多様化されるブランドの発表形式を考える|Rakuten Fashion Week TOKYO 2023SS
東京コレクションウィークに参加するブランドの約半分は、デジタルムービーで発表している。今年の9月に行われた2023年春夏コレクションでは、一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)がスタートしたブランドサポートプログラムのデジタル部門「JFW DIGITAL GRAND PRIX」を設け、初代受賞者に「MEGMIURA wardrobe」が選ばれた。
フィジカル部門では、大賞を<FETICO(フェティコ)>が受賞した。
FETICO 2023SS COLLECTION RUNWAY
また、特別賞を<HAENGNAE(ヘンネ)>と<natsumi osawa(ナツミオオサワ)>が受賞。オフィシャルのショー会場であった渋谷ヒカリエの8階にて、特別展示が行われた。
<natsumi osawa>は、わずか2年目にして、多くの業界人の目に止まる機会を手にした。若手ながらも、古い着物のアップサイクルや、ビー玉を駆使した絞り加工のアイテムなど、プロも頷くクリエーションであった。
展示会場をショー会場付近に設け、若手ブランドの特別展示を開催し、世界に発表できる機会を設けていることは、若手や小規模で行なっているブランドも参入しやすい環境となっている。
※「JFW DIGITAL GRAND PRIX」とは:「世界に向けた新人デザイナーの登竜門」を通して、今後グローバルにファッション業界で活躍が見込める新しい才能を育成・支援していくことを主旨とし、フィジカル部門「JFW NEXT BRAND AWARD 2023」とデジタル部門「JFW DIGITAL GRAND PRIX」を設定している。
このように発表形式は多様化され、デジタルムービーでの発表もフィジカルショー同様、スタンダードになりつつある。
そこで現在、多様化される発表形式が、ブランドにとって、どのような変化をもたらすのか取材を行った。
BASE BARK
現在ファッション業界で確実に知名度を伸ばしている<BASE MARK(ベースマーク)>。
きっかけは、楽天ファッションウィークの公式スケジュールで発表してからだという。
ブランドを本格的に開始したのは2017年。3年後の2021年春夏からは公式として参加。
2022年春夏までデジタル形式で3シーズン発表し、2022年秋冬からは、「より多くの人に”体感”してもらいたい」という想いから、フィジカルショーを開催している。
デザイナー金木氏は「デジタルは視覚的に、フィジカルショーは体感にこだわっている。今後は両方のクオリティが上がるものを提供したい」と目標を掲げていた。
デジタルは、映画などの手法を使い、ブランドコンセプトなど服以外の雰囲気を伝えることが可能だ。しかし、ランウェイショーだと、舞台上のセットや音楽以外で、他のブランドとの差別化が難しいと感じる。
2021年春夏で発表したムービーでは、ポップで明るいシーンがあり視聴者の心を豊かにしてくれた。そんな演出をフィジカルでも伝えられるとより多様な人に届くのではないだろうか。また、デジタルは情報として残るものなので、デザイナー金木氏の言う「両方のクオリティ」に着目したのは、2つを経験したからこそ頷けるものだった。
BASE MARK 2023SS COLLECTION はこちらから
el conductorH
2023春夏、楽天ファッションウィークの公式スケジュールで、デジタルムービーを配信した。発表と同時刻に、関係者にはライブハウス内でコレクション映像の上映と5周年パーティーを開催。デジタル形式を取りながら、フィジカルで集まれる機会を設けた。ゲストには、ラッパーのJIN DOGG 、DJにFUJI TRILLなど、HIPHOP界を賑わせているメンバーが集まり、関係者にもグラフィティやミュージシャンなど、多方面からストリートで活躍している若きアーティストが訪れていた。
デザイナー長嶺氏は、ブランドを立ち上げる前にクラブイベントのオーガナイザーや、PRと多岐にわたるファッションの仕事を経験しているからこそ、現在ストリートシーンを担っているアーティストを招き<el conductorH>に合う若者をキャッチできるのだと感じた。
ファッションウィークでは、ブランドの新作やデザイナーの想いに目が行きがちであるが、ファッションにはカルチャーがあり、そのカルチャーを作っている現役のアーティストやリアルに集う若者にも注目すべきであることを再認識させられた。
el conductorH 2023SS COLLECTION はこちらから
DRESSEDUNDRESSED
2012年から10年間欠かすことなく、東京コレクションの公式スケジュールで発表してきた<DRESSEDUNDRESSED(ドレスドアンドレスド)>。2020年のコロナパンデミック以降、デジタルに移行してから現在も変わらずデジタル形式にこだわっている。
2022年秋冬からダムタイプ古橋悌二氏 (1960-1995)の遺作『LOVERS』をテーマにしており、ムービーではコレクションを見せるより、テーマの根源となる身体性、自己愛、他者愛など関係性を問うようなアート作品を感じさせる。
展示会ではデジタル配信と関連した動画を2台のプロジェクターを使い、異なる長さで同じ映像をループで投影。展示期間中1度も重なることがなく、来場者が全て違う映像を見るという体験型となっていた。
また、10月上旬にはポップアップ会場で遺作『LOVERS』の想いを、ブランドを通して再解釈したパフォーマンスを行った。観客と演者が接点を持つ内容で、「ジェンダーの問題は、特別なものではなく誰もが当事者である」と気づかされるものであった。
デザイナー北澤氏は「展示で投影した映像のように、同じ景色を見られないという体験は”消失”と言えます。新型コロナウイルスが蔓延する以前の景色には戻れないことも同様です。この体験を経て、やがて失われてもかまわないということを受け入れ始めます。新たなことが生まれるのだからこだわらなくても良いと。しがみつき所有する必要はないのだと。始まりと終わりのない映像と音楽によって、日常を手放し、非日常に身を委ねる経験は良い経験なのではないかと私は思います。」と語った。
ファッションはアートの力を借りて、文化として広げる役割があると考えている。それはアートの表現を服というツールを使って落とし込むことだったが、<DRESSEDUNDRESSED>はアートを自身の解釈でパフォーマンスを行うことで発信している。ブランドの服を買う、着ることだけでなく、それぞれが持ち帰って考える機会を作っているように感じた。服を愛するものとして、そしてクリエイターとしてとても重要なことだと思う。
DRESSEDUNDRESSED 2023SS COLLECTION はこちらから
多様なアプローチが見えた23年春夏コレクション。楽天ファッションウィークの中で、同じデジタル形式を選んでも他とは違った「体感・体験」ができることは、服を愛する人の心を掴み、それぞれの思想や文化に影響させる役目を果たしている。その役目を果たすためには、ファッションウィークの中で多様なブランドが多様な思想でアプローチしていることを、多くの人に知ってもらう必要がある。パリ、ロンドン、ミラノ、ニューヨークと比べ、盛り上がっていないと指摘される東京。日本には素晴らしいブランドがあるにも関わらず、この指摘は業界の課題であるだろう。
- Text : Keita Tokunaga