ピエール瀧 × 下津優太 – 逆の逆へ
映画『NEW GROUP』で圧倒的な存在感を放つピエール瀧と、監督を務めた下津優太へのインタビュー。「複雑な因数分解を作り上げていく」ように進められたという映画づくりの裏側を振り返りながら、集団と群れの違い、表現におけるわかりやすさ、創作への姿勢などについてきいた。






“人間ピラミッド”をホラーとして描いた理由
― まずは、校長役をピエールさんにオファーした理由から教えてください。
下津優太(以下、下津):やっぱり存在感が素晴らしいなと。本当に奇妙な物語なので、B級映画っぽくもなりかねないんですけど、瀧さんの圧倒的な存在感でひとつの作品として集約していただけました。
ピエール瀧(以下、ピエール):俺がいてもB級だよ(笑)。
― ピエールさんは、脚本を読んだときの印象はどうでしたか?
ピエール:本当に意味のわからない脚本でした(笑)。でも、漫画のようなことを映像化したいという側面は理解できたんです。映画ってプレートとしての盛り付けが大事だと思うので、ホラーとしてどう盛り付けるのかを気にしながら読んでいきました。
― 脚本を読んで、下津監督はどんな方だと思いましたか?
ピエール:線が細くて、ぼさっとした格好をして、ボソボソ喋るような人を勝手に想像していたんです。でも、実際にご一緒してみると、現場で「行くぞ!」って感じで、小躍りしながら楽しそうに撮っていて。本当に現場で撮るのが好きな人なんだ、とイメージが180度変わりました。

― 本作のテーマ「集団行動」を「怖さ」の角度から撮ろうと思ったのはなぜでしょう?
下津:社会学の本を読んだときに「この社会はさまざまな集団でできている」と書いてあって、家族とか、学校とか、集団っておもしろいなと思ったことがきっかけです。
ゾンビみたいな不規則な集団も怖いけど、規律の取れた集団も怖い。それを突き詰めた究極が「人間ピラミッド」だと思い至りました。組体操は特に欧米圏だとすごく異様なものに映るし、巨大な人間ピラミッドをホラーの対象として描いたらすごくキャッチーだなと。
― ピエールさんには、監督の意図がどう伝わってきましたか?
ピエール:劇中の登場人物はみんな、ある種の「記号」の組み合わせでできているんですよね。僕なりに「こうしたらもっと馴染むんじゃないか」とかアイデアを提案してみたこともあったんですけど、現場に行ったら何ひとつ採用されていなくて(笑)。あ、もうこれは監督の中でパキッと決まっているんだ、余計なことを考えるのはやめよう、と思いました(笑)。

― 校長の不気味な存在感がすごかったです。
下津:校長のバックグラウンドについては現場でも全然話していなくて、最低限のやり取りだけでした。というのも、僕の中では登場人物を本当に「記号」としてしか捉えていなかったんです。理系的な発想かもしれませんが、映画を撮るというよりは、「複雑な因数分解を作り上げていく」みたいな感覚に近かったのかもしれません。
ピエール:まさにそこが監督のおもしろいところで。僕らはあくまで監督に「記号」を提出する側であって、それをどう組み立てるかは、もうあちら(監督)の話なんですよ。
例えるとしたら「抽象画」みたいなものかなと。「この絵のここにはどういう意味があるんですか?」って聞くのは野暮じゃないですか。パッと見たときの全体の印象でいい。でも、それがデタラメではなくて、見た人の心にスルーされない何かが残るっていうのは、やっぱり「何か」があるんだなと感じます。

― 日体大の方々と作り上げた、組体操のシーンは圧巻でした。実写で撮ることへのこだわりが?
下津:すごくこだわりました。9段までは絶対に実写でやりたいという僕のわがままを、日体大の方々が叶えてくれたんです。廊下のシーンも、生徒たちと「何か気持ち悪い動きないですか?」と相談しながら、一緒に作り上げていきました。
― 実際に組まれた巨大な人間ピラミッドを見て、ピエールさんはどう感じましたか?
ピエール:もうでかければでかいほどおもしろいと思っていたんで、「思ってた感じになったな」という印象でした。あと、廊下でブリッジしたやつが攻めてくるじゃないですか。あれを見て「この監督はブリッジが好きなんだな」と(笑)。人間が逆に反っているのって、『エクソシスト』じゃないですけど、古くからある恐怖の対象というか、確かに怖いですよね。

“わからなさ”を残すということ
― 本作を作ったことで、「集団」というものに対する意識に変化はありましたか?
下津:もともとは、僕が学生時代に感じていた違和感のようなものを形にしたのが始まりでした。いざ撮り始めると映画作りそのものも集団での作業で、現場を統率することの難しさを改めて感じましたね。ただ、集団でしか出せないパワーもあって、いい面も悪い面も体感できた気がします。
ピエール:僕から見ていたら、監督は管理者として非常に素晴らしい立ち振る舞いでしたし、頼もしかったです。
下津:そう言っていただけると、本当に救われます。実は現場ではずっと苦しくて、今も感情がギリギリなので(笑)。
ピエール:僕は「集団」と「群れ」は似ているようで、意味が全く違うと思っていて。動物の「群れ」は、例えばオオカミやシャチのように、みんなで協力して狩りをして、得られた利益(獲物)を全員で分け合いますよね。それが「群れ」だと思うんです。
一方で「集団」は、それを統率・管理する側の利益のためだったりする。学校の集団行動も、子どもたちに「群れ」を教えているわけではなくて、その方が「管理しやすい」からという側面がある。この映画が描き出しているのは、まさにその「集団」側の怖さですよね。
― その視点、興味深いです。電気グルーヴというユニットでの活動と映画への参加では、ご自身の役割の違いをどう捉えていますか?
ピエール:電気グルーヴは自分たちが当事者であり、楽曲にしろライブにしろそのものが「僕らの作品」です。一方で、映画やドラマはあくまで監督やプロデューサーたちの作品。僕はその作品を完成させるために、いろんなものを出し合う「出し手」の一人という感覚です。
ベクトルは違いますが、どちらも手を抜いていいものではありませんし、現場を動かすための強い牽引力みたいなものが必要というところは、撮影でもツアーでも同じだと思っています。

― 本作では恐怖と笑いが混ざり合う独特の雰囲気が印象的でしたが、創作をするときの「わかりやすさ」という点についてはどれくらい意識されていますか?
ピエール:担当するポジションによりますよね。説明役もあればカオスを担う役もある。どちらかによってわかりやすさへの向き合い方は変わるので、一概には言えないかなと。わかりやすさって結局、見ている人のジャックの数にもよると思うんです。その作品にどれだけ「身に覚え」や「想像できるもの」を持てるかどうか。でも、なにも理解できなくてもいいし、なにか奇妙な手触りだけが残る、というのもひとつの受け取り方としてあっていいんじゃないかな。
下津:僕は感覚として3から7ぐらいまで説明しているイメージです。余白を残す方が、ホラーとしての恐怖や考える余地が生まれていいのかな、と個人的には思っています。本作のように、やっていること自体はちょっとおかしなことでも、お笑いっぽくはせず、きれいに撮って、構造そのものを怖くする。そのミスマッチが、ちょうどいい塩梅になるのかなと。
ピエール:食べたことのない料理に出会ったとき、その新鮮さをそのまま楽しむこともできる。でも、それを人に伝えるとなると、何かに置き換えないといけない。相手が想像しやすいものに置き換えることで、受け取る側のジャックの数を増やしてあげることができる。どちらがいいかはわからないですが、全部説明しきってしまうと、やっぱりつまらなくなる気はしますよね。

― そういう意味では、今回の映画は本当に初めて食べた料理でした。おいしかったです(笑)。最後におふたりがものづくりをする上で、大切にしていることを教えてください。
ピエール:「そう見えること」ですかね。芝居に関しては訓練された人間ではないので、スキルでどうこうというより、衣装合わせの段階で「こういう人いるよね」と思えるかどうか、そのキャラクターに見えるかどうか、というところを大事にしています。
下津:僕はいつからか、ベターな、無難なものをあまり好まなくなってきて、常に「逆」を考えるようになったんです。ただ、ずっとそれをやっていると飽きてくるから、また逆の逆をやり出す。本来なら「表」に戻るはずなんだけど、逆の逆にしたときにまた別の「何か」になっていることが多くて。人と違うことをしたい、人と違う表現をしたい、というのが根本にあるのかもしれません。
― ピエールさんは、その「逆の逆がおもしろい」みたいな感覚、わかりますか?
ピエール:実はベタなものを完璧に作り上げるのが一番ヒットするんですよね。ただ、ベタなものを完璧に作り切れないから微妙な評価になってしまう。完璧なベタじゃないなら、もう全部カウンターでいいんじゃないかとも思うんです。
ただ、逆張りをやり続けるのもなかなか大変で。どの方向で、どの角度でカウンターを狙うか、逆は逆で正解があるとは思います。

Profile _ ピエール瀧(ピエール・たき)
1967年、静岡県出⾝。1989年に⽯野卓球らと結成した電気グルーヴでミュージシャンとして活動する⼀⽅、1995年頃から俳優としてのキャリアをスタート。映画『凶悪』(2013)の演技が評価され、第37回⽇本アカデミー賞優秀助演男優賞など、数々の賞を受賞。主な出演作品は、ドラマ『64(ロクヨン)』(2015)、映画『怒り』(2016)、映画『アウトレイジ 最終章』(2017)、Netflix シリーズ『全裸監督』(2019)、『サンクチュアリ -聖域-』(2023)、『地⾯師たち』(2024)など。また、ゲームや映像のクリエイター、プロデューサー、執筆業など、活動は多岐にわたる。
Instagram X

Profile _ 下津優太(しもつ・ゆうた)
1990年福岡県北九州市出身。大学在学時よりTV-CMを企画・演出。TV-CMやMVの監督をする傍ら、第1回日本ホラー映画大賞にて大賞を受賞し、『みなに幸あれ』(24)にて商業映画監督デビューを果たす。
Information
映画『NEW GROUP』
2026年6月12日(金)全国公開
出演:山田杏奈、青木柚、駒井蓮、木下暖日、佐々木ありさ、ロジャース歌乃、細井じゅん、松本亮、足立智充、坂倉なつこ、清水崇、前野朋哉、ピエール瀧
原案・監督:下津優太
脚本:下津優太 佐原百子
主題歌:藤原さくら「new world」Tiny Jungle Records
©︎2026映画「NEW GROUP」製作委員会
- Photography : Yutaro Yamane(TRON)
- Styling for Pierre Taki : So Matsukawa
- Hair&Make-up for Pierre Taki : Tadashi Kikuchi
- Text : Sayaka Yabe
- Edit : Yusuke Takayama(QUI)