柄本佑 × 坂西未郁 – そして映画は続く
映画『メモリィズ』の主演・柄本佑と監督・坂西未郁が語る、記憶と記録の先にあるもの。






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柄本佑の純粋さと自由さ
― まずは柄本さんをキャスティングした経緯からお聞かせください。
坂西未郁(以下、坂西):僕が観客として佑さんを観ていたときから、映画の中の純粋さと想像力の自由さをいつも感じていたんです。今回の『メモリィズ』という淡々とした物語には、佑さんのように想像力を広げてくださる方が必要だと考えていました。
そんなとき、プロデューサーの孫(家邦)さんが、ふと僕に、「主人公は佑が良いんだろ?」という言い方をしてくれて。そこから他の候補を考えることもなく、佑さんにお声掛けさせていただきました。
― カメラを回しながらも、柄本さんの持つ自由さを感じることはできましたか?
坂西:そうですね。僕がロケハンをした風景を、佑さんが歩いている。モニター越しに、今日は何に反応してくれるんだろうと楽しみに見ていました。いち観客になれた気がして、すごく贅沢な日々でした。

― 柄本さんは坂西監督からどんな印象を受けましたか?
柄本佑(以下、柄本):余白の多い本ではあったので、準備することといったら監督とコミュニケーションをとって、お互いを知り合ってから現場に入ることかなと思ったんですよね。だから撮影前に何度か2人で食事に行ったんですけど、そのときと監督をしているときの印象が全く変わらなかった。そこがいいなと思って。
― お互い自然体でいられるような間柄になれた?
柄本:それが必要だったのかなと感じています。
― 年齢も近いのでしょうか?
坂西:僕は33です。
柄本:僕が、6つ上か。監督は僕の中高の後輩なんです。結構独特な学校だったので、似通ったところがあるような気はします。後輩の監督なんて初めてだから、必要以上に「がんばれ」って思いながらやっていました(笑)。
坂西:ありがとうございます(笑)。

― 雄太という役を演じるうえで、坂西監督からリクエストは?
柄本:2人で食事をしているときも役について話し合うことはほとんどなく、好きな映画の話なんかをしていました。僕自身、日頃から役の隙間を埋めていくことをしないので、演じていく中で少しずつ探していけたらいいなと思っていました。
俳優をやっていると、一番最初にぶち当たる壁が“歩くこと”で。歩くことがどんどん難しくなっていく。20年以上この仕事をやっているので、なんとなくごまかし方はあるけれど、これだけシンプルな映画なので、これまで培ってきたものはやっぱり必要ない。なるべくそぎ落としつつ、またイチから歩き始めようかといった感覚でした。でもね、歩くシーンって難しいから楽しいんですよ。
― 柄本さんが本作に寄せたコメントが、“そして、人生は続く”と締めくくられていたのですが、キアロスタミ監督の映画『そして人生はつづく』を意識したものでしょうか?
柄本:キアロスタミはこの映画の中にばっちり入ってくるよね。確認したことはないけど。
― そのコメントから、本作はロードムービーなんだと気付かされました。
坂西:そうですね。そもそも雄太が大分に行く時点で、ロードムービーの一種ではあると思うので。大移動するわけではないですけど、日常のサイクルで何かに触れていく。成長物語というわけではないですが、捉え方次第のような気もします。だから自由に観てもらえたらなと思います。

物語における必然性と一貫性
― 本当に自由な映画だと感じました。物語を描く際には、必然性や一貫性といったものをどのように意識していますか?
坂西:自分の中には一貫性がありますが、すごく日常的なシーンが多かったので、それを最初にキャストの方に話して、限定していく行為はあまり意味がないんじゃないかと考えていました。その場で面白いと思えたものを選び取っていくほうがいいと思っていたので。
僕は映画館で想像すること、集中してひとつのことを考える時間が大好きなんです。本作ではそのきっかけとなるパーツを前半にたくさん設定し、後半でその意味を想起させ、観る方の人生と結びつくものになればいいなと思いながらシナリオを書いていた覚えがあります。
― たとえば雄太がスマートウォッチで通話をすることが珍しいなと思ったんですよね。そういったひとつひとつの要素に、意味と意図を込めているのでしょうか?
坂西:そこも含めて、僕の中では、これまで見てきたものや想念をパズル的に組み合わせて考えてはいます。ただそこのネタバラシをしたところでこの映画の得にはならないので、ただ現象として起きているということに立ち返って、観ている人に自由に感じてもらいたいです。

― 柄本さんはお芝居をする際に、役としての性格や行動の一貫性や必然性について、俯瞰的に考えるものでしょうか?
柄本:いや、行き当たりばったりですけどね。別にこうしなきゃいけないとか、これをしちゃダメとか、やっているときは全然考えていません。ただ若い時よりは、いろんな発想をそのまんま試してみることは多いです。最終的には監督がよければOKするし、嫌だったらやめてくださいとなる。そっちでバランスをとってもらえていれば、こっちはだいぶいい加減なもんですよ。
― 本作でも、現場の発想から生まれたものはありますか?
坂西:(イッセー尾形さん演じる義父の)誠と雄太が一緒にいるシーンでは、最低限のセリフしか書いてなかったんですけど、イッセーさんがそこにユーモアを入れてくださって、それを佑さんが受け取るという形で作っていく流れがありました。それは義父と息子の関係性がそのまま現れているようでした。
たとえばスナックのシーンはもともと、迎えに来た雄太と誠が目を合わせて無言で一緒に帰っていくという流れだったんです。でも、段取りでイッセーさんが佑さんにマイクを渡して、佑さんが歌ってくれたのを見たときに、これはこういう関係性までいってもいいんじゃないかと思って、その流れで撮ることにしました。

― 完成した作品をご覧になった、率直な感想を伺いたいです。
柄本:撮影中はスタッフの人とも「これは2時間超えるな」と喋っていましたけど、実尺が97分ですか。それを聞いたときに「おっ!」と思って。作品を観たらその理由もよくわかったし、虎視眈眈と狙っていた策士だったんだなって感じましたね。
坂西:よく言ってくれてありがとうございます(笑)。
柄本:あとこれは監督にも言ったんですけど、今の映画だなと感じました。動画を送りあって会話をするという関係性に今を感じたのかもしれないけど、それだけじゃなく、監督自体の若さに今の感覚を見たような気がします。監督は初号(試写)のときどうでした?
坂西:人生で一番、自分の全てを見られている感覚があってソワソワしていました。終わった後、色んな方々からもらった感想の方を大事に覚えています。自分自身でももう少し経ったら作品をフラットに観られるようになるのかもしれません。
柄本:自分が監督した短編映画(『ippo』)のときもそうでした。これまで内輪でやっていた作品が、ある種社会に出ていくことと一緒だから。人が観てどう思うのか、お客さんがどう反応してくれるのか。もちろん俳優をやっているときも親父に観られる恐怖や緊張感はあるけど、やっぱり監督の比じゃないかな。

撮ることと、残すこと
― 本作のキーワードでもある“写真”に対して、坂西監督はもちろん、柄本さんも自身のフォトブックを森山大道さん、荒木経惟さんに撮影してもらうなど、思い入れが強い印象があります。おふたりは写真というメディアのどんな部分に惹かれますか?
坂西:最近、写真家の内堀義之さんの「野良写真」という展示があって、それはこれまで内堀さんが撮ってきた無数のアーカイブを一定速度で40分間ぐらい流し続けるという作品なんです。ずっと見続けていると、それらの写真に対しての思い出をいろいろ想像しちゃって。そこに何が写っているかということより、その背景を考えることが僕は好きです。
柄本:僕も高校生のときはフィルムで写真を撮ったり、家で現像したりしていました。その写真をたまに見返すと、やっぱり当時の感覚を思い出しますよね。
自分で撮ったものだから、なんでシャッターを切ったのかもわかるんです。「この写真、本当は失敗したんだよな」とか。そういうことを思い出したりして、楽しい媒体だなとは思います。
ただそういう感覚が、スマホだと希薄になっている気はします。フィルムで撮るのは、やっぱりちょっと手間じゃないですか。だからその手間の分だけ思い出に残るんでしょうね。

― 本作を経て、記録するという行為に対する意識の変化や気づきがあれば伺いたいです。
坂西:本を書き始めたときに、自分がこれまで撮ってきた膨大な写真を見返したんですけど、写真を見返すという行為に別の素敵を感じてしまったがゆえに、僕はあまり写真を撮らなくなった気がします。本作の撮影を終えてから旅行に行ったとき、以前は気軽にシャッターを切っていた場面でも、今は撮ることよりも体験しようという意識が強くなっていることに気づきました。
柄本:僕はそんなに変わらないかな。でもやっぱり撮るものは限りたいですよね。僕の性としてはやたらめったら撮るよりも、撮りたいと思えたものを撮りたい。
あと、目で見て幸福感があるんだったら、別にそれは撮る必要がない。きっと写真にしちゃったらつまんなくなっちゃうから。その逆で、全然映えないんだけど何となく気になって撮ってみたらすげえいい写真になることもある。僕はそんなことが面白いなって感じがします。

Profile _
柄本佑(えもと・たすく)
東京都出身。『美しい夏キリシマ』(03) で映画主演デビュー。近年の主な出演作に、『素敵なダイナマイトスキャンダル』(18/冨永昌敬監督)、『きみの鳥はうたえる』(18/三宅唱監督)、『火口のふたり』(19/荒井晴彦監督)、『痛くない死に方』(21/高橋伴明監督) 、『心の傷を癒すということ-劇場版-』(21) 、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(21/堀江貴大監督) 、『真夜中乙女戦争』(22/二宮健監督) 、『ハケンアニメ!』(22/吉野耕平監督) 、『シン・仮面ライダー』(23/庵野秀明監督) 、大河ドラマ「光る君へ」(24/NHK)、『木挽町のあだ討ち』(26 /源孝志監督) 。26年の待機作に『黒牢城』(黒沢清監督)、『このごにおよんで愛など』(広瀬奈々子監督)、『最後の遊戯 LAST DANCE』(村川透監督)がある。
坂西未郁(さかにし・みいく)
1992 年、東京都出身。京都造形芸術⼤学(現:京都芸術大学)映画学科卒業。⼤学時代より映画制作を始め、短編映画『すこしのあいだ』『夜のこと』などを制作する。『すこしのあいだ』において、ISCA(INTERNATIONAL STUDENTS CREATIVE Awards)映画祭2013最優秀作品賞を受賞、『夜のこと』において、京都造形芸術⼤学最優秀学科賞を受賞。⼤学卒業後、助監督(⽯井裕也監督『⽉』『茜⾊に焼かれる』など) やメイキングカメラマン(⼟井裕泰監督『花束みたいな恋をした』『⽚思い世界』など) として映画に携わる。80年代から90年代にかけて、⽇本の⾳楽シーンにミュージックビデオという分野を定着させた⻤才、映像ディレクター・映画監督の坂⻄伊作を⽗に持つ。自身もAwesome City Club「勿忘」などのミュージックビデオを監督。本作品が待望の⻑編映画監督デビュー作となる。
Information
映画『メモリィズ』
2026年6月12日(金)より全国ロードショー
出演:柄本佑/穂志もえか/梅沢昌代 伊佐山ひろ子 成田裕介 占部房子/香椎由宇/イッセー尾形
監督・脚本:坂西未郁
製作・配給:リトルモア
©︎2026LittleMore
- Photography : Yuta Fuchikami
- Styling for Tasuku Emoto : Michio Hayashi
- Hair&Make-up for Tasuku Emoto : Kanako Hoshino
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)