ALAINPAUL 2026年秋冬コレクション──東京で検証された“レパートリー”
<ALAINPAUL>は、デザイナーのアラン・ポールと、パートナーで共同経営者ルイス・フィリップによってパリで立ち上げられたブランドだ。アランはバレエダンサーとして身体と向き合ってきた経験を持ち、その後ファッションへと軸足を移した。<VETEMENTS(ヴェトモン)>の黎明期に携わり、<LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)>のデザインチームを経て独立している。まだ日本での取り扱いは少ないが、ブランドの設立から継続してパリ・ファッションウィークでコレクションの発表を続け、LVMHプライズ、ANDAM賞などのアワードにも参加していることから、日本のファッションファンも名前を目にしたことがあるはずだ。
今回日本でさらにパリでの発表の直後ともいえるタイミングで、改めてランウェイショーを開催する意図について疑問を感じた人は少なからずいるだろう。「RÉPERTOIRE」と題されたコレクションを見つめると、ブランドの意図が自ずと見えてきた。
これまでアランが一貫して語ってきたのは、「服を身体のまわりに振り付ける」という考え方だ。服は完成された形として存在するのではなく、着ることで姿勢や動きが変わり、その都度意味が生まれるという前提がブランドの根底にある。同じシーズンのコレクションを異なる場所で見せるという判断には、この考え方がそのまま反映されているようだ。「RÉPERTOIRE」が意味するものは再演ではなく、条件を変えた中での検証と言えるだろう。
会場は、Rakuten Fashion Week TOKYOメイン会場のヒカリエホール。パリのショーと同じく三宅純の「Lilies Of The Valley」が流れ、一定のテンポの中でモデルが送り出されていく。歩行のリズムに合わせて素材が揺れ、ルックごとのシルエットの違いが順に現れていく構成となっていた。

今シーズンの出発点は、パリ装飾芸術美術館に収蔵される18世紀の衣服にある。アーカイブリサーチを通して、衣服と身体の関係が歴史の中でどのように変化してきたかが参照された。当時の宮廷服は、コルセットやパニエによって身体を固定し、姿勢やシルエットを厳格に整えるものだった。18世紀後半になると、衣服は次第に軽くなり、身体に沿いながら動きを引き出すものへと変化していく。この転換は同時代のバレエの変化とも重なり、身体は形式を体現する存在から、表現する存在へと移行していった。本コレクションは、18世紀の衣服に見られる「身体を固定する衣服」と「身体を動かす衣服」という対比を、現代の身体に引き寄せながら捉え直す試みと言える。

シルクオーガンザで全体を覆ったルックには、そうした二つの状態を重ね合わせる今季のアプローチが端的に表れていた。ガーメントバッグのように外側から包み込むことで、内側の衣服が透けて見える。アーカイブとしての保存と現代における着用のあいだに位置する、「生きた保存(リビング・コンサベーション)」の状態が、そのまま形として現れていた。
18世紀のパニエ構造は、横に広がるボリュームとして取り入れられている。当時のように硬い構造で固定するのではなく、ビスコースクレープなどの柔らかい素材に置き換えることで、動きに応じて形が変化する。見た目には広がりを保ちながら、歩くことで自然に揺らめく。静止した状態と動いたときの印象が一致しないことが、衣服と身体の関係を際立たせている。

シルエットは、身体を起点にデザインする<ALAINPAUL>にとって重要な要素の一つだ。なかでも、強く絞られたウエストから流れるように形成された立体的に広がるラインは、着用時の姿勢や動きに影響を与えるように設計されていた。
コートやジャケットでは、前身頃と後ろ身頃がそれぞれ引き伸ばされるように設計され、ボタンは交差する位置で留められている。背面にはエラスティックな構造が入り、前後から引き合う力が同時に作用する。ウエストには自然と力が集まり、視覚的な細さ以上に、身体の重心や姿勢に働きかける設計となっている。着用すると背筋が引き上がるような感覚が生まれ、身体のあり方そのものに影響が及ぶ。バレエで培われた身体感覚が、パターンの段階で具体的に反映されている。
素材の扱いにも同じ視点が通っている。サテンのドレスやスカートには圧縮やプリーツ加工が施され、折り目や凹凸がそのまま残されている。整えられた表面ではなく、加工の痕跡がそのまま可視化されている状態だ。光の当たり方や身体の動きによって陰影が変化し、素材が時間の経過を帯びた表情を見せる。

装飾では、ボウやリボンが繰り返し登場。見た目の装飾にとどまらず、引き具合や位置によってボリュームやラインを調整する役割を持っている。また、ラッフルは誇張された分量で取り入れられ、直線的なシルエットとの関係の中で位置づけられていた。
ジュエリーは、パリにある歌劇場オペラ・ガルニエ(オペラ座)の舞台装飾に見られるトロンプルイユから着想を得ている。金属要素を編み込んだニットとして構築され、ジュエリーと衣服の境界が曖昧になる仕上がりとなっていた。
パリ郊外のボヌイユ=シュル=マルヌに拠点を置き、30年以上の経験を持つ高級テキスタイル染色・仕上げ業者「Les Teintures de France」との協業では、18世紀のタペストリーをもとにしたモチーフが3Dプリントで再構成されている。平面的な装飾に留まらず、厚みや凹凸を持つ表現として衣服に組み込まれていた。
さらに、ここ毎シーズンラインナップされているレザーのパッチワークジャケットもこの協業によりアップデート。パッチワーク滑らかな面とカーリーな質感を組み合わせたパッチワークが目をひくシアリングジャケットに。外側に露出したシームによって構造が可視化され、素材の違いが明確に示されていた。
ニットでは、スイス出身テキスタイル/ニットデザイナーのセシル・フェイシェンフェルト(Cécile Feilchenfeldt)との協働により、コルセットの原型である「Le Corps À Baleine」を再解釈した構造が取り入れられている。構造を編みによって形成する彼女の手法によって、硬質なボーンの概念が柔軟な素材へと置き換えられている。
東京でのショーでは、パリの発表から6つのルックが新たに加えられ、一部スタイリングも組み直された。言うまでもないが、同じようなコレクションであっても、着る人やスタイリングによって印象が変わるという点が明確に見えた。アジア人モデルを多く起用したことで、肩幅や骨格の違いがシルエットに影響し、ウエストの位置やボリュームの見え方にも変化が生まれていた。

東京ならではの要素として欠かせないメイクアップを担当したのは、資生堂ヘアメイクアップアーティスト・伊藤礼子。今シーズンのルックは繊細な色使いによって柔らかさを持つが、着用すると構造による強さが際立つ。その印象を踏まえ、メイクでは強さと遊びの両方を取り入れる方針が取られ、目に焦点を当てたモノトーンの構成を軸に据えていた。アランからは、東京ならではのショーにしたいという意向が共有されていたという。アジア人モデルの骨格を前提に、陰影の出方やラインの強さが細かく調整されている。アイライナーやアイシャドウは均一に整えず、濃淡のムラを残すことで骨格の陰影を強調している。整った輪郭をつくるのではなく、顔がもともと持つ凹凸や個体差をそのまま引き出す方向で設計されている。衣服に見られる圧縮や歪みと同様に、わずかなズレや不均一さが全体の印象を支え、服の中にある緊張や揺らぎが、顔の上でも別の形で現れていた。ヘアは動きを感じさせる大胆なスタイルで構成され、メイクの陰影とのあいだにコントラストが生まれていた。

現在、国内での取り扱いは限られているが、東京でのコレクション発表やショールームの開催によって、国内でのブランドの認知度は上がり、今後日本からのバイイングオファーの増加も見込まれる。
ブランドを支えるチームの在り方も、その広がりを支える要素となるだろう。昨年はじめてルイスと連絡を取り合った際、その応対からは丁寧な姿勢が伝わってきた。Lift daikanyamaの取材においても同様の印象が共有されており、こうした積み重ねがコレクションの精度や継続的な展開につながっていることがうかがえる。日本市場における展開も、こうした基盤の上で広がっていくのではないだろうか。
「私が目指しているのは、誠実さを実践するメゾンです。クラフトと感情、テーラリングと動き、アイデンティティと自由、そのあいだに橋をかける存在でありたいです。服が、人々の「今ここにいる自分」と「これからなっていく自分」の両方を支えてくれる場所であってほしいと思っています。そして、細やかな感性や個性、自分の身体にきちんと居ることの美しさを尊ぶ文化に、メゾンとして少しでも貢献できればと願っています。」
その姿勢は、今回の東京での発表において、シルエットの設計やスタイリング、そしてモデルの身体の見え方にまで具体的に表れていた。各ルックは単体で完結するのではなく、歩行やレイヤリングの中で形が立ち上がり、「橋をかける」構成として提示されていた。
東京でのショーは、その構成を異なる身体や環境の中で検証する機会となり、服の設計がどのように機能するかを具体的に表していた。ここで提示された着用のイメージは、ランウェイにとどまらず、そのまま日常へと接続される。今回の発表を起点に、日本でどのように着られ、どのように受け取られていくのか。その積み重ね自体が、このコレクションの続きとして展開されていく。
ALAINPAUL 2026AW TOKYO COLLECTION RUNWAY
ALAINPAUL
Web:https://alainpaulstudio.com/
Instagram:@alainpaul
- Photography : Ko Tsuchiya
- Edit & Text : Yukako Musha(QUI)




























