松居大悟 – なんでもないことが愛おしい
覚えているのは、大切な人のどうでもいいことばかり
— 『くれなずめ』という作品はもともと、松居監督が主宰するゴジゲンが2017年に上演した舞台劇でしたが、映画化のお話を受けたときどう思いましたか?
そもそも『くれなずめ』を映画にしようと考えたことが無かったので、「映画にしていいのかな?」という思いがありました。自分の友達の話で、その友達に手紙を書くように作った劇だったので。
舞台を観てくれたプロデューサーの和田(大輔)さんが「映画にしましょう、あれはたくさんの人に観てもらうべきです」と言ってくれて映画化が決まったのですが、映画的にリッチにしたら大切なものが壊れてしまう気がしたので、劇と同じようにどうでもいいことを大切に作りました。
— 舞台の映画化は2018年の『君が君で君だ』に続き2作目ですよね。松居監督のなかで、映画化する・しないの基準というか、ポイントがあったら教えていただけますか?
『君が君で君だ』は絶対映画で描くべき作品だと思っていたので、持ち込んで実現した企画なんです。テーマが強靱で、愛の向こう側とか、愛してるという言葉が無い状態での気持ちの伝え方とか、自分にしかできない表現だと思って作りました。
でも『くれなずめ』は、「俺のなかでこいつは生きている」と思いたいだけの話だったから、世の中に伝えたいことなんて一つも無かったし、全く外に向けて作っていなかったんです。
— 先ほど、映画の『くれなずめ』も劇と同じように作ったとおっしゃっていましたが、映画化するにあたって、演出などで意識したところはありますか?
舞台は、披露宴会場の裏でずっとダラダラするという話だったので、ほとんど動かなかったんです。スーツ姿の6人の役者がいろんな回想をして、効果音と照明の変化だけで場所の変化を演出していたので、観ている人の想像力に委ねていたところがありました。でも映像は場所も衣装もメイクも全部変えられるので、もうその時点で全然違うものになるなと思っていましたね。
あと、ウロウロしました(笑)。本当は、彼らの居場所の無さや行き先の無い感じがより際立つから、舞台のときからウロウロしたかったんです。
結局、大切な人を思い出したときに、あんまりドラマチックなことは無くて。日本酒を持っている手元とか、なんとなく食べたヨックモックの味とか、どうでもいいことばかりをフラッシュのように覚えているんですよね。その感じがより伝わるように、映像でしかできないこととして、長回しで「余白も含めて見せてしまおう」とは考えました。
この6人が揃ったこと、それが答えだ
— 以前から松居監督の作品で観てみたいと思っていた役者さんが勢揃いで、キャスト発表時からとてもワクワクしました。皆さんとご一緒してみていかがでしたか?
僕が客観的に他の映画で観て「ご一緒してみたい」と思っていた方々で、偶然みんなスケジュールがあったんです。どうでもいい会話ばかりだし、10分くらい長回しするシーンもあったので、みんな結構不安だったんじゃないかなと思います(笑)。でも、僕の台本や演出をすごく信じてくれていて。撮影とリハーサルで約3週間くらいでしたけど、大切な友達みたいになれたなと思っています。
— 素敵ですね。普段松居監督が「ご一緒してみたい」と思う役者ってどんな方ですか?
わからなさというか、何を考えているかが掴めないというか。セリフ以外の感情の余白をもって芝居をする人が気になります。その人のことをもっと知りたいって思う人とは、ご一緒したらどうなるんだろう?って思いますし、自分が書いた地図のなかで「どう生きるんだろう?」「会ってみたい」と考えることはあります。
— 『くれなずめ』でも、皆さんそれぞれ作品の中で役として生きている感じがしました。思いがけずグッとくるシーンも多かったですし。あのバランスはどう演出されたのでしょうか?
基本的に、“グッときかけたら止める”というのは僕の脚本の組み方なんです。恥ずかしいので、ちょっと感動しかけたくらいではしごを外すっていう(笑)。現場では、グッとくる…と思ったら、できるだけその感情を台無しにするようにしていましたね(笑)。
— でも、その細かな感情の積み重ねが、あのラストに繋がっていた感じがしました。
でも、計算していたわけではないんです。過去を書き直したいけど書き直すことができないと気付いて……というシーンなので。あそこは確かにふざけられなかったです。あのシーンはすごくこだわりました。
— 6人でふざけたりわちゃわちゃしたりするシーンも多かったですが、あの辺りのお芝居はどこまで役者さんに委ねていたのでしょうか?
台本以外にも合いの手や相槌を入れていたとは思いますが、基本は台本通りです。この6人だから出る“わちゃわちゃ”で良いと思っていたし、そこに自分の答えを押し付ける必要は無かったので。この6人が揃ったというところで、それが答えになっている気がしました。
あとは、撮影前のリハーサルのときに、とにかくお酒を飲んで下ネタを話してダラダラ過ごすようにしていたので、そこでわりと6人の立ち位置はできたのかもしれません。
何気ない時間や景色を愛おしいものに
ー 松居監督は舞台、映画、ドラマ、小説などさまざまな形で作品を生み出していますが、素晴らしい脚本や撮りたい題材ができたとき、どのような棲み分けで作品づくりをしているのでしょうか?
面白い脚本ができた場合は、映画やドラマやミュージックビデオで考えます。テーマ前提ではありますが、書いたものを暗闇のなかでガッツリ見せる方が良かったら映画だし、辻褄や理屈はどうでもいいけど画の連なりが素晴らしいと思ったらミュージックビデオで考えますし、いろいろですね。
劇団の公演は台本ができていない状態で入って、考えたいテーマをもとに一緒に考えて作っていくというスタイルなので、『くれなずめ』の時は死生観をテーマにして「生きるってどういうこと?」とか「死ぬってどういうこと?」ということを劇団員と話しながら作りました。
小説は、自分の頭のなかで完結するのが楽しいので、もっと個人的なものですね。逆に、あまり共有したくないことを書いています。
— 小説については、以前ラジオ(JUMP OVER)でもお話されていましたが、尾崎世界観さんの小説は「手持ちカメラ」で松居監督の小説は「俯瞰」という表現がすごくピンときました。
全く意識していなかったのですが、多分僕の小説の書き方がそうだったんでしょうね。感情を寄りで描くのが照れくさいから、目線よりもちょっと離れたところで、「今ここで窓が開いていて風が吹き込んでいる」みたいな形で感情を表現する方が好きというか。
— その“照れくささ”は、映画や舞台では生まれないのでしょうか?
そうですね。舞台では役者たちの肉体で表現するしかないので、風が吹いている具合とかまでは伝えられないですし、映画では心情そのものよりも、そこに居る人や空間の広さ、天気の様子やカメラマンの位置とか、いろんなもの全てを含めて描きたいと思っているので。
— なるほど。『くれなずめ』でも、役者が立つことによってありふれた場所が印象的なシーンになっていて、映画だからこそできる方法だなとしみじみ感じました。
式場から出て公園でダンス練習する一連のシーンは、できるだけ色気の無い道で撮ろうと思っていたんです。そこら辺にある公園がいいし、そこら辺にあるような道がいいし、見栄えのいいものがないような場所をロケハンしました。だから制作部は結構大変だったと思います。何気ない時間とか景色とかが愛おしいものになったらいいなというのは映画のテーマでもあったので。
— いろんなところをうろうろしつつも、カメラのなかに居る6人の感じがすごく愛おしかったです。6人の動きや立ち位置は、結構こだわられましたか?
基本的に撮影の高木風太さんと話していましたね。風太さんは今回はじめてご一緒したのですが、『味園ユニバース』などの雰囲気が好きだったので、一緒にやってみたいと思っていて。僕がつけた芝居を、風太さんはどんな切り取り方をするのかすごく楽しみでした。
— 今までで一番松居監督らしさが詰まっていると感じたと同時に、見たことがない一面も感じたんです。それは、高木さんの撮影によるものでもあったのかもしれないですね。
最初は、ワンシーンワンカットにして、シーンの最後と次のシーンの頭も緩やかに繋いで、全部が地続きで、現代も回想も無いような感じにしたいという話をしていたんです。きっと昔だったら無理矢理それをやっていたと思うんですけど、風太さんがルールによって役者の芝居が撮れなくなるのは、元々の目的がわからなくなるので、ダメだったらすぐ諦めましょうと言ってくれて、「もうこの人に任せよう」と決めました。
またみんなと一緒にやりたい
— では最後に、今回ご一緒した6人の印象を改めてお聞きしたいです。まず、成田凌さんからお願いします。
成田くんは一回やっただけじゃ、わからないです(笑)。役者としても、作品のなかでも、本当に……。でも、僕はそれが魅力的だなと。底知れないので、もっともっと一緒にやりたいなと思いましたね。
— 続いて、高良健吾さんはいかがでしたか?
高良くんは一番キャリアがあるにもかかわらず、一番丸腰で、何でも挑んでくれたんですよね。多分みんなそれが嬉しかったと思いますし、いろいろと助けられました。心の支えでしたね。
— 若葉竜也さんはご一緒していかがでしたか?
若葉は、ずるいやつでしたね(笑)。どの演出家も一緒にやりたいって思うだろうし、僕もまたやりたいと思っています。繊細で荒くれ者という両方を出せるし…ずるいやつです。
ー もともと面識があったという、浜野謙太さんは?
ハマケンは、多分今まで自分の監督作品で5回くらいオファーしているんですよ。でも全部断られていて……。ようやく一緒に出来た!という感じですね。コノヤローって思いました(笑)。
— 後輩キャラの大成(ひろなり)を演じた藤原季節さんはいかがでしたか?
自分が思っていた役のイメージと一番変わったのが、季節が演じた大成でした。もっとクールで距離をとっている役の印象だったんですけど、「大成ってこういうやつだったんだ」とか、そういうことを教えてくれる役者でした。
— 舞台の『くれなずめ』にも出演したゴジゲンの目次立樹さん。映画ではいかがでしたか?
目次は特に……。もっと頑張れって思います。ほんと、これで売れてもらわないと困るので(笑)。
— ありがとうございます(笑)。ちなみに皆さん、カメラが回っていないときはどんな立ち位置だったんですか?
(作品の立ち位置と)似ていましたね。基本、藤原季節がふざけて、成田くんや若葉が煽って、ハマケンが更にふざけて、高良くんと目次が笑ってる、みたいな構図でした。またみんなとやりたいです。
— またぜひ松居監督の作品で観れることを楽しみにしています!2021年4月は『バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら』と『くれなずめ』の2作品が同時期に公開され、今後ますます映画監督としての注目が高まりそうですね。
自分の一番内側に向いたのが『くれなずめ』で、一番外側に向いたのが『バイプレイヤーズ』なんです。その2作品が同じ月に公開されることは、自分のなかでもすごく特別なことなので、みてほしいです。
Profile _ 松居大悟(まつい・だいご)
1985年11月2日生まれ。福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰、全作品の作・演出を担う。2012年、『アフロ田中』で長編映画初監督。その後『スイートプールサイド』(14)、『私たちのハァハァ』(15)、『アズミ・ハルコは行方不明』(16)、『アイスと雨音』(18)、『君が君で君だ』(18)、『#ハンド全力』(20)など。枠に捉われない作風は国内外から評価が高い。20年に自身初の小説『またね家族』を上梓。21年1月より放送されたテレビ東京『バイプレイヤーズ』新シリーズと劇場版も手がけた。
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Information
映画『くれなずめ』
2021年4月29日(木・祝)テアトル新宿他にて全国ロードショー
ある日突然、友人が死んだ。僕らはそれを認めなかった。
監督・脚本:松居大悟
出演:成田 凌、若葉竜也、浜野謙太、藤原季節、目次立樹/飯豊まりえ、内田理央、小林喜日、都築拓紀(四千頭身)/城田 優、前田敦子/滝藤賢一、近藤芳正、岩松 了/高良健吾
主題歌:ウルフルズ「ゾウはネズミ色」(Getting Better / Victor Entertainment)
©2020「くれなずめ」製作委員会
- Photography : Kenta Karima
- Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
- Text&Edit : Sayaka Yabe
- Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)