若葉竜也 – アマチュアであること
わずか1歳3ヶ月で初舞台を踏んで以来、役者として芝居に向き合い続ける34歳は、映画づくりにどのように取り組み、なにを目指していくのか。
額面通りではなく、何を求められているのかを探る
― 新感覚のタイムループ作品で、どんどん引き込まれていきました。まずは今作との出会いについて教えてください。
お話をいただいたのは、まだ新型コロナウイルスが蔓延していた頃でした。表に出る人たちが皆どんどん保守的になり、身体に何枚もベールをまとったような状態で。そんな状況に対し、自分の中で何か怒りみたいなものが溜まっていたんです。そしてそれを壊してしまいたいという破壊衝動がどんどん膨らんでいた時期でした。
― そんなタイミングで脚本を読んで、どのように感じましたか?
「同志がいた」という感覚が生まれました。よくわからないものを作ろうと思っている人たちの存在に手を差し伸べられたような気持ちになり、ふたつ返事で「やります」と答えていました。
― 若葉さんは今作の脚本会議にも参加されたようですが、何がきっかけだったんですか?
脚本会議に参加することは、僕にとって珍しいことではなく、今もちょうどドラマの脚本会議に参加しているところなんです。でも映画において、これほど長時間の会議に参加したことは初めてでした。
― 会議に参加してみていかがでしたか?
高学歴な荒木(伸二)さんが、すごく映画に取り付かれていて面白かったです。取り付かれすぎて「大丈夫かな?」と思う瞬間もいっぱいあり、荒木さんの無意識の狂気みたいなものをたくさん感じました。
― その後、俳優部として芝居をしていく中で、脚本会議に参加したことが生きてくる部分もあったのでは?
強みにもなれば、その分弱みも生まれてきました。作品を理解しているからこそ、自分の脳の中だけで留めてしまい、広がりが乏しくなってしまう瞬間もあって。
― なるほど。
なので、それを1度解放しなければと感じていました。役者として、本当は感情を振り切りたい時もあったのですが、それをやることでネタバレになったり先読みすることになってしまったりする危険性もはらんでいたので。監督はもちろん、演出部や撮影部、照明部などの方に意見を聞きながら、引き算していく作業をしました。
― ループを繰り返すシーンは順撮りだったんですか?
はい。事前に現場でミーティングもして順番に撮影していきました。動きを練習する時間もあったんですけど、いわゆる“アクションの動き”や“殺陣”になってしまうことが1番怖かった。僕らがやりたいのは暴力で、その暴力を撮るのであって、殺陣を撮るわけではないと思っていたので。そういう考えが前提にあったので、3回目あたりで 1度しっかり抵抗してもらった方がいいんじゃないか、という話が生まれました。
― みなさんでディスカッションしながら作っていったんですね。
殺そうとしている側と殺されるのを全力で阻止している側の間に、どういう時間が生まれるのか、ということを動きながら緻密に考えて話し合っていきました。
― ロケーションを活かした俯瞰的な引きのシーンも印象的でした。カメラとの距離がお芝居に影響することもありますか?
僕は特に意識したり何かを変えたりしてはいないです。監督から変えてと演出があれば変えますけど、その変えるレベルをアングルの中でめちゃくちゃ精査します。
― どんな風にですか?
例えば「もう少し大きな動きにしてほしい」と言われたときに、「その大きな動きで何を求められているのか」を考えます。芝居をするときは、額面通りの言葉を聞くのではなく、その人に何を求められているのかを探ることが重要だと思っているので。
その動作でどういう作用を生みたいのか探っていく中で、演じる役がぶれないように、どこでどんなチョイスをしていくのかというところが、役者それぞれの個性だと思っています。
伊勢谷さんの持つ自由さが必要な要素だった
― 伊勢谷友介さんとの共演はいかがでしたか?
本当に小学校6年生みたいな人でした(笑)。でも伊勢谷さんの持つ自由さは、この映画において本当に必要な要素だったと感じています。伊勢谷さんが自由になる瞬間こそ、この映画が一番面白くなる瞬間だと思うので。
― 自由になる瞬間とは?
誤解を恐れずに言うのであれば、伊勢谷さんは何も考えていない方が面白くて僕は好きなんです。パッと出てきて、無防備なときの伊勢谷友介という人が。その瞬間を作りたかったので、本番の直前までわざと話しかけたりしていました。
― もともと人間的に興味があったんですか?
そうですね。話を聞いていても、「こんな生き方があるんだ」、「こんなにも思ったことを全部言ってしまう人がいるんだ」と思いました。だからこそ、伊勢谷さんの魅力が存分にこの映画に焼きつけばいいなと。
― 映画の中では、タイムループを繰り返す中で(伊勢谷さん演じる)溝口との関係性が生まれていきます。若葉さんは普段どんなことで人と心を通わせていくことが多いですか?
正直、25歳を過ぎた頃から新たに友達ができることもなくなってきましたね。でも最近「ああ、いい時間だな」って思った出来事は、伊勢谷さんとスケボーをしたことです。
― 気になります。
先日、ずっと使っていなかったスケボーを持ち出して、1人で乗るのも退屈だと思ったので伊勢谷さんに電話して一緒にスケボーをしたんです。一緒に映画を作った人と過ごすなんでもない時間が、何だかすごくいい時間で。
― そういう何でもない時間が案外記憶に残ったりしますよね。
僕自身が冷酷だからとか、人が嫌いだからとかではないんですけど、現場でよく喋っていたとしても、普段はプライベートで遊ぶほど仲良くなることはあまりないんです。ある程度年齢を重ねていくと、友達ってできにくくなるのと同じ感覚で。ただ伊勢谷さんに関しては、僕自身が伊勢谷さんの人間的な部分にすごく好意的だったんだと思います。
本当の自分なんてもう一生わからない
― 昨今、世の中がすごいスピードで変化していますが、若葉さんは自身や周りの変化に適応していくことは得意ですか?
めっちゃ得意だと思います。誤解を恐れずに言うのであれば、“本当の自分”とか、そういうものに対して諦めている部分があるんです。
― 諦めている?
はい。本当の自分なんてもう一生わからないというか。僕自身がわかってないんだから、誰もわかるはずがないなと。
― なるほど。だからこそ、どんどん変えていける。
自分の中や周りで変化していくものを、当事者として感じるというよりは、その変化を眺めているという感覚が正しいのかもしれません。
― その客観性は、役者を続けていく中で培われていったんですか?
たぶん小さな頃から持っていた感覚のような気がしています。きっと、大衆演劇という場所で生まれ育って、周りが大人だらけの中で生き抜く術だったんじゃないですかね。必要な言葉と不必要な言葉を聞き分けていく、自分なりにあみ出した形だったんだろうなと。
― その能力を得たことで生きやすくなりました?
そうですね。あの環境で唯一手に入れた、役に立つものかもしれません。
― 客観性を持つことも、自分の中に軸がなければ難しいような気がします。若葉さんがお仕事をされる中で、大事にしている軸はありますか?
「アマチュアであること」ですかね。俳優という職業は、プロになるにつれて面白くなくなる職業だと思っているので。
― どんな風に面白さが減ってしまうのでしょうか?
例えば何年もやっているプロの俳優さんはアングルのこともわかっているけれど、観ていて「どうせプロの演技でしょ」と思ってしまう瞬間がある。でも、デビュー作となると見てはいけないものを目撃したような感覚に襲われるんです。映画において、僕は常にそうでありたいという感覚がすごく強いんです。
― どんなに作品を重ねていっても、芝居を初めた頃の気持ちでいたいと。
そうですね。なので、究極のプロというのは 究極のアマチュアなのかもしれません。ただ、作品を重ねていっているので、すごくたくさん矛盾とぶつかっていく。でもそれは、俳優という仕事を続けていくうえでの永遠のテーマなのかもしれません。
― となると、初めての監督やスタッフ、キャストの方々との作品作りはより面白いですか?
中でもデビュー作の人との出会いはとびきり新鮮です。僕らが当たり前にやることをやらないし、僕らが当たり前にやらないことをやってくる。そういうところを見ているいと、そこに行きたいなと思ってしまいます。
― お話を聞いていると、若葉さんは現場でいろいろな人から頼られていそうな気も。
現場ではいつも、自分ができることと監督から求められていることに対して真摯に向き合っているだけです。脚本会議とかに呼ばれるようになったのも、現場で何時間も話し込んだりすることが多いからかもしれないですね。これは一度先に呼んでおかないと……って(笑)。
― 役者さんが企画やプロデュースをする作品も増えてきていますし、いろいろなパターンはあるかと思いますが、作品作りにどんどん関わっていくことで、より面白い形が生まれそうですね。
役者が入り込みすぎることを嫌がる方もいると思うんです。でも、脚本会議に参加しても僕がやりやすいように変えてくれと言うわけではないですし、アイデアや選択肢が増えると考えたらきっといいことなのではないかと。
― 確かに。
そこは映画業界も臨機応変に柔軟に受け入れていくべきだと思いますね。役者が監督やプロデューサーに言われたことだけをやるという時代は、きっとあと1、2年で終わるような気もしています。
Profile _ 若葉竜也(わかば・りゅうや)
1989年6月10日生まれ、東京都出身。2016年、映画『葛城事件』で第8回 TAMA映画賞・最優秀新進男優賞を受賞。作品によって違った表情を見せる幅広い演技力で、数多くの作品に出演。若きバイプレーヤーとして評価を高め、NHK連続テレビ小説『おちょやん』で朝ドラに初出演し注目を集める。近年の主な出演作に、『パンク侍、斬られて候』(18/石井岳龍監督)、『愛がなんだ』(19/今泉力哉監督)、『台風家族』(19/市井昌秀監督)、『生きちゃった』(20/石井裕也監督)、『AWAKE』(20/山田篤宏監督)、『あの頃。』(21/今泉力哉監督)、『街の上で』(21/今泉力哉監督)、『くれなずめ』(21/松居大悟監督)、『前科者』(22/岸善幸監督)、『神は見返りを求める』(22/吉田恵輔監督)、『窓辺にて』(22/今泉力哉監督)、『ちひろさん』(23/今泉力哉監督)、『愛にイナズマ』(23/石井裕也監督)などがある。現在、映画『市子』(23/戸田彬弘監督)が公開中。4月15日(月)22時からスタートのドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(フジテレビ系・毎週月曜22時)に出演。
Instagram
shirt ¥53,900・pants 63,800・Jacket ¥74,800 / STUDIO NICHOLSON (STUDIO NICHOLSON AOYAMA 03-6450-5773)
Information
映画『ペナルティループ』
新宿武蔵野館、池袋シネマ・ロサ他全国公開中
出演:若葉竜也、伊勢谷友介、山下リオ、ジン・デヨン
脚本・監督:荒木伸二
©2023『ペナルティループ』FILM PARTNERS
- Photography : Shoichiro Kato
- Styling : Toshio Takeda(MILD)
- Hair&Make-up : FUJIU JIMI
- Art Director : Kazuaki Hayashi(QUI)
- Text : Sayaka Yabe
- Edit : Yusuke Takayama(QUI)