藤間爽子 – 両道の覚悟
舞踊も演技も秀でてなければいけない
— 藤間さんは日本舞踊家として活動されていますが、日本舞踊というとなかなか馴染みのない方も多いですよね。
日本舞踊は敷居が高く、知識がないと楽しめないんじゃないかと思う方も多いのですが、そういったことは忘れて一度ナマの舞踊を観ていただきたいです。そんなにかしこまるものではないので、気軽に観て聴いて感じてみてください。事前の知識がなくても単純におもしろいと思いますよ。
— そうなんですね。一方、役者を志したのはいつからですか?
お芝居も小さいころからやってみたいとは思っていたんですが、なかなか行動に移せなくて。大学生が就職活動を始める21歳ごろに「やるならいましかない」と意を決しました。
夢っていつから追い始めても遅くないといわれるんですが、やっぱり人それぞれ適したタイミングってあると思うんです。たとえば芸事の稽古は6歳の6月6日から始めるのがいいとされていて、わたしもそのタイミングで日本舞踊を始めました。女優を始めるのに適したタイミングは分からないですが、「大学卒業の年でやらないともう遅いな」と思って挑戦しました。
— 日本舞踊家と女優、両方やるということに対してどう考えていますか? 中途半端と批判される恐れもありますし、逆に相乗効果が見込めるようにも思うのですが。
もちろん相乗効果になるようがんばっています。両方やるということは、片方がよければいいというものではなく、やはりどちらも秀でていないと駄目だと思うので。舞踊も演技も中途半端にならないように。それはわたしの課題です。
— 日本舞踊で培ったものを女優業にもいかせていますか?
「これが演技にいきたな」とか、具体的にはまだ感じたことはないですが、あえていえば着物を着ることやその所作は自然に身についています。あとは舞台だったら「板につく」という意味で、そこに存在するということは舞踊の経験がいかせているかもしれないです。舞台に立って浮つくようなことはないんじゃないかなって。
— 舞台という意味ではどちらも立っててしっくりくるんですね。
そうですね。(ドラマや映画など)映像のほうは慣れていないので、がんばっているところです。
— いまは阿佐ヶ谷スパイダースに所属されていますが、劇団をベースに舞台女優としてという意識はありますか?
とくに劇団をベースにっていう意識はなくて。舞台もドラマも映画も、なんでも挑戦していきたいと思っています。
— ではお芝居をやっていておもしろみを感じるときは?
舞踊とも通じるんですが、遠い時代の別の誰かとどこか共通するものが見つけられた瞬間にすごくおもしろいなと感じます。嫉妬に狂った女の踊りであったり、単純に花が美しいと思うことだったり、昔の人も私も感じることは一緒だったんだなと。
— 時代をこえて感性がリンクする瞬間があるんですね。たとえば怠け者で感受性のかけらもない、藤間さんと似ても似つかない役柄を演じるとなると苦労しそう……。
それでも何かしら自分と共通するところを見つけるのではないでしょうか。そう考えると役者というのは普段からいろんなものに触れて感性を豊かにしていかないといけないんだなと思います。
— 役に寄り添うことを大切にしているんですね。
あとは柔軟性です。決めすぎないように、演じる瞬間瞬間で感じたことを表現するようにしています。舞踊は型が決まっているので、自分で全体を積み上げて演出していく感覚なんです。でもお芝居って団体戦じゃないですか。最初のころは舞踊の癖で、こうだと決めつけて演じていたんですが、相手によって反応は変化しないきゃリアルじゃないと気づいて。台本は読み込むけど、その場の雰囲気や空気を大切にしています。
ドラマ『ボイス2』への出演で感じたこと
— 日本テレビ7月期土曜ドラマ『ボイスⅡ 110緊急指令室』では初のレギュラー出演となりますね。決まったときの率直な感想は?
びっくりしました(笑)。あまり映像の経験が無いので心配もありました。
— 藤間さんが演じる緊急指令室ECUの新人、小松知里はどういう人ですか?
知里は新人で妹キャラだったんですが、やっぱり映像ってもろに自分が出るんだなって。ちょっとプライドが高いけどECUの仕事にまっすぐで正義感が強くて。わたし自身が妹っぽくないからなのか、キャラクターがちょっとずつ変わってきました。
— まだ撮影中ですか?(取材日は7月上旬)
撮影中です。舞踊も舞台も台本が渡されて、それが結末まで一通り読めるじゃないですか。でもドラマって次(の台本)が読めないから新鮮に演じられます。だから結末はわたしもまだ分からないんですよ。ゴールが分からずに向かっていっていることがおもしろいですね。
— 共演者についてもお聞かせください。まず主演の唐沢寿明さんの印象はいかがでしたか?
唐沢さんは「座長」ですね。みなさんを引っ張って、たくさんはしゃべらないけど、そこにいるだけで緊張感が高まるというか。唐沢さんが別の役者さんとお話しされていたのを盗み聞きしたんですが、唐沢さんも若いころは苦労されることも多くて「とにかくいろんな経験をしろ」と。その話が印象に残っています。
— 知里の直属の上司を演じられた真木よう子さんは?
真木さんは、最初はクールなイメージがあったんですけど、実際はすごくチャーミングでおもしろい方で。BTSが大好きで、BTSの魅力をたくさん話してくれました。ほかのキャストやスタッフさんにもBTS好きな方が多いんですが、わたしはメンバーの一人ひとりの名前もわからなくて……。その区別がついたらあなたもARMY(BTSのファンの愛称)よって(笑)。
— 緊急指令室のみなさんは仲良しですね。では、増田貴久さんは?
増田さんはイメージのままというか、爽やかで、その場をすごく盛りあげてくれます。すごくいろんな人に気を使って、現場の空気を良くしてくださる方だなって思いました。
— そういった演技以外の振る舞いにも影響を受けることはありますか?
今回の現場に限らずですが、活躍されている方々ってだれよりも周りを気にかけていて素敵で。そしてだからこそスタッフさんからも重宝されるんですよね。ただ役を演じるだけでなく、現場をよくするという姿勢をわたしも見習わなきゃなと思います。どうしても自分のことだけに一生懸命になりすぎちゃうので。
— ドラマの見どころを教えてください。
毎話、新しい犯人が出てくるのですが、みんな狂ったやつばっかりで(笑)。ただ狂気の中にも、さみしい想いとかちょっと共感できるところもあったりしますが、とにかく怖いです!
— 知里がフォーカスされる回もあるんですか?
3話(7月24日放送)、4話(7月31日放送)は…ボロボロにされます……。血まみれになります。あんまりいうとネタバレになるので、ここまでで。
— 日本舞踊とお芝居の二本柱でお忙しいと思いますが、それ以外ではまっているものはありますか?
趣味といえるようなものがないんです。休みの日も舞台や映画館、美術館に行ったり、何かしら仕事に活かせることを意識してしまいますね。
— それはそれで幸せなことですね。お芝居は楽しいですか?
楽しいだけじゃないけど楽しいです。でもいい演技というものを知れば知るほど不安になりますよね。まだまだだなって。
— ああ、永遠のジレンマですね。では役者として、そして舞踊家としての将来像を教えてください。
役者としてのキャリアはまだ長くないので、まずはいろんな現場に行って挑戦していきたいです。舞踊家としても襲名したという節目にあって、これからは自分のためだけに動いてちゃ駄目なんだなって。紫派藤間流のため、日本舞踊のために繋がることをやっていきたいと思っています。
Profile _ 藤間爽子(ふじま・さわこ)
幼少より祖母・初世家元藤間紫に師事し、2021年、三代目藤間紫を襲名。日本舞踊家・女優として舞台や映像を中心に活動中。劇団「阿佐ヶ谷スパイダース」に所属。2021年11月吉祥寺シアターにて、阿佐ヶ谷スパイダース新作公演「老いと建築」に出演予定。
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Information
藤間爽子さん出演ドラマ『ボイスⅡ 110緊急指令室』
7月10日(土)スタート
毎週土曜夜10:00〜10:54、日本テレビ系
制限時間内に人々を救い出すタイムリミットサスペンス第二弾!
出演:唐沢寿明、真木よう子、増田貴久、田村健太郎、宮本茉由、中川大輔、藤間爽子、増田昇太、藤本隆宏 他
- Photography : Kenta Kikuchi
- Hair&Make-up : Shiho Sakamoto
- Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)