深川麻衣×末永幸歩|世界をひろげるアートのミカタ#5
第五回のゲストは、女優の深川麻衣さん。学生時代に美術を学び、普段から美術館を訪問したり、イラストやグッズデザインなども手がける深川さんとともに、作品をじっくり見て、感じたことを書き出し、そこから短い物語を紡ぐ「アウトプット鑑賞」を体験しました。
今回訪れたのは、心斎橋PARCOで開催中の「ART OSAKA in PARCO Re:SPEC — 90sの遺伝子と多層世界」。関西にゆかりのある3名の作家、山田千尋さん、山田紗世さん、中迫梨恵さんの作品が、PARCO館内のさまざまな空間に展示されています。
じっくりと作品を観て 気づいたこと・感じたことを書き出すアウトプット鑑賞
末永さん流の「アウトプット鑑賞」
アウトプット鑑賞は、作品の題名や解説などの「答え」にとらわれず、鑑賞者自身が「感じたこと」に意識を向ける自由な鑑賞。
・気づいたこと(=作品に描かれている事実)を書き出し、そこからどう感じたか(=主観的な意見)を考える
・感じたこと(=主観的な意見)を書き出し、どこからそう思ったか(=作品に描かれている事実)を考える
といった点を意識して、気づいたことや感じたことを書き出していきます。
まずは、14階に展示されている、山田千尋さんの4点の絵が1つになって展示されている作品で「アウトプット鑑賞」を実践。ワークシートに気づいたことを書き出しながら、作品をじっくりと10分間鑑賞します。

深川:10分間があっという間に過ぎてびっくりしました。美術館に行っても、10分間と時間を決めて見ることはあまりないので、作品をじっくりと体験させていただいた感じがします。
QUI:どんなことを感じましたか?
深川:この作品を見て、最初になぜか「懐かしい」と感じたんです。例えば、絵の周りに余白が取られているところが、自分の記憶を思い出している感覚とか、ゲームや映画の回想シーンに近い感じがしました。
画面が少しぼやっとしていて、景色のようだけれど何が描かれているのかはっきりわからないし、遠くから見たものか近寄って見たものなのかも分からない…その“わからなさ”から想像が膨らみますね。
それに、筆の跡がこの距離でもわかるくらい残っている感じが素敵だなと思いました。人の手が感じられる部分にも、温かみや懐かしさを感じたのかなと思います。
深川:書き出すということ自体が新鮮でした。美術館に行っても、絵を見て、タイトルを見て「こういう意図で描いたのかな?」と想像して次に行く…という感じで見てしまうので、書き出してみることって面白いですね。
「わからない」から記憶をたどる。作品から生まれた短い物語。
次は、作品から感じたことをもとに、短い文章を紡ぐワーク。これは、見る人自身の解釈によって作品の世界を広げていく試みです。
深川さんは、山田千尋さんの作品を見て浮かんだ「懐かしさ」や「夢の中」という感覚から、ひとつの短い物語をつくりました。

『日曜日の昼下がり、窓を開けたまま昼寝をしていたら、久しぶりに夢を見た。あぁこの場所はなんだっけ。秘密基地、好きだったおもちゃ、家族でした花火、水を張ったバケツ、目が覚めた。小学生ぐらいの時の記憶。久しぶりに実家に帰ろうかなぁ。』

深川:やっぱり、懐かしさとか温かさとか、夢を見ているような感覚がしたんです。何が描かれているのかはっきりとは分からないから、自分の中の記憶をたどって思い出していくと、すごく懐かしい感じがして、その温かさが、昼の風が気持ちいい時に見る夢のような感覚に繋がると思って、この文章をつくりました。
QUI:アウトプット鑑賞の中で出てきた言葉が、深川さんによって、ひとつの物語として組み立てられましたね。

深川:自分で文章を書くのって「合っているのかな?」とか「大丈夫かな?」という不安もありました。でも実際に作品を拝見したらすごく想像が膨らんで。自分がアウトプットした言葉をつなげていったら、意外と文章が浮かんでくるんだなというのが新鮮な驚きでした。作品を観る時って、つい「答え」が知りたくなってしまうんですが、わからないままの面白さもあるんですね。
あと、普段の仕事では、書かれた脚本から想像してお芝居をすることはあるんですけれど、自分で物語を作るのは本当に小学校以来で、すごくワクワクしました。
Profile _ 山田千尋(やまだ・ちひろ)/Gallery Nomart
1994年京都府生まれ。通常目を向けられることのない歪なモチーフ(例えば傷口のディティールや動物の遺骸)や記憶の中にある風景などを、軽やかな色彩と透き通るような質感を感じさせる筆跡で描く画家、山田千尋。山田の描く常識的なものの見方、捉え方に一石を投じるかのような絵画は、その視点のユニークさだけでなく、物事をあらゆる角度から偏見なく捉え、かけがえのないものへと昇華する彼女の思考そのものと合わせて、多くの共感を得ている。2016年京都市立芸術大学美術学部美術科油画専攻卒業。同年アンタルヤ国際アートシンポジウム(トルコ)に参加。主な展示に、「SF」(個展 / ギャラリーノマル、大阪、2026年)、「LET’S GET BACK」(個展 / 国登録有形文化財 旧上田家住宅、京都、2025年)、「京都府新鋭選抜展 2023」(毎日新聞社賞受賞 京都文化博物館、京都、2023年)、「U30 – Whom do you suspect?」(ギャラリーノマル、大阪、2020年) 、「つなぐ・つながる」(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA、京都、2020年)など。
山田紗世さんの作品から「気になった作品」をピックアップ
続いては、3階に展示されている山田紗世さんの作品から、深川さんになんとなく「気になった作品」を直感で選んでいただきました。そのあと、「なぜ、気になったのか」を考えました。深川さんが選んだのは、ラベンダーや緑を基調とした画面に、大きな犬と婦人が組み合わされた作品です。
深川:まず、ぱっと見たときに、自分が好きな配色だったんです。ラベンダーっぽい色や緑とか。あと、構図がとても面白くて。大きいワンちゃんと婦人が、どうして組み合わされているのか気になりました。
それから、色の使い方がすごく大胆ですよね。絵を描くときって、力んでしまいそうな感じがするんですけれど、これは童心に帰ったような迫力があります。「描くぞ」という力みというよりは、スケッチをしているような楽しさも感じました。
計算して描かれているのか、それとも自分の頭の中にあるものを描き出すように作られているのか…そのあたりがとても気になりますね。

さらに深川さんが注目したのは、画面に混ざり合うさまざまな質感でした。
深川:手描きのようにも、スタンプのようにも見えたり。ところどころ、しぶきっぽかったり、ピクセルのように見える部分もあったりと、デジタルっぽさもミックスされているような、新感覚の質感がすごく面白いです。
作者の山田紗世さんとともに 作品を鑑賞
今回は、作者の山田紗世さんに深川さんのアウトプットを聞いていただきました。

山田:深川さんがフォーカスしてくださった部分が、自分がそれぞれの画材の特徴を活かして描いているところだったので嬉しいです。
「ピクセルっぽい」というのは、私が大事にしているシルクスクリーンの技法を使ったところですし、私が描く中で特に大事にしているのは、絵の具を使ったところなんです。
まさに自分が「好きだな」と思っているところに気づいてくださったと感じました。

山田:自分のスケジュール帳に小さなドローイングを描いているんですよ。ここに描いたのが、まさにこの作品のワンちゃんです。
深川:ワンちゃんの顔の横の部分は手だったんですね!作品を拝見したときには、耳だと思っていました。これが原画ということですね。
山田:シルクスクリーン(版画の技法)は、原稿を作る時点で好きな大きさに拡大できます。拡大するときに画質が荒くなって、ピクセル状になったりしているんです。こうして描いた全く違うモチーフや題材を組み合わせて、その画面を調整して、そこに手彩色を加えるような感覚で制作しています。
深川:最初にキャンバスの地の色を決めて作っていくんですか?
山田:この作品では、背景になっているマーブル調のラベンダー色の部分を最初につくりました。ここもシルクスクリーンなんですが、インクをあえて混ぜきらずに刷っているんです。その上に、先ほどのドローイングの線のモチーフを刷って、それをパネルに貼った後で、さらに手で彩色をしています。
最初に作品のイメージをはっきりと決めてから制作するというよりは、「このワンちゃんをこのくらいのサイズにしてみよう」とか、手を動かしながら決めています。そこから自分に課題を与えるように、どうやったら良くなるのかをずっと繰り返しながら、「これでいいな。もう描いちゃだめだな」というタイミングを決めている感覚です。

深川さんが感じ取った色や質感の面白さや、画面から伝わる楽しい感覚は、山田さん自身が制作で大切にしていることとも重なっていました。
Profile _ 山田紗世(やまだ・さよ)/gekilin.
1998年生まれ。大阪府在住。美術家。シルクスクリーンの技法を駆使し、セレンディピティを頼りに手彩色を施すことで絵の具と版画のレイヤーを重ね合わせる表現を追求している。日頃から書き溜めているドローイングをスキャンして作る原稿はその際に出てしまった汚れなどもそのまま反映させ、版に落とし込むことで、静的な線と動的な色彩の調和を生み出す。このプロセスでは、手作業による偶然性を大切にし、計算された版と自由な彩色が交錯する瞬間を表現している。シルクスクリーンによる精緻な形状と、モノタイプならではの一度きりの印象が融合することで、視覚的なリズムと層を感じさせる作品が生まれる。版は一種のコピーペーストであり、同じ版を全く別の作品に使用することによって版の複数性も大事にしている。日頃から書き溜めているドローイングは生活から得たモチーフと作者の思う命をかき混ぜた小さなパーツのようなものが多く、何度も意識の片隅を見つめる工程となる。
中迫梨恵さんの《半透明の外皮》をアウトプット鑑賞
続いて鑑賞したのは、1階に展示されている中迫梨恵さんの《半透明の外皮》です。画面には、横たわる女性のような姿が描かれていますが、深川さんの第一印象は、少し違った見え方だったといいます。
深川:最初は、正面から見た大きな顔のうち、半分だけが描かれているのかなと思ったんです。でも、よく見てみると、仰向けに横たわった横顔にも見えるし、その横顔が艶のある何かに包まれているようにも見えてきました。タッチも、優しさや柔らかさがあって、少しどろんと溶けているようにも感じられます。《半透明の外皮》というタイトルなので、ここが「外皮」なのかな?「外皮」と聞くと、自分だったらわかりやすく違う色に分けて描いてしまいそうなんですけれど、ここでは境界がはっきりとは分からず溶け出しているように見えます。「どこまでが自分で、どこまでが外側なんだろう?」というのがはっきりわからないのも面白いですね。
「外皮」という言葉のイメージからは、「脱皮」とか「新しい自分になる」とか、そういう意味があるのかなとも考えました。

深川:表情も、横顔として捉えると、どういった表情なのかもはっきりとは分からないんです。目が上がっているけれど怒っている感じもしないですし、優しい感じにも、無表情な感じも見えます。見方によって全く印象が変わってくるように思いました。
作者の中迫梨恵さんとともに 作品を鑑賞
深川さんのアウトプットに対し、作者の中迫梨恵さんは、ご自身の制作は「描きながら見えてくるものを拾う」ようなものだと話します。

中迫:私は描き始めにテーマを決めるのではなく、描きながら見えてくるものを拾って、絵と会話するように作るようにしているんです。初めに女の人の横顔を描いて、その後どう進めていこうと考えた時に、人物が溶けているように見えたんです。
画面の中でも、はっきりとした境界をつくるのではなく、ひとつの風景の中に溶け込んでいくような… そんな絵にしたいなと考えながら進めました。

実はタイトルも、先に決めていたものではなく、描き進める中で自然に生まれた形から、「外皮っぽい」と感じてつけたものなのだそう。
深川:最初に「こういう絵を描こう」というものを再現するというよりは、描きながら足したり、決めていくんですね。
中迫:この作品の中で捉えたのは、広大な自然の中で横たわっている大きな人物のようなイメージですが、人物自身も山のような形にもなっていると思います。
絵を描く中で、何かひとつにイメージが固定されてしまうのではなくて、見る人によっていろいろな捉え方があると嬉しいなと思いながら描いています。

深川さんが、最初は「正面から見た顔のように見えた」というのは、中迫さんにとっても新しい発見だったようです。
中迫:私は「横顔」という意識が強かったので、それは新たな気づきでした。見る人によって自由な捉え方ができることを、絵の具が思い起こさせてくれる。それができたら、絵は本当に楽しいものになると思っています。
Profile _ 中迫梨恵(なかさこ・りえ)/BEAK 585 GALLERY
大阪府出身。2023年京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程油画専攻修了。意識に連動する身体をテーマに水彩、油彩、陶土を用いて制作をおこなう。主な個展に「そのk、発音するの忘れてる」(gallery ami-kanoko、大阪、2024年)、「からだは水のようになめらかに」(gallery morning、京都、2025年)。主なグループ展に「it’s gonna be awesome」(YOD gallery、大阪、2022年)、「STILL」(BEAK 585 GALLERY、大阪、2025年)、「QUALIA FO(U)RMS」(hatoba gallery、京都、2025年)など。2021年京都市立芸術大学作品展にて市長賞、2023年同作品展にて奨励賞受賞。
深川麻衣のひとこと
深川:すごく楽しかったです。絵を見て、芸術作品から自分が感じたことを言語化したり、そこからオリジナルの文章を作ってみるのは初めてでした。
実際に作者のおふたりに、自分が感じたことを話したうえで、どういうふうに制作されているのかを直接お聞きできるというのも贅沢な体験でした。
おふたりに共通していたのは、頭の中で思い描いた完成形を絵として再現するというよりも、感覚を大事に描きながら作り上げていくところで、その感覚が不思議と作品に現れていたように思います。楽しく作られているものは、見る方も楽しくなるものなんですね。
それから、いろいろな表現の仕方があるということも改めて感じました。私は最近、iPadでデジタルのイラストを描くことが多かったのですが、久しぶりに紙と絵の具を使って描いてみたくなりました。

JACKET ¥99,000(FETICO|STUDIOUS 心斎橋PARCO 3F)TOPS ¥22,000(kotohayokozawa|STUDIOUS 心斎橋PARCO 3F) PANTS ¥74,800(AKIRANAKA|STUDIOUS 心斎橋PARCO 3F)SHOES ¥18,700(ALM.|ALM.)RING/RIGHT INDEX FINGER ¥275,000(e.m.|青山店)RING/LEFT INDEX FINGER ¥36,300(e.m.|青山店)RING/LEFT LITTLE FINGER ¥15,400(e.m.|青山店)
Profile_深川麻衣(ふかがわ・まい)
1991年生まれ。静岡県出身。初主演映画「パンとバスと2度目のハツコイ」で第10回TAMA映画賞最優秀新進女優賞を受賞。映画『おもいで写員』(21)、「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(23)、『嗤う蟲』(25)、『ぶぶ漬けどうどす』(25)では主演を務める。近年の作品には映画『架空の犬と嘘をつく猫』(26)『終点のあの子』(26)ドラマ『良いこと悪いこと』(NTV)『キンパとおにぎり』『週末旅の極意3』(テレ東)などがあり、映画『すべて真夜中の恋人たち』の公開が2026年秋に控えている。
深川麻衣さん出演中のドラマ
テレ東系「週末旅の極意 3~結婚ってしなきゃいけないもの?~」 毎週金曜深夜24時52分~
【5月22日(金)放送 第8話あらすじ】
お互いを思うが故に、別々の道を歩むことが最善の選択ではないかと一度は答えを出した綾香(深川麻衣)と隆(千賀健永)。そんな2人が最後の週末旅の地に選んだのは、付き合った当初に訪れた、会津の街を一望できる「会津・東山温泉 御宿 東鳳」。宿での時間を通じて、今まで“思い描いていた結婚”について本音で語り合う2人。これから2人がどうなりたいか、その形を探すための旅だった。春の旅情や立ちはだかる現実に揺られながら、“結婚”について向き合い続けた2人が最後に出す答えとはー。
Profile_末永幸歩(すえなが・ゆきほ)
アート教育者
武蔵野美術大学 造形学部 卒業。東京学芸大学 大学院 教育学研究科(美術教育)修了。現在、東京学芸大学 個人研究員。東京都の中学校の美術教諭を経て、2020年にアート教育者として独立。「制作の技術指導」「美術史の知識伝達」などに偏重した美術教育の実態に問題意識を持ち、アートを通して「ものの見方の可能性を広げ、自分だけの答えを探究する」ことに力点を置いた授業を行ってきた。現在は、各地の教育機関や企業で講演やワークショップを実施する他、メディアでの提言、執筆活動などを通して、生きることや学ぶことの基盤となるアートの考え方を伝えている。著書に、23万部超のベストセラー『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)がある。プライベートでは一児の母。「こどもはみんなアーティスト」というピカソの言葉を座右の銘に、日々子どもから新しい世界の見方を教わっている。
末永幸歩 公式ウェブサイト
【今回訪れたのは・・・】
PARCO Wall Gallery SHINSAIBASHI 第25弾
「ART OSAKA in PARCO Re:SPEC — 90sの遺伝子と多層世界」
会期:4月24日(金)〜6月22日(月)
会場:心斎橋PARCO
住所:〒542-0085 大阪府大阪市中央区心斎橋筋1丁目8−3
開館時間:10:00-20:00(最終日は18:00まで)
入場料:無料
公式サイト
- Photograph : Kei Matsuura(QUI/STUDIO UNI)
- Styling : Miku Hara
- HairMake : Aya Murakami
- Text : ぷらいまり。
- Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI/STUDIO UNI)
- Edit : Seiko Inomata(QUI)
- Produce : Shun Okabe(QUI)







