鳴海唯 – 自分の心に嘘をつかない
ドラマ『テミスの不確かな法廷』で弁護士・小野崎乃亜を演じる鳴海唯は、人が人を裁くことの難しさと真っ向から向き合った。
念願だった弁護士役を通して得た刺激や気づき、そして自身の核となる「正義」について話を訊いた。





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「安堂を支えてください」という言葉が指針になった
― まず最初に脚本を読んだ感想から教えてください。
主人公がASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)を診断されている裁判官であり、そのことを隠して社会で生きているという設定が今までにない作品だなと思いました。しかしその特性があるからこそ、新しい視点で事件に切り込み、解決していくという流れが面白かったです。
また、ミステリーやサスペンスの要素と人の温もりを感じさせる描写のバランスが見どころになると感じました。
― 鳴海さんは弁護士の⼩野崎乃亜を演じられましたが、本作においてどんな役割を果たそうと思いましたか?
撮影中盤に差し掛かった頃、原作者の直島翔先生がサイン入りの小説を届けてくださったのですが、そこに書かれていた「安堂を支えてください」というメッセージが心に残り、その言葉がしっかりとした指針になりました。
(松山ケンイチさん演じる)安堂と小野崎は、人としては一見相性が合わなそうに見えますが、それはお互いの足りない部分を補い合っている関係性だともいえる。なので、この作品の中で小野崎は安堂と支え合って、不器用ながらも彼と共に事件に愚直に向き合っていく、そんな等身大のキャラクターにすることで作品において共感性を生む役割を担えたらと考えていました。
― ⼩野崎というキャラクター自体のイメージは?
本当はとても繊細な女性なんだろうなと、私は思っていて。時に空回りをして、ひとりで突っ走ってしまう猪突猛進なキャラクターでもありますが、裁判では冷静に被告人と向き合い、仕事を全うする。裁判と普段のシーンとのギャップで、人間味を見せていくということは意識していました。

― 松山ケンイチさんとは初共演だったのですか?
実は『どうする家康』で、ワンシーンだけご一緒させていただいたんですが、ここまでしっかり共演させていただくのは初めてでした。
物心ついたときからテレビや映画で拝見していた大先輩なので、当初は緊張していましたが、すごくフランクに接してくださって。現場でわからないことがあったら気軽に質問できる、フラットな状況を常に作ってくださるので感謝しています。
― お芝居で刺激を受けたことはありますか?
『どうする家康』のときからそうでしたが、想像もしていなかった面白い変化球を投げられる。すごくたくさんのアイデアを持ち込んで実践してくださることで、私も想定していたお芝居じゃなくなって、リアルなシーンが生まれるんです。ワクワクしながらご一緒させていただいています。
― 共演者のみなさんとのエピソードがあれば教えてください。
日々誰かに長ゼリフがあるんですね。みんなが必死にならざるを得ない環境なので、それがすごくいいチームワークを生んでいて。「今日長ゼリフだよね」「がんばって」「大変だね」と声を掛け合うことが日々のコミュニケーションのひとつになっていて、それが団結につながっていると感じます。
― 裁判シーン、かっこよかったです。法律用語も多いので大変そうですが。
ありがとうございます。今まで言ったことのない難解な言葉を理解し、自分の言葉にして流暢に話さないといけないので、鍛錬が必要です。そしてその難しい言葉をちゃんと理解して話さないといけないので、ネット辞書が常に欠かせません。

悩み続けて、向き合い続ける
― ドラマでヒロインを務めるのは初とのことですが、率直な感想をお聞かせください。
弁護士を演じることは夢だったので、それがこんな素敵なチームと叶えることができてとても嬉しいです。またヒロインという立ち位置で現場に立たせていただけることも夢のようですし、心から尊敬する先輩の皆様に囲まれてやらせていただけることにも喜びを感じています。
― 弁護士の役に憧れを持っていたのはなぜでしょう?
自分のパーソナリティに合っている気がずっとしていて。弁護士は依頼人に嘘なく向き合い、依頼人を救いたいという正義感が強くないと務まらない仕事だなと思っているので、自分の中の人に対して誠実でありたいという想いと、弁護士という職業がリンクするんじゃないかなと考えていました。
― 本作では正義の不確かさや、人が人を裁くことの難しさが描かれていますが、実際に弁護士を演じてみて考えさせられた部分があれば教えてください。
正義は人の視点によって全く違うものになってしまうので、そこがすごく難しいところですし、法曹関係者の方々にとって一生つきまとうテーマなのかなと思います。
でも弁護士である小野崎は、依頼人の利益を守るべきか、真実を明かすべきか、その狭間で揺れ動く。そんな重責と向き合い続けるのはとても精神がすり減ることだと思いますし、演じながら改めて覚悟のいる職業だと感じています。

― 安堂の「わからないことをわかっていないと、わからないことはわかりません」というセリフが印象的でしたが、鳴海さんは「わからないこと」にどう向き合っていますか?
とことん悩み続けて、向き合い続けるしかない。俳優は答えがない仕事でもあるので。わからないことをわかろうとすることは、向き合い続けることとイコールだと思っています。
― わからないことに向き合い続けることって、すごく大変というか、カロリーを消費することですよね。
非常に。
― つらくないですか?
つらいですね。でもここまで悩み続けられる仕事だからこそ飽きないのかな。大変ですけど、やりがいはあるなということは常々感じています。
― わからないこと自体が、やりがいにつながる。
わからないことがあると、絶対それを乗り越えてクリアしたいと思えるので。毎作品、自分の中で調整したい課題を取り入れるようにしていて、そういった意味では分からないことがあった方が楽しく臨めていると思いますね。

― 「わからないことをわかる」って、今の時代にすごく必要なことなんじゃないかとずっと思っていて。
そうですね。
― わからないことをわかっていない人、自分には表面しか見えていないということに無自覚な人こそ正義を振りかざしがちというか。人はそれぞれが違って、それぞれに事情を抱えている。誰もがそこに対する想像力を持つことができると、もっとやさしい世の中になるんじゃないかなと思うんですけど。
視点が変わったら、正しいことが真逆になることもあり得ますからね。
― はい。わからないことに向き合い続けるためにはどういうマインドが大切だと思いますか?
他者と生きていくうえで一番大事なのは、自分の考えだけが正解だと思わないことじゃないかなと。でもそれと同時に、自分が正しいと思うことをしっかり離さず掴んでいることも必要だと思っていて。どうすれば自分の核を忘れずに他者を理解しうまく向き合っていけるのか、それは日々私も課題だなと感じています。
― 鳴海さんにとっての核、そして正義ってなんでしょう?
自分の心に嘘をつかないことでしょうか。やっぱり自分を大切にできていないと、人のことも大切にできないと思っているので。自分はどうしたいか、自分はどうありたいか自問自答することで、人に対してやさしくいられる気がします。

Profile _ 鳴海唯(なるみ・ゆい)
1998年5月16日生まれ、兵庫県出身。連続テレビ小説『なつぞら』で女優デビュー。主な出演作として、ドラマ『どうする家康』、『Eye Love You』、『あのクズを殴ってやりたいんだ』、『あんぱん』、『MISS KING』、『シナントロープ』、映画『アフター・ザ・クエイク』がある。2026年1月10日に季刊ZINE『Magic hour』Natural AM:6:00-9:00 NARUMI YUIが発売予定!
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Information
ドラマ10『テミスの不確かな法廷』
2026年1月6日(火)スタート〈全8回〉
NHK 総合テレビ 毎週(火)夜 10:00~
[再放送]NHK 総合テレビ 毎週(金)午前 0:35~ ※木曜深夜
※NHK ONE(新NHKプラス)で同時・見逃し配信中
原作:直島翔 「テミスの不確かな法廷」
脚本:浜田秀哉
音楽:jizue
出演:松山ケンイチ 鳴海唯 恒松祐里 山崎樹範/市川実日子/小林虎之介(1話ゲスト)/和久井映見 遠藤憲一 他
演出:吉川久岳(ランプ)、山下和徳、相良健一、富澤昭文
制作統括:橋立聖史(ランプ)、神林伸太郎(NHKエンタープライズ)、渡辺悟(NHK)
- Photography : Kazuki Shigeru
- Styling : Lee Yasuka
- Hair&Make-up : Ayaka Marubayashi
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)