケットやスカジャンなどで具象化されている。
コレクションを語るうえで欠かせないピースとしては、もう一つ、毎シーズン続けているアニメ作品とのコラボレーションが挙げられる。
今シーズンは、神話の存在が物語と密接に関わるアニメ作品『新世紀エヴァンゲリオン』のコラボレーションし、プリントTシャツなどを制作。
作中に登場するバリア「A. T.フィールド(Absolute Terror Field) 」をイメージしながら開発し、バリアのようにナイロン扇平糸を編み上げたオリジナル素材で制作されたアイテムも登場した。
デザイナー自身がアニメ愛に溢れていることは、ファンの間では周知の事実であるが、アニメ作品のグッズのようにわかりやすく取り入れるデザインと、ファッションアイテムとしてかっこいいものへと昇華させるデザインを、コラボレーションによって使い分けており、そのバランス感覚に意識して見てみれば、知見と作品へのリスペクトがあるからこそ成せるデザインバランスだと納得する。
ランウェイの音楽でシーズンテーマである”IF WE BREAK DOWN THE WALLS”を様々な人の声で脳内に刷り込まれるほど繰り返していたことに加え、今回のコレクションの要素を分解した際、「民族間の対立」「都市伝説」「神話」「アニメ作品」いくつかの様相の異なるキーワードが合わさっているように見えて、裏では”分断”することなく繋がっていることも、ブランドがストイックに求めたメッセージ性の強度を高めていた。
先シーズンにブランド初となるランウェイを開催し、ランウェイでの発表は2回目となった<SEVESKIG>と<(un)decided>。
発表が終了した後、今後のコレクション発表について聞かれたデザイナー長野は、またランウェイ形式で発表したいと来シーズンへの意欲を滲ませた。
- Photograph : Masamichi Hirose