Yohji Yamamoto POUR HOMME 2025 秋冬コレクション、“ヨウジ流”人情溢れるパファーウエア
ファーストルックは、出席したゲストの予想を大きく裏切った。ドレープはなく、<Yohji Yamamoto POUR HOMME>にしてはタイトでクリーンなシルエットにはある種のカジュアルさが漂う。鈍い光沢のベルベッドのセットアップは、どうやら中綿が入っているようだ。
続くセカンドルックでは、ふっくらと厚みのあるシルエットのチェック柄セットアップに身を包んだ、髭を蓄えたダンディな男がのしのしと闊歩してくる。アーティストのモハメド・ブーロイサだ。3体目、4体目、5体目と中綿入りのアイテムが続くと、誰もがこのショーがいつもとは違うものであることを理解した。
山本耀司はこのコレクションを作るにあたって、雨や雪の日に外出する男たちのことを考えていた。おそらく彼が思い描く人物像はひとつではなかったのだろう。無骨な印象のルックもあれば、都会的な印象のルックもあり、シルエットも多様だった。
パファーといえども、スポーティに見えないルックが多かった。スラブコットンやシルク、リネンなど、ダウンウェアではあまり採用されない表情豊かな素材が使われていたからだろう。端正なカッティングもまた、そのスポーティーさを程良く消していく。
バイアスや中綿の有無で表現されるストライプなど、パッディングでの表現の探求にも抜かりはない。雪のような白やワインレッド、さらに淡いグリーン、カーキ、ビリジアンといった緑のバリエーションも目を引き、メタルチェーンの使い方やショート丈の中綿パンツも新鮮に映った。
サウンドトラックは、日本の歌謡曲だった。山崎ハコの「織江の唄」はセンチメンタルなムードを醸し出し、西岡恭蔵の「プカプカ」(山本耀司によるカバー)は少し陽気な気分を誘う。アーティスト・詩人のロバート・モンゴメリーや、ダンサーのユーゴ・マルシャン、俳優のセス・リーなどがモデルとして登場し、アーティストのリュック・テュマンスとカーラ・アロチャ夫妻は揃って、肩を寄せ合いながら歩いた。途中には、上着を脱ぎ裏返しにして、モデル同士で交換し合う場面も。
そのクリエイションは、ただ温もりに溢れるだけではない。服にプリントされた「DESPAIR IS THE CONCLUSION OF THE FOOL(絶望は愚か者の結論である)」や「SADNESS AND SUFERING ARE THE FLOWERS OF LIFE(悲しみと苦しみは人生の花だ)」といった言葉には、挑発的な態度も含まれている。山あれ谷ありの人生の奥深さを込めながら、山本耀司は布地の上での挑戦を繰り返し、まだまだ新しさを求め続ける。
- Photograph : Ko Tsuchiya
- Text : Ko Ueoka
- Edit : Yukako Musha(QUI)