Passing through — starring Hana Amano
女優・天野はな。
まばたきひとつ、ふわり移ろう。
Interview with Hana Amano
— 天野さんの出演映画『彼女来来』が2021年6月18日(金)より公開されますが、撮影はいつでしたか?
2020年の夏、1年ぐらい前ですね。
— コロナ禍の影響もあって撮影は大変だったのでは?
そうなんです。コロナの影響で撮影のタイミングがずれ込んだりもして。まだコロナとどう対峙していいか手探りのときだったので大変でした。
ただ、わたしはキャストの中で一番年下だったこともあって、主演の前原(滉)さんにも監督の山西(竜矢)さんにもすごく助けてもらえたので、大変だったことというと本当にコロナ対策ぐらいです(笑)。
— 周りが演技に集中できる環境を作ってくれたんですね。
若い座組で、和気あいあいとした雰囲気でした。
— 映画自体はけっこう重々しくて観応えがありましたね。なんなら今日お会いするまで天野さんも恐い人なのかなと……。
そう思いますよね。すみません(笑)。
— いえいえ。天野さんが演じたマリはとらえどころのない役柄かなと思ったのですが、演じることは難しくありませんでしたか?
撮影前にはどこを頼りに(役に)入り込んでいけばいいか迷っていたんですけど、監督とお話しをして「むりやりスジを通さなくていい」と。「普通の人として演じようとするとつじつまが合わないところがでてくるから、シーンごとの流れを考えすぎずにただその場に存在してくれれば大丈夫」だと言ってくれて。
それって役者としては勇気のいる決断なのですが、監督を信じて撮影を進めていきました。
— 天野さん自身は役に対してどのようにアプローチしましたか?
それこそ最初は途方に暮れたというのが正直なところで。「わからんし、これ」と。脚本上、最終的には(前原滉さん演じる)紀夫に受け入れられていく流れはあったので、彼に愛されるということをゴールにやっていきました。
— ゴールから逆算して役作りを?
いえ、逆算というより、そこだけは強く意識していたという感じです。
— 山西監督とはこれまでにも一緒にお仕事をされたことがあるそうですね。
いまの事務所に入って仕事を始めたのが2017年なんですけど、その直前の大学生だったときに山西さんから声をかけてもらって、演劇作品をご一緒させていただきました。
— ピンク・リバティの『人魚の足』ですね。今作では山西監督から天野さんのどんなところを期待されていたと思いますか?
期待したというよりは、山西さんは最初に会ったときから私に対してちょっと人間離れした感じというか、浮遊感のある印象を受けると言っていて。たぶんそういうところが役にはまると考えて選んでくれたのではないでしょうか。
— 人間離れ……。確かにマリは人間じゃないっていう可能性もありますもんね。
だからあまりにも選択肢がありすぎて、どうとでも演じられるけれど、その演じ方次第で作品がすごく変わってしまうというポジションでした。
— 観ている側にもゆだねられている部分が多い作品だと思うんですが、演じる側には「実はこういうことなんだよね」という説明はあったのでしょうか?
山西さんの中では明確にこういうことを思っていて、こういうことがやりたいというのがあって、それはみんなに共有されていました。ただ一つひとつの行動に対して細かく演出をつけるようなことはありませんでした。このキャストでこの映画を撮るということを信頼してくださっていたので、監督として冷静な目で見て調整するという感じでした。
— ラストシーンも印象的でしたが、そこに対しての解釈など説明は受けましたか?
そこはよく訊かれるのですが、具体的な打ち合わせはしていなくて。ラストシーンも私は思っていることがありますが、監督とは共有していないし、謎のままという感じですね。
— 最後の顔はすごみがありましたよ。
こわかったですよね(笑)。できあがった映画を観て、自分でもびっくりしました。
— 作品全体の感想はいかがですか?
撮影中はマリという役を通して作品に触れていたのでハテナが浮かぶところもたくさんあったんですけど、そこから引いて物語として観たときに、人との出会いってあんな感じだなって。いろんな部分をそぎ落としているから奇妙な映画になっているけど、わかり得ない他人と出会って受け入れていくということとか、すごく普遍的で腑に落ちて不思議でした。
— 奈緒さんが演じたもう一人の茉莉(まり)と同じシーンはなかったですよね?
おそらくなかったと思います。入れ替わるシーンで同じ現場にはいましたが。奈緒ちゃんと私はもともとお友だちで。
— 前原滉さんとは初めまして?
はい。でも奈緒ちゃんと前原さんの共演はすごく多いので話にはよくあがっていて、今回ご一緒できてうれしかったです。前原さんは年上なんですがすごくフラットに接してくれて、ふざけあえるような空気を作ってくれたので甘えていましたね。
— そもそも天野さんが役者になりたいと思ったきっかけについてお聞かせください。
高校までクラシックバレエをやっていたのですが、プロになることは考えたことが無くて、じゃあ大学で何を学びたいかと考えたときに、舞台の上は好きだったから演劇を学べるところがいいかなと。明治大学の文学部に座学で演劇が学べる専攻があったので、勉強をがんばって進学しました。入学してみるとみんなが学生演劇をやっていて、わたしも仲間に入れてほしいなと。
でも本当に演技を仕事にしたいと思ったのは、2017年に事務所に入って初めて受けたイキウメさんの『散歩する侵略者』っていう舞台のオーディションでした。その台本を読んだときに、生まれて初めて「この役が絶対やりたい、死んでもやりたい」と思って。それが衝撃でした。それでそのオーディションに受かったら役者の道にいく、落ちたら就活をすると決めて、運良く受かったっていうのが決定的なときですね。
— 運命的ですね。ただ高校のときは演劇をされていなかったのに、大学が演劇学専攻とは思い切りましたね。
確かにそこに行きたいと迷わず勉強した割には、行ってから座学で何を学びたいのか何も分かっていなかったというか。
— 実際何を学ばれたんですか?
演劇史とか、演出家という存在がいつできたとか、イギリスの俳優育成システムはこうなっててとか、本当に勉強ですね。ただ演劇好きな子がいっぱいいて、一人だと触れてこなかった作品を観たり、戯曲を読んだりできたので、結果的には良かったなと思います。
— 最後にプライベートについて少しだけ。趣味ってありますか?
信じられないぐらいよく寝るので、休日はほとんど寝ているんですけど、たまにギターをひいたりします。あとは本を読んだり、編み物をしたり。編み物は1日8時間とか編んでいます。ちょっとせっかちな性格で、何日もかけて編むのは嫌なんですよね。編み始めたらその日にかたちにしたくて、夜中の2時3時になっても血眼になって編んでいます(笑)。
— ゆったりしている方なのかなと思っていましたが、けっこう熱くなるんですね。
そういう面もありますね。たとえばお菓子も作るとなるとパイシートを買ってきて焼くというのは嫌なのでそこから作りたいんです。何時間もかけて作っています。
— すごい。天野さんのクリエイター気質が垣間見えたような気がします。
Profile _ 天野はな(あまの・はな)
1995年9月1日生まれ。愛知県出身。2017年、イキウメ「散歩する侵略者」に出演し、本格的に活動を始める。ドラマ「そして、ユリコは一人になった」や「年下彼氏」でメインキャストに抜擢され注目を集めた。2021年7月、1300人を超える中からヒロインに選ばれた舞台「反応工程」が昨年の中止を乗り越え新国立劇場にて上演予定。
Information
天野はなさん出演映画『彼女来来』
2021年6月18日(金)より、 新宿武蔵野館ほかロードショー
ある日、彼女が別人になった。
監督・脚本:山西竜矢
音楽:宮本玲(Vampillia)
出演:前原滉・天野はな・奈緒 ほか
© 2020 she_rairai
- Model : Hana Amano(FMG)
- Photography : Maho Hiramatsu
- Hair&Make-up : Mei Ando
- Art Direction : Kazuaki Hayashi(QUI / STUDIO UNI)
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)