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伝説のファッション誌『ケラ!』『Gothic&Lolita Bible』を振り返る ー 創刊編集長 鈴木真理子

Sep 30, 2024
1998年から2010年代にかけて、原宿を席巻したゴシック・ファッションムーブメント。その当時いち早くゴス文化を取り上げるなどして、カルト的な人気を誇っていた原宿系ストリートファッション雑誌『ケラ!』と『Gothic&Lolita Bible』は現在、中古市場において高値で取引されるなど、あらためて注目を集めている。
創刊編集長を務めた鈴木真理子さんに憧れを抱く方は数知れず、今回インタビュアーを務めるQUI編集者もその一人。時には仕事でということも忘れて、鈴木さんだからこその体験談やエピソードに聞き入っていた。

伝説のファッション誌『ケラ!』『Gothic&Lolita Bible』を振り返る ー 創刊編集長 鈴木真理子

Sep 30, 2024 - FASHION
1998年から2010年代にかけて、原宿を席巻したゴシック・ファッションムーブメント。その当時いち早くゴス文化を取り上げるなどして、カルト的な人気を誇っていた原宿系ストリートファッション雑誌『ケラ!』と『Gothic&Lolita Bible』は現在、中古市場において高値で取引されるなど、あらためて注目を集めている。
創刊編集長を務めた鈴木真理子さんに憧れを抱く方は数知れず、今回インタビュアーを務めるQUI編集者もその一人。時には仕事でということも忘れて、鈴木さんだからこその体験談やエピソードに聞き入っていた。
Profile
鈴木真理子
編集者

愛知県出身。青山学院女子短期大学教養学科卒業後、雑誌・書籍出版の道へ。ファッション雑誌『ケラ!』『Gothic&Lolita Bible』『KERAマニアックス』創刊編集長。原宿系、ロリータ、ゴシックなどのファッション&カルチャー系をホームとし、フリーエディターになって後、神奈川県立近代美術館、森美術館(東京)他、美術館の公式図録編集も。2024年7月初の単著『ゴシック&ロリータ語辞典』を上梓。

■SNS
https://x.com/marimari1961
https://www.instagram.com/mariko3415/

ー 今日はインタビュー場所として鈴木さんに、銀座にある「Book Café & Bar 十誡(じっかい)」をご紹介いただきました。ゴシック・ファッションととてもぴったりな雰囲気でいるだけで気分が上がります。鈴木さんはこのお店をどうやって知ったのでしょうか。

Book Café & Bar 十誡 より提供

鈴木:2015年に「好事家の書斎」というコンセプトのこのカフェができたと知ってすぐ「行ってみたい」と思っていました。初めて訪れたのは翌年、ブランドの<pays des fées(ペイデフェ)>が十誡でファッションショーを開催したとき。その後漫画家の三原ミツカズさんがコラボメニューを出した際に、お誘いを受けてお茶をいただきに伺いました。そこで初めてお店のスタッフさんが『ケラ!』『Gothic&Lolita Bible』の元読者さんだということを知ったんです。元ケラ!ッコ(『ケラ!』読者のことを指す)で現在、アート好きと知性の感じられる仕事をしている。この点、QUIの編集さんと同じかも(笑)。

ー 今日出していただいたドリンクは、アイルランドの作家であるブラム・ストーカーの怪奇小説『Dracula~吸血鬼ドラキュラ~』が題材になっており、まさにゴシック・ファッションに相応しい一杯ですね。

鈴木:ローズマリーのアーチに載せられた薔薇飾りが美しいし……。自家製オーガニックローズのシロップを使っているということで、薔薇の香りも素敵ですね。「十誡」で10月からスタートする限定メニューだそうですが、つぶつぶとしたベリーの舌触りにどろっとした濃厚な果実感が贅沢な味わいで、うっとりさせられます。

編集者の仕事に就くことは幼稚園の時から心に決めていた

1998年に出版された『ケラ!』の記念すべき1号。当時は『KEROUAC』と表記されていた。『路上』という小説を書いたアメリカの作家ジャック・ケルアックにちなんでいて、路上スナップがメインの雑誌としてスタートした。

ー 鈴木さんが『ケラ!』の創刊編集長になるまでのキャリアが気になります。どのような幼少期を過ごしたのでしょうか。

鈴木:読書や人形遊びが好きな子供時代を過ごしていました。そして早くも幼稚園児のときから雑誌編集者になると決めていたんです。もちろん幼かったので編集者という職業名を知っていたわけではなかったんですが。

ー その雑誌を作るという夢を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

鈴木:ある日、父が私に『小学二年生』(小学館刊)という学年誌を手渡したんです。園児の私にどうして『小学二年生』って感じでしょう(笑)。「うちの子はテストで100点を取るのが当たり前」みたいな父だったこともあり、1学年、2学年ぐらい上でちょうどいいと思ったのか…。そしてそれはまさに私にとっての「天啓」を携えた贈り物でした。その学年誌の存在に衝撃を受け、「私のほうがもっとすごいものを作を作ることができる。将来は必ずこういうものを作る仕事に就こう。」って心に決めたんです。それまで絵本や物語などの「書籍」はよく読んでいたけど、総合的な「雑誌」は読んだことがなかったんですよね。

ー 園児の頃の決意はずっと変わらなかったのですね。

鈴木:途中で漫画家や画家にも憧れましたが、そんな画力はなく(笑)。高校2年の時に父母に「将来どうしたいのか」と尋ねられた際、初めて「雑誌の編集者になりたい」と話しました。私は高校までは愛知県だったんですが、父から「出版社で働きたいなら東京に行かないとダメだろう」と言われたので東京の短大に進学しました。

ー では短大卒業後は出版社に入ったのですか。

鈴木:短大卒だったので、小学館など大手の出版社は受けることすらできず、1ヶ月間編集プロダクションでバイトしていたんです。その時「新しい編集部ができるらしいので、そこに行ってみれば」と親から連絡がありました。その編集長は私が園児の時に衝撃を受けた『小学二年生』の名物編集長だった人で、実は父の大学時代の学友だったんです。

ー その編集部はどんな雑誌を作っていたのでしょうか。

鈴木:『ザ・テレビジョン』です。私は創刊メンバーなんですよ(笑)。その後はフリーランスになって、ついに憧れの学年誌の読者ページをやらせてもらったり、体を壊して実家に戻ったりなどして二転三転。体調が良くなった頃タイミングよく知り合いの編集者から「新しい漫画雑誌を立ち上げるから、東京に来て手伝って欲しい。」と連絡を受けて再び上京しました。その漫画雑誌が休刊後、1997年にできたばかりの新しい出版社バウハウスの求人広告を見て応募して、雑誌『BiDaN』編集部に所属した後、初めて編集長として『ケラ!』を発刊することになります。

『ケラ!』は原宿の自由なファッションを紹介する雑誌だった

2000年前後の『ケラ!』編集長時代の編集部の様子(左下)当時の「ゴスロリ」スタイルを、元PUTUMAYOのデザイナーでイラストレーターの長谷川俊介さんが手がけたイラスト(右下)新宿のゴスイベントにて、ゴスDJ紫泉さんとの一枚

ー 『ケラ!』の第1号は1998年でした。『CUTiE』は1989年、『Zipper』は1993年にすでに創刊されていましたが、他媒体との差別化はどのように図ったのでしょうか。

鈴木:『ケラ!』は後発だし、出版社自体も誕生したばかりだったので、アパレルブランドとのつながりも、芸能界とのつながりも、広告クライアントとのつながりすら全てゼロ。なので『CUTiE』や『Zipper』と同じブランドを取り上げることや、著名な芸能人を揃えることができません。差別化なんて考えてなかったですよ。

なるほどですね。

鈴木:1号の表紙には「路上のファッションパンクスたち大集合!」とキャッチを入れていましたし、「KEROUAC」時代には「O」の中にも「FOR EXCENTRIC BOYS & GIRLS」という文字を入れていました。当時の原宿は特に、「ルール無用で自分たちがいいと思ったファッションを自由にやっている」というキッズが多かったので、そういう人たちを指してファッションパンクスと呼んだわけです。「パンクス」といっている時点で、オシャンティなブランドの新作を中心に展開をしている『CUTiE』や『Zipper』とは違う雑誌になっていたわけです(笑)。誌面も当初はスナップが半分以上のスペースを取っていました。

ー 『ケラ!』はバンギャ(ヴィジュアル系バンドのファンの総称)が読者の多くを占めていたイメージもあります。

鈴木:『ケラ!』3号のために、ラフォーレ原宿のエントランスでスナップをしていたら、偶然私服姿のMALICE MIZERのバンドメンバーを撮らせてもらえたことがあって。それがきっかけで、「ヴィジュアル系バンドマンが、ノーメイク&私服で登場する雑誌」と認識されて、バンギャの読者さんが増えていったのかもしれません。そんなことも含め、まさに『ケラ!』は路上でネタを拾って成長していく雑誌でした。2003年まではほぼ毎日原宿にカメラマンと担当編集者を向かわせています。そしてスナップした時のアンケートを見たり、話したりしながら原宿キッズたちの動向を知って誌面を作っていました。

ー 路上で拾い集めた「リアル」を大事にしていったことが人気につながったのですね。

鈴木:読者ページ作りが好きだったこともあり、読者さんからのアンケートコメントもよく読んでいて、ヒントにしていたんですよ。自分は読者のしもべだと思っていたから(笑)。後年になりますが、アニメローゼンメイデン トロイメントのオープニング曲聖少女領域を歌い、注目され始めたばかりのALI PROJECTの宝野アリカさんに『KERAマニアックス』に登場いただいたのも、読者さんからのリクエストがすごかったからです。

『繭百合、骨百合』より。宝野アリカ(モデル、詩)&小野寺廣信(写真)著/2015年/モール・オブ・ティーヴィー

ー 『ケラ!』といえばゴシック・ファッションのイメージがありますが、雑誌として力を入れたのは何かきっかけがあったのでしょうか。

鈴木:1号を作る際、仕事でもプライベートでもお付き合いのあった漫画家の三原ミツカズさんに「何かやってみる?」って聞いたんです。そしたら「ゴシックに興味がある」という回答だったので、『路上のゴシック』という見開きのイラストエッセイを作ってもらいました。三原さんは当時、服ではJean Paul Gaultier(ジャン・ポール・ゴルチエ)>、バンドではTHE WILLARDザ・ウィラード)などに興味を持っていたんです。さらにスナップで知り合った原宿キッズからも「これからはゴシックが来る」という話を聞いたので「そうか!ゴシックかあ」と3号で、日本初で当時唯一のゴス服専門ブランドだと私は思っているのですが、<alice auaa(アリス アウアア)>の服を借りてモデル撮影をし、さらに文学や音楽面からも考察を加えたゴシック特集を組みました。

『ケラ!』1998年1号掲載「路上のゴシック!」。三原ミツカズさんが想像の世界で作る、ストリートのゴス・スタイルを描いてもらった。

鈴木:実はその時ゴシックとは何かはっきりと認識されていた時代ではないので、手探りで作ったページです。でも今見直すと、当時としてはたった3ページだけど、これから来るゴシックブームを迎える最前線の特集だったのだなと思います。4号では読者のハガキイラストからですが、メディアとしては世界初で「ゴスロリ」というワードを掲載しました。この頃誕生したばかりのゴスロリ服を集め始めた三原ミツカズさんに、ゴスロリをキーワードにイラスト&トーク連載をしてもらったことも。ちょこまかゴスロリ服を掲載することがありました。きちんとゴス服を紹介するようになったのは、三原さんの表紙絵で、2000年12月に1号を出版した『Gothic&Lolita Bible』からになります。初期はとにかく三原さんの影響が大きかったんですね。三原さんの描くイラストはファッションと共に、多くのバンドマンに影響を与えるようにもなっていたようです。そして『Gothic&Lolita Bible』1号発売以降くらいから「ゴスロリ」というパワーワードと共に、世間一般的にもゴシック服と文化が興味を持たれるようになっていったんじゃないかしら。

『ケラ!』2000年10月号(25号)より「GOTHIC LOLITA TRAP」第1回。三原ミツカズさんが自分の好きなゴス、ロリータアイテムを紹介する連載。実はこのトークのお相手と編集担当はバンギャのライターさんだった。

ー その『Gothic&Lolita Bible』1号は『ケラ!』からゴシック&ロリータだけを抜き出した雑誌という認識なのですが、合っていますか。

鈴木:それで正解です。さすが「ケラ!ッコ」ですね(笑)。1号は『ケラ!』で掲載したゴスページの再録に、ゴス服カタログや、ヴィジュアル系バンドマンがモデルになる巻頭グラビアなどを付け足したものでした。当時のゴス服、ゴスロリ服を愛用するのは多くはバンドマンとバンギャさんだったのです。というのはバンドマンもバンギャさんも昔から「黒服」と呼ばれる服を着ることが多かったので、黒がメインのゴシック服を取り入れるのがとても早かったわけです。ヴィジュアル系バンドがヒットチャートにしょっちゅう上がる時代だったので、バンギャさんの数もとても多かった時代だったということも付け加えておきます。

ー 『Gothic&Lolita Bible』はどのような経緯で誕生したのでしょうか。

鈴木:1999年から2000年くらいの間、『ケラ!』の読者ページにはバンギャさんからの投稿がめちゃくちゃたくさんありました。それでライブ情報とライブに行くためのファッション(主に黒服、ゴス服)を特集したムック本を作ろうと思ったんです。しかし上司に話したら最初は「そんなの3万部も売れないよ」って言われたんですね。当時バウハウスでは1雑誌で最低でも10万部を売るのが当然だったので……。が、その上司がある日「鈴木さん、この前言ってたあのゴシック・ロリータのバイブル作ってよ」って新聞を握りしめて走ってきたんです。それは繊研新聞で、見出しに大きく「今ゴスロリだけが売れている」と書かれていました(笑)。私としては一度は否定されたいたので、スネてやる気を失っていましたが、結局発売してすぐ売り切れ店続出に。増刷を重ね、続刊も決まり63号まで続きました。外国での人気も高く、アメリカの出版社から英語版も出てたんですよ。

ー 私が読んでいた2007年前後は、『Gothic&Lolita Bible』ばかりでなく『ケラ!』でも、カラフルな服がありながらもゴス服で埋め尽くされたページもあったように記憶していますが。

鈴木:「カラフルな色彩の中にも、黒のゴス服も一部あって」というのがまさに『ケラ!』1号からずっと続いているケラ!スタイルです。『ケラ!』は「ゴスロリの雑誌」とも言われたようですが、路上のパンクスのファッション雑誌として始めた雑誌なので、ゴスやバンギャスタイルに寄ったファッションや人だけを紹介するというより、そういう趣向も含めた「原宿の自由なファッションを紹介する雑誌」というスタンスでした。

ー 『ケラ!』のゴス服掲載については、時代とともに変化していった分もあるのでしょうか。

鈴木:時代というより20年もやっていれば、カラフルな色彩服の中の黒服の比率も変わることがあります。それは流行、ブランドの増減、各特集の担当者の意向、掲載される私服登場のアーティスト、特集内容などによる影響が大きいと思います。

ー 私は当時『ケラ!』がきっかけでゴシック・ファッションに興味を持ち、なかでも<BLACK PEACE NOW(ブラック ピース ナウ)>は憧れのブランドでした。

『Gothic&Lolita Bible』2010年38号掲載「LUNTATICUS~狂気的な男達の伝説~」より。PENICILLINのHAKUEIさんに、西洋の歴史に名を残す狂気的な男たちを演じてもらったもの。第一回はブラム・ストーカーの小説『Dracula~吸血鬼ドラキュラ~』のモデル、ブラド・ツェペシュを好演。
衣装/BLACK PEACE NOW
モデル/HAKUEI(PENICILLIN)
写真/小松陽祐 Yosuke Komatsu(ODD JOB LTD.)

『Gothic&Lolita Bible』2009年34号掲載「~黒服の散歩者~BLACK PEACE NOW× 有村竜太朗」より。パリで撮影された<BLACK PEACE NOW>タイアップ広告ページ。
衣装/BLACK PEACE NOW
モデル/有村竜太朗(Plastic Tree)

鈴木:さすがですね(笑)。<BLACK PEACE NOW>はゴスを強く意識したブランドで間違いありません。私のように長年ゴシック系ファッションに携わっていると、同じような黒服でもゴシック、ゴシックパンク(ゴシックカテゴリーとパンクカテゴリーの二種がある)、パンク、ロック、ゴスロリ、ロリータ、モードほかのジャンルの識別ができていますが、関わっていない方だと『ケラ!』に掲載されている「黒服」はすべてゴス、という印象を持ってしまうこともあるかと思います。その辺りも『ケラ!』がゴシック・ファッションに特化した雑誌と勘違いされている要因なのかもしれません。

(左から)鈴木さんが創刊編集長を務めた雑誌1998年『ケラ!』、『Gothic&Lolita Bible』『KERAマニアックス』、写真歌集『Otona Alice Book』

ー 『ケラ!』ではヴィジュアル系バンドマンが表紙を飾ることがありましたが、衣装のテーマなどは編集部が決めることもあったのでしょうか。

鈴木:表紙はとても大切で、雑誌の売り上げを左右します。なので「何を着てもらったらいいか」についてはかなり考えます。私が編集長をやっていた頃では「DIR EN GREY(ディル アン グレイ)」の京さんに2回表紙をやってもらったことがあります。1回目はほぼすっぴんで、このまま普通に外出できそうなカジュアルな服を着てもらい、ステージとはギャップの大きな様相で。2回目はちょっとドラマティックな海賊風コートを着てもらいました。そんなコートは当時売っていなかったので、ブランドさんに作ってもらいました。以降表紙の服は作ってもらうことが多くなったかもしれません。もちろん撮影が終わった後も、すごく細かくデザイナーさんに指示を入れて表紙のデザインを仕上げていきます。

『ケラ!』2003年6月号(57号)表紙。隔月での刊行から月刊創刊してからは、ロゴが「KEROUAC」から「KERA」にチェンジしている。こちらは鈴木さんにとって雑誌「ケラ!」編集長としての最終号で、この後「KERAマニアックス」をスタート。

ー 鈴木さんが編集長をしていた当時の『ケラ!』では、ファッション写真には決まってポエムが添えられていました。それはどういう意図だったのでしょうか。

鈴木:編集用語では「写真脇に付けて目立たせる文」を「キャッチ」と呼んでいます。青年向け漫画雑誌を見たら、巻頭のグラビアページのアイドル写真のキャッチが、そのアイドルのかわい子ちゃんが囁いているみたいで、あらぬ妄想心を掻き立ててくれることに気がつきました。女性の私が見てもニヤニヤしちゃって(笑)。その真似をしたんです。それで『ケラ!』でも写真撮影が終わったら、ページごとにポエム風味のキャッチを付けていって、さらにその企画内の物語にするようにと、編集部員とライターに指示していました。ポエム付きの写真は読者の心にかなり刺さっていたみたいです。実はそもそも私がポエムを書くことが嫌いじゃなくて(笑)、幼稚園ですでに『水銀』という詩を書いた記憶があります。母の話によると園長先生に気に入られ額装され、園長室に長らく飾られていたそうです。

『Gothic&Lolita Bible』2011年42号掲載「麗しの皇子図鑑」より。
衣装/BLACK PEACE NOW
モデル/青木美沙子
写真/小野寺廣信
ポエム/石井亮子

ー 鈴木さん自身のゴシック・ファッションへの興味はどこから生まれたのでしょうか。

鈴木:小学生の頃からずっとジュリー(沢田研二さん)が大好きで。1970年代のジュリーの姿は、私をいつもぽぉ~っとさせてくれてました(笑)。ジュリーが主演の連続ドラマが1本だけあるのですが、そのドラマが好きすぎて大学受験の直前だというのに、そのドラマをテーマにZINEを作ったんです。それが私の初の編集長雑誌かも。しかもそのドラマのプロデューサー(久世光彦さん)にむりやりZINEを送りつけ手紙やら写真交換をして、ジュリ友になってました(笑)。まあそこまではゴスとは関係なく、アイドルが好きでマニアックなJKって感じなんですけど。大学時代に上京したことをいいことに、2年間追っかけをしたんです。学校もジュリーが通うスタジオも青山にあったので、追っかけはラクラクでした(笑)。その追っかけの先輩のお姉様からRCサクセションの存在を教えてもらい、またハマって、そこからライブハウスにも足を運ぶようになりました。私の音楽の関心が、歌謡曲からロックへと移行したわけですね。

より刺激的な音楽にのめりこんで行ったのですね。

鈴木:ある日横浜国大で開催されたポストパンク系のバンドが集まるライブに行って、「なに、これ? 暗くて素敵すぎる……」と私を痺れさせてくれたのがゴシックバンドでした。早稲田大学の学生・宙也さんがボーカルを務める、アレルギーというバンドです。1980年代初頭だったので当時「ゴシック系」とは言っていなく「これ何ていう音楽ジャンルなんだろう?」ってずっと思っていたんですけど。今となっては伝説のディスコとされる、新宿ツバキハウスの「ロンドン・ナイト」に通ったり、マニアックなレコードをレンタルできる高円寺パラレルハウスさんのお世話になっていました。そのあたりで知ったニューウエーブと呼ばれるロンドン発の音楽シーンの脇に、ジャーマンウエーブとして紹介されていたMalaria!(マラリア!)という前衛音楽バンドが私の心に刺さったのですが、今考えるとこちらも相当なゴス風味でした。とにかく私はまさに現在につながるゴスシーンの(日本では)最初の入り口で、そうとは知らずゴスの洗礼を受けていたみたいです。

ー 音楽から入って、鈴木さん自身もゴシック・ファッションを着るようになったのですか。

鈴木:当時ゴシック・ファッションは、ステージ上のミュージシャンやごく一部の人のものだったので、私自身は着ていなかったです。それに私、全然ゴスのメインカラーの「黒」が似合わないんですよ(笑)!実は一回グラムでロックな雰囲気漂う黒服を買ったのですが、電車の窓に映る自分の姿を見て「似合わなさすぎる…。」と思い着ることを断念。捨てるしかありませんでした(涙)。ただ、当時私がせっせと摂取していた、ゴスを含むこの1980年代前半の音楽・ファッション・文化が、後に文化に力を入れたファッション雑誌『ケラ!』を作ることになる私を形成していったことは間違いないです。

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『ゴシック&ロリータ語辞典』執筆は自分自身を知る旅だった

ー さて2021年にSNSで『Otona Alice Walk』を立ち上げましたが、この活動はどんなきっかけから始まったのでしょうか。

鈴木:2020年、コロナ禍で外出がままならなくなくなった時に、『おうち原宿』というメディアをSNSで立ち上げ、「原宿に行くつもりで服を着て、家で撮影してハッシュタグを付けてアップしてね♡」と呼びかけ、発信したんです。それがそもそもの始まりです。

ー 『Otona Alice Walk』の前身は『おうち原宿』だったんですね。

鈴木:2021年にようやく外出も楽しめるようになったので、「お洒落をして街を歩きましょ♡」と『Otona Alice Walk』を立ち上げたんです。フォロワーの方におもいおもいのファッションで原宿に集まってもらって、スナップしました。

ー 『Otona Alice Walk』からの派生としてZINEも出されていますよね。

鈴木:そのスナップにいらした方の中に当時東京大学の大学院生で、歌人の川野芽生さんがロリータ装で参加していたので「ロリータ短歌を書いてみない?」と思いつき提案してみたんです。ちょっと迷ったのですが、誰もやっていない企画なので「SNSだけでなく紙の本にしたい!」と1人熱くなって、『Otona Alice Book』1号として発行。これがロリィタ短歌写真集になりました。ジュリーのZINE以来の、私の個人出資本です(笑)。その出版イベントも開催したのですが、そのお客さんの一人が誠文堂新光社の方だったんです。

2022-23年オトナアリスウォーク×川野芽生ロリィタ短歌写真コラボ第二弾『火事のやうに』より。短歌、執筆は川野さん。演出は鈴木さん。

ー 誠文堂新光社といえば鈴木さんの著書『ゴシック&ロリータ語辞典』の版元ですね。

鈴木:会場で声を掛けられ名刺を渡されて「ゴシック・ロリータの本を書いてもらえませんか」って。ちょうどロリータに関する書籍を執筆したいなあと思っていたので、まさに「渡りに船」でした。

ー 『ゴシック&ロリータ語辞典』は1年半もの時間を費やして完成した一冊だそうですが、奥付けの参考文献だけでも膨大な量ですよね。

鈴木:編集担当から「経費として資料代は出せない」と言われていたので、近所の図書館をキーにして、そこから区内や関東圏内の図書館から希望の書籍を持ってきてもらい、300冊くらい借りました。「ゴシックといいきれるもの」は実は少ないのですが、「ゴシックっぽい」と呼ばれるものは文化圏がとにかく広く、様々な資料が必要になります。ロリータも同じく、です。『ゴシック&ロリータ語辞典』には624のキーワードが掲載されていますが、それを決めるためにも候補として1000以上のキーワードを最初に書き出しました。単語カードも持ち歩いて、思いついた時に書きつけたり。「私、今、学生みたい!」って楽しかったです。

ー ひたすら言葉と対峙するなか途中で投げ出したくなることはありましたか。

鈴木:今までなんとなく知っていた言葉の意味や、ぼんやり知っていたことを、きちんとした資料を通してはっきりさせることはとても楽しかったです。『ゴシック&ロリータ語辞典』を作ることは私自身の人生をあらためて知る旅のようなものでした。そして読者さんもできあがったこの本を読んでそう思ってくれたみたいです。「この本を読むまで自分のことは可愛い系のロリータだと思ってたけど、意外にゴスっぽいものが好きだったのかも?」といったコメントをいただいたり。自分の中の意外な「ゴス成分」をあらためて知る本になったようです。

ー あらためて注目されているゴシック・ファッションをもっと楽しむために、『ゴシック&ロリータ語辞典』を手に取ってほしいですね。

鈴木:そうですね。古今東西の様々なゴス・スタイルや服についても紹介していますし。ゴシックに関わる音楽や美術、文学など関連する文化や歴史的背景についても書いているので、「ゴスに全然興味がなかった」というおじさま方からも「面白い」って言われています。編集者としての私は常に読者のしもべなので(笑)、エンターテインメントとして楽しく読んでいただけることを重視して「クスッ」って笑える文章を心掛けました。

『ゴシック&ロリータ語辞典』カバーイラストのための指示書。このほかに参考画像などを付けてイラストレーター、デザイナーに渡し、その後もたびたびデザイン指示を入れて作り直した。

ー 現在10代、20代の若者がゴシックファッションを自分たちの感覚で楽しんでいますが、鈴木さんの目にはどう映っていますか。

鈴木:世界のゴシック・ブームは12世紀の建築物から端を発して、その後様々な形をとって存在してきました。現在につながるファッションとしてのゴシックは、1980年前後の音楽シーンから生まれて、その後も音楽とのつながりを伴って更新されていきました。また、ゴス服が好きな人は音楽以外の文化とのつながりも大切にしてきたことも特徴的です。実はゴス人は美意識が強く、思索を好み哲学、文学、美術なども大切にしている人が多いのです。その反面、ゴシックは闇の文化をも背負っているだけに、以前のゴスには一般的には「怖そう」と思われるマイナスイメージもありました。しかし今は着ている人にも見ている人にもそんな雰囲気はあまり感じとることができません。シンプルにファッションから入って楽しむ時代のものになったんだろうなって感じが見受けられます。「ついに日の当たるところに来たんだな、よかったな」って思ってます。でも服を通してそこからゴスの世界に関心が行くようであれば、「いらっしゃいませ!」って感じです。なかなかに魅力的な世界ですから。

ー 最後に、鈴木さんにとってゴシック・ファッションとはどのような存在でしょうか。

鈴木:『ケラ!』を通じてゴスが広まっていった当時、ゴスにはちゃんとした定義があったわけではなくて、私も手探りながらもその時々の最前線を切り取って発信していたわけです。20年以上経った今『ゴシック&ロリータ語辞典』を編集・執筆したことで、当時「点」ばかりだったものがつながって「線」になり、さらに大きな木、そして森が見えてきた気がしています。またその線は、私自身の趣向を形成する「血筋」だったのだという気づきもありました。ゴシック・ファッションは世間一般と同じくらいゴシックというものをよく知らず、また黒服を着ることもなかった私が、実はゴス人でもあることを教えてくれた、ただの布切れ以上の存在です。

『KERAマニアックス』2008年10号掲載「WORLD SNAP」より、英国ウィットビーのゴス祭に集まる人々を撮影。
写真/鈴木真理子

ゴシック&ロリータ語辞典 ~ゴス・ロリにまつわる言葉をイラストと豆知識で甘くデカダンに読み解く~
著者: 鈴木 真理子
出版:誠文堂新光社
定価:(税込)1,870円
発売日:2024年07月10日
ISBN:978-4-416-62334-3
購入はこちらから

 


 

プレゼントキャンペーン:10月6日(日)締切

【応募方法】
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2. 鈴木真理子著『ゴシック&ロリータ語辞典 〜ゴス・ロリにまつわる言葉をイラストと豆知識で甘くデカダンに読み解く〜』を抽選で 3名様にプレゼント!キャンペーン投稿にいいね
3.上記2つを満たした方は応募完了
当選連絡:ご当選者さまには、10月7日(月)にインスタグラムのDMにて当選連絡させていただきます。
※郵便にてお送りいたします。

Book Café&Bar 十誡
〒104-0061
東京都中央区銀座5-1-8
銀座MSビル地下二階
03-6264-5775
(銀座駅 徒歩2分 日比谷駅 徒歩5分 有楽町駅 徒歩5分)

■営業時間
Cafe Time/(平日)15:00~18:00(土日祝)13:30~18:00
Bar Time/18:00~23:00(LO22:30)(日・月末最終日)18:00~22:30(LO22:00)
定休日/月曜日・火曜日(祝日含む)

■HP
https://www.zikkai.com/
■SNS
https://twitter.com/zikkai
https://www.instagram.com/zikkai/

  • Photograph : Kaito Chiba
  • Text : Akinori Mukaino / Mariko Suzuki
  • Interview : Yukako Musha(QUI)

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