ロンドンのセレクトショップ MARU に聞く日本ブランドのアーカイブ市場
これまでオンラインのみで展開してきた彼らが、イーストロンドンで初のフィジカルポップアップを開催した。現地でのリアクションを含め、これまでの活動を振り返りながら、ロンドンという都市で日本のファッションを扱うことの意味、そしてその背景にある思想について話を聞いた。
セレクトショップ MARU は、コンセプトに“日本版ジャンヌ・ダルク”を掲げる。ジャンヌ・ダルクが身につけた鎧や鎖は、人生の大切な場面で自分を身を守り、力を与えてくれるものであり、現代における“勝負服”と重なると解釈。自分を鼓舞するような一軍の“勝負服”を、日本人である自分たちが、日本ブランドのアイテムを通して提案したいという願いがこめられている。そのためセレクトするものも、ワードローブに馴染みそうなものではなく、特別な一着として輝くアイテムを心掛けているという。
オンラインショップを中心に活動しており、2025年11月に期間限定のポップアップストアをロンドンに初出店。以後フィジカルイベントを月一ベースで行う。取り扱うのは、<Comme des Garçons(コム・デ・ギャルソン)>、<Yohji Yamamoto(ヨウジ・ヤマモト)>、<Mame Kurogouchi(マメ・クロゴウチ)>などのアーカイブを中心に、日本ブランドのみ。

この投稿をInstagramで見る
ーロンドンのファッションの特徴を教えてください。
ロンドンの街の特徴は多文化性です。多種多様な人種、言語、文化背景が入り混じり、労働階級と上級階級でも服装のコードが違います。もちろんトレンドに乗る層もいるけれど、自分たちのアイデンティティを表すユニフォームのような服装で過ごす人が多いです。Y2Kぽい格好の人の隣に全身<Burberry(バーバリー)>の人がいるみたいな状況もよく見かけます。
またヨーロッパはアジアに比べてクラシック、フォーマルな雰囲気が好まれます。
例えば、レーヨンみたいな鮮やかなものより、ウールなど落ち着いた生地が選ばれます。新進気鋭のブランドも、コートやジャケットなどテーラードのベーシックなアイテムにギミックが施されたアイテムの方が人気なイメージです。
ーその中でも最近のトレンドはありますか?
トレンドを一概に言うのは難しいですが、その中でもサステナブルでタイムレスなファッションへの関心が高まっていると思います。タイムレスなものへの流れの一環で、アーカイブ人気が出てきているような感じです。
ーロンドンのアーカイブ人気はどういうところで感じますか?
ロンドンでもヴィンテージや二次流通のお店が増えています。ブランド品が手頃な価格帯で手に入るというお得感に加え、ファストファッションへの抵抗感を感じる層が、ヴィンテージや二次流通に流れているように感じます。
ヴィンテージが盛り上がる中で、“デザイナーズヴィンテージ”という概念が一般化してきました。デザイナーの意図や洋服のストーリー、着方のお手本をSNSなどで人々が見て理解し、その良さに気づいてきたのではないかと推測します。ロンドンに元々アンティーク文化はありますが、今のアーカイブ購買層は従来のアンティーク好きとは異なると思います。

ー日本のデザイナーズブランドはどのように受け入れられているのでしょうか?
コンセプト力、知的なデザイン、独立した精神が高く評価されており、90年代にブランドが築いた信頼と革新性が今もなお影響力を持っています。またトレンドを追うのではなく、服を文化や思想として再解釈している姿勢、卓越したクラフトマンシップが国際的な評価を得ているのではないでしょうか。服が好きな人なら日本ブランドはどこかで触れているんだと思います。
あとは、ガーリーな系統のファッションを好む人は、漫画や日本のカルチャーが好きで、そこから日本のブランドに興味を持つ層もいます。
<Comme des Garçons>には“ギャルソンファン”がいて、<Yohji Yamamoto>には“ヨウジファン”がいますが、日本ブランドだから選ぶというファンもいます。
個人的な感覚ですが、大のファッション好きは、日本ブランドとベルギー系ブランドを合わせているイメージがあります。
また「Dover Street Market London」が幅広い年齢層に影響を与えており、「ファッションといえば日本のブランド」といった固定観念があるほどロンドンのファッション界隈では人気です。日本人がファッションにこだわりを持ち始めたら海外のブランドにも目が行くという流れと同様に、海外のファッション好きも日本のブランドが気になるのかもしれません。



ー最近ロンドンで注目されている日本ブランドはありますか?
MARUでは、<Kapital(キャピタル)>、<TOGA(トーガ)>などを扱っていますが、この2つのブランドも人気です。
まだ取扱はないですが<A.PRESSE(ア・プレッセ)>や直近でLVMHプライズを受賞した<SOSHIOTSUKI(ソウシ・オオツキ)>は注目されています。
またアーカイブではないのですが<BUNZABURO(ブンザブロウ)>のバッグを仕入れてみたところすぐ売り切れたので、より日本らしいデザインの反応が良いと感じています。
ーでは、今後注目株の日本ブランドはありますか?
<Taiga Takahash/T.T(タイガ・タカハシ)>は、
ーロンドナーは日本ブランドをどのようにスタイリングに取り入れていますか?
<Comme des Garçons>と<Simone Rocha(シモーン・ロシャ)>、<Yohji Yamamoto>と<Guidi(グイディ)>の組み合わせは定番の組み合わせですね。たまにロンドンの街中で雰囲気のある人を見かけると、全身<Yohji Yamamoto>や<PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE(プリーツ・プリーズ・イッセイ・ミヤケ)>というケースも見られます。<PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE>に関しては、身体を鍛えている黒人の方に人気が高い印象があり、彼らはボトムスに<Yohji Yamamoto>のリラックスパンツを合わせていたりもします。
ーそもそもオンライン中心の販売から、どうしてフィジカルの場所を作ろうと思ったのか教えてください。
異国で暮らす私たちが、言語や文化は違っていても、ファッションをツールに交流できる空間が欲しいとずっと考えていました。MARUは単なるリテールではなく、展示的な側面とナラティブを伝えるカルチャープラットフォームを目指しています。特にアーカイブは実際に見て触れることでしか伝わらない魅力があります。
また、ロンドンという街でポップアップをすることに重要性があったんです。わたしたちは最初からロンドンベースだったものの、日本人を中心に、かつオンラインで活動してきたため、自分たちがどこに存在するか伝わりにくかった。なので、実際に人が訪れられる場所をロンドンに作ることが重要だったんです。


ー実際ポップアップにはどんな人たちが来ましたか?
ファッション関係者、スタイリスト、コレクター、クリエイターなど幅広い業種の人が集まってくれました。
また、フォローしてくれていた日本のファッションに興味がある人やMARUで好きなブランドの取り扱いがあるという理由で来てくれた人も多くいましたね。あとはイーストロンドンの路面店が会場だったので、近所に住むおしゃれな方が近くのフラワーマーケットで花を買った
ーポップアップではどういうブランドのアイテムに反応がありましたか?
<Comme des Garçons>のレディースはとても反応がよかったです。また<Yohji Yamamoto>の洋服はオンラインよりもポップアップでの方が圧倒的に売れました。フィジカルの場だと<Yohji Yamamoto>の持つ雰囲気を見て理解できるからだと思います。
アイテムでは、レディースはスカートとバッグが人気で、メンズはフォーマルなジャケット、特に少しデザインにひねりが効いているものが売れました。事前に問い合わせがあったのは<NUMBER (N)INE(ナンバーナイン)>。カルト的人気がロンドンでもあるようで、ストレートにアイテムの詳細、値段について問い合わせがありました。

この投稿をInstagramで見る
ーアーカイブの価値を伝えるときに大切にしていることは?
リサーチをして正しく解釈することです。作られた意図やインスピレーション、どうしてこの部分でこういうファブリックが使われているかといった背景、当時のショーのテーマなど、できる限り調べ尽くすようにしています。情報が出てこない場合は取扱を諦めます。お客さんに説明できないものは取り扱いたくないからです。わたしたちは日本のアーカイブだから価値があるではなく、日本のブランドの思想や歴史、哲学に価値があると思っているので、その基準でアイテムを選ぶようにしています。
自身のルーツである日本文化が好きだからこそ、自分たちの文化と海外の架け橋となれるよう責任を持って、ブランドやアイテムのストーリーを丁寧に伝えていくという姿勢は貫きたいと思っています。
MARUポップアップ来場者スナップ

Domizakoさん
JACKET:SCULPTOR®
DENIM:Jaded London
BAG:The Kript
TOPS: Weekday
SHOES:ユーズド

Haruhiさん
COAT:Delivery
SHIRTS:Comme des Garçons
PANTS:ヴィンテージ
BOOTS:YSL

Byungyoon Leeさん
JACKET:Raf Simons
ZIP UP:TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.
TOPS:Rick Owens
PANTS:_JULIUS
※実際のロンドナーのインタビューはこちらからチェック
この投稿をInstagramで見る
MARUの認知が広がったきっかけとなった、ストリートインタビュー動画。
異なる文化圏で日本のブランドに興味を持ってもらうためには、リサーチとコミュニケーションが不可欠だと考え、ストリートインタビューを開始したのが始まり。日本ブランドのどんなことを知っていて、何が好きなのかロンドナーに話してもらい、日本のブランドについて認知を広げている活動も精力的に行なっている。
- Interview & Text : Chika Hasebe
- Photograph : Yujiro Saito
- Edit : Yusuke Soejima(QUI)