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控えめだけれど意志や挑戦が宿る服を|arenotis 辻竜一

Feb 20, 2026
2026年も大きな反響を呼んだQUIの「ファッション業界人が注目するブランド図鑑」。次世代のブランドを常にチェックしているQUI編集部でも未知なブランドが数多く、<arenotis(アーノッティーズ)>もそのひとつだった。インポートからドメスティックまでブランドを立ち上げる前からのデザイナーの辻竜一の横断的なキャリアにも興味を持ち、2026年秋冬コレクションの展示会開催前のタイミングでインタビューを申し込んだ。

控えめだけれど意志や挑戦が宿る服を|arenotis 辻竜一

Feb 20, 2026 - FASHION
2026年も大きな反響を呼んだQUIの「ファッション業界人が注目するブランド図鑑」。次世代のブランドを常にチェックしているQUI編集部でも未知なブランドが数多く、<arenotis(アーノッティーズ)>もそのひとつだった。インポートからドメスティックまでブランドを立ち上げる前からのデザイナーの辻竜一の横断的なキャリアにも興味を持ち、2026年秋冬コレクションの展示会開催前のタイミングでインタビューを申し込んだ。


自分が本当に作りたい服と向き合うために独立

—<arenotis>のデビューは2023年秋冬コレクションからですけど、辻さん自身のデザイナーとしてのキャリアはそれ以前からなんですよね。

辻:学生時代は大阪だったのですが、服飾専門学校を卒業してから上京してテーラード系、ドレス系、カジュアル系までインポートからドメスティックまで幅広く服作りに携わったので<arenotis>を立ち上げる前に積み上げたキャリアは10年は超えます。

—服飾専門学校に進んだということはデザイナーという目標があったんですよね。

辻:自分が表現したものを多くの人に伝播させたいという思いはずっとありました。そうなると仕事としては広告クリエイターかファッションデザイナーかなと考えて、僕が選んだのが服作りの道だったんです。

—自身のブランドを立ち上げるいちばんのきっかけはなんだったのでしょうか。

辻:経験を積むほど、服に関わる「見えなくてもいい部分」までが見えるようになって、大好きだったファッションから気持ちが離れてしまいそうな時期もありました。そうしたときに「自分が本当に作りたかった服って何だろう」と考えるようになって、自分らしい服の表現を模索し始めたんです。誰かの意見に左右されることなく、ピュアな気持ちから生まれた感覚を服として具現化したいと思い自分のブランドを立ち上げたんです。

—ピュアな気持ちからどのような服を作りたいと思ったのでしょうか。

辻:自分も30代になっていたので悪目立ちしたいわけでも、ヒエラルキーやセクシャルを誇示したいわけでもない。その時代のムードを纏いながらも、上品さと上質さがあり、テクニックもさりげなく効いている。着ると自然と背筋が伸びるような服を自らの表現で提案したいと思いました。

—ブランドもテイストも横断してきたキャリアは現在のモノづくりにどのように活かされていますか。

辻:パターンや縫製の仕様などを自分が作りたい服に寄せていくのではなく、工場や職人の特性、コストとのバランス、量産時の再現性まで含めてかなり現実的に判断できるようになりました。ただ合理性や効率が全てとは考えていなくて、ロジカルな思考にあえてズレを加えることも意識しています。時代性に乗るのか、あえて少し逆行するのか、やりたいムードや色気を損なわず、程よい抜け感と作り込みを両立した服を目指しています。

—ブランドがデビューした時点で<arenotis>はかなりの引き出しを持っていたんですね。

辻:それが良いのか悪いのか、「デビューしたばかりのブランドなのに玄人っぽい」と言われることもありました。初々しさがなかったのかもしれないですね(笑)。

主張は小さく効きは強くという設計を意識する

—<arenotis>というブランド名にはどういう思いを込めたのでしょうか。

辻:ブランド名はシンプルかつクリアで、誰にでもすっと馴染む響きにしたいという思いはありました。「are」、「not」、「is」を組み合わせた造語なのですが、大切にしているのは「are(複数)」ではなく「is(単数)」の感覚です。大衆に埋もれるのではなく、誰かにとっての「お気に入りの一着」になるブランドでありたいという思いを込めています。

—ブランドを立ち上げるときに最も大切にした美学のようなものはありましたか。

辻:ブランドコンセプトとして掲げているのが「Understated yet intrepid(控えめでありながら大胆)」です。僕は物持ちがいい方で、自分のクローゼットを見返すと、やはり派手に主張する服よりも静かだけれど強さを持った服が残っています。ニュートラルでボーダレス、でも芯はある。控えめな佇まいの中に意志や挑戦が宿っている服をブレずに作り続けたいと思いました。

—「控えめでありながら大胆」というのは相反するような要素だと思いますが、プロダクトにどのように落とし込んでいるのでしょうか。

辻:今季の2026年秋冬コレクションでいえばオーバーダイが一般的なスウェットにろうけつ染めを施したり、2024春夏コレクションでは立体のアニマル柄ストライプをオパールボンディングで表現したり、ぱっと見ではわかりにくいことが多いとは思いますが、よく見てみると「ここが効いている」と気づく程度の差異を常に意識しています。主張は小さく効きは強く、という設計が<arenotis>のモノづくりです。


ろうけつ染めを施したスウェット


オパールボンディング加工でアニマル柄ストライプを表現

—素材、縫製、染め、パターンなどブランドとして服作りにおいて最も力を注いでいることはあるのでしょうか。

辻:全体像の組み立てを重視しているので、どれかひとつというのはないですね。パターンが正攻法だったら、素材はギミックを効かせたり、そのバランス感は大切にしています。出し引きの加減を計算しているので、最終的なアウトプットはそこまで奇を衒っているようには見えないと思います。

—現在は6シーズン目ですが、「玄人っぽい」という評価にも変化はあるのでしょうか。

辻:2026年春夏からリブランディングをしたのですが、それによってブランドに対する反応も少し変わった気はします。

—リブランディングというのはどのような方向性に振ったのでしょうか。

辻:初期は30代、40代の男性のクリーンなファッションというのをイメージしていたのですが、時代のムードを顧みて上品であることは変わらないですがストリートっぽい要素を加えたりしました。新たに設定した男性像は「ちょっと悪ぶりたい私立高校のお坊ちゃん」です。スケボーで遊んでいるけど足元はローファー。やんちゃをしているようで結局は上品だよね、みたいな。


—自分が作りたい服を貫くだけでなく、時代のムードを汲み取ることも大切にしている?

辻:そこは大切にしていますが、世の中に迎合して服を作っているわけではなくてムードを踏まえながらも世の中になかったような表現を提案するようにはしています。

—2026年秋冬コレクションのテーマはなんでしょうか。

辻:「undone -残温-」がテーマです。秋冬のウォーム感をコーデュロイやボアなどの直球的な素材で表現することは多いと思うのですが、<arenotis>ではもうひとつフィルターをかけたくて、「服に触れる前後の温度」を意識して素材を選びました。脱いでもしばらくは体温が残るような蓄熱素材を裏地に採用したブルゾンなど、機能としての温かさだけではなく、着用前や脱着後に静かに残る温度を表現しました。服は人が着て初めて完成するものなので袖を通すまで未完成=undoneという意味も込めています。


—ムードを大切にしていると言っても「温度を残す」という表現のために蓄熱素材を選ぶなど、アプローチは機能的で具体的ですね。

辻:僕の服作りは学生の頃からずっと変わらないです。雰囲気や気分だけには留まらないようにしているので一着についていくらでも語れるのですが、蘊蓄だらけの服になるのも嫌なのであえては語りません。極端に言えば全てが正確に伝わらなくても構わない。何かを感じ取ってくれたらそれで十分です。

—コレクションのテーマはどのようにして思いつくことが多いですか。

辻:日々の中でふと思ったこと、感じたことなどをひたすらノートに残しています。「残温」というのも脱いだ服からも自分の体温を感じて、そこからテーマが生まれました。テーマとなる単語はいつもファッションからは離れているので、それをどれだけ服でリアルに表現できるかは毎回の挑戦ではあります。

—辻さんの個人的な印象で構わないのですが、<arenotis>のお客さんはどういう方が多いですか。

辻:お客さんのファッションの好みにはあまり統一感がなくて、何系とカテゴライズするのも難しいです。僕自身も<arenotis>をカテゴライズされたくないと思っているので、服の好みもさまざまなお客さんが手に取ってくれるのはうれしいです。

やれることを積み重ねてブランド像を確立したい

—「自分が本当に作りたかった服」と向き合ってブランドを立ち上げたとおっしゃっていましたが、現在はやりたかったことができている実感はありますか。

辻:できていると思います。ムードを大切にした「自分が着たいと思う服」も実験や遊びを優先した「自分が作ってみたい服」も、どちらもやれているので。リブランディングのようなことも自分がブランドの手綱を握っているからやれることです。いろいろフルスイングできるのが独立の醍醐味ですね。

—素材のアプローチが独特で「実験的な服」といっても奇を衒っているようには見えなくて、誰にとっても着やすい気がします。

辻:そこは自分でも無意識のうちにバランスを取っているような気がします。2026年秋冬コレクションはベンチレーションを取り入れているアイテムが多いのですが、それもシグネチャーでもありつつ快適性を求めた結果です。

—<arenotis>の初期と現在ではモノづくりのスタイルなどに変化はありますか。

辻:少しずつですがやれることも増えてきて、変化といえばオリジナルのテキスタイルも仕込めるようになりました。天然素材と化繊の混率も自分で考えて、テキスタイルにさりげなく機能を盛り込むことで着心地の良さや快適性をアップさせたり、そういう着ていて気持ちいい服のためにオリジナルのテキスタイルは糸からこだわっています。

—<arenotis>の独自性のためにテキスタイルの次のステップも考えたりしていますか。

辻:ブランドの顔となるようなシグネチャーアイテムを確立できていないので、それを作りたいです。ただ、僕がひとつのアイテムを自信を持って作り続けてもバイヤーさんやお客さんから選ばれ続けなければシグネチャーにはならないので、飽きられないように自分が頑張らないといけないと思っています。

—ブランドとしては3年目なので全てが挑戦ですよね。

辻:まだまだブランドとしての立ち位置すらおぼつかない状況なので、何もかも本当にこれからだと思っています。リブランディングによってブランドの男性像というのが固まってきたので、ようやく次のステップに踏み出せる感じです。自分がやれることを地道に積み重ねて<arenotis>のブランド像というのを確立していきたいです。

—辻さんが理想とするブランド像のようなものはありますか。

辻:売れないとブランドは続けていくことはできないのですが、だからといってものすごく有名になって、ブランドとしてもビジネスとしても大きくしたいというわけではないんです。露出は少ないけれど長年続いているブランドもありますが、<arenotis>もそういうスタイルが理想という思いはあります。

—あまり表に出て行きたいタイプではない?

辻:服作りも山奥のようなところに引きこもって、ひたすら実験的なことをやり続けたいぐらいです(笑)。そうやって作った服を「いいな」って少数でもいいので思ってもらえるのがいちばんの喜びです。

—「控えめでありながら大胆」って服のコンセプトというよりも辻さんの生き方そのものですね。クセの強いことをやりたいけど、自分の露出は控えたいと。

辻:確かにそうかもしれないですね(笑)。


—今回のインタビューはQUIの「ブランド図鑑」という企画でPRの秋元剛さんが<arenotis>を挙げてくれたことがきっかけでした。

辻:僕自身もQUIのことは以前からフォローしていたので秋元さんから「QUIの企画で推しブランドとして紹介するから」と連絡をもらったときは「QUIに<arenotis>のことが掲載される」ってうれしかったですね。秋元さんは<arenotis>の立ち上げ当初からPRとして関わってくれているのですが「ブランドのPRのためにもっと自分から前に出ていかないとダメだ!」って言われています。後々はその発破にも応えないといけないなって思っています。表舞台は苦手なんですけどね(笑)。

arenotis 26秋冬コレクションはこちら
公式インスタグラム:@are_not_is

  • Interview photography : Yuto Mizuya
  • Interview & Text : Akinori Mukaino(BARK IN STYLE)
  • Edit : Yusuke Soejima(QUI)

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