バレエダンサーの美しさが輝き放つ壮大な舞台を生み出したい ー フォトグラファー/クリエイティブディレクター 井上ユミコ
バレエ写真家としても知られるだけに「ダンサーを美しく見せる」ことにどこまでもこだわる井上に、「BALLET TheNewClassic」の舞台に懸ける想いを聞いた。
慶應義塾大学総合政策学部卒業。在学中より写真の世界に入り、その後広告、ファッションを中心に活躍。美しいバレエダンサー達に魅了され、ライフワークとしてダンサーの写真と映像を撮り続けている。
現在では、メディアやバレエ公演を主宰・運営するなど活動は多岐に渡っている。
2018年には、”Dance, Art, Human being”を軸にするウェブマガジン「Alexandre(アレクサンドル)」を創刊。2020年には、プロジェクト「BALLET TheNewClassic(バレエザニュークラシック)」を、K-BALLET カンパニーのプリンシパル・堀内將平とともに始動。
ダンサーの美しさを撮るために情報は削ぎ落とす
ー井上さんは大学在学中に写真の世界に入り、広告やファッションを中心に活動されていましたが、写真家を志したきっかけは何だったのでしょうか。
カメラ一台で世界中で仕事できるってかっこいいイメージがあり、写真家に淡い憧れを抱いていたのですが、自分とは違う世界だと思っていました。それがバックパッカー時代にタイのノンカイという街の安宿で写真家の藤代冥砂さんと偶然お会いし、そのご縁で、『SWITCH』という雑誌でアルバイトするようになったんです。『SWITCH』ではいろいろな写真家さんとその作品と出会いましたね。そこで1年ほど働いた頃、編集長の新井敏記さんに「お前のやりたいことは写真だろ」とMAMIYA7という中判カメラとレンズをプレゼントされ編集部を追い出されました(笑)。そこから写真家になるための模索の旅が始まりました。
ー美しいバレエダンサーに魅了され、ライフワークとしてバレエ写真家になったと伺いました。
2016年に文化村オーチャードホールで開催された「エトワールガラ」の独占潜入リハーサル取材、というお仕事が『VOGUE JAPAN』のwebであり、リハーサル室でのクラスレッスンを撮影しました。初めてバレエダンサーを至近距離で見て、その力強さと隅々まで意識が行き届いた身体の美しさに衝撃を受け、こんな美しい人たちがいるんだと目から鱗でした。写真家にとって美しい被写体に出会うことは最上の喜びで、その時に「私は最高の被写体に出会ってしまった」と感じました。 撮影はバレエダンサーの動きのスピードについていけなくて、いい写真が全く撮れず敗北感を味わいましたが、心は喜びに満たされていました。
ーバレエダンサーの写真を撮影するうえで大切にしていることはありますか。
そのダンサーの美しいところを見つけ出し、引き出し、写真に落とし込むことです。エッセンスだけを写したいので、ライティングや色味など、余計な情報は削ぎ落としていくことが多いです。一枚の写真をダンサーと試行錯誤しながら一緒に作り上げるのも好きです。
ー日々どのようなインプットを行ない、ご自身の作品に繋げていますか。
いろいろな舞踊公演に足を運ぶようにしています。最近よく思うのですが、10代や20代の時にインプットしたものが今の自分を作っているなと。若い頃にジタバタしながら本や美術、映画、旅など必死にインプットした経験が豊かな土壌になっていると思います。最近は瞑想も気に入ってます。
ー2018年にはウェブマガジン『Alexandre(アレクサンドル)』を創刊されました。
2018年9月13日に創刊した『Alexandre』は、2024年9月13日に閉刊しました。立ち上げたのは、ダンサーを撮影したかったから。そしてダンサーの魅力を私自身がもっと深く知りたかったからです。なのでPR要素の強い表面的なトークではなく、ロングインタビューにこだわりました。この活動のおかげで演者に限らず、公演制作者など舞踊の世界の方達とたくさん知り合うことができ今の自分を作り上げていると思います。閉刊の理由は「BALLET TheNewClassic」をきっかけに公演制作もするようになり、自分の好奇心の追求の場が、実際の舞台になってきたからです。
「BALLET TheNewClassic」を海外や地方にも広げていきたい
ー「BALLET TheNewClassic」はどのようなきっかけで生まれたのでしょうか。
撮影後に將平くんも含めた撮影チームでご飯を食べている時に、そこでの將平くんの「いつかバレエ公演をやってみたい」というひと言がきっかけでした。私も「やろうよ!」と即答してすぐに動き始めました。將平くんは本当にやるとは思ってなかったようです(笑 )。それは2020年の8月末のことでコロナの自宅待機が明けて間もなかった頃でもあり、クリエイション活動ができないことにストレスが溜まっていたので、はけ口を見つけたような感じだったのかと今となっては思います。
ー堀内さんと次回に向けたお話しはされていますか。第三回公演に向けて考えていることがあれば教えてください。
まだ漠然とはしていますが話はしています。会場さえ決まってしまえばコンテンツはすぐに具体的になると思います。 そういう意味では、これまでもコンテンツの発想の源となっていたのは会場の個性や強みを活かすということでした。
ー資金調達はクラウドファンディングで達成金額によっては地方公演についても検討されているそうですが、地方公演について現状思い描いていることはありますか。
東京にこだわっているわけではないので、さまざまな土地でインスピレーションの湧く素敵な箱や空間との出会いがあるといいなと思っています。
ーBALLET TheNewClassicの活動が自身の写真家としての活動で何か影響を与えていることはありますか。
写真家としてダンサーに当たる照明へのこだわりは強いです。ダンサーを美しく見せることができない光はありえない、ぐらいの感じです。私自身への影響としては、公演制作に追われすぎて写真活動が手薄になっていることです。「BALLET TheNewClassic」を通して写真家としての私の活動を知ってくれた方がたくさんいると思うので、写真活動にももっと力を入れていきたいです。
ー井上さんがBALLET TheNewClassicの今後の活動の中で実現していきたいこと、目標としていることを教えてください。
私はハリウッド映画のエンドロールみたいに、たくさんの方を巻き込んで、たくさんの仕事を生み出して、壮大なものが作りたいと思っています。公演をより多くの人々に届けるには映像は大事なので、ダンスフィルムの表現も追求したい。いつかそれが評価され、カンヌ映画祭のレッドカーペットを歩いている自分たちの姿も想像してみたり。海外での開催も視野に入れているので、素敵な劇場を求めて世界中を彷徨うつもりです。
ー井上さんの今後の展望を教えてください。
2025年5月23日、24日、25日に彩の国さいたま芸術劇場にて、『EOL(イー・オー・エル)』というバレエ公演を開催します。私にバレエの奥深さを教えてくれ、メディア『Alexandre』のタイトルの由来にもなったバレエダンサーのAlexandre Riabkoさんとの公演で、私はクリエイティブ全般、演出も担当させていただきます。この公演を多くの方に届けること、ご覧になった方に「Bravo!」と言って喜んでいただくことが目下の大きな目標です。写真に関しても大きな視野で捉えたプロジェクトを年内立ち上げれたらいいなと思っています。
『EOL』Official Web
https://www.eol-japan.com/
- Photograph : Masamichi Hirose
- Interview : Yukako Musha(QUI)
- Text : Yukako Musha(QUI) / Akinori Mukaino