ファッションショーを言葉にする
かつて、このファッション伝統の発表方法は、限られた業界人のみに来場が許されていた。だが、現在ではブランドの顧客、服飾専門学校の学生も招待され、ショー映像のライブ配信がスタンダードとなり、門戸の広がったイベントに変化している。
本日8月28日から9月2日まで開催される「Rakuten Fashion Week TOKYO 2024S/S」。今回初めてファッションショーを訪れる人や、オンラインで体感する人もいると思う。そこで今日は、私がファッションショーを取材する際に心がけていることをお伝えし、あなたのショー体験が素晴らしいものになる力となりたい。
自らの目で捉えることで見えてくるもの
今や、私たちの生活にスマートフォンは必要不可欠で、楽しい体験を写真や映像に記録し、SNSにアップすることが習慣になった。デジタル上で得られる共感の面白さは、21世紀が生んだエンターテイメントである。そのため会場を訪れたら、モデルたちの姿をコンパクトなデバイスに収めたいと思うのは自然なこと。だが、撮影は最小限に抑えたい。
もし撮影にエネルギーを集中してしまったら、それはサッカー観戦のためにスタジアムを訪れても、ピッチに視線を送らず、手元のスマートフォンを通して試合中継を眺めるようなもの。撮影は、これはと思うルックのみに集中しよう。
まずは自分の目で、リアルに最新コレクションを観てほしい。モデルが歩くたびに裾が翻るコート、照明が照らす豊かなカラーパレット、指先で触れたくなるテキスタイルの質感。それらすべてを、レンズを通さず、あなたの目で捉えるのだ。
ファッションショーでしか感じることのできない “ムード”
ショーにはあの場所、あの瞬間でしか感じられないムードがある。
それは、ショップでラックに掛けられた服や、展示会場でコレクションを見ることとはまた別で、希少な体験なのだ。
ニョーヨークを拠点にする<TANAKA(タナカ)>は、2023秋冬シーズンに初のショーを開催した。会場となった渋谷ヒカリエは、碁盤の目状に座席が配置されていた。
ニューヨークの街並みに見立てたランウェイを、異なる人種、性別のモデルたちが歩き、目の前を通り過ぎる。多種多様な人々をつなげるのは、<TANAKA>の代名詞であるデニムルック。人間はそれぞれ違って当たり前、その違いすべてを個性として肯定するパワーに私は体が震えた。
若者たちから熱狂的な支持を得る<stein(シュタイン)>も、2023秋冬コレクションをショーで発表した。会場は東京・青海のテレコムセンタービルで、ショーのための特別な装飾は施されておらず、シンプルに椅子が並べられた空間には、どこかオフィスと似た空気が漂う。しかし、会場を支配する無機質なムードが、黒い服が持つ簡素な美しさを主張する。華やかさとは遠く距離を置いた場所にも、エレガンスは存在する。<stein>が訴えるストイックな美学に私は落ちていく。
ファッションショーで体感するムードは、訪れた者の想像力を刺激し、まるで物語世界へ引き込むように魅了する。
感じたことを“言葉”で共有することで広がる世界
私はそのストーリーの翻訳者となり、言葉にして発信する。あなたも、ショー終了後は最新コレクションから感じた感情を、言葉に表現してみよう。帰りの駅までの道のり、一緒に来た友人や恋人と共に、先ほど発表されたばかりの真新しい服について語り合う。自分の好きを伝え、人の好きを知ることで、ファッションの面白さはもっと高まる。
「いやいや、一人で行くんですけど。独り言を話せと言うんですか?」
そんなお叱りの言葉を受けるかもしれない。だが、私も現在の仕事を始める前や、ショーを取材で訪れる今も一人で赴くことが大半で、時折孤独を覚える。もし誰も伴わずショーを訪れたなら、ランウェイから得られたポジティブな感情を言葉に表し、SNSで発信してみないか。興奮を抑える必要はない。ありのままに、あるがままに、感情を言葉にしてアプリから伝え、世界とつながるのだ。
オンラインの映像でショーを体験する際も、ルックに集中しよう。最初のモデルが登場したら、思考を一旦ストップし、心をフラットな状態にして画面を眺め、アイテム、シルエット、ディテール、自分がいったい何に反応するのか、心の波に耳をすます。
ショーがフィナーレを迎えたら、一瞬で虜になったジャケットやクールなスタイルについて情感を持って語り、X(旧Twitter)を通して発信する。熱い思いを乗せたポストは、きっとスマートフォンの向こう側にいるみんなの心に届く。私は、インターネットを通してモードにときめく人々の存在を知り、自分とは異なる新しい視点と出会うことで、ランウェイがいっそう刺激あふれるものになった。
あなたの言葉で、リアルでもデジタルでもファッションを愛する仲間を増やそうじゃないか。そこに壁はない。さあ、ファッションショーを言葉にする時間の始まりだ。
- Writer : Shigeaki Arai