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TSTSをアーカイブしていく|鈴木達之の考察と佐々木拓也の見解

May 29, 2026
色褪せることなく、時代に左右されることもないことが魅力と捉えられアーカイブファッションが脚光を浴びている。ヴィンテージ古着専門店「Archive Store」のマネージャーの鈴木達之は「あくまでひとつの解釈」としたうえで「ベーシックという『既視感』の中で強烈な『違和感』を放つ存在」こそがアーカイブになり得ると話す。そんな鈴木が日本発のアーカイブとして語り継ぐべきブランドや作品についてデザイナー自身に問う本企画。今回は<TSTS(ティーエスティーエス)>の佐々木拓也に独自の考察をぶつける。

TSTSをアーカイブしていく|鈴木達之の考察と佐々木拓也の見解

May 29, 2026 - FASHION
色褪せることなく、時代に左右されることもないことが魅力と捉えられアーカイブファッションが脚光を浴びている。ヴィンテージ古着専門店「Archive Store」のマネージャーの鈴木達之は「あくまでひとつの解釈」としたうえで「ベーシックという『既視感』の中で強烈な『違和感』を放つ存在」こそがアーカイブになり得ると話す。そんな鈴木が日本発のアーカイブとして語り継ぐべきブランドや作品についてデザイナー自身に問う本企画。今回は<TSTS(ティーエスティーエス)>の佐々木拓也に独自の考察をぶつける。
Profile
佐々木 拓也
TSTS Designer

1990年、青森県出身。文化服装学院卒業後、アントワープ王立芸術アカデミーに進学し、Walter Van Beirendonck(ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク)らに師事する。2016年の帰国以降は<sacai(サカイ)>でのインターンや、友人とのブランド立ち上げなど複数のコレクションブランド勤務を経験し、2023年から<TSTS>をスタート。

鈴木 達之
Archive Store マネージャー

1980年代〜2000年代初頭のデザイナーズアーカイブを収集して、独自の解釈でキュレーションしている、ファッションの美術館型店舗を運営。SNSでは独自のファッション史考察コラムを投稿。メディアへの寄稿や、トークショーへの登壇など、活躍の場を広げている。

笑いの理論から生まれた「二面性」というコンセプト


鈴木:佐々木さんがご自身のブランドで初めてコレクションを発表したのは30歳を過ぎてからですよね。

佐々木:ファーストコレクションは32歳のときでした。

鈴木:僕はこれからの東京のファッションシーンを引っ張っていく存在として、満を持して30代でコレクションを発表したデザイナーに注目していて、佐々木さんもその一人でした。

佐々木:ありがとうございます。

鈴木:ブランドコンセプトに「二面性」を掲げていますが、あれはアントワープ王立芸術アカデミーの修了コレクションのときから考え方として存在していたんですよね。

佐々木:修了コレクションは「緊張と緩和」という二面性がテーマだったのですが、その考え方は現在の<TSTS>のクリエーションにも引き継がれていて、ブランド名の由来でもある「TEST SAMPLES」も修了コレクションのときに使用した言葉です。

鈴木:「デザイナーになろうと思ったきっかけはなんですか」という質問に対して7万字を超える回答を記した佐々木さんのnoteを読ませてもらって知ったのですが、「緊張と緩和」というのは笑いの理論からだったんですね。

佐々木:お笑いが好きだったのと日本語に飢えていたこともあって、アントワープで生活していた頃はインターネットなどで日本のお笑い番組を貪るように見ていました。そのときに北野武さんがアントワープ王立芸術アカデミーを訪れるという番組を目にしました。ビートたけしというコメディアンでありながらアカデミーには北野武という文化人として訪れている。そういう異なる立ち位置におもしろさを感じました。

3BA Collection Research Book(提供:佐々木さん)

3BA Collection Research Book(提供:佐々木さん)

鈴木:コメディアンと文化人というのは「二面性」かもしれないですね。

佐々木:修了コレクションの構想を練り始めたのが2015年で、ラグジュアリーストリートがトレンドとして確固たる地位を築き始めた頃でした。イージーなスタイルが存在感を強めていたのですが僕としてはもう少し緊張感のあるスタイルが好きだったので、ドレスアップの奥行きもイージーな雰囲気も感じる両面の要素がミックスされたスタイルを提案したいと考え「緊張と緩和」、そして「二面性」というコンセプトが生まれました。

品質表示での大喜利(提供:佐々木さん)

鈴木:アントワープ王立芸術アカデミーのベルギーといえばシュルレアリスムの国です。その概念を日本人的な視点で解釈すると「緊張と緩和」という笑いの理論に通じるのかと僕としては新たな発見でした。ベルギーでファッションを学ぶならシュルレアリスムの思想はMartin Margiela(マルタン・マルジェラ)をお手本にしそうですが、佐々木さんはお笑いに向かったのかと(笑)。修了コレクションは品質表示やサイズのタグもボケだらけでしたよね。

佐々木:大喜利のような捻りを加えたかったんです。

鈴木:<Maison Martin Margiela(メゾン マルタン マルジェラ)>も2000年、2001年のコレクションはオーバーサイズで「はみ出し」を表現しましたが、あれは「違和感があるけれどあり得なくはない」という思考の転換だったと思うんです。バービー人形が着ている服を人間が着られるように8.5倍のサイズにした「ドールズワードローブ」も同じで、マルジェラが表現したかったのは「違和感のない違和感」だったのかなって僕は考えていて、佐々木さんの修了コレクションの仕掛けにも同じことを感じました。

佐々木:シュルレアリスムに関しては僕もアントワープの影響は大きいです。留学前の服作りはコンセプチュアルではなかったのですが、村上隆さんの動画や書籍に触れたことで「ファインアートのアプローチをファッションデザインに転換できるのでは」と考え、それをアントワープで実践してみたら手応えがあったという感じです。

テーマはダークでもアウトプットはポジティブでありたい


鈴木:僕が<TSTS>のコレクションを見て、最初に感じたのは「既視感がない」ということです。佐々木さんの確固たるオリジナルの世界観というのはアントワープで築き上げられたものですか。

佐々木:それは間違いないですね。僕がファッションデザイナーを目指したのはHedi Slimane(エディ・スリマン)の影響ということもあり、元々の作風はどちらかというとダークです。ですがアカデミーの修了コレクションでコンセプチュアルなアプローチとPOPさを意識したことで「これこそが僕がやるべきデザインだ」と強く思えました。そこから自分が表現したい世界観は変わらないです。

鈴木:Hedi Slimaneに追随することなく自分だけの道が拓けたんですね。

佐々木:<TSTS>はネガティブなステートメントを打ち出すこともありますが、アウトプットはポジティブであるべきだと考えています。例えば反戦のメッセージをピンクで表現したっていいはずだと気づけたのはcoconogaccoで山縣さんに、アカデミーでウォルターに出会い、それぞれからの学びがあったからだと思っています。

鈴木:大きな影響を受けて当然の二人ですね。

佐々木:村上隆さんもそうですが、僕が影響を受けているポップアートはカタカナで表現される弾むようなポップではなくて、アンディ・ウォーホルらポップアーティストが表現しているような「POP」だと思っています。

鈴木:ファッションってトレンドなので時代の空気やムードを察知して、どう解釈するかが大切なのですが、佐々木さんのコレクションから感じるのは「現代社会との断絶」なんです。過去を徹底的にリサーチしているでしょうし、同時に未来も見据えているようにも思えます。

佐々木:僕の感覚でギリギリ着ることができるリアルクローズを作っているのが<TSTS>なので、鈴木さんの分析もわかるような気がします。一般的に許されるかどうかの際どい服を作ることもあるので現代社会との断絶を感じるのかもしれないですね。

鈴木:シュルレアリスムもトロンプルイユでのアプローチはよく見ますが、佐々木さんの発想はElsa Schiaparelli(エルザ・スキャパレッリ)に近しいと思っています。そういうアートな服作りをするデザイナーがもっと日本にも増えてほしいというのが個人的な願いです。

デザイナーとしての足跡を明確にするための日付タグ


鈴木:専門学校や美大などで服作りを学ぶことで自身のファッション観が固まっても、ブランドをやっていくうちに考え方が少しずつ変わっていくということもあるとは思いますが、佐々木さんはどうですか。

佐々木:<TSTS>でデビューしてからのファッション観は、自分では一貫していると思っています。技術的な服作りの文化服装学院とアート的な服作りのアントワープ王立芸術アカデミー、またその間にcoconogaccoを挟んだのも大きかったです。村上隆さんの現代アート思考に触れたのもcoconogacco時代で、「作る前にまず考える作り方」という自分の服作りのプロセスが確立されたような気がしています。

鈴木:僕がマネージャーを務めている「Archive Store」の展示も村上さんの影響を大きく受けています。

佐々木:これまでのインタビューでも話しているのですが、現代のモードとはファインアートの文法を拝借しているというのが僕の考えです。ファッションデザイナーが提案できるのは先1年ほどの時代のムードですが、アートは作者の没後から真価を発揮することもあり時間軸のスケールも桁違いです。僕も自分がこの世から去った後でも面白がってもらえる服を作りたいです。

鈴木:<TSTS>のコレクションには年だけじゃなくて日付まで入っていますが、あれもデザイナーとしての足跡であり痕跡ですよね。発表年だけではなくて日付まで明記するのはアーカイブの解像度の高さとしてすごく新しいと思いました。<TSTS>の顔でもあるギンガムチェックにも一枚一枚に異なる日付が記されているのはアーカイブ好きとしてはたまらないです(笑)。

佐々木:修了コレクションのチェックは市松の総柄でしたが、柄が強過ぎて街の風景に馴染みにくいような気がして、<TSTS>では強さを和らげる意味でギンガムチェックを選びました。<TSTS>を立ち上げる前の2017年にはセレクトショップの別注で「SAMPLES」コンセプトのスウェットシャツを作ったこともあります。枚数も多くはなかったのでアーカイブとしては貴重かもしれません。

夏季休暇中に描いた3BAコレクションの初期案(提供:佐々木さん)

鈴木:アントワープの卒業コレクションのタイトルは「SAMPLES」でしたが、あれはどういう想いで付けたのでしょうか。

佐々木:実は特別な意味はありませんでした。元々はコンテストに応募するためのポートフォリオの表紙に「見本帳」という意味で「SAMPLES」と記していました。それを見たクラスメイトから「コレクションのタイトルがSAMPLES?」って言われて、そうではないけれど無機質で意味のなさを感じる単語がシュールで自分らしいと感じ、正式なコレクションタイトルにしました。

完成したポートフォリオ『SAMPLES』の提供(提供:佐々木さん)

鈴木:アーカイブ好きは独自の解釈で、独自のストーリーを展開しがちです。「SAMPLES」には「未完成品」のような意味があるので、このタイトルには「現状に満足することなく、完成品を追求し続ける」という佐々木さんの熱い想いが込められているに違いないと僕は捉えていました。

佐々木:過去にQUIさんのインタビューを受けたときも同じようなことを言われました。

鈴木:僕もQUIさんも勝手な解釈ですけど、本来の意味や由来に関係なく、周囲が自由にストーリーを発展させることができる、考えさせてくれる余白を有する言葉をチョイスしているのはさすがだと思います。

佐々木:<TSTS>というブランド名にしたのもグラフィックとして服にプリントしたときに、この字面なら抵抗感なく着用できると思ったからです。これが「Takuya Sasaki」だと僕は着ないかもしれない。

鈴木:<TSTS>のロゴはパリモードへのアンチテーゼを掲げていたウィーン工房のロゴと似ていて、そこからインスピレーションを得てデザインを起こしたのかと思っていたぐらいです。ロゴにウィーン工房を重ねることができ、発想はElsa Schiaparelliに通じるものがあり、コレクションに仕掛けがあふれている。だからこそ佐々木さんへの興味は尽きないです。チャットのモチーフを落とし込んだジャケットなどは数十年後に見たら「あの時代はこんなコミュニケーションツールが存在したのか」とアーカイブ視点で斬新に感じるはずです。

佐々木:チャットのリファレンスは村上隆さんの「言い訳ペインティング」なんです。「村上隆 もののけ 京都」には、納期に間に合わなかったり納得のいっていない作品に対して言い訳をしているキャラクターの絵が展示されていて、当時、作品制作がうまくいかずに気持ちが落ちていた自分からすると「村上さんでも完成できないことがあるんだ」と少し救われました。それで吹き出しをモチーフにした服を作ろうと思ったのがきっかけでした。

鈴木:誰もが無意識に目にしているもの、特にかっこいいとされていないものをデザインに昇華させるのはMartin Margielaのコレクションにも見られます。チャットのような日常的なツールをファッションアイコンにしたのがアントワープで学んだ佐々木さんらしいです。シュルレアリスムの思考だなって。

周囲の雰囲気まで変えるパワーピースを生み出したい


鈴木:ファッションって自分がよく知らない時代やカルチャーの考察につながる社会学のようなものでもあって、チャップリンとオフィシャルコラボレーションしたファーストコレクションもそういう役割を担っているのではないかと思っています。若い世代でも<TSTS>をきっかけにチャップリンという人物について、代表作品について、当時のコメディについて調べた人もいるはずです。


佐々木:そういう声は確かに聞きますね。ファーストコレクションはチャップリンの『独裁者』という作品をモチーフにした反戦がテーマだったのですが、グラフィックの引用は『モダン・タイムズ』なんです。コンセプトとグラフィックをあえて一致させていないのですが、僕にとって「着たくなるチャップリン」は『独裁者』ではなく『モダン・タイムズ』のグラフィックだったので、あくまで自分のファッション的な感覚を優先して選びました。

鈴木:<TSTS>がデビューした2023年は「ラグジュアリーストリート」のピークも過ぎて、「クワイエットラグジュアリー」が台頭し始めた頃でした。それでもトレンドと逆行するような強いメッセージを表現した佐々木さんの姿勢にはファーストコレクションに懸ける決意や覚悟を感じました。

佐々木:世の中に「何か出てきたぞ」と思わせたい気持ちはありました。「こんな服を誰が着るんだろう」と思われたとしても、例えばショップに並んだときに空間の鮮度や感度を高めるような強いアイテムは必要だと思っていて、<TSTS>はそこに懸ける馬力は備えていると思っています。

鈴木:僕はショップのマネージャーでもあるので空間演出にまで影響を及ぼすようなパワーピースの必要性については深く頷けます。売ることよりもブランドの世界観を伝えることを優先したアイテムをデザイナーにも作ってほしいと思っていますし、そういうアイテムがコレクションのファーストルックに登場したときには感動します。

佐々木:そのシーズンに伝えたいことをファーストルックで表現するというのは<TSTS>でも大切にしていることです。ツカミであり結論でもある、みたいな。この場に持ってきたものはファーストルックを飾ったものが多いです。

鈴木:2024年の秋冬コレクションでは卒業コレクションを再現した「SAMPLES 2」としてチェックのショートパンツを発表していますが、アントワープ時代のオリジンも残っているのは価値が高いです。

佐々木:秋冬コレクションなのにファーストルックが裸にショートパンツだけで、しかも靴は片方しか履いていなくて、違和感だらけかもしれませんが、このルックが<TSTS>が掲げる「二面性」の集大成のように思っています。

鈴木:秋冬コレクションでショートパンツを発表するブランドは珍しいと思います(笑)。<TSTS>には社会に対するカウンターのような思考で服作りを続けていってほしいです。

佐々木:僕は必ず実行に移す意味で「来年からはパリで発表する」と周囲に宣言しています。ファインアートに通じる服作りをやっている自負もありますし、僕はアントワープで引き上げてもらった人間なので、<TSTS>に対する海外での評価を聞いてみたい。

鈴木:デザイナーとして見出されたのがアントワープだったとしても、現在は日本でも高く評価されているのは佐々木さんがリアルクローズとしてストリートファッションを通ってきたのが大きいかもしれないですね。服作りの根底にあるのが最初からオートクチュールやシュルレアリスムだったら理解してもらうのは難しかったかもしれない。

佐々木:確かにそうかもしれないです。

鈴木:10年後、20年後に見たら「どうしてその当時の<TSTS>はこの表現だったのか」が見えてくる気もするので「Archive Store」で<TSTS>のアーカイブ展みたいなことを企画してみたいですね。この場に揃っている貴重な資料を多くの人に見てもらいたいです。

佐々木:それが実現したらうれしいです。ぜひ、お願いします。

  • Interview : Tatsuyuki Suzuki(Archive Store)
  • Photograph : Naoto Ikuma(QUI/STUDIO UNI)
  • Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLE)
  • Edit : Ryota Tsushima(QUI)

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