QUI編集部が未知なる才能を追い求めて|TSTS デザイナー 佐々木拓也
今回取り上げるのは<TSTS(ティーエスティーエス)>。クリエイションについて、デザイナー自身について、バックボーンについて。知られざる魅力を深掘りし、強く発信してみたい。
1990年、青森県出身。文化服装学院卒業後、アントワープ王立芸術アカデミーに進学し、<Walter Van Beirendonck(ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク)>らに師事する。2016年の帰国以降は<sacai(サカイ)>でのインターンや、友人とのブランド立ち上げなど複数のコレクションブランド勤務を経験し、2023年から<TSTS(ティーエスティーエス)>をスタート。
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@tsts_official
強い憧れを抱いていたヨーロッパのモード
QUI:佐々木さんは日本では文化服装学院、ここのがっこうのダブルスクール、卒業後はアントワープ王立芸術アカデミーに進学されています。「学び」への探究心が強かったのでしょうか。
佐々木:確かに学生生活は長かったですね。文化服装学院からそのままファッションの世界へと考えていたのですが、主にヨーロッパのファッションスクールから生まれるクリエーションへの興味もあったため、文化服装学院の外の環境についても考えるようになっていきました。
QUI:そこからここのがっこうに興味を持ったんですか?
佐々木:はい、ここのがっこうは当時、始まったばかりという時期でしたがファッションコンテストで受賞する生徒も出てきていて、それらの作品は僕がやりたかったモードの雰囲気がありました。それで文化服装学院とのダブルスクールという道を選びました。
QUI:実際にここのがっこうには佐々木さんが求めていた「学び」はありましたか
佐々木:文化服装学院が洋裁学校をベースとした職業訓練校のようなイメージだとしたら、ここのがっこうはヨーロッパ式のアートスクールのようなイメージでした。そういう意味で、ここのがっこうに対しては「自分がやりたかったファッションの学びはこちら側なのかもしれない」という思いを抱きました。
QUI:アントワープ王立芸術アカデミーに進学したのはどういった理由からでしょうか。
佐々木:ヨーロッパのファッションの世界に入りたいというのはずっと考えていたことでした。アントワープ王立芸術アカデミーに入学したのはここのがっこうで知り合った学生から「アントワープの学生が修了制作のアシスタントを探している」と声をかけられたのがきっかけです。アシスタントとしての滞在期間は4月から7月までだったのですが、修了制作は6月頭には終わり、アントワープ王立芸術アカデミーの入学試験が7月だったということでタイミング的にもチャンスだと思い受験し、合格しました。
QUI:アントワープ王立芸術アカデミーで学んだことで印象に残っていることはありますか。
佐々木:どれかひとつを挙げるのが難しいぐらい印象に残っていることが多いです。アントワープ王立芸術アカデミーのファッション科はファインアートが枝分かれをした学問のひとつとしてできたこともあって、アートのメディウムのひとつとしてファッションがあるという考え方でした。服作りについて学ぶのは日本も海外も同じですが、売ることを考えてデザインはしないですし、プロダクトとしてのクオリティも求められません。アントワープ王立芸術アカデミーで重要視されていたのは「あなたはこのファッションを通じて何を伝えたいのか」ということでした。
ビジネスとして軌道に乗せる戦略も重要なクリエイティブ
QUI:ファッションの仕事をしたいと思うようになったきっかけなどはありますか。
佐々木:ファッションそのものに興味を持ったのはスニーカーからでした。自分のお気に入りのスニーカーに似合うパンツは、それに合わせるトップスはと足元から始まって全身まで考えるようになりました。それが10歳ぐらいだったのですが、その時点でファッションデザイナーというのは意識はしていなかったです。高校を卒業するまでの期間を地元の青森で過ごしたのですが、田舎での普通の学校生活を送るなかで次第に自分が周囲の環境にうまく溶け込めなくなっていると感じるようになりました。そこで自分の居場所はどこなのかを考えた時にファッションの世界への興味を自覚し、卒業後の進路として文化服装学院を選びました。
QUI:ファッションブランドのキャリアは髙橋大雅さんと立ち上げた<Taiga Takahashi(タイガ タカハシ)>(現:T.T)からですが服のデザインには携わっていないですよね。それには理由はあるのでしょうか。
佐々木:いずれは独立してデザインをしたい気持ちは持っていたので、クリエイティブと並行して今後のためにもブランドを組み立てることに徹しようと総務や経理のような裏方の役回りも引き受けました。ブランドの経営をする上で純粋にクリエイティブな瞬間というのは本当に10%にも満たなくて、ビジネスのために考えなければいけないことがたくさんあります。逆に言えば、事業の戦略を考えるというのは非常にクリエイティブな行為であると思っています。
服作りにおいて重要なワードとなっている「SAMPLE」
QUI:<TSTS>はパタンナーである井指友里恵さんとのデュオブランドですが、役割分担があるようなチームでのモノづくりが好きなのでしょうか。
佐々木:それはあると思います。井指は洋服を作ることにおいて天才だと断言できますし、知り合ったのはアントワープでしたが、「将来的には一緒に何かをできたら」と話していましたのでブランドを共同で立ち上げることになったのも必然です。
QUI:<TSTS>には「TEST SAMPLE」という意味も込められているそうですが、それは完成品はもっと先にあるというような解釈でいいのでしょうか。
佐々木:もちろん発表しているコレクションは完成品ではありますが、一方で常に実験的な姿勢でありたいと思っています。僕のアントワープの卒業コレクションが「SAMPLES」というタイトルだったのですが、その頃から「SAMPLE」というのは自分にとって服作りでの重要なワードになっています。<TSTS>は常に実験中のプロジェクトであると解釈いただいても間違いではないです。
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佐々木さんのアントワープ王立芸術アカデミーの卒業コレクション「SAMPLES」
QUI:デビューコレクションから一貫してポップなグラフィックや色彩が印象的ですが、佐々木さんのファッションの好みが反映されているのでしょうか。
佐々木:自分の気持ちを高めるうえでパキッと力強い色柄の服が好みというのはあるかもしれません。また、ここのがっこうでは山縣良和さんだったり、アントワープではウォルター・ヴァン・ベイレンドンクだったり、アヴァンギャルドなデザイナーから学んだことによる影響も大きいと思います。アイコンになるような色柄を発表し続けるのは、<TSTS>らしさを形成するためにも大切なことだと思っています。
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QUI:ブランドとしては3シーズン目になり、セレクトショップでのイベントやショップ限定のカプセルコレクションなど勢いがありますが、ご自身はどう感じていますか。
佐々木:やりたいことは全然できていないですし、焦りもあります。海外展開をしたい気持ちはずっとありますが、それを実現するにはまだまだです。ただ日本国内でお取り組みしたかったショップの多くでは取り扱いが始められているので、2年目のブランドとしては恵まれているのかなとは思います。
QUI:これから<TSTS>をどのようなブランドにしていきたいですか。
佐々木:アイデンティティを掘り下げて磨き上げれば、同じ表現をするクリエイターは世界に存在し得ないはずです。新しいブランドというのは誰も見たことがない世界観を生み出すべきだと思っているので、他の誰でもない、<TSTS>が作る意義のある表現を続けたいと考えています。
<TSTS(ティーエスティーエス、TAKUYA SASAKI TEST SAMPLES)>は、デザイナー佐々木拓也とパタンナーの井指友里恵によるブランド。ブランド名の“Test Samples”とは、兵士への正式支給前に試験的に開発・テスト使用されていた “Experimental Test Sample” 製品に由来しており、<TSTS>の先駆的な服作りの姿勢を意味している。ブランドコンセプトは「二面性」。東京とアントワープで経験を積んだ経歴から、東京的な日常性の中にアントワープ的なシュールレアリスティックな空気感を織り交ぜた、ユーモアと社会批評性をもったコレクションを展開する。
- Text : Akinori Mukaino
- Edit : Miwa Sato(QUI)