セレクトショップの次なる視線 | Dekay 西脇篤史
トレンドをとらえたブランド、趣味や嗜好性が表れた服、目利きがキャッチした 新世代のデザイナーなど、コンセプトが明確なショップであるほど、 ファッションに対する美意識は店内の品揃えからも一目瞭然だ。そんなショップを訪れるファッションフリークが気にしているのは、 常に新しい刺激を提案してくれるオーナーやバイヤーの次なる動向や関心。
今回はセレクトショップの名店といわれる「VISITFOR(ヴィジットフォー)」を大阪で運営し、東京に新たなコンセプトストアの「Dekay(ディケイ)」を出店した西脇篤史さんにお話を伺った。
京都では少し実験的すぎた一番最初のショップ
ー 東京の「Dekay」は西脇さんにとって大阪の「VISITFOR」と「I SEE ALL(アイシーオール)」に次ぐ3店舗目ですが、西脇さんがショップを立ち上げた始まりは何だったのでしょうか。
いちばん最初にショップをオープンさせたのは出身地の京都でした。そこはアメリカの古着やイタリアの革小物と一緒に京野菜やオーガニックのお酢などが並んでいるようなお店でした。自分では新しくておもしろいお店だと思っていたのですが、京都では続けることが難しかったです。
ー 難しい?どういうことでしょうか。
京都はどちらかといえばトラディショナルな街なので、ちょっと変わったことをすると受け入れてもらえない感じがありました。それで大阪に移転したんです。今となっては場所はあまり関係なかったのかもしれないですけどね。京都でもファッションをやれるかも、と最近は思い始めてきています。
ー 大阪に移転後も「ちょっと変わったお店」というスタンスだったのでしょうか。
基本的には同じでしたが<BLESS(ブレス)>というベルリンとパリを拠点にしているブランドのデザイナーと出会って、ファッションに対する考え方はかなり影響を受けました。
ー ファッションについて「西脇さんから影響を受けた」という方もいると思いますが、その西脇さんが?
僕はファッションって服だけだと思っていなくて、<BLESS>もプロダクトに対するアプローチやアイデアがとにかく独創的でした。デザイナーたちといろいろ話すのがとにかく楽しくて、ベルリンに到着したらブランドのショップに向かうまでスキップをしたくなるぐらいでした(笑)。もともと個人的に好きなブランドだったので実際にデザイナーに会うことでもっと好きになりましたし、もちろん大阪のショップでも取り扱いました。
学生たちのピュアなクリエーションを応援したい
ー 西脇さんはどういうブランドやショップに惹かれることが多いですか。
他にはないようなものを見つけて、見つけたらその作り手やブランドについてきちんと調べているバイヤーはいいなと思いますね。ショップの独自性につながりますから。僕も「いいな」と思うブランドを見つけたら、必ずデザイナーに会いにいって話をします。過去に何度か会うことをせずに商品だけを買い付けたこともありましたが、やはり失敗しました。僕は「なんだこれ!?」みたいなちょっとネガティブな感覚も大事にしていて、第一印象が良くなくても後からジワジワきたら必ずもう一度確かめます。「気持ち悪い」と思ったとしても、それは僕の何かが反応しているわけですから。
ー 大阪の「VISITFOR」といえばかなりの有名店ですが、さらに東京で「Dekay」をやろうと思った一番の理由は何だったのでしょう。
地方の人間にはよくあることですが、昔は「東京なんて」と斜に構えて東京に対して気持ち的に距離を感じていたんです。それがだんだんとなくなっていって、そのタイミングで東京でもお店をやってみようと思いました。「VISITFOR」ではブランドでもアイテムでも僕の個人的な好きを出していて、「I SEE ALL」では生活に寄り添うようなファッションや海外の雑貨を揃えています。そんな中で「Dekay」では東京の学生デザイナーたちの作品を置きたいと思っています。取り扱うというよりはショップでの販売をレクチャーしてあげる感じですかね。
ー デザイナーを志す若い世代からしたら、ファッション業界への道が拓けてすごくうれしいことですね。
学校に行くことは就職するためでもありますが、そこだけにならずに若い人たちのクリエーションを育てる手伝いをしたいんです。卒展などにも足を運びますが、学生さんのクリエーションは本当にピュアなので大好きです。学生さんとも話をしますが、テンションが上がりますよ。そういえば「Dekay」のショップとしての構想を外部に話すのは初めてです(笑)。スタッフの関係でまだきちんと始められてはいないんですけどね。
ー 西脇さんの立場としてはあくまで販売をレクチャーしてあげるということなんですね。
創る人と売る人の脳みその使い方はやっぱり異なると思うんです。クリエーションとしてすごく優れているのに、「これって売れるの」というひと言ですべてがダメになるじゃないですか。特に学生さんは売るために創っていないですから、僕らのような人間が優秀なクリエーションを残すために導いてあげる必要があると感じています。服だけに限らずグラフィックでもアートでも、僕が「いいな」と思った学生さんには声をかけてあげたいです。
自分らしいお店をやり続けるなら「空気を読むな」
ー 大阪がセレクトショップだとしたら、東京でやるのはコンセプトストアという感じでしょうか。
呼び方にはこだわりはないですけど、セレクトショップという形態を長年やり続けてきたので、そことは少し視点を変えたいという思いはあります。結局、京都で始めたときの「ちょっと変わったこと、おもしろそうなことをやる」という気持ちはいまだに変わっていないということです。ショップが好きだからずっとやっているんですけど、同じことをやり続けていくうちに別の方向を探りたくなる衝動は誰もが持っているはずです。「VISITFOR」にしてもオンライン販売をやるようになってからセレクトはこれまで以上に自由に好きにやっています。店舗だけでの販売だと大阪の人たちが受け入れてくれることも意識しないといけないですが、オンラインは全国ですからね。
ー 将来はセレクトショップをやりたいと思っている次世代もいると思いますが、アドバイスのようなものはありますか。
ファッションに限らず「自分のお店をやりたい」という方は多いと思いますが、ショップは立ち上げてからが大変です。アイデアもビジョンもないと続けていくことはできないですから。アドバイスをするとしたら「空気を読むな」ってことですかね。時代に迎合する必要もなく、しんどくても自分がやりたいことをやってほしいです。「Dekay」も一緒にやっていきたいと僕が思えるスタッフとなかなか出会えないんです。ファッション愛を感じないというか。ファッションに対してがむしゃらにバカであるぐらいの人が僕は好きですね(笑)。
住所:〒151-0053 東京都渋谷区代々木2-36-6
HP:http://dekay.jp/
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@de.kay
- Photograph : Reina Tokonami
- Text : Akinori Mukaino
- Edit : Miwa Sato(QUI)