【対談】TENDER PERSON × 梅津泰臣、異色コラボの裏で見えたクリエーションの共通項。ー前編ー
2014年よりTENDER PERSONを立ち上げる。同年原宿にて展示会形式でコレクションを発表。2016-17AWより本格活動を開始。日常生活から得る物事をさまざまな角度から捉え、時代感、空気感を独自に追求し、ファッションを通して自分たちらしさを表現し続けることをコンセプトに掲げる。
1960年12月19日生まれ。福島県出身。アニメーターとしてこれまで数々の有名作品に参加する一方、キャラクターデザイナー・アニメーション監督・原作者・脚本家・演出家とマルチに活躍。監督としての代表作に『ロボットカーニバル・プレゼンス』『A KITE』『MEZZO』『ガリレイ ドンナ』などがある。現在、自身の8作目となる監督作品を制作中。
ー前編ー
QUI編集部(以下QUI):まず梅津監督にお聞きしたいのですが、1番最初に『A KITE』とアパレルのコラボ企画のご相談を差しあげたときどんなお気持ちでしたか?
梅津泰臣監督(以下梅津):1番最初って…何年前でしたっけ?3年前くらいですかね?おはなしをいただいたときは、もともと『A KITE』は20年以上前の作品だし、いまこれをフィーチャーするっていうのは、「どういう意図があるのかな?」と思ったのが率直な感想です。そこから実際にお会いして、企画の詳細を聞いて、おもしろいことになるかもしれないと思ったので、「ぜひ進めてください」というお返事を差し上げました。QUI編集部の情熱がしっかり伝わってきましたよ。
QUI:一番最初は、梅津監督にどうやってコンタクトを取っていいか分からず、監督のブログ「梅座流星群」の記事のコメント欄に、依頼文を書き込みました。でも、なかなかお返事をいただけなくて…(笑)。半ばあきらめかけていたところでお返事をくださって、その時はとても嬉しかったのを覚えています。そこから計算すると、実は4年越しの企画です。
梅津:<TENDER PERSON>のお二人は知らないかもしれないけど、そのあとは一時期ちょっと…ね(笑)。進捗は随時おしえてもらっていたんですが、滞っていた時期もあって。だから、この件はなくなっちゃったのかなって正直思っていました。QUIのお二人とはじめてお会いしたときに「A KITE は18禁のアダルト作品だから、どういうふうに洋服に落とし込むんだろう?」という懸念点があったので、質問したことを覚えています。その後、しばらくしてから具体的になってきたとの報告をくださって、とても嬉しかったのを覚えています。
QUI:その裏で、ちょうど<TENDER PERSON>のお二人から“アニメやサブカルチャーを使ったコレクションをつくりたい”という相談をもらっていたんです。そこで、梅津監督のカイトを紹介させていただきました。わたしたちは「18禁」という要素も含めてカイトという作品だと思っているので、露骨すぎる表現は控えるとしても、「アダルト要素」もしっかりと洋服に落とし込んでほしいという想いが強くありました。お二人は最初に『A KITE』のアニメを見たとき、どんな感想でしたか?
ビアンカ:『A KITE』を調べたら20年以上前のアニメ作品だったんですが、ぜんぜん古さとかは感じなくて。むしろ、キャラクターや背景の色使いだったりが新鮮だったし、テンポよく展開されていくストーリーもおもしろくて、夢中になって見てしまった記憶があります!
ヤシゲユウト(以下ヤシゲ):僕ももともと『A KITE』を知らなくて。紹介してもらってはじめて見たんですが、僕は1回だけじゃ理解できなかったです。正直、ちょっと複雑でむずかしいアニメだなって思いましたね…(笑)。
梅津:むずかしいと感じたのはキャラクターの感情?それとも、物語の流れ?
ヤシゲ:どちらもですね。物語の展開も早いので、そのあと2回くらい見直しながら、自分の中でそれらを消化して、やっとフィーリングのようなものがつかめてきた感じがありました。
梅津:ちょっと補足すると、『A KITE』に限らず、当時のアニメ作品の多くはキャラクターの行動原理をあまり丁寧に説明していないと思います。性格や心理行動から引き起こされるできごとの事象を、シーンで見せて理解させることが多かった。それに対して今のアニメは、キャラクターがその状況をちゃんと説明してくれて、意図を分かりやすく伝えるようにしている作品も目立ちますね。そういう意味では大衆性はあるけど、親切すぎるんです。まぁ、『A KITE』は当時の主流でもない「アンダーグラウンドな作品」なので、お二人にできるだけマイナスなイメージは持たれたくないなと思ってます…(笑)。世の中にはいろいろな方がいるので、さまざまな見方をされるとは思いますけどね。
QUI:ふたたび監督にお聞きしたいのですが、<TENDER PERSON>を紹介させていただいたとき、どんなブランドだと思いましたか?
ヤシゲ&ビアンカ:(笑)。
梅津:僕の年齢では着れないんじゃないかなぁ(笑)と思いつつも、チャレンジで着てみたい洋服たちだなと思いましたね。
アニメ業界のはなしをすると、ファッションを楽しんでいるスタッフってほんとに少ない印象です(笑)。仕事柄しかたない部分もあるのですが…。
とはいえ、女性のスタッフはオシャレさんがとても増えましたね!70年代までのアニメキャラクターはずっとおなじ服でしたが、今はもっとファッションにこだわってます。
キャラクターの性格を表現するうえで、どんな服を着ているかはとても重要。だから、常日頃からひとが着ている服にものすごく敏感です。
例えば、電車に乗り合わせた乗客のファッションを見て、このひとはどんな性格なんだろう?どんな生活をしているんだろう?といつも連想していますね。今日のビアンカさんとヤシゲくんの髪の色や、着ている洋服も僕の頭にインプットされているんですよ。それが、次回作でアウトプットされてきたりするわけです(笑)。
QUI:『A KITE』に出てくるキャラクターの着ている洋服や小物の演出、背景の色使いだったりに、ファッション性をすごく感じます。90年代カルチャーのリバイバルの影響もあるのかもしれませんが、いま見てもむしろ新鮮で、とてもカッコイイものに感じます。
梅津:“年代物が、いまかっこよく見える”っていうことでいうと、じつは最近「古着」にはまっているんです。休みの日には吉祥寺あたりの古着屋さんをまわっています。70年代~80年代頃のアイテムを買うんですけど、それって当時僕が中学生のころの洋服たちなんですよね。着ていた当時は、「ダサいなぁ」って思ってたんですが、こうやって時間が経ってみると、「あれ?なんか悪くないなぁ」なんて思ったりしますね。その当時に流行っていたブランドなんかは、むしろ今のほうがかっこよく思えるまでになってきたり。古いアディダスのジャージとかね。90年代に流行ってたカルチャーとして「ルーズソックス」があったんですが、実は砂羽(A KITEの主人公)にはルーズソックスを履かせてます。ビアンカさんはルーズソックスのこと、知らないんじゃない?
いま梅津監督が探している古着は、映画「タクシードライバー」でロバート・デ・ニーロ演じる主人公が着ていたジャケットのオリジナルなんだとか。
ビアンカ:わたし、中学生の頃にルーズソックス履いてました!カッコイイって思ってましたね(笑)。ギリギリ、わたしたちの世代までのカルチャーじゃないでしょうか。
ヤシゲ:90年代生まれの世代くらいまでのカルチャーな気がします。砂羽ってルーズソックス履いてたのか…。ぜんぜん違和感がないですね。
梅津:当時、学生の間でめっちゃ流行ってたよなぁ、って思い出しながら描きました(笑)。トレンドでしたね。
QUI:その後は、お互いに興味を持っていただけたので、顔合わせの会を荻窪でやりましたね。実際にお会いして、お互いにどんな印象でしたか?
梅津:お二人ともとても好印象でしたよ!これまでお二人で歩んできたエピソードを聞いて、仕事に対する向き合い方や熱意も伝わってきましたから。あの日は、いろいろなおはなしをして、家に帰ってからも<TENDER PERSON>について調べましたね(笑)。結果的に、このブランドなら大丈夫だろう、やってくれるだろうって思いました!
ビアンカ:わたしは、監督について調べて、インタビュー記事も読んで、だいぶ予習を重ねてから望んでいたので、印象というか率直な感想が「あっ…ご本人だ」って思ってしまって(笑)。
ヤシゲ:なんというか巨匠感(笑)があって怖い方なのかなとかまえていたんですが、物腰が柔らかくて、ほんとうに優しい方という印象でした。監督の雰囲気のおかげで、初対面ながら自然におはなしができましたね。他業種の方とはなかなか接する機会もないので、そういう面でも貴重な機会になりました。
ビアンカ:あとは監督が「実体験をベースに作品をつくることも多い」っておっしゃっていたのをすごく覚えていて。わたし自身も過去の体験、記憶からインスピレーションを得て、洋服づくりに励むことが多いので、監督の発言に共感できたという記憶が残っています。あとは、監督が「絵を描き続けている」のがすごいなと思いました。何十年後も、今とかわらずに洋服をつくれているのかと自問自答すると「どうなのかなぁ…」って。ハッキリとした答えが出せない自分がいます。
梅津:僕もお二人と同じくらい年齢の時は、やっぱり同じように「いつまで絵を描き続けられるんだろう…」と考えてましたね。20代の時に悔しい経験をして、30代の時にさらに悔しい経験をして。悔しい想いっていうのはやっぱり忘れないのかな。「今に見てろ!」って想いがバネになったのかもしれません。その時その時で満足していたら、そこで終わってしまっていたかもしれません。仮に現状に満足していても、「次回はこうしよう」と自分を変えていく意思があれば、ずっと続けていけると思いますよ!
ヤシゲ:本当に数多くの作品に携わっていらっしゃると思いますが、なにかの作品をつくっているなかで、上手くできたなぁとか、自分自身の満足のいく結果になったことはあるんですか?
梅津:ありますね。でも、100%の自分の思い通りになったことはありません。アニメのものづくりって、「引き算思考」なんです。どこを諦めれば〆切に間に合うかな?っていうことを考えたりする。自分のやりたいことはたくさんあっても、それらを全部を足すだけでは、完成には至らないものなんです。だから、いつも100%の満足になることはない。でも、その諦めた要素が悔しさになって、それが次への活力みたいなものにつながっているのかも。次は「こうしたい」っていう想いが生まれてくるのかなと。
ヤシゲ:今回のコラボレーションは実現して嬉しかった反面、自分たちのやりたかったことを実現できたことに対する満足感がすごくあって。正直、次回のコレクションに向けてのスイッチが、しっかり入っていなかったりします…。でも、うまくできたなぁと感じることはあると監督もおっしゃっていたので、これからまたがんばろろうと思いました(笑)
- Interview : Hiroaki Ubukata
- Photography & Edit : Keidai Shimizu