【対談】TENDER PERSON × 梅津泰臣、異色コラボの裏で見えたクリエーションの共通項。ー後編ー
2014年よりTENDER PERSONを立ち上げる。同年原宿にて展示会形式でコレクションを発表。2016-17AWより本格活動を開始。日常生活から得る物事をさまざまな角度から捉え、時代感、空気感を独自に追求し、ファッションを通して自分たちらしさを表現し続けることをコンセプトに掲げる。
1960年12月19日生まれ。福島県出身。アニメーターとしてこれまで数々の有名作品に参加する一方、キャラクターデザイナー・アニメーション監督・原作者・脚本家・演出家とマルチに活躍。監督としての代表作に『ロボットカーニバル・プレゼンス』『A KITE』『MEZZO』『ガリレイ ドンナ』などがある。現在、自身の8作目となる監督作品を制作中。
ー後編ー
QUI:<TENDER PERSON>のお二人に聞きたいのですが、『A KITE』とコラボしてみたいと思った決め手は?アダルト要素やバイオレンス表現は大丈夫でしたか?
ヤシゲ:作品を何回か見て、自分たちがいまやりたいことにバシッとハマりそうだと思ったのが決め手です。今季のテーマでもある「ロックカルチャーとヲタクカルチャー」にマッチすると思いました。あとは、監督と実際にお会いして、おはなしをして、作品と監督ご本人に対してリスペクトをもって洋服をつくれると思えたのが大きいです。
ビアンカ:アニメを見た瞬間に、『A KITE』とだったらおもしろい洋服ができそう!って直感的に思いました。あとは、ストリートっぽい、モードっぽい、パンクっぽいとか、ある程度ジャンルが決まっているブランドがあるなかで、<TENDER PERSON>っていうブランドは「ジャンルにとらわれていない」とわたしたちは思っていて。『A KITE』を見たときにも、何系にもくくれないジャンルレスな印象を持ちました。その点もおもしろく感じていて、一緒にやってみたいという気持ちが強くなりましたね。
ヤシゲ:そう、唯一無二なアニメ!
梅津:お二人にそう言ってもらえると、素直に嬉しいですね。そんなふうに想いながら、洋服づくり取り組んでくれたことに対して幸せに思います。やっぱり『A KITE』は、健全な本流から外れた「アウトサイダーな作品」なので、今回のコラボレーションにあたって<TENDER PERSON>というブランドに傷はつけたくないなっていう心配がずっとありましたから…。
ヤシゲ:僕らもカイトを傷つけまいという想いでした。でも、最終的にはそんなことも忘れてしまうくらい、だれも真似できないようなかっこいい洋服をつくってやろう!と制作に夢中になってしまったのも事実なんですが…。
実は、今回のショーが終わったあと、SNSをすこしチェックしていました。そしたら“<TENDER PERSON>と『A KITE』のコラボがヤバい!”みたいなリアクションがけっこう多くて、自分たちの想像以上に盛り上がっていたんです。今回のコレクションは『A KITE』というブランドも背負っているので、ダサいコレクションはつくれないっていうプレッシャーと不安が常にあったんですが、その反応を見て、正直すこし安心しました。
「ヲタクカルチャーとロックスター」っていう今回のテーマもしっかりと表現できたのかもしれません。そして、『A KITE』が<TENDER PERSON>っていうブランドを昇華してくれたような感覚があります。『A KITE』に対しては、わたしたちを含めてみんなプラスなイメージを持っているんじゃないかと!
QUI:ショーのあと、わたしたちもSNSをチェックしていましたがバズってましたね!某サイトの週間人気DVDランキングでは、『A KITE』が1位になっていたりもして。
梅津:今回のコラボレーションをきっかけに、アニメ業界にも<TENDER PERSON>というブランドを認知してくれている人が増えていたりして、それはほんとうに良かったなと思いますね。もっともっと知れ渡ってほしいな!
ヤシゲ:ありがとうございます!僕たちもこれまでで一番アツくなれたコレクションでした!
QUI:ファッション的な視点から『A KITE』を見て、なにか感じたことはありましたか?
ビアンカ:先ほどもすこしおはなししましたが、キャラクターやシーンの色彩がすごく鮮やかという印象があります。わたしは「補色」といわれる真逆の色の組み合わせが大好きなんですが、その補色を使った表現がたくさん出てきて、色の表現が豊かでとても素敵だなと思いました。
梅津:『A KITE』は全体的にコントラストを上げて、色が沈まないように描いてたんです。平たくいえば、派手ですね(笑)。いま描いている新作は、逆にキャラクターの色味に「黒」を多用してるんです。実は、アニメ業界だと、「黒」って色の認識から除かれてしまっていることがあったりして…。洋服のプロに聞きたいんですが、黒も色のひとつだっていう認識はありますか?
ヤシゲ:「黒」も色のひとつという認識はすごくあります。私たちでいえば、黒×ビビットなカラーの組み合わせが<TENDER PERSON>の洋服づくりにおいて重要なポイントだったりするので、アニメ業界でのおはなしは驚きでした。
梅津:僕も「黒」はすごく重要な色だと思っているんです。ヤシゲくんも言ったように、ほかのカラーを引き立たせたり、黒を引き立たせるためにあえて黒を使ったり。
梅津:あと、『A KITE』にまつわるおもしろいエピソードがひとつあって。『A KITE』が実写化されたのはご存じだと思うんですが、そのとき上映した映画館で、僕のサイン会も開催したんです。
ひとりひとりお客さんが来て、握手をして、サインをするっていう形式だったんですが、「この主人公(=砂羽)はわたしです。こんな悪い大人(=赤井)がいて、まさに同じ状況でした。」っていう女性がいました。「リアル砂羽」がいるのか・・って思いましたね(笑)。
たしかに突飛すぎる話でもないし、ある意味ではギリギリのリアリティラインっていうのを描けたのかなと。まぁ、下衆な大人はたくさんいるってことだね(笑)。
ヤシゲ:リアル砂羽…いるんですね(笑)。監督にお聞きしたいのですが、今回描き下ろしていただいた絵の中に、1枚だけ真正面からの絵があるじゃないですか。この1枚だけアングルが異なっていることに、なにか理由や意図はあったりするんですか?
梅津:砂羽の別の側面からの姿を見てみたかったっていうのがありましたね。ほかの2枚の絵のイメージとは違う、彼女の別のライフスタイルみたいなのを表現したかったんです。だから、カメラを真正面にしてみたっていうのが回答かな。もし、お二人がちがうシーンの描写を希望されていたとしたら、こういうシーンはどう?って別のご提案をしていたと思います。
梅津監督が今回のコラボ用に描き下ろした3枚。殺し屋としての側面と、赤井のもとで生活する砂羽の二面性が表現された。
QUI:当時の絵は使いたくなかったんですよね?
梅津:僕は現役だから画の変遷に敏感だし、進化しています。当時と今では絵のタッチも変わってくるから。そのあたりを考えて、描き下ろしの方向でお願いしました。QUIさんからは昔の絵も使いたいとお願いされましたが、お断りしましたもんね(笑)。まぁ当時はセル画だし、それを探し出してまたデータに起こすのも、物理的に難しかったりするんです。
ビアンカ:その気持ち、すこしわかるかもしれません。過去のコレクションからまた同じアイテムをつくってほしいって言われたら…お断りしちゃうかもしれない。
梅津:最初に荻窪で会ったときも言ってましたね。やっぱり「なにかを生み出す人たち」って日々進化しているし、むかしのものをまったく同じかたちで世に出していくっていうことに対して、引っかかりがあるんじゃないかなと思いますね。
QUI:わたしたちがあの絵が好きだったというのもありますが、昔のファンにも刺さってほしい、みたいな想いもあって…。
梅津:そういう意見もいただいていたので、いまの僕の現在の画風ではいかんなと思いましたね(笑)。だから、なるべく当時のタッチを意識しながら今回は描き下ろしました。
QUI:『A KITE』のアニメは特に海外で大ヒットして、タランティーノ監督やロブコーエン監督など名立たる有名人が絶賛していましたが、それを聞いてどんなお気持ちでしたか?
梅津:メジャーな監督が、アンダーグラウンドな作品にも関わらず、マスに向かって、声を大にしてなにかを言えるってシンプルにすごいなと。ましてや18禁のアダルトアニメを好きって…。よほど価値観が歪んでいるか(笑)、そこに誇りを持ってないとできないことだなと思いました。
QUI:そのあと、ハリウッドで実写化もされましたが、その時はどんなお気持ちでしたか?
梅津:嫁に出した気分ですよ。砂羽を幸せにしてあげてください、って(笑)。いうなれば今回のコラボは、砂羽がハリウッドから離婚して帰ってきて、また嫁に出ていったって感じかな…(笑)。父親みたいな気分です。
実写版の砂羽の髪色は「赤」。ビアンカの今回の髪色も砂羽を意識したのだとか。
QUI:今回の描き下ろしのオーダーに込めた想いを教えてください。
ヤシゲ:細かいオーダーは全然してないんです。むしろ、監督にお任せで!ってくらいの感じでした。でも、<TENDER PERSON>のアイコンである「ファイアーパターン」は絵のどこかにいれてほしいとお願いしましたね。絵のプロである監督が描いてくださった作品から、僕らがどう調理していくのかということの方が重要かなと思っていました。『A KITE』を知って下さっている方や、監督のファンから「こんな洋服作りやがって」と思われないように、誠心誠意、愛をこめて作ったつもりです(笑)!いまこうやって出来上がりを見ても、自信を持って、これだ!といえるコレクションになったかなと思っています。
梅津:そう言っていただけて本当に心から感謝です。出来上がった服たちを見て、やっぱり洋服のプロはスゴイなと思いましたよ。僕の想像のはるか上をいくデザインでしたから。あ、もちろんいい意味で!だって、ただのプリントTシャツとかじゃなくて、絵が生地になっていて、絵がそのままTシャツになっているんだもんね(笑)。
ヤシゲ:Tシャツに関しては、単純にプリントしただけだと、どこかで勝手に二次流通しそうだなぁと心配で…。なので、絵をそのまま使って総柄の生地をつくってから、Tシャツのパターンを起こしました。パーカーは、当時の原画の「セル」をイメージして、PVCに絵を印刷してから縫い付けるという、二手間くらいかかる方法を採用しました。着る洋服としてもそうだけど、アート作品とも感じてもらえるような洋服になるように意識しましたね。あとは、制作の過程でテンションが上がって、当初予定のなかったスカーフも勢いで作ってしまいました(笑)。
「セル画」をイメージしてPVCにプリントしたというビジュアル。
ビッグサイズのスカーフ。ポスター感覚で壁に飾っても◎。
ビアンカ:洋服の制作はスムーズに進んでいったんですが、ショーの見せ方にはすごい悩みました。いいアイテムが作れたからこそ、どうやってそれらを上手く表現したらいいんだろうって。いつもよりもたくさんのロケハンに出かけたりして、どんな場所が今回の世界観にベストなのかを探りました。
QUI:最終的に、表参道にあるセントグレース大聖堂に決定したその決め手は?
ビアンカ:今回のコレクション(コラボではない)のなかに、ステンドグラスからインスピレーションを受けた洋服があったので、教会のイメージはぼんやりとありました。でも実際に教会へのアポイントを試みると、撮影NGのところが多かったりして。ギャラリーとかも考えていたんですが、世界観が伝わらないとか思ったり…。そんななか、セントグレース大聖堂が快く場所を貸してくださいました。
梅津:今回のインスタレーションをすごく楽しみにしていたんですが、このご時世ということもあってどうしても行けず…。本当に残念でした。ショーの写真を拝見しましたが、とても素敵な場所でしたね。そういうインスピレーションから実際になにかを作り上げるって繊細じゃないとできないよね。それはアニメも服づくりもそうだと思う。そして奇遇なことに、僕の新作には「教会」のシーンが登場するんです!
ビアンカ:新作のシーンがめっちゃ気になります!(笑)。今回のコレクションは海外にも展開するので、商談の際には海外のセレクトショップにもショーの映像を見せるのですが、ありがたいことに好評価をいただいています。自分たちの表現がちゃんと伝わったのかなって思うと嬉しいですね。
ヤシゲ:ぜひ海外の方にも洋服たちを手に取ってもらって、『A KITE』を知ってもらいたいです!
ヤシゲ&ビアンカ:最後に、気になる次回作についてお聞きしてもいいですか…?
梅津:まだ詳しいことは明かせないんだけど、最初の詳しい情報を年内に解禁できるかな?いまは鋭意制作中です!また、何かでコラボできたらいいですね!
- Interview : Hiroaki Ubukata
- Photography & Edit : Keidai Shimizu