アフロ(MOROHA)– 自分の身体に旅をさせたい
音楽の世界を主戦場としながら、いま演じることに向き合う理由とは。そして、表現者としてどこへ向かうのか。
アキラは違う世界線で生きている俺だ
― 先日の下北沢映画祭の後に、アフロさんから直接『さよなら ほやマン』のチラシを受けとったんですが、宣伝活動にも精力的に参加されているんですね。
音楽でも、自分が作ったものは届けるところまでやるという形でずっとやってきたから、映画のチラシ配りもその地続きでやっている感じです。音楽だとみんなライブハウスの外で一生懸命チラシを配っているけど、映画の世界ではあまりいない。それって逆に、めちゃくちゃチャンスだなと思って。
― アフロさん自身がいろいろな場所でチラシ配りをしていると驚かれるのでは?
チラシ配りって名前が売れると止めてしまうことが多いけど、本当は名前が売れてから手配りするほうが効率がいいなと実感していて。それにMOROHAのライブでも、手配りのチラシを受け取って来てくれたお客さんが多いと、ライブハウスをまとう空気感が変わってくるんです。
― どんな変化があるのでしょう?
肉体的な繋がりを信じて、そこを頼りにライブに来てくれた人たちが客席にいることが、ステージに立つ上ですごく大切なことだったりします。そうすると、ステージでの覚悟や、MCで吐く言葉も変わってくる。錯覚かもしれないけど、俺がそう思えていたらオッケーというか。
― とても大事な感覚だと思います。
その一方で、俺が映画のチラシを手配りしてる話を友達にしたら、「私だったら絶対に観に行かない。熱量で動かすような映画とは相性が悪いから」って言われたこともあったんです。「でも、私みたいなのはどっちにしても見ないから、熱量が好きな人に会う為に配った方がいいよ」とも言ってくれて。
― なるほど。
『さよなら ほやマン』は、“生きる、もがく”というテーマだから、プロモーションとしても間違えていないなと。 MOROHAでも同じなんですけど、お客さんに届くところまでの全部が紐づいている。自分たちのキャラクターを全てに詰め込んでいけるのが最良の形だと改めて感じました。
― 『さよならほやマン』はアフロさんの初主演作となりますが、大役を引き受けることになったのはなぜでしょう?
庄司(輝秋)監督がMOROHAのライブを観に来てくれたことがきっかけでオファーをくださったので、MOROHAのライブの中にある要素が必要なんだろうなと思って。それはどこの部分なんだろうと意識しながら脚本を読んでいきました。
― 脚本を読んで、自分がやるべきだと強く感じられた?
脚本を読んでいるときは、(自身が演じる)アキラというキャラクターになってリリックを書けるかどうかを考えていました。アキラは違う世界線で生きている俺だと感じられたので、やれるかもしれないなって。
― そもそも、いつか映画に出演してみたいと思っていたのでしょうか?
MOROHAを始めた初期の頃から、知り合いの映画関係者たちが「絶対、役者に向いてるよ」って言ってくれていたんです。でもそのわりに、その人たちは全然オファーをくれない(笑)。
― そんな中でオファーをくれたのが、本作の庄司監督だったんですね。
そうです。俺は音楽がめっちゃ好きなんだけど、それ以上に、自分の身体に旅をさせて新しい景色を見たり、新しい人に出会ったり、自分の心を感動させてあげることが目標なんです。それを叶えてくれるのであれば、音楽に限らずダンスだってやるし、コントだって、漫才だってやりたい。でももちろん、これまで積み重ねてきた音楽でのやり方が軸にはあります。
― 本作への出演はアフロさんにとって新たな挑戦だと思いますが、何かを選択することに迷ったときの指針はありますか?
MOROHAを始めてから15年間ずっと、実は賢い人間だと思われたかったんです。歌だけはむき出しでやっているけど、ステージングやインタビューでの受け答えはシュッとやろうとしていた。
― かっこつけてた。
そうそう。でも最近は、迷っているところもちゃんと見せて、その上で好きになってもらえないと俺自身が持たないぞと思うようになって。自分の歌詞を読み返してみたら、やっていることと乖離していたんですよね。
― 改めて気付いたんですね。
面白いか面白くないか、かっこいいかかっこわるいか。どの業界にも、ジャッジする側の人間っているじゃないですか。でも俺は裁かれる側としてみんなに愛してもらってきたわけで。勝っても負けても、戦っているところを好いてもらってきたはずなのに、それを裁く側に回ろうとしていた。そういう顔つきになっていたなと。できないことや、恥ずかしいことにも飛び込んでいくことこそ、MOROHAの歌詞通りに生きていくためには必要だと思ったんです。
― そう思うようになったきっかけがあったんですか?
(2022年の)武道館でのライブが大きかったですね。15年前にMOROHAを結成したころ、俺も相方も学生だったけど、めっちゃお客さんを呼べたんです。でも、周りが就職した途端にパタッとみんな来なくなって。俺たちはお客さんを呼べていたんじゃなくて、ただ友達が来てくれていただけだった。友達じゃなくてお客さんに来てもらって、でかい箱をパンパンにできないとプロじゃないなって強く思いました。そして武道館のライブでは、友達や関係者がすっごい少なくて、それが誇らしかったんです。
でも、武道館でのライブが終わった後、 相方と2人で「プロミュージシャンとしてはかっこいいけど、人間としては超寂しくない?」って話になって。これから先、友達や関係者がお客さんと同じぐらい観に来たいと思ってくれるようになると、プロミュージシャンとしてだけじゃなくて、人間としても大きくなれるんじゃないかと思っています。
共感することはできなくても、寄り添うことはできる
― 撮影まではどんな心境でしたか?
最初は怖かったです。ミュージシャンが主演を張るのって、映画の現場の人たちはどういう気持ちなんだろうと想像して。だから、真剣に向き合う姿勢の証明を、彼らへのお土産として持っていきたいと思って、事前に船舶の免許を取ったり、ダイビングのスクールに通ったりしました。もちろん役作りでもあったんですけど。でも、いざ現場に行ってみると、本当のプロというのは誰を相手にしてもプロの仕事をするので、すっと受け入れてくれましたね。
― 今回の撮影は宮城・網地島で行われたそうですね。
島の人たちに協力してもらえなきゃ絶対に撮れない映画でした。先に撮影チームの人たちが島に行って、島の人たちと関係を築いていてくれていたので、これは絶対に壊しちゃいけないなと思っていました。
俺の父親役の方が、役者さんではなくてその島の漁師さんだったんです。実際にその方に漁師の弟子入りをして、ロープの繋ぎ方など、いろいろなことを教わりました。その時間も役作りになっていたような気がします。
―自分で書いた言葉をラップすることと、監督が書いた脚本で芝居することは、また違った感覚がありましたか?
監督に託されたって思う部分もあるんですけど、俺は託されるということが苦手で。今年も3.11に福島でライブをしてきたんだけど、震災に対して100%当事者になることはできないんですよね。だからいつもステージに立つ前に、被災した方に「何を言ったらいいんだろう」と思う。励ます、なんておこがましいし、意識して何かを言うことで、自分の表現じゃなくなるような気がして。
― ご自身の発する言葉や表現に責任を持っているからこその感覚だと思います。
ただ、共感することはできなくても、被災した人に寄り添うことはできる。大切な人を突然失った経験だったら、俺にもあるから。大きな数字に囚われてしまいがちだけど、一人ひとりにとっては大切な人が突然いなくなってしまった日であって。そういう一人ひとりが集まっているんだとしたら、俺にも歌えることある。
今回の映画でも、演じたアキラの境遇に完全に共感することはできないけれど、セリフ一つひとつを見つめた時に、このセリフのこの感情は自分にも共感できるなと思える部分が見えてきたんです。
― アキラと通ずる感情や想いを見つけていったんですね。
人が書いたものの中に自分を探す作業って、小説を読むときにも無意識にやっているのかもしれません。それを、自分の表現として出すということは初めてでしたが。
― 俳優として芝居をすることは楽しかったですか?
楽しかったし、いい思い出がいっぱいです。あとは観てくれた人たちから褒めてもらうだけですね! 俺、褒めてもらえないと続けられない人だから。
― 完成した映画をご覧になった感想は?
役者の友達からは、最初に観る時は自分の演技が気になって、内容は頭に入ってこないって言われていて。ああすればよかった、こうすればよかったって、背中を丸めて試写室を出てくるのが役者の常だってみんな言っていたんです。でも、初号試写のときに俺は1人で号泣してしまって。音楽をやっていて、自分を見ることに慣れてるからだと思う。俺が泣けたってことは俺にとって心動く映画だと思います。
― 今回出演するにあたって、役者のお友達にいろいろお話を聞かれたんですね。
竹原ピストルさんには、今回の仕事を受ける時に連絡しました。「役者のギャラってどれぐらいなんですか?」って(笑)。でも「いくらであれ、俺は心を打つ脚本だったらやるようにしてるよ」って答えてくれて。
でっくん(東出昌大さん)も合宿してくれるって言ってたんだけど、なかなかタイミングが合わなくて。それでも完成披露試写会の舞台挨拶には来てくれて、すごくありがたかったです。
相手がいい演技をした時は、こっちの手柄でもある
― ミュージシャンも役者も、誰かから見られながらパフォーマンスするという点では似ていますよね。
決定的に違うのは、演技をしているときにカメラマンさんが後ろ側から撮ることがあるってこと。その時俺はカメラには写っていないんですけど、映っている相手の表情を引き出すのは俺なんですよ。だから、相手がいい演技をした時は、こっちの手柄でもある。それがすごく新鮮で楽しかったですね。
― 役者として気付いたことが、ミュージシャンとしての活動に活きてくることもありそうです。
そうなったら最高だね。でも相手の表現を引き出すことって、これまでも意識せずやってきていたのかもしれません。
ー それはどんなことですか?
MOROHAでインタビューを受けたときに、粗削りで、ちょっと失礼だと感じる質問があると、昔は俺も相方もぶっきらぼうな受け答えになることがあったんです。そうするとインタビュアーは焦って、縮こまってしまうわけで。でも俺たちは、ステージで音楽をやることに関しては引き出し合いだと思っているのに、なんでインタビューの時だけ引き出してくださいって偉そうな立場にいたんだろうって考え直して。実際に「すごいズバッと聞いてくるね」とか「それは新鮮だね」とか、こちらからコミュニケーションをとっていったら、本当にいい質問が出てくるようになったんです。
― 引き出し合うという意識は、普段のコミュニケーションでも大事かもしれませんね。
アカデミー賞の授賞式で、役者さんが個人賞を受賞したときも「チームみんなで取った賞です」ってよく言うじゃないですか。でも俺は「俺の実力をみたか!」ぐらい言った方がショーとして面白いのになぁ、なんて思っていたんです。だけど今回映画作りに参加して、本当に心の底からそう思って言っていたんだなってことがよくわかりました。
Profile _ AFRO(アフロ)
1988年1月7日生まれ、長野県出身。バンド「MOROHA」のMC。MOROHAは今年15周年を迎えるアコースティックギターのUKとMCのアフロからなる二人組。世代を超えた幅広い音楽ファンから支持を得るMOROHAには著名人の熱烈なファンも多く、これまでドラマシリーズ「宮本から君へ」のエンディングテーマや、映画『アイスと雨音』では劇中に登場する形で熱のこもったパフォーマンスを繰り広げたことも記憶に新しい。本作で制作側からの熱烈オファーと映画の熱いメッセージ性に深く共鳴。自分がやらねばと本作で初主演映画デビューを飾った。
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Information
映画『さよなら ほやマン』
2023年11月3日(金・祝)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
出演:アフロ(MOROHA)、呉城久美、黒崎煌代、津田寛治、園山敬介、澤口佳伸、松金よね子
監督・脚本:庄司輝秋
音楽:大友良英
エンディングテーマ:BO GUMBOS「あこがれの地へ」(EPIC RECORDS)
©2023 SIGLO/OFFICE SHIROUS/Rooftop/LONGRIDE
- Photography : Hiyori Korenaga
- Text : Sayaka Yabe
- Edit : Yusuke Takayama(QUI)