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音の温度や湿度で選ぶアルバム | ディスクユニオンスタッフが教える、かけがえのない音楽 # 24

Nov 21, 2025
首都圏を中心にしながら、名古屋、大阪まで、音楽CD・レコード店を展開し、ビギナーからマニアまで多くの音楽ファンの絶大な支持を集める「diskunion(ディスクユニオン)」。ロックやソウル、ジャズ、JPOP、クラシックなど、さまざまなジャンルごとに精通したスタッフが在籍するのもディスクユニオンの大きな魅力になっている。ここではそんなマニアックなスタッフたちが毎月のテーマに沿って、おすすめのアーティストの作品を紹介していく。

連載第24回目となるテーマは、「音の温度や湿度で選ぶアルバム」
冬の気配が立ちはじめたこの頃、「音の質感」を感じられる作品を紹介します。

各ジャンルを担当する音楽マニアならではの深い知識と独断と愛情にあふれるリコメンドを楽しんでほしい。ここで見つけたディスクユニオンの“推し”が、あなたにとってかけがえのないライブラリーになることを願いつつ。

音の温度や湿度で選ぶアルバム | ディスクユニオンスタッフが教える、かけがえのない音楽 # 24

Nov 21, 2025 - MUSIC
首都圏を中心にしながら、名古屋、大阪まで、音楽CD・レコード店を展開し、ビギナーからマニアまで多くの音楽ファンの絶大な支持を集める「diskunion(ディスクユニオン)」。ロックやソウル、ジャズ、JPOP、クラシックなど、さまざまなジャンルごとに精通したスタッフが在籍するのもディスクユニオンの大きな魅力になっている。ここではそんなマニアックなスタッフたちが毎月のテーマに沿って、おすすめのアーティストの作品を紹介していく。

連載第24回目となるテーマは、「音の温度や湿度で選ぶアルバム」
冬の気配が立ちはじめたこの頃、「音の質感」を感じられる作品を紹介します。

各ジャンルを担当する音楽マニアならではの深い知識と独断と愛情にあふれるリコメンドを楽しんでほしい。ここで見つけたディスクユニオンの“推し”が、あなたにとってかけがえのないライブラリーになることを願いつつ。

静けさに滲む音の気配と質感をたどる「のぶえの海」

recommend by ディスクユニオン物流 稲垣 吉人さん
気になったものは何でも試しに聴いてみる者。メタルからパンク、フリージャズやアヴァン系、ニューウェーブ等。一番好きなミュージシャンは浅川マキ。

アーティスト名:河名伸江
アルバム名:のぶえの海(1975年/自主制作)

スタッフのおすすめコメント:

秋から冬への空気を湛えているアルバム...というテーマで私の中に浮かんだこの作品。当初1975年にごく少数プレスされ、私的な配布でしか出回らなかった...いわゆる私家盤とされる作品です。

プライベートで一切の飾り気のない、ローファイなプロダクション。アコースティックギターやピアノの素朴な弾き語りとナレーションが交互に行き交う構成となっており、ボサノヴァが混じったアシッドフォークの要素が濃い目に立ち上がっている他、歌詞が全編に渡って海をモチーフとしたものになっています。

上記の要素を交えて漂って来るのは人らしい温度と湿り気、そしてこの世ならざる冷たさと乾きがそれぞれ両立した、この世とあの世の狭間の様な...それこそジャケットの様な青く色褪せた海辺の光景です。

ナレーションはこのアルバムが制作された背景や、河名氏の当時の状況、周辺の事などが語られており、歌と交互に聴く事で当時の空気に触れるかの様な没入感もリスナーに与えてくれます。晩秋から冬にかけてのこの時期に間違いなく合致する作品でしょう。

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ブリキ色の冷たさが冴える秋から冬へ「乗物図鑑」

recommend by ディスクユニオン物流 稲垣 吉人さん
気になったものは何でも試しに聴いてみる者。メタルからパンク、フリージャズやアヴァン系、ニューウェーブ等。一番好きなミュージシャンは浅川マキ。

アーティスト名:あがた森魚
アルバム名:乗物図鑑(1980年/Vanity)

スタッフのおすすめコメント:

作詞作曲の活動は1965年から。ムーンライダーズの前身であるはちみつぱいをバックバンドに活動し、ソロやヴァージンVSなどを経て、喜寿を迎えた現在でもアルバムをリリースし続ける偉大なる先達、あがた森魚が1980年に阿木譲が主宰した伝説的実験音楽レーベル、Vanityから300枚の少数プレスでリリースしたアルバムです。

阿木譲のオーダーは当時としても音楽的先端であったテクノポップ。しかし本作の内容は、その言葉の想定をも越えていました。確かにテクノポップらしいシンセやヴォコーダー、リズムボックスを始めとしたエレクトロニクスを用いた楽曲なのですが、装飾を徹底的に削ぎ落とし、ポップの臨界点を突き詰めたローファイかつ、ミニマルなポストパンクの色合いが強いのです

YMO(特に後期)の方向性とはある種対極とも取れる、極めて私的で無機質で剥き身の音響の骨組みとも言えるでしょう。実際このアルバムは録音からミックスダウンまで約2日という極めて短い制作期間であり、ポップ性の中に即興性と緊張感までもが漂っています。

こうした音楽性と制作背景が生む空気は、プラスティック──あるいは今作の評者がこのアルバムにしばしば用いる“ブリキ”の比喩にも似た冷たさを湛えています。ジャケットのモノクロの色合いと共に、熱を失いつつある秋から冬へと移りゆくこの季節と、高い親和性を持つ作品だと断言致します。

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冬の寒さに灯る他人のぬくもり「よすが/抱擁」

recommend by ディスクユニオン川崎店 鈴木由加里さん
川崎店スタッフの鈴木です。最近編み物はじめました、お酒飲みながら編んでます。

アーティスト名:カネコアヤノ
アルバム名:よすが/抱擁(2021/1994 (1994 Co., Ltd.))

スタッフのおすすめコメント:

アルバム「よすが」の1曲目のこの曲MVだと雪景色の中で撮っているせいかとても見ていると寒さと冬を感じるのですが、曲自体はすごく温かいんですよね。なんだか他人に抱擁された時の温かみのようなものを感じます。他人といっても肉親の場合もあるでしょうし、恋人や友人かもしれない。その抱擁に季節は全く関係ないのですが人は冬にそれを思い出すのではないでしょうか。

冬は人肌が恋しいなんて言いますけど、きっとその温かさを求めているのでしょうね。そんな寒さを感じた時に聴いてほしいとても温かい曲です。

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脳に入り込む冷たい電波と、胸を締め付ける海「The Girl with the Needle (ost)」

recommend by ディスクユニオンお茶の水駅前店 櫻 流瑠美さん
主にテクノを中心に民族的・神秘的な音楽が好き

アーティスト名:Frederikke Hoffmeier &Puce mary
アルバム名:The Girl with the Needle (ost)(2025年/Oona)

スタッフのおすすめコメント:

私が今回おすすめする湿度高めのアルバムは「Frederikke Hoffmeier &Puce mary」 の「The Girl with the Needle (original soundtrack)」です。1920年代第一次世界大戦直後のデンマークで起きた事件をもとに作られた映画のOST。この曲を始めて聴いたときの衝撃が忘れられない。Frederikke Hofmeierの冷たい重低音と工業・機械的なノイズが交じった、あのクールで無機質な音が本当にかっこいい。なかでも必聴の曲が2つある。

ひとつめは“coming dow”。少し薄暗い部屋や地下鉄などで、イヤホンか爆音で聴いてほしい。。。 最初、音響のように鳴り響く暗く不穏な、鈍器で殴られたような重低音と女の人の囁く声。それがじわじわと大きくなり、脳に直接入り込んでくるような独特な電波音が、たまらない。クールな重い電波みたいな音で頭が一瞬真っ白になって白目剝いちゃうほどいい。(びーーーーって感じの音)とにかくかっこいいのだ!!

もうひとつは“seagulls”という曲。さきほどの曲とはうってかわって、霞がかった青白い海を想起させるような開けた感じの音。聴いていると胸が締め付けられるように切なくなる不思議なサウンド。この2曲は「湿度」や「温度」が特に感じられると思います。私はもう何度も聴くたびにその音の幅の広さや、音の冷たさの中にある温もりに心が感動しまくりである。

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無機質な街の危うさを支えるローファイの体温「MUSIC FOR KIDS」

recommend by ディスクユニオン ポップス/ロックス担当 松坂 貴亮さん
海外のポップス/ロックス担当。最近サイクリングと旅行が人生の道標に。相変わらずUSインディ聴いたら泣きます。

アーティスト名:FOLK IMPLOSION
アルバム名:MUSIC FOR KIDS(2023/DOMINO)

スタッフのおすすめコメント:

リバイバル上映されてる「KIDS」(1995)を、先日初めてアップリンク吉祥寺にて(上の階にはディスクユニオン 吉祥寺店があります)観てきました。スクリーンから伝わるテリーやキャスパー達の刹那な幸せと停滞感、ジェニーが背負った巨大な焦りと憂鬱、それらを飲み込むようなNYのぶっきらぼうで無機質且つ底が抜けそうな危うい街並み…全てがヒンヤリ冷たく暗いオーラに包まれた、でも人肌程の温かさも感じる最近じゃお目にかかれない内容でした。

そんな視覚からの美を聴覚で支えるのがFOLK IMPLOSIONによるサントラ!PAVEMENT、DANIEL JOHNSTON(本作に楽曲提供してます)と並ぶUSアンダーグラウンドヒーローが、「KIDS」全体を支配するダラーっとした空気感をローファイ / スラッカー•ロックで表現。何も小細工無しのサイケやろうぜ!な気持ちで出来上がった“NATURAL ONE”、転がりまわる展開でFOLK IMPLOSIONのハードな部分を抽出した“DADDY NEVER UNDERSTOOD”と彼等自体が脂ノリまくりな時期だった事を告げるこのサントラ。映画本編とサントラを堪能して冷え冷えした痛く苦い気持ちになりませんか!?

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「DIVE INTO MUSIC.」に込められた想い

世界中どこにいても同じ音楽を楽しむことができる今の時代に、ディスクユニオンは違和感を感じています。なぜなら、本来音楽というものは、ひとりひとりが自らの手で触れて、自らの脚で探して出会うべきものだからです。だからこそ私たちディスクユニオンは、見たことのない曲、聴いたことのない世界を求め、音楽の海へ飛び込んでいきます。そしてこの想いを「DIVE INTO MUSIC.」というスローガンに込め、お客様と共有して参ります。

diskunionHP:https://diskunion.net/
公式youtube:https://www.youtube.com/@diskunion_official
instagram:https://www.instagram.com/diskunion/

前回の記事はこちらから
「ひとり時間を彩る名盤たち」をテーマにおすすめアーティストをご紹介

MUSIC
ひとり時間を彩る名盤たち | ディスクユニオンスタッフが教える、かけがえのない音楽 # 23
Sep 28, 2025

  • Edit : Yusuke Soejima(QUI)

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