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QUI編集部が未知なる才能を追い求めて|kallyu デザイナー カユウ シュウ  

Dec 3, 2025
まだ広く知られていないからこそ、コアなファンを獲得しているというブランドが世の中には存在する。独自の世界観とファッションフィロソフィーの副産物として、コミュニティが形成されることも珍しくない。その不思議な引力と影響力は多くの場合が「才能」と呼ばれるが、それが未知であるほど強く惹かれるのがQUI編集部。
今回取り上げるのは<kallyu(コユー)>。クリエイションについて、デザイナー自身について、バックボーンについて。知られざる魅力を深掘りし、強く発信してみたい。

QUI編集部が未知なる才能を追い求めて|kallyu デザイナー カユウ シュウ  

Dec 3, 2025 - FASHION
まだ広く知られていないからこそ、コアなファンを獲得しているというブランドが世の中には存在する。独自の世界観とファッションフィロソフィーの副産物として、コミュニティが形成されることも珍しくない。その不思議な引力と影響力は多くの場合が「才能」と呼ばれるが、それが未知であるほど強く惹かれるのがQUI編集部。
今回取り上げるのは<kallyu(コユー)>。クリエイションについて、デザイナー自身について、バックボーンについて。知られざる魅力を深掘りし、強く発信してみたい。
Profile
カユウ シュウ
デザイナー

中国出身、日本在住。 中国の大学でファッションを専攻。卒業後、日本の文化ファッション大学院大学(BFGU)に進学し、より専門的な研究を行う。 卒業後はファッションデザイナーとしての経験を積む傍ら、モデルとしても活動。 2025年秋冬シーズンより、自身のブランド<kallyu>をスタート。

Instagramはこちら!
@chiayuz

服を作るための技術を日本で学ぶためにファッション大学院へ

<kallyu>というブランド名を聞いたとき、カユウさんが中国出身ということもあり勝手に漢字を連想していました。胡弓のような。

カユウ:ブランド名の漢字表記は想定していないです(笑)。

ブランド名にはどのような想いが込められているのでしょうか。

カユウ:「Call you(あなたを呼ぶ)」が由来です。

ファッションについては中国で学んだ後に日本の⽂化ファッション⼤学院⼤学に留学されていますよね。どうして日本でも学ぼうと思ったのでしょうか。

カユウ:日本には留学前から旅行などでも訪れていて、日本のファッションシーンがすごく好きでした。ブランドでいえば<COMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)>や<Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)>にも大きな影響を受けていたので日本でファッションを学んでみたいという気持ちを持っていたんです。

ファッションを学ぶといってもヨーロッパは発想力や想像力に磨きをかけることに重きを置いて、日本は縫製や裁断など技術を重視すると聞きます。中国と日本でも学びに違いはあるのでしょうか。

カユウ:中国は絵を描く、デザインを起こすことが中心なのでヨーロッパに近いかもしれません。ですが私が日本を選んだのはまさに自分で服を作れるようになりたかったからなんです。日本ならではの丁寧な縫製や裁断などの技術を身につけたかったです。

<kallyu>の服はカユウさん自身が生地を裁断したり、縫ったりしているんですか。

カユウ:もちろんです。縫製や裁断だけでなくパターンから自分で考えています。それは日本の大学院で構造やディテールなど服を基礎から学んだからこそできることだと思っています。

カユウさんがファッションに興味を持ったのは何かきっかけがあったのでしょうか。

カユウ:絵を描くことは小さい頃からずっと好きだったので大学に進むときも絵やデザインを専攻したいと思っていました。小さい頃の遊びでいえばバービー人形が大好きで、バービーの服ってドレスもあればカジュアルもあって、そんないろんな服を人形遊びを通じて知るのも楽しかった。はっきりと意識したことはなかったですが、ファッションは幼い頃からずっと興味があったんだと思います。

絵が好きで、服が好きで、それが結びついてファッションデザイナーとなったんですね。

カユウ:テキスタイルにも興味があって、子供の頃に母親に生地屋に連れて行ってもらうこともありました。そこで購入した生地を手縫いしてスカートを作ったこともあります。

絵や服だけでなく、生地が好きで、作ることも好きだった。それはファッションデザイナーになるべくしてなったということですね(笑)。

カユウ:あのときに作った小さなスカートはもう手元に残っていませんが、今でもよく覚えています。

現在も続けているモデルで得た知識も服作りに活かしている

<kallyu>は日本を拠点にして2025年秋冬にデビューしていますが、自分のブランドを中国で立ち上げようとは思わなかったんですか。

カユウ:私は<kallyu>の前にもブランドを立ち上げていて、そのスタートは中国で大学生のときでした。最初のブランドは<kallyu>の立ち上げた現在はもう辞めています。

初めて立ち上げたブランドには思い入れもあったはずですが、そちらを辞めてでも<kallyu>を日本でやっていこうと思ったのはどうしてですか。

カユウ:日本では留学中からモデルとしても活動しているのですが、ファッションの現場には多くの出会いがあります。ディレクターやスタイリストなどこれまでには接点がなかった方たちとの出会いは私に多くの学びをもたらしてくれました。日本で出会ったファッション業界の方たちとこれからも一緒に仕事をしていきたかったので自分のブランドを立ち上げようと思ったんです。

デザイナーより前にモデルとして活動されていますが、それはどういうきっかけからですか。

カユウ:SNSに自分のコーディネートをアップしていたらブランドや雑誌から「モデルをやってみませんか」と声がかかるようになったんです。ファッションの現場を知りたかったこともあって引き受けたのが始まりです。日本の大学院の卒業前にはアパレル会社を受けましたが、ちょうどコロナ禍ということもあって採用は厳しかったんです。このまま日本で安定して収入を得る、仕事を得る、住み続けるにはモデルを続けていくのがいいのかなと思い、事務所に所属して現在もファッションデザイナーと並行して続けています。

モデルの経験はファッションデザイナーの仕事に活きていると感じることはありますか。

カユウ:さまざまなブランドの服を着ることができるので、生地の肌触りをリアルに感じられたり、パターンによる着心地の違いを知ることができたり、そういう実体験は自分の服作りにも活かされていると思います。スタイリストのコーディネートもすごく参考になります。

<kallyu>のシーズンビジュアルなどでカユウさんがモデルを務めることはないのでしょうか。

カユウ:それはないですね。モデルを自分がしてしまったらビジュアルを客観的に見ることができなくなります。<kallyu>の服をモデルが着ることでどういう世界観が生まれているのかは外側から見たいです。

シンプルだからこそ素材やパーツのクオリティは妥協しない

<kallyu>としては「世界を感じるための一つの手段」として服を捉えているそうですが、それはどういう意味なのでしょうか。

カユウ:<kallyu>のファーストコレクションは「聴く」がテーマで、2シーズン目は「待つ」がテーマです。私は日常の些細な出来事からデザインのインスピレーションを得ることが多く、「世界を感じる」というのは「私たちが生きている普通の日常を感じる」という意味なんです。「聴く」にしても「待つ」にしても特別な感覚や行動ではなく、普通のことですよね。なのでシーズンビジュアルも自然体で<kallyu>の服が日常に溶け込んでいるような雰囲気を大切にしています。

「聴く」をどのようにしてコレクションに落とし込んだのでしょうか。

カユウ:象徴的なのが象の耳をモチーフにしたフードをあしらった「ダンボジャケット」で、耳のモチーフは「聴く」からのストレートな連想です。フードは取り外しもできて、素材は撥水加工を施しています。「イヤージャケット」と名付けたジャケットには耳の形を思わせる切り替えを前身頃に取り入れました。「肌で聴く」という感覚も大切にしたかったので、繊細な肌触りや着心地など素材にもすごくこだわっています。

コレクションをビジュアルで見たときにはシンプルかつクールで装飾性は削ぎ落としている印象でしたが、実際にはすごく凝った服ですね。

カユウ:私は日本ではテクノロジーコースで学んだので服にも機能性というものを重要視しています。私自身が旅行が趣味ということもあって「トラベルスカート」と「トラベルパンツ」というアイテムはどちらもウエストの背面にファスナーが付いていて、開けるとポケットになります。多くの小物が収納できるようポケットになる部分には伸縮性のある生地を採用しています。「こういう服があると旅行のときに便利だな」って個人的な想いで作りました。

シンプルなデザイン×機能性というのは<kallyu>を立ち上げる段階から決めていた方向性ですか。

カユウ:私がシーズンやトレンドに左右されないようなシンプルな服が好きなんです。ですがシンプルであるからこそ素材やパーツには絶対にこだわろうと決めていました。ファスナーなども納得できるものしか採用しませんし、小さなパーツでも自分が理想とする機能を持ったものが見つかるまで探し続けます。だからこそ見つかったときには本当にうれしい(笑)。

テキスタイルやパーツというのは日本で探しているのでしょうか。それとも中国が多いですか。

カユウ:基本的には日本国内のメーカーで探しますが、中国は市場が大きいので生地にしてもサンプル数が膨大で、そこでいいものと出会えることもあります。中国での交渉なども言語の壁がないので、そこは<kallyu>のひとつの強みかもしれません。

シンプルだけれど細部のクオリティにこだわっているので、どのアイテムも主役になれそうな存在感があります。

カユウ:ひとつの着方しかできないというのも避けたいと思っていることです。<kallyu>にはリバーシブルのジャケットもありますし、背面にファスナーを配しているものは開き具合でシルエットの変化を楽しめます。撥水機能を加えて天候なども気にせずに着ることもできるウール素材もあります。<kallyu>は見た目だけでは全てが伝わらない服が多いので展示会では全力で説明しています(笑)。

コレクションはモノトーンがメインのようですが、グリーンやブルーなどもラインナップされていて展開カラーも幅広いですよね。

カユウ:私の好みでいえばモノトーンですが、それだけだとコレクションが単調に見えてしまうと思って、グリーンやブルーは差し色のような役割です。私は料理も好きで、緑や赤の食材が加わるだけで盛り付けも映えますよね。それと近しい発想です(笑)。

デザインやシルエット、機能性やディテール、作りたいアイテムはどちらを先に思いつくのでしょうか。

カユウ:どちらのパターンもあります。「トラベルパンツ」などは誰にでも似合うパンツを作りたいという想いからパターンを先に思いついて、ウエスト背面のポケットの仕様などは後から機能として足していきました。機能にこだわるといっても私の服作りは理詰めではなく感覚的だと思います。もちろんあれこれ盛り込むことが機能性だとは思っていないので、機能やディテールとして必要なのか必要ではないのかはきちんと見極めています。旅行が趣味ですし、アウトドアや山登りも好きなので、基本的には「あったらいいな」という機能を服に落とし込んでいる感じです。

<kallyu>をどういう人たちに着てほしいと思っていますか。

カユウ:私にはそういうターゲットのような考えがないんです。実際のお客さんも女性も男性もいらっしゃいますし、年齢層も幅広く70代の方がジャケットを購入してくれたこともあります。70代の方が着ても違和感は全くありませんでした。自由に自分のスタイルに取り込んでもらいたいという発想で服を作っているので、ターゲットを設定する必要はないと思っています。

ブランドの歴史はまだ始まったばかりですが、これから挑戦してみたいこと、目標にしたいことはありますか。

カユウ:いずれは海外でも展開していきたいです。年齢、性別を問わず着やすいと思ってもらえるようで「<kallyu>は海外でもハマりますよ」って言ってくれるバイヤーさんもいました。なのでパリにも中国にも韓国にも進出していきたいという想いは持っています。

 


 

kallyu

2025年秋冬シーズンより、<kallyu(コユー)>をスタート。ブランド名は、“Call you(あなたを呼ぶ)” を語源に、感覚や知覚を⼤切にした⾐服創りを⾏う。クールさを⾻格に、遊び⼼あるディテールと機能美を融合したデザインを展開する。

Instagramはこちらから!
@kal.l.yu

  • Photograph : Yuto Mizuya
  • Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLE)
  • Edit : Miwa Sato(QUI)

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