彩葉 iroha – 2人だから撮れる世界
写真をはじめたきっかけ
— まず、Ayaさんが写真をはじめたきっかけはなんですか?
Dream Aya(以下、Aya):17歳ぐらいのとき、現場でスタッフさんのカメラを撮らせてもらったときに「うまいね」と褒められたことで調子に乗って、それから写真が趣味になりました。
— 写真は撮られるのも好きでした?
Aya:それがすごい嫌だったんです(笑)。撮られるよりも、撮っているほうが好きだなという違和感は感じていました。
— カメラ自体にもこだわりがありますか?
Aya:20歳のときに出会ったのが、富士フイルムのフィルムカメラ「ナチュラ クラシカ(NATURA CLASSICA)」。ナチュラへの愛着がやばすぎて、1600のフィルムが無くなった(NATURA1600は2018年3月に生産終了)ときは悲しすぎて、富士フイルムさんに「本当に嫌です」ってメールしたぐらい。
そうしたら「そんなにナチュラを愛してくださっているなら」ということで、なんと原宿にある富士フイルム直営写真店2階のWONDER PHOTO SHOPで『フォトバイアヤ展 〜NATURAと私の10年間〜』という初めての写真展をやらせてもらったんです。
— 行動してみるものですね。いまも撮影はフィルムで?
Aya:お仕事もできる限りはフィルムでやらせていただいています。いま私が働いている自由が丘のポパイカメラも、フィルムの現像やプリントをやっているカメラ屋さんなんです。
— 葉(よう)さんが写真をはじめたきっかけも教えていただけますか?
高橋葉(以下、葉):僕は父が広告のアートディレクター、母がフラワーデザイナー、兄がデザイナーということもあって、そもそも写真に触れる機会が多くて。実家の隣にはスタジオがあって、当時はタングステンというライトとか、ディアドルフのバイテン(8×10)とか、触った記憶は無いけどなんとなく写真ってこういう世界なんだと。
大学は芸術学部を志望したんですが、その中でもデッサンもいらない写真学科というのに出会って、じゃあラクだしということで受験したんです。大学に入るまで写真を撮ったこともなかったんですが、19歳からは撮影機材のレンタル会社でアシスタントもやらせてもらっていました。
— 早いですね。
葉:そして20歳でついた1人目の師匠が某鉄道沿線のフリーペーパーをほぼ全ページ撮影していて。その中にいまと昔の駅の写真を並べて掲載するコーナーがあったんです。それで「いまの駅をお前撮ってこい」となって、2〜3回撮り直しさせられましたが、そのギャラが25,000円。え、カメラマンってこんなもらえんのって。
そうしてだんだん写真を撮らせてもらえるようになると、学生なのに写真で月10万円ぐらいもらえるようになって。浮き足立つじゃないですか。じゃあこれで独立して……と考えていたら、当時の師匠からお前はもっと王道をいきなさいと。ファッションやタレントを撮るようなフォトグラファーを目指した方が絶対にいいから、またイチからスタジオに入って勉強して、大御所の人についてから独立しなさいと。
— そのアドバイスはめちゃくちゃありがたいですね。
葉:そう。最初の師匠はすごい苦労された方で。それですぐにスタジオに入りました。3年勤務後、川口賢典さんのところで3年間アシスタントをして独立しました。
彩葉(いろは)について
— 2人の出会いについても教えていただけますか?
Aya:この店です。去年(2021年)の末ぐらい。ここに来るとみんな顔見知りでお友だちみたいな感じなんです。
葉:出会ったときには、僕は彼女のことを知らなくて。それで「わたしも写真をやってるんです」という話をされて、後日たまたまやっていた僕の写真展を見に来てくれたんです。
Aya:メンバーとね。それで今度一緒に作品撮りをやってみようという話になりました。2人で同じスタジオ、同じ衣装、同じメイクでどれだけ違う写真になるかというのが楽しそうだねって。私はフィルムで葉くんはデジタルで。半分遊びみたいなセッションからスタートしました。
葉:モデルをやってくれたDream Amiちゃんもフォトグラファーが違うだけでこんなに変わるんだってInstagramにあげてくれてたよね。Ayaちゃんと一緒にやってみておもしろかったし、あと単純にすごく相性がよかった。撮るものは全然違うけど目指すところが似ているというか。
Aya:私の中で、こう撮りたいっていうのは見えていて、シャッターを押した瞬間に「撮れた」と思うことがあるんです。そしてそう思うのと同時に葉くんが、「いまのいい」ってひと声をくれることがあって。それってすごく安心できるというか、1人でやっていたら味わえない感覚がありますよね。葉くんと見ているところが一緒やなとうれしくなる。
— ユニット名の彩葉(いろは)の由来はどこから?
葉:2人の名前、彩(あや)と葉(よう)を並べただけです。あと「いろは」っていう読みは、いろはにほへと…のスタートじゃないですか。2人でせーのと始める感じとリンクして気持ちいいなと思って。
— ユニットで活動する基準はありますか?
葉:2人でやったほうがおもしろそうだったり、できることがひろがると思った場合は彩葉で受けます。あとは作品性が強いものですね。
それぞれに作風があるので、基本的には別々に活動します。Ayaちゃんは自然光で動きがあって、表情を切り抜くのがむちゃくちゃ上手で、そこに僕は必要ないと思うので。
Aya:私は「明るい」とか「元気」とかそういう写真が多いんですけど、葉くんは人の見えないところを撮ってるなって。ちょっと私には撮れないし、陰と陽みたいな感じがしますね。
― 2人の写真の性質が正反対なんですね。今回、彩葉として手掛けたQUIでの撮影はいかがでしたか?
Aya:いままではロケで撮影することが多かったので、スタジオでライティングを組んでファッションを撮るということが初めてだったんです。モデルは(坂東)希ちゃんだったので距離感も近く、彼女のいい瞬間は空気感で分かったんですけど、ポージングやライティング、風の当たり方とか、葉くんがいたおかげでひとつの作品としてかたちにできたのかなって思います。
もともと作り込んだ世界観にはあんまり興味がなかったんですけど、彩葉として撮影してみてすごく楽しいなって。葉くんは私の発想にない提案をくれて、シャッターを押してみたら私が理想とする写真に仕上がっていて。自分でも感動するくらいで「すげえな葉くん」って、そこで信頼関係が生まれたと思います。
— 化学反応が起きたんですね。
Aya:そうですね。カメラの技術をフォトグラファーさんに聞くのって御法度な気もするんですけど、葉くんは「こうやったらAyaちゃんがやりたいことができると思うよ」ってすごいフランクに教えてくれるんです。
葉:もともと技術に関しては誰でもできるようになった方が絶対おもしろいし、フィルムがなくなってしまうというように、業界自体が廃れていく方がよっぽどつらい。Ayaちゃんが撮っているときにたとえばマクロレンズを渡してみて、それで僕には撮れないAyaちゃんの世界がひろがっていくことの方がうれしいし楽しいんです。
写真で表現したいこと
— 初めて感動した写真はなんですか?
Aya:梅佳代さんの『男子』っていう写真集を高校の同級生がプレゼントしてくれたんです。私も日常を切り取るのが好きだったのですが、写真ってなんておもしろいんだって。だから梅佳代さんにお会いしたときは感動しましたね。
— 梅佳代さんに会ったんですね。
Aya:知人に紹介してもらって、三軒茶屋の赤提灯の飲み屋で。私は25歳ぐらいだったかな。私が長いアスパラガスを食べようとしたときだったと思うんですけど、梅佳代さんがおもむろにカメラを出して撮られて、それがすごいうれしかったです。
— 葉さんの好きな写真は?
葉:絶対的に好きなのはパオロ・ロヴェルシ(Paolo Roversi)とか。彼が『エゴイスト(EGOISTE)』っていうフランスのビジュアル誌の表紙で撮ったヌード写真があるんですけど、たぶんバイテンなのにブレててボケてるんですよ。それなのに、きれいで奥行きがあって惹きつけられる。そしてそれがファッションに見える。そういう向こう側が感じられる写真が好きです。
年々いろいろなフォトグラファーが出てきて、どんどん影響されている感じもあって。ファッションを撮っていると流行にのっている写真が求められるので、10年前の写真はやっぱり古く感じちゃう。そういう意味では梅佳代さんとか作家の方の作品は変わらないよさがありますよね。でもファションは10年前だとダサいけど、20年経つと「あれ?かっこいい?」ってなってくる。そういう不思議なおもしろさもあります。
— そもそもファッション写真ってなんでしょうか?
葉:あくまで僕の考えですが、服が写っているということ。そしてその服が売れることでしょうか。僕が撮ったら服が売れましたという写真を目指しています。
ブレててもボケてても、どうしてもその写真から目が離せなくなるというのは大事な要素かなと。Ayaちゃんの写真にはその可能性を感じています。
— 撮影で大切にしていることはありますか?
Aya:撮っていて自分が楽しくないなと思ったらちょっとやばいなと。そういうときはちゃんと撮れてないことが多い気がします。だから現場を楽しむというのはすごく大事にしていて、モデルさんとのコミュニケーションなど空気作りには気をつけています。
葉:AyaちゃんはE-girlsとして何万人という前でパフォーマンスした経験があるので、モデルさんのことやスタッフのことがちゃんと見えていたり、肝が据わっていたり、それはすごいないと。
— Ayaさん自身もE-girlsでの経験がクリエイションに影響を与えていると感じるところはありますか?
Aya:あんまり考えたことはないですが、共通するところもある気はします。私は30歳で(ボーカル&パフォーマーを)引退することを決めていたんですけど、もし今もステージに立っていたとしても追求することがずっとあったと思うんです。写真もやってもやっても学ぶことがあってゴールが見えないところは同じだし、自分が熱心になれることっていうのが音楽と写真だったなと思います。
— 大舞台を経験していると緊張することはないですか?
Aya:ツアーとかだと初日はびっくりするぐらい緊張するんですよ。あと14歳で上京して、紅白に出たい、アリーナに立ちたい、Mステに出たいとか、そういうミーハーな夢が叶う瞬間っていうのは緊張したんですけど、やっぱりそういう感覚ってもう一生味わえないだろうなとは思います。
撮影前も緊張はするんですけど、やっぱりちょっと違いますね。写真でそれぐらいアドレナリンが出ることは、私が甲本ヒロトさんを撮影するときぐらいかな(笑)。
— 葉さんは撮りたい人っていますか?
葉:誰かな……YUKIさん! JUDY AND MARYのすごいファンだったんで(笑)。
チャレンジするということ
— 2人ともチャレンジを重ねて今があると思うんですが、新しいチャレンジをするときの心構えについて、若い世代へのメッセージとして教えて欲しいです。
Aya:私は(ボーカル&パフォーマーを)引退して2年間裏方をやっていたのですが、もっと表現したいという思いはあって、やるなら今だなと会長に相談したら「じゃあ行ってきな」と背中を押していただいて。(LDHから)独立してまずしたのが履歴書を書いたこと。33歳で初めて履歴書を送ってアルバイトを始めたんです。カメラ屋さんで。
みんなからは「ようその年齢でやったな」って言われますし、たしかに…とも思いますが、年齢とか環境とか関係なくやりたかったらやっちゃえって私はすごく思うんですね。やってみてだめだったらすぐ辞めればいいし。ありきたりですが、やらないと何も始まらないですから。
— 二の足を踏むことはないですか?
Aya:猪みたいな感じで、直感で行っちゃう。買い物も迷わないし、だから撮影するのも早いんですよ。白か黒かはっきりしてるんで、基本的には悩まない。スケジュールを分刻みでばーっと入れないと落ち着かなくて、ずっと働きたい、ずっと動いていたいというタイプです。
悩んでるなら動いてみる。動いてみたらびっくりするぐらいおもしろいことがあると思いますよ。
葉:僕も同じ考えで、いっぱい動いた方がいいし、たとえばフォトグラファーという職業でもいろんなことをやっていいと思っていて。僕もAyaちゃんと彩葉をやったり、加藤伎乃ちゃんというアーティストのビジュアルプロデュースをやったり、バーテンダーもやったり。いろんなことを楽しんでやっていることが、本業の写真の仕事にも活きている気がしています。
— 今後チャレンジしたいことはありますか?
葉:小説を書いてみたいです。エッセイとか。写真家の方で、藤原新也さんとか杉本博司さんとか中平卓馬さんとかめちゃくちゃ文章が上手くてかっこいいなって。
Aya:やってみたいことというよりは夢に近いことなんですけど、小学生のころからめちゃくちゃ映画が好きなんですよ。だから映画に携わるお仕事がしてみたいなと思います。エンドロールに自分の名前が流れるのが夢です。
Profile _
左:高橋葉(たかはし・よう)
1982年、浜松市生まれ。2010年、川口賢典氏に師事後、独立。ファッション撮影を中心に、雑誌、広告、ブランドのビジュアルなどを撮影している。
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右:Dream Aya(ドリーム・アヤ)
2017年7月に音楽活動を引退後、写真や絵などのアートな才能を活かしクリエイターとして活動をスタート。2020年1月より写真家として独立。現在は、写真家としてアパレルブランドのヴィジュアルやアーティストのジャケットなどの撮影に留まることなく、様々な企業やメーカーのクリエティブディレクションやイラストなども手掛けている。
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- Photography : Kei Matsuura(QUI / STUDIO UNI)
- Edit&Text : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)