蒔田彩珠 – 世界が違っても、ここにたどり着く
映画『君を愛したひとりの僕へ』でヒロインの声を務める蒔田彩珠と考える。
いつもは出せない感情をお芝居で出せることが楽しい
― 『君を愛したひとりの僕へ(君愛)』『僕が愛したすべての君へ(僕愛)』の脚本を最初に読んだときの感想から教えていただけますか?
先に『君愛』を読んだんですけど、幼い2人が勢いでとってしまった行動が引き起こした事態に対する長い戦いが本当にせつなく感じられて。その後に『僕愛』も読ませていただいて、どちらも素敵な作品だなと。自分と同世代の人が観たらもちろんおもしろいだろうけど、自分の親世代の方が観ても違った目線で楽しめる作品だと思いました。
― 『君愛』のヒロイン・栞を演じるにあたって、彼女をどんな人物だと捉えましたか?
栞は、最初のころは女の子らしくてわがままで、(宮沢氷魚さん演じる主人公の)暦に甘える妹のような存在でした。でも物語が進むにつれ、暦を支えたくて、泣きたい気持ちも我慢して常に笑っている栞は本当に強くて優しい子なんだなと気づかされました。
― 蒔田さん自身が栞に共感できた部分はありましたか?
なるべく笑って、私は平気だよと振る舞う健気な部分は、私もそうありたいなと共感できました。
― ご自身も我慢強い方だと思いますか?
そう思います(笑)。
― 『君愛』のカサヰケンイチ監督からは、どんなリクエストがありましたか?
こうしてほしいというのはあまりなくて、私がもともとイメージしていたとおりにできたんですけど、キャラクターの口との合わせ方とか、息づかいとか、技術的な部分は指導していただきました。
― 蒔田さんは声の仕事とどのように向き合っていますか?
声の仕事は先に絵ができあがって、感情が決まっているので、自分からその感情に持っていかなきゃいけないのが、やっぱりすごく難しくて。以前、別の作品でやらせていただいたときは、収録時に相手の方がいなくて自分のセリフだけを入れていったんですけど、今回は宮沢さんと掛け合いでできたのでとても助かりました。
― 声優さんだとバラバラに収録することも一般的ですからね。
先にセリフが入っていると言葉のキャッチボールができないので、宮沢さんと同時にできて本当に良かったです。
― 宮沢さんとは初めてでしたか?
はい。お会いしたのも収録の数日だけでしたが、私が終わっても宮沢さんはまるまるもう1本『僕愛』の収録が残っていたので、がんばってくださいと(笑)。
― 声のお仕事に限らず、蒔田さんにとってお芝居とはどういう存在ですか?
私は我慢強いので(笑)、その分いつもは出せない感情をお芝居で出せることが楽しいなと思います。
― 普段から鬱屈した感情を貯金してるんですね(笑)。
貯めて貯めて、発散してます(笑)。
― それはご自身の心にとっていいことですか?
はい。いいバランスでできていると思います。
― 傍から見ていると、お芝居って心にすごく負荷がかかるようにも思えるんですが。
でもそれは映画を観て感動するのと同じですよね。相手の方とお芝居をして、それに感動して、自分もまたお芝居ができるので。
― 俳優というポジションが、作品を一番近くで体感できる特等席のような……。
そうなんです。
― もう1人のヒロイン、和音を演じた橋本さんの印象をお聞かせください。
小学5年生のときにCMでご一緒したことがあって、橋本さんは私のお姉ちゃん役だったんですけど本当に素敵で。かわいいんですけど頼もしくて、さっきもインタビューを一緒に受けていたんですけどすごく頼っちゃいました。「橋本さん答えてー」って(笑)。
栞は『僕愛』にはちょっとしか出ていないんですけど、橋本さんの和音は『君愛』にもたくさん出てきます。声だけを聞いてもリードしてくれそうな強さがあって、和音のキャラクターにすごく合っていてかっこいいなと思いました。
今これだって思った選択をする
― 『君愛』『僕愛』では並行世界という概念が鍵になりますが、すんなりと受け入れることはできましたか?
普段からいろんな作品を見ているので抵抗はなく、すぐ物語を受け入れられました。
― 栞の人生はさまざまな選択や出会いによって大きく変わっていきますが、蒔田さん自身の人生に大きな影響を与えた出会いはなんですか?
やっぱり、小学4年生のときに是枝裕和監督と出会って大きく変わったなと思います。是枝監督は安心感があって、心を支えてくれている存在です。今も定期的にご一緒させていただいていて。最近ではネットフリックスのドラマで一緒でしたね。
― 是枝監督の何に支えられていると感じていますか?
なんだろう…かわいいんですよね(笑)。これは皆さんにあまり知られていないんですが、言うこと、やることが、くまさんみたいで(笑)。
― もし俳優の道を選択しない並行世界があるなら、今どこにいると思いますか?
それはたまに考えるんですけど、結局これしかないなって答えになるんです。だから違う世界だとしても、ここにたどり着いてそうだなって思います。
― 人生において選択することはすごく重要ですが、どちらを選ぶか五分五分の状況ってありますよね。蒔田さんがそういう場面に直面したとき、どうやって選択していますか?
私は過去も未来も見ないので、今これだって思った選択をします。
― 直感を信じる?
そうですね。悩み始めたら止まらないので、すぐに決めます。
― 後悔もしないですか?
しないです。後悔をしても忘れちゃいます。
― ちなみに、並行世界でなにかやり直してみたいことってあります?小さなことでも。
もうちょっと運動しとけばよかったなあ、とか(笑)。運動は好きなんですけど、あんまりアクティブな方じゃないんです。最近、初めてアクションの作品を撮っていて、もうついていけなくて。身体を思うように動かすのって難しいですよね。
着たい服を着よう
― ここからは少しファッションについてもお聞かせください。ファッションは好きですか?
好きです。洋服もそうだし、帽子とかサングラスとかアクセサリーとか身につけるもの全部好きで、お金があったらついつい買っちゃいますね。もう自分の部屋のクローゼットに入りきらないからリビングの収納にも侵食していて、家族に怒られています。部屋に持って帰ってくれって(笑)。
― ファッションの原体験は?
中学に上がったときぐらいから気にするようになりました。雑誌の撮影などでかわいいお洋服を着させてもらう機会が多くなって、普段もそういう格好がしたくて買い物に行ったのが最初ですね。
― では今考えるファッションの魅力はなんでしょう?
洋服によって気分も変わるし、髪型とかメイクとかもすべてが変わるところ。出かけるときは前日の夜から洋服を決めます。
― お芝居でも衣装って大事ですよね。
はい、衣装がかっこよくないと気持ちが上がらないです(笑)。逆に衣装から監督の意図を汲み取ることもあります。
― 蒔田さんの好みというか、自分らしいファッションってどんなスタイルですか?
最近は骨格診断とかが流行っていますが、そういうことを気にしたくないなと思っています。着たい服を着ようよって。
― とくに好きなアイテムは?
冬服が大好きなので、セーターはよく買いますね。まだ夏ですけど、早く冬にならないかなって今も見ています。
― 先ほどのお話だと、買い物も悩まなさそうですね。
悩んだらどっちも買うか、どっちも買わないかです(笑)。最近はようやく我慢できるようになってきましたけど。
― お買い物は店舗で?それともWEBが多いですか?
お店ですね。下北に行くことが多いです。古着をよく着るので。
― 最近、気になっているブランドはなんですか?
ガルフィーです
― あの犬の?
犬の(笑)。あれをいかつくなく、かわいく着こなすのが目標です。
― 最近買って気に入ってるアイテムはなんですか?
厚底のクロックスを買って、それをずっと履いています。
― では、最後に『僕愛』『君愛』の話に戻って、蒔田さん的にはどちらから観るのがおすすめですか?
私は『君愛』『僕愛』の順で観ましたが、この順番のほうがハッピーな気分になれるということなのでおすすめです。
もちろんどちらから観てもおもしろいですけど、この人生の分岐を慎重に選んでいただけたらなと思います。後悔しない選択をしてください(笑)。
Profile _ 蒔田彩珠(まきた・あじゅ)
2002年8月7日生まれ、神奈川県出身。2002年8月7日生まれ、神奈川県出身。2020年公開『朝が来る』で、日本アカデミー賞新人俳優賞ほか数々の賞を受賞。主な出演作は映画『万引き家族』、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』、NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』、ドラマ『妻、小学生になる。』など。
Instagram
tops ¥36,300・skirt ¥37,400 / Y.M.Walts (MARVIN & SONS 03-6276-9433)
Information
蒔田彩珠さん出演映画
『君を愛したひとりの僕へ』
2022年
声の出演:宮沢氷魚、蒔田彩珠、橋本愛 ほか
監督:カサヰケンイチ
脚本:坂口理子
原作:乙野四方字「君を愛したひとりの僕へ」(ハヤカワ文庫刊)
配給:東映
- Photography : Yutaro Yamane
- Styling : Kentaro Higaki(tsujimanagement)
- Hair&Make-up : Eriko Yamaguchi
- Art Director : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)