くるま – 運命が撮らせた映画
初監督作品となる短編映画『BREAK SHOT』が生まれるまでの軌跡を振り返りながら、同作に出演する前田旺志郎、高橋侃、遠藤雄斗の3人にも話を聞き、映画監督・くるまの演出家としての才にも迫った。







短編映画『BREAK SHOT』の2つの契機
― まずは本作を撮ることになった経緯からお聞かせください。
髙比良くるま(以下、くるま):先日、単独ライブ(「RE:IWAROMAN」)が終わったんですけど、会場は1年半くらい前から押さえていたんですね。で、2025年の2月ごろから、自宅を警備していた時期がありまして。そうなると、一旦仕事がすべてストップします。だけど、この単独ライブに関してはだいぶ先なので、やる方向で準備をしましょうとなったんです。
ただ、ネタ作りは時事ネタもやりたいので、そんなに前からは動けない。なにか時間をかけて準備できることはないかと考えていたら、「短編映画を作るのはどうですか」と、スタッフさんから言ってもらえて。でも、そのスタッフさんは別に映画畑の人ってわけじゃないですし、そもそも自分に映画なんて作れるのかもわからなくて、ラジオで共演したことのある雨無(麻友子)っていうプロデューサーに、LINEで聞いてみたんですよ。それで、あれこれと映画の作り方を教えてもらったことが、今につながる経緯です。

― わりと偶然から始まった話だったんですね。個人的には、くるまさんはいつか映画を撮る人だと思っていたので、てっきり満を持してかと。
くるま:僕、映画をあんまり観てきてないんですよ。『ハリー・ポッター』と、あとは「午後のロードショー」しか観てこなかった。シュワちゃんといえば『コラテラル・ダメージ』みたいな。
― 偏っていますね。
くるま:だから映画はよくわかんないんですけど、単独ライブの他にもうひとつ大事な要素として、仕事が一斉に無くなったときに、映画出演のオファーも残ったんですよ。長編の映画で、けっこういい役で。これも公開はだいぶ先だから大丈夫だと思うよと。
映画を撮る機会と、映画に出る機会が同時に訪れて、じゃあこれはやるべき時期なんだなって。僕はめっちゃ運命論者なので、できごとが起きると自分の行動を確定するというか、そこにあんまり欲求が介在しないんですよ。
― ちなみに出演する映画は何だったんですか?
くるま:それも本当に運命的で、映画を撮るために動き出した矢先になくなったんです。すごく残念なことなんですけど、僕の背中を押すために一瞬存在したファントムのようなものだったんですよ。
じゃあ自分は出る側じゃなくて撮る側なんだなと、さらに身が入った部分もあります。

― 映画を撮るにあたって、なにか準備をしたことはありますか?
くるま:特別なことは何も。全部、雨無がやってくれたので。ただ、いわゆる名作といわれる映画は観ました。
北野武監督の映画もそれまで1本も観たことがなかったので、配信もないし、AmazonでBlu-rayを買って。観てみたら、すごいしおもしろいけど、芸人の単独ライブの幕間V(VTR)みたいだなと思ったんです。このやり方でいいなら、脳みそを切り替えなくてもいいじゃん、ラッキーと。武さんの映画を観るまでは身構えて、友だちから『SAVE THE CATの法則』を借りたりしてたんですけど(笑)。
― 自然体で取り組めたんですね。気負いもなかったですか?
くるま:そうですね。最初は単独ライブの中で、ジョーク的なものを作れたらいいなぐらいの感覚だったので。でも本気の人を集めて、本気で作ったら、本気の映画になっちゃいました。
出るはずだった映画がなくなって、まさか吉本も辞めることになって、映画を作る側なんだと思ったらすごいスタッフさんや俳優さんがどんどん集まってきて、撮って編集していたらより良いものにしたいという気持ちがどんどん強くなって、結果的にこうなっていたという感覚です。
― 豪華な俳優陣の中のひとりとして、令和ロマンの相方の松井ケムリさんも出演されていますが、ケムリさんには映画と知らせないまま撮影したそうですね。本当にそんなことが可能なのでしょうか?
くるま:ケムリ先生だからできる技なんですけど、単独のVの撮影ですと呼び出して、トラックに乗せて、この動きをしてくださいと。普通は「なんで?」とか言うじゃないですか。でも彼はお金持ちで、幸せに囲まれちゃっているんで言わない。どんな仕事でも言わない。だからドッキリがまじで成立しないんですよね、彼は。

表現の入口と出口のような、映画とお笑いの関係性
― 映画を1本作り終えたことで、ご自身の中で気づきや変化はありましたか?
くるま:映画は短編とはいえ、関わる人の多さと、残るものとしての強度を感じました。これまで、マジで逆のことをやってきたなと思ったんです。
お笑いは最小人数で、僕らは作家さんも付けてなくて、ほとんど二人で喋って作ったものを、ろくに台本にもせずにやって、披露したら終わり。時事ネタばっかりだから、時間が経つとやる気も起きないし、YouTubeに残しているネタを自分で見ても全然面白くない。それがお笑いのいいところなんですが、映画はその真逆で、体感したことない達成感がありました。
― そう考えると、お笑い芸人の方が映画を作ることは、即時的な表現と普遍的な表現が、補完できる関係性になっているのかもしれませんね。
くるま:そうですね。エンタメの中で、入口と出口みたいだなと思っていたんですけど。
僕はそもそも、ドラマや映画を観て、それをずらして漫才を作っていたんですよ。というのも、もともと漫才って、日常の会話の延長で面白おかしく喋るもので、本来は普通の会話をしなきゃいけないんです。だけど僕ら世代になってくると、そういうネタはやり尽くされているうえに、日常の共通認識も減ってきて、ずらすための“あるある”に、人ひとりではたどり着けない。だから、みんながすでに評価している創作物を借りて、それをずらして笑いを作っていたんです。
ある種、漫才はエンタメの世界の最後なんですよ。出がらしというか。

― くるまさんは、その目の付けどころ、キュレーション能力がめちゃくちゃ高いんでしょうね。
くるま:キュレーションは得意だったんです。僕はつくづくクリエイターじゃないというか、キュレーションとエグゼキューションの人で。
― 経営者みたいだ。でも何かを実行することって、僕も含めて多くの人が二の足を踏みがちですよね。お笑いでいうとスベることが怖い、映画だと炎上や酷評が怖い、とか。実行力を身につけるために、何か意識していることはあるのでしょうか?
くるま:お笑いでスベることって、芸人は全然怖くないんですよ。スベったことがおもろいと言えるのがお笑いの良さで。他のかっこいい創作の世界では、失敗って恥だし、二度と立ち直れなかったり、チャンスがなかったりする。でも、芸人がスベったら、いじってもらえる。M-1(グランプリ)の決勝で最下位でした、ってことでバラエティーに出たりするじゃないですか。何でも糧になっちゃうっていう、まあラクなとこなんですよ。映画を撮ってすっげえつまんないのができても、「こんなに時間かけたのに……」ってことが、絶対におもしろくなる。
だから、もし悩んでらっしゃるなら、ぜひNSCに行ってみてください(笑)。けっこう学べると思いますよ。

前田旺志郎、高橋侃、遠藤雄斗が見た「くるま監督」
― ここからは、くるまさんとともに4人組YouTuberグループを演じたお三方に、くるま監督の演出についてお聞きしたいです。
前田旺志郎(以下、前田):僕らは、「こういうYouTuberいるよね」というキャラクターを、リハーサルしながら細分化していきました。会話のリアリティをみんなでずっと調整し、“本当にいそう”をどこまで突き詰められるか、と。でも、同じ方向は向いているけど、ちょっと違うというときに、その差が何なのかを言語化して共有するのはすごく難しくて。
くるまさんは、その“ちょっとのズレ”を修正する言葉をもっているんですよね。そこは本当にすごいなと思いました。

高橋侃(以下、高橋):僕にとっては、もう完全に映画監督でした。現場では、この映画を撮るための監督として立っていてくださったので安心感がありましたし、お芝居に入りやすかったです。
とくに印象的だったのは、演出がすごく具体的だったことですね。自分で実際にやって見せてくれるので、感覚を共有しやすく、会話の演出に異常に長けた映画監督だと感じました。同時に、すごくファニーな方でもあって(笑)。現場の空気感は、いい意味でずっと柔らかかったです。
遠藤雄斗(以下、遠藤):令和ロマンって、くるまさんの“憑依力”みたいなものに支えられている部分があると思うんです。演出するときも、「こういう感じで」って実演してくれるんですけど、それがおもしろすぎて(笑)。それで十分に成立しているからこそ、それ以上におもしろい芝居をしなきゃという意識がありました。難しかったですけど、すごく楽しかったですね。

― くるま監督から、人を見る解像度の高さを感じた瞬間はありましたか?
前田:もう、ずっとです。瞬発力や反射神経、嗅覚が異常に優れていて、“ここに欲しい”っていうところに、パンッてくるんですよ。痒いところすべてに手が届く感覚でした。
高橋:会話のテンポや間を、かなり細かく見ていて。ちょっとしたニュアンスのズレでも、「そこ違うかも」とすごく鋭く指摘してくださいました。
遠藤:楽屋で、実在するYouTuberの話をすることもあったんですけど、くるまさんはだれかを揶揄しているわけじゃなくて、「なんでこうなるんだろう」っていう探求心が強い。人間観察の解像度がすごくて、研究者みたいでした。

Profile _ 髙比良くるま(たかひら・くるま)
1994年、東京都生まれ。お笑いコンビ「令和ロマン」としてM-1グランプリ2023・2024で優勝、映画『笑いのカイブツ』(24)で漫才指導を担当。俳優として松居大悟監督『ミーツ・ザ・ワールド』、岩崎裕介監督『チルド』などに出演。『チルド』は第76回ベルリン国際映画祭にて国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI賞)を受賞した。2026年にクリエイティヴ・スタジオ「KURUMADE」を創業し、「BREAK SHOT」で初監督を務めた。
Instagram X

Profile _
左:前田旺志郎(まえだ・おうしろう)
2000年12月7日生まれ。大阪府出身。05年に子役としてキャリアをスタート。是枝裕和監督の『奇跡』(11)で兄の航基とともに兄弟役でスクリーンデビューし初主演を務めた。以来、映画・ドラマなど多方面で活躍。近年の主な出演作に、ドラマ「ホットスポット」(25/NTV)、「ちるらん 新撰組鎮魂歌」(26/TBS/U-NEXT)、映画「ベートーヴェン捏造」、「こんな事があった」(25)、「禍々女」(26)。現在映画「黒牢城」、「君は映画」(26)が公開中のほか、待機作に映画「人生を変えたコント」(12月18日公開予定)がある。
Instagram
右:高橋侃(たかはし・なお)
1995年10月31日生まれ。福島県出身。美容師兼モデルとして約3年間活動しながら、2020年、テレビ朝日ドラマ「先生を消す方程式」にて、デビューを果たす。近年の主な出演作は、映画「東京逃避行」ドラマ「シナントロープ」「横浜ネイバーズ」「スピナーベイト」など。
Instagram
中:遠藤雄斗(えんどう・ゆうと)
1998年1月10日生まれ。東京都出身。映画「運命代行屋」やAmazon Prime Video「クロエマ」第3話、Amazon Prime Video 恋愛考察バラエティ「セフレと恋人の境界線」第3話『特別な人』、日テレドラマDEEP「もう一度、夫婦になりますか?~カモフラージュ夫婦」などに出演。
Instagram X
Information
短編映画『BREAK SHOT』
2026年7月31日(金) より、渋谷シネクイントほか全国順次公開
出演:児玉智洋、高良健吾、森川葵、前田旺志郎、高橋侃、遠藤雄斗、くるま、松井ケムリ、浅野千鶴、楠田悠人、神保悟志、オダギリジョー
監督・脚本:くるま(令和ロマン)
- Photography : Yoshitake Hamanaka
- Styling for Kuruma : Mana Hakushima
- Styling for Oshiro Maeda, Nao Takahashi, Yuto Endo : Sora Murai
- Hair&Make-up : Hikari Osaki
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)