セレクトショップの次なる視線|seer.studio Hideboy.
トレンドをとらえたブランド、趣味や嗜好性が表れた服、目利きがキャッチした 新世代のデザイナーなど、コンセプトが明確なショップであるほど、 ファッションに対する美意識は店内の品揃えからも一目瞭然だ。そんなショップを訪れるファッションフリークが気にしているのは、 常に新しい刺激を提案してくれるオーナーやバイヤーの次なる動向や関心。
今回は取り扱いブランドはプライベートでも着ているものばかりという「seer.studio(シアー スタジオ)」のディレクターHideboy.さんにお話を伺った。
渋谷区神南のセレクトショップ「吾亦紅 WARE-mo-KOU」で約7年経験を積む。2019年から2023年の5年間はバイヤーを務め、新進気鋭なブランドを世界中から買い付け、ショップを成長させた。2024年2月に独立し、同年8月に完全アポイント制の「seer.studio」を池尻大橋にオープン。2025年8月に南青山に移転。「先見」や「預言」をコンセプトに未来あるまだ見ぬ服、物、事象を編集し、世界に向けて発信している。
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@hideboy615
覚悟を持ったお客さんとの出会いを求めてアポイント制に
—「seer.studio」のスタートはいつからですか。
Hideboy:南青山でのショップオープンは2025年8月ですが、1年前に同じ店名で池尻大橋でスタートさせているんです。なので南青山はリニューアルオープンのような感じです。

—ショップは完全アポイント制ですが、それは池尻大橋の頃から変わらずなのでしょうか?
Hideboy:そうです。池尻大橋の頃は住所も非公開でした。
—完全アポイント制というスタイルを選んだのはどういう理由からでしょうか。
Hideboy:「seer.studio」を始める前は、渋谷区神南の「吾亦紅」で働いていて、そこはオープンドアなセレクトショップだったので、ありとあらゆるファッション好きが集まるようなお店でした。SNSでブランドについても服についてもすでに情報を得ているお客さんも多く、接客をする間も無く自主的に購入してくださっている状態でした。
—そうなると販売スタッフとしては接客をする楽しみは少ないですよね。
Hideboy:そうなんです。お客さんと会話をして、ブランドや服に価値を感じてもらって、納得して購入してもらうことが自分の販売員としての喜びだったのですが、そういう機会が時代と共に、徐々に減りつつありました。なので完全アポイント制にすることで、「初めて出会うブランドや服を買う覚悟」を持ったお客さんが訪れてくれるかもしれない、そういうお客さんと再び出会えるかもしれないと期待したんです。
—完全アポイント制について想定内も想定外もあるとは思いますが、実際に運営してみてどうですか。
Hideboy:南青山に移転して住所も公開したことで問い合わせはすごく増えました。完全アポイント制というと閉ざされたショップのようなイメージが先行しそうですが、関心を持ってくれるお客さんがたくさんいたこと、それは想定外でした。僕はデザイナーやクリエイターに友達が多くて、そんな方たちがSNSでショップのことを取り上げてくれることもあり、「Hideboyって何者だ?」と謎めいた人物のように興味を持ってくれた人も多かったみたいです(笑)。
—前のセレクトショップで働いていたときから独立は考えていましたか?
Hideboy:「吾亦紅」で働き始めた時点でファッション業界に身を置こう、30歳になったら自分で何か行動を起こそうと決めていました。30歳までは勉強と考えて、「吾亦紅」では早くからバイイングも任されていたのでその経験を活かせば何かができるはずだと。独立というのは選択肢のひとつであって最初から考えていたわけではありません。
—若くしてバイヤーを任されてやりがいもあったと思いますが、結果的に独立をした理由は?
Hideboy:今では有名なブランド達が、僕が入社した当時は、
—店名にある「seer」は「先見」という意味がありますがHideboyさんがセレクトショップとして大切にしているのは、まさにそこなんですね。
Hideboy:そうです。僕がセレクトショップで最も重要だと思っている想いをそのまま店名にしました。
—「先見」を大切にしているのは、「seer.studio」のブランドラインナップを独自性のあるものにしたいからでしょうか。
Hideboy:それはちょっと違います。「あまり知られていないブランドを「seer.studio」では取り扱っている」って言いたいわけではないです。僕は多くの服を見てきましたし、自分でも購入してきました。そんな経験から言えることですが、ひと目で惹かれる服ってなかなかないですが、もしも見た瞬間に飛びつきたくなるような服との出会いがあったとしたら「seer.studio」で多くの人に広めたいんです。
—「seer」はHideboyさんの「目に留まった」みたいな意味合いでもあるんですね。
Hideboy:「こんなイケてる服が埋もれたままではもったいない」という気持ちは強いです。<Natasha Zinko(ナターシャ ジンコ)>はブランドとしてはもう13年ですが、2025年の春夏コレクションからリブランディングをしてクリエーションが見違えました。服作りのノウハウがしっかりしている、キャリアも実績も十分にある、そんなブランドが次世代に向けて実験的な服に挑戦しているのがすごくかっこよかったので取り扱いを始めました。
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—Hideboyさんのアンテナに引っかかってきたブランドや服を実際にセレクトするときに重要視しているポイントなどはありますか。
Hideboy:その服を東京でリアルに着られるかどうかです。例えばパリのショールームでかっこいいと思える服を見つけたとしても「これはパリの石畳を歩くからこそサマになる服だな」と判断すれば東京に持ってくることはしないです。独創的な服ってたくさんありますが、それがファッションとして機能しなければ意味はないと思うんです。
同質化しないように突き抜けたスタイリングを提案する
—あまり知られていないブランドや日本に入ってきていない服の魅力をしっかり伝えたいということでは完全アポイント制というのは理にかなっていますね。
Hideboy:お客さんがすでに情報を持っているブランドほどやっぱり売りやすいですし、それはビジネスとしては大切なことです。でも自分でセレクトショップを立ち上げているのに周囲と同質化するようなブランドを揃えるのが面白いかと言われたら、そうではないので。
—「seer.studio」を訪れるのはどんなお客さんが多いですか。
Hideboy:ファッションを楽しみ尽くしていて、さらに刺激をもらえるような新しい服を探しているようなお客さんが多いです。そういう人ほど「seer.studio」を面白がってくれている気がしています。
—お客さんの多くはHideboyさんのファッション感と近しいかもしれないですね。
Hideboy:類は友を呼ぶ作戦です(笑)。
—今、世の中はファッションに何を求めているように感じていますか。
Hideboy:SNSの影響もあって、みんなが知っている、みんなが選んでいる服を着ることで安心感を得たいと考えている人は一定数いると思います。それは自分がおしゃれになるためのファッションではないんじゃないかなって感じることもあります。逆にマイノリティーだとしてもデザインが尖っている服を求めている人もいます。「seer.studio」としてはそういった服好きたちとファッションを楽しんでいければと思っています。
—例えばHideboyさんがかっこいいと思ったブランドがすごく流行って、世の中にあふれたらどうしますか。別のブランドに目を向けるのでしょうか?
Hideboy:逆張りしたいわけではないので、かっこいいと思っているブランドであれば「seer.studio」で取り扱いは続けます。ただ、みんなが着ているブランドであっても、そこと同質化しないようにさらに突き抜けた提案します。
—「seer.studio」らしさというのが少しずつわかってきた気がします。
Hideboy:<Omar Afridi(オマール アフリディ)>は多くのショップが取り扱っているブランドですが、「seer.studio」では2025年秋冬はニットアイテムしかセレクトしませんでした。その理由は今シーズンの気分にドンピシャで、
—あくまで傾向でいいのですが、どんなブランドが刺さってくることが多いですか。
Hideboy:ピンとくる、こないというのは気分だったりするのですが、言語化するならタブーのようなことをクリエーションに昇華するのが上手なブランドです。<Natasha Zinko>の4枚重ねたTシャツはバランスやパターンが複雑です。でも、細部まで緻密に計算しているからこそ無理なく着られますし、ファッションとしても成立している。アプローチとしては面白くてもリアルに着られない服だと意味がなくて、そこをクリエーションで超えてくるブランドは刺さってきますね。
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—「ファッションを楽しみ尽くした人が訪れる」と言っていましたが、そういうお客さんだからこそHideboyさんが見出した「タブーを超える」という感覚に共感できるのかもしれないですね。
Hideboy:「かっこよさがわかんない」というお客さんだって歓迎です。お悩み相談もよくしています(笑)。
—アポイント制だけど、来るものは拒まず(笑)。
Hideboy:もちろんウェルカムです(笑)。アポイントを取ってまで「seer.studio」に足を運びたいと思ってくれるお客さんってどんなファッション感なんだろうって、僕はそこの興味が尽きないです。初対面でも会話をすることで意気投合したり、仲良くなったり、それも楽しいです。
—お客さんとの関係性で大切にしていることなどはありますか。
Hideboy:仲良くなったお客さんとはランチに行ったり、カフェでお茶したり、雑談を楽しんでから、「じゃあ「seer.studio」に服を見に行きましょう」ってよくあることです。販売員と顧客の関係はこうあるべきなんてこだわりは全くなくて、僕の接客スタイルにマニュアルはないですね(笑)。
「seer.studio」らしさは変えることなくいずれは路面店に
—取り扱いのブランド数は絞っているように見えますが、それはあえてですか。
Hideboy:数が少ないのは現時点で自分が惚れ込んだブランド、アイテムだけを取り扱っている結果です。<Natasha Zinko>も<pet-tree-kor(ペット ツリー コア)>もブランドが卸先を絞っているみたいですけど、「seer.studio」でどうしても取り扱いたいと想いをぶつけたら展示会に呼んでもらえました。パッションあるのみです(笑)。
pet-tree-kor 2025AW COLLECTION はこちら
—熱意が伝わったんですね。
Hideboy:<pet-tree-kor>のチームに後から聞いた話では僕が展示会で選んでいるアイテム、色や柄が他のバイヤーとは全然違っていたみたいで「なんか視点が独特だな」と思っていたそうです。
—店内はコンパクトですが、Hideboyさんの目に留まるブランドが増え続けたらどうしますか。入れ替えたりするのでしょうか。
Hideboy:取り扱っているのは海外で買い付けたものばかりなので、ブランドが増えていったら入荷のスケジュールを調整しようと考えています。例えば5ブランドの新作を買い付けたとしても今月は2ブランド、来月は3ブランドとわけて入荷した方がお客さんも毎月新しい出会いを楽しめるはずです。無理に先取りしようとせず、今着たくなるような服を展開したいです。
—ショップで無理なく展開できるならブランド数に制限はかけたりしないんですね。
Hideboy:僕に感動を与えてくれるブランドは常にフックアップしていきたいです。逆に感動が薄れたら1シーズンだけで取り扱いをやめるということもあり得ます。
—店内は青の床、白い壁面、無機質なアルミの什器と宇宙船を想像させるような独特の雰囲気ですが、空間演出のこだわりなどはあるのでしょうか。
Hideboy:僕は「銀行」っぽい店内にしたかったんです。お堅いイメージのある職場を連想させる空間でファッションをやる。その違和感も面白いかなって思って、最初は待合室のような椅子も置こうかと思ったぐらいです。接客はカウンターを挟んで行うこともありますよ。
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—現在は服がメインですが、取り扱ってみたいジャンルなどはありますか。
Hideboy:シューズはやりたいですね。2026年春夏のためにパリでブランドを見て回ったのですが、「seer.studio」らしい足元ということで検討したらピンとくるものがなかったんです。高級感のあるビーチサンダルが僕の気分としてあって、結果的に<Natasha Zinko>のサテンサンダルがラグジュアリーな雰囲気にあふれていたのでセレクトしました。ブランドに変化はありませんが、新しいアイテムとしてビーチサンダルが入ってきます。
—これから「seer.studio」をどういうショップにしていきたいですか。
Hideboy:取り扱うブランド数は間違いなく増えていくはずで、そうなると「seer.studio」を一緒に面白がってくれるスタッフも増やしたい。ブランドもアイテムもスタッフも増えて、お客さんにもしっかり対応できる体制が整ったらアポイント制もやめて路面店にできたらいいなって思っています。お店の運営が変わったとしても、僕が感動した服だけを揃える「seer.studio」らしさは変えないですけどね(笑)。
Hideboy.がレコメンドする3ブランド
<Omar Afridi(オマール アフリディ)>
このブランドのアイテムを軸にすることで、「seer.studio」が提案したいスタイリングが完成すると言っても過言ではありません。まるでシンクロニシティのように、僕が最先端と考えるアイテム、デザインを毎シーズンのようにカタチにしてくれるブランドです。
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@omarafridi_official
<Natasha Zinko(ナターシャ ジンコ)>
2025年から新しいビジュアルディレクターをチームに加えたことでクリエーションが変わり、「かっこいい女性像」を感じさせる服に惹かれました。ポケットを多用したカーゴパンツ、4枚重ねたTシャツなど、「過剰だけど着ると正常」という唯一無二の魅力を感じます。
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@natashazinkomagazin
<pet-tree-kor(ペット ツリー コア)>
中国人3人組によって立ち上げられた上海ベースのブランドです。テックウェアを思わせるような凝ったパターンが特徴ですが、そこにメリノールといったクラシックな素材を当て込むバランス感覚が絶妙で、オリジナリティが秀逸だと思っています。
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@pet_tree_kor
seer.studio
「seer.studio」は、バイヤー経験を持つHideboyが2024年に池尻大橋でスタートし、2025年に南青山へ移転した完全アポイント制のセレクトショップ。自身が「感動した服だけ」を軸に、独自の視点で世界各地からブランドを選び抜く。情報過多の時代において、覚悟を持って訪れる客と対話を重ね、同質化せず突き抜けたスタイリングを提案。未来には路面店化を視野に入れつつ、ブランドの核心である「先見」を体現し続けている。
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- Photograph : Junto Tamai
- Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLe)
- Edit : Miwa Sato(QUI)








