Need to forgive — starring Minori Hagiwara
許すこと。
負の感情との向きあいかたを
萩原みのりと考える。
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Interview with Minori Hagiwara
萩原みのりインタビュー
— 映画『成れの果て』では憎しみを抑えることができない主人公、小夜を演じられましたが、萩原さん自身は理不尽なことに憤りを感じたり、身勝手な他人に腹を立てたりすることはありますか。
めちゃくちゃあります。
— そういう時はどうやって怒りを鎮めていますか。
人に話しますね。近くにいる人に全部話して溜飲を下げるというか。自分一人じゃすっきりできないことがわかっているので。
— モヤモヤや怒りで自分が壊れてしまうケースもあると思うのですが、そうならないために萩原さんが心がけていることはありますか。
わりと押しつぶされやすい性格なので、モヤモヤや怒りを気にしないようにすることができないんです。だから、むしろ気にしまくる。
— 自分を追い込む?
追い込みます。気になることや苦しいことについて考えないようにすることよりは、それについていっぱい考えます。問題を分解するんです。分解すると、問題が問題ではなくなることがほとんどなんです。そうやってのりこえてきたから、「今回もきっと大丈夫」と思うようにしています。
— 許せないものは無理に許さなくてもよいと思いますか。
そうですね。許せないものをわざわざ目の前に引っ張り出さない。許せないことを皆が分かるように表に出すことはしないです。自分の引き出しの中に閉まったままでいい。
— 作品についてお聞かせください。『成れの果て』の台本を読んでいかがでしたか。
小夜の気持ちに理解が追いつきませんでした。とくに後半になるにつれて小夜の選択がどんどん理解できなくなっていって。私に演じきることができるんだろうかという不安はすごくありました。
— 演じることについて「小夜を守らなきゃいけない気がして挑戦した」とコメントされていました。
小夜を一人にしちゃいけないな、と思ったんです。「理解してあげたい!」「小夜の気持ち、すごくわかるよ!」ではなく、小夜の隣にいたいなって思ったんですよね。と同時に、憎しみや苦しみが深すぎて寄り添うことすらできないかも、とも思いました。でも一人にはしたくないなって強く感じて。完成した映画を観たお客さんにもそう思ってもらえたらうれしいです。「理解できない」でも「助けたい」でもなくて、ただ小夜と一緒にいたいと思ってくれたら。
— 先ほど、「小夜の気持ちに理解が追いつかなかった」とおっしゃっていましたが、撮り終えた今はどうですか。
自分が最初に想像していたよりも……小夜はとても苦しかったんですよね。こんなに苦しいことがあっていいの?って。でもそれも、私からしたら想像の苦しさでしかないから……なんかほんとに……最初に台本を読んで思い描いていたものとくらべものにならないくらい、演じていて苦しかったです。
— 役に入り込んでしまうタイプ?
ではないです(笑)。自分自身と役は切り離しているので、役ではない普段の日常生活がキツイということはなかったです。
— 小夜は交際相手に自分の過去を打ち明け、破局してしまいます。黙っていれば幸せになって、憎しみを手放すことができたかもしれないのに。この行動は理解できますか。
私は自分が抱えている問題はクリアにしたいタイプだから、そこは小夜と似てるかな。
— この結婚がなくなるかもしれないと思っていても。
う〜ん。結婚って、相手の問題を理解して一緒に背負うことだと思うんです。もちろん相手側からすると、知らなくてもいいことを知ることになってしまって残酷だとは思うんですが、隠しごとがあるとフェアじゃない感じが私はするんですよね。
— 小夜と、小夜の姉のあすみ、あすみの婚約者の布施野、3人の“トライアングル”をどんなふうに捉えていましたか?
小夜とあすみが布施野をとりあっているわけではないので、“三角”でもないかな。布施野よりも、意外とお姉ちゃん(あすみ)との溝のほうがやっかいでした。布施野に対する「絶対許さない」という気持ちは揺るぎがないんですけど、お姉ちゃんと話しているとふいに「やっぱりお姉ちゃんなんだよな」って思いがわきあがるんです。
— 家族だからこそ憎みきれない。
そうですね。「やっぱり他人にできない」って。
— 帰郷した小夜と関わることで登場人物たちの隠された人間性があぶり出されます。萩原さんがご自分の中に多面性を感じることは?
現場で感情を爆発させたり、ぶつけたりしたときに、「私、ふだんは穏やかなのになぁ」って(笑)。意外と自分が気づかないうちに小さな不満などが蓄積されてるのかな。自分のことなのに他人事のように思う瞬間はありますね。
— 原作は2009年上演の同名戯曲。その舞台に衝撃を受けて映画化した宮岡太郎監督の熱量も相当込められていると思います。萩原さんが現場で監督の熱量を感じた瞬間はありましたか。
監督はふだんは穏やかなんですけど、思い入れのあるシーンではすごく熱くなる瞬間がありました。リハーサルで、小夜とあすみがお互いに根っこで思っていることを話してくださったんです。舞台でそういう演出があったのか、監督の設定なのかはわからないんですが、小夜とあすみの本音の部分をすごく細かく話してくださって。それがおもしろかったですね。台本を読んだだけでは絶対にわからなかったから。「え、そうなんですか!?」って、私も(あすみ役の)柊さんも思わず言葉が出たくらい。あのリハーサルはとても重要だったなと思っています。
— 監督から演技についてアドバイスは。
現場に入ってからは基本こちらにまかせてくれましたが、家の権利書をめぐるシーンでは、めちゃくちゃ細かく演出がついて。そのシーンだけ時間のかけ方がほかと全然違ったので、なにかあるんだろうなと思ってました(笑)。
— 私もあのシーンはちょっとショックでした(笑)。今回の役に限らずに、萩原さんが役作りをするうえで心がけていることはありますか。
ルーティンみたいなものはまったくないんですが、いつも思っていることは「現場に行ってみないとわからない」。家で頭の中で演技プランを考えていても、役のことを深く掘り下げられるのは絶対現場なんです。衣装・メイク・美術がそろって、スタッフさんが作ってくださった空気感のなかに入って感じることを、いちばん大事にしています。
Profile _ 萩原みのり(はぎわら・みのり)
1997年3月6日生まれ。愛知県出身。「放課後グルーヴ」(’13)でドラマデビュー後、映画「ルームメイト」(’13)で映画デビュー。その後、映画・テレビドラマなどで活躍。近作に「お嬢ちゃん」「転がるビー玉」「37セカンズ」「アンダードッグ」「佐々木、イン、マイマイン」「花束みたいな恋をした」「街の上で」など出演作多数。
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Information
萩原みのりさん主演映画『成れの果て』
2021年12月3日(金)より、新宿シネマカリテほか全国順次公開
出演:萩原みのり、柊瑠美、木口健太、田口智也、梅舟惟永、花戸祐介、秋山ゆずき、後藤剛範
脚本:マキタカズオミ
監督:宮岡太郎
©2021 M×2 films.
- Photography : Ryutaro Izaki
- Styling : Naomi Shimizu
- Hair&Make-up : Naoki Ishikawa
- Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
- Text : Kaori Sakai(QUI / STUDIO UNI)
- Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)