セレクトショップの次なる視線|jackpot 奥山達也
トレンドをとらえたブランド、趣味や嗜好性が表れた服、目利きがキャッチした 新世代のデザイナーなど、コンセプトが明確なショップであるほど、 ファッションに対する美意識は店内の品揃えからも一目瞭然だ。そんなショップを訪れるファッションフリークが気にしているのは、 常に新しい刺激を提案してくれるオーナーやバイヤーの次なる動向や関心。
今回は新宿というカオスな街に構えるからこそ、カテゴライズされないショップを目指す「jackpot(ジャックポット)」の奥山達也さんにお話を伺った。
1979年静岡県生まれ。大学卒業後、2003年に jackpotでショップスタッフとしてキャリアを開始。2013年の同ビル7階への移転を機に、ディレクションとバイイングを担当し、現在のショップのスタイルを築き上げる。
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「jackpot」の本当のお客さんのためにアポイント制に
— 歌舞伎町に近いショップなので勝手にアンダーグラウンドな雰囲気を想像していて、扉の向こうがこんなにおしゃれな空間だとは思いませんでした。
奥山:外にサインも出していないのでこんな場所にセレクトショップがあるとも思わないでしょうし、店内の雰囲気なんて想像できないですよね。
— 隠れ家のようなイメージもあったので、ショップの取材にOKが出たのも少し驚きました。
奥山:これまでは親しくさせてもらっているメディアの方や、以前より面識のある方からの取材を受けたことがあるぐらいで、自分自身が人前に出ることが苦手なので露出に積極的ではなかったのは確かです。でも取材は断固お断りというわけでもないですよ。
—「jackpot」のオープンは1994年で、東京のセレクトショップのなかでも老舗だと思います。ロールモデルも少なかったはずですが、どのようなショップを目指してスタートさせたのでしょうか。
奥山:「jackpot」の歴史を遡ると、大正時代には新宿で反物を扱っていたそうです。時代とともに、デニムパンツなどを中心としたワークウェアのショップへと変化し、さらに90年代に入ると、小売の形態を見直そうと、現在のオーナーが19歳で「jackpot」を立ち上げました。
— ジャンルは違っても衣料品を取り扱うという事業を受け継ぎ、新宿という場所も反物に始まる創業の地から変わっていないということなんですね。
奥山:オーナーがアメリカのビンテージカルチャーや東海岸のヒップホップカルチャーが好きだったこともあり、初期の「jackpot」ではスポーツやストリートウェア、デパートブランドに加えてビンテージアイテムも取り入れた、ニューヨークでの店頭買い付けからスタートしています。
— アメリカンビンテージやヒップホップのカルチャーがベースって、これから立ち上げるセレクトショップのようにも聞こえます。それを30年前からやっていたのが「jackpot」。
奥山:お客さんはヒップホップのアーティストも多かったと思います。ちなみに僕も高校時代から「jackpot」によく通っていました。僕が10代の頃は、音楽好きで服好きの同世代の多くが「jackpot」にお世話になっていたはずです。
—「jackpot」というショップ名もアメリカのカジノからの連想なのでしょうか。
奥山:それもあるとは思いますが、オープン当時の歌舞伎町は、今以上に刺激に満ち、射倖心を煽るような街だったことから、ショップ名が「jackpot」になったようです。あとはオーナー自身の「あなたにとっての大当たりを見つけてください」という想いも込められているそうです。当時から単店舗ながら、セレクトアイテムの幅が広かったのも特徴でした。
— 現在の「jackpot」は完全アポイント制なんですよね。
奥山:そうです。2013年の末頃から完全アポイント制にシフトしました。
— 来店のために予約を必要としたのは何か理由があったのでしょうか。
奥山:震災後の2013年頃は、ノームコアのようなスタイルが流行し、同時にファストファッションも台頭してきた時代でした。そうなると、「jackpot」のようなマイナーでクセのあるインポートブランドを扱うショップは、どんどん厳しくなっていったんですよね。さらに、新宿という繁華街ゆえに、ありとあらゆるお客さんが訪れるようになりました。服好きな人たちは変わらず通ってくれますが、一見さんの歌舞伎町目当ての観光客も多く、すべてのお客さんに同じような接客をするのが難しい状態になってきまして…。
— お店を好きで購入してくれる方とただ見るだけの方で接客態度を変えるわけにはいかないですよね。
奥山:それで、本当に「jackpot」で服を選びたい方だけが訪れるショップにしようと、アポイント制にしてあえて間口を絞ったんです。以前はビルの1階で通りに面していましたが、この7階は服のストックルームでした。アポイント制にするなら、誰もが入りやすい場所である必要もなく、同じビル内でも奥に引っ込む形で7階に移転したんです。。
— アポイント制に移行してお客さんの層は変わりましたか。
奥山:こちらが想定していた通りで、残るべくして残ったというようなお客さんが引き続き「jackpot」に通ってくれるようになりました。また、アポイント制という仕組みをファッションメディアが面白がって取り上げてくれたり、スタイリストさんたちが訪れてくれるようになったりと、間口を絞ったにもかかわらず、ショップの存在が広まり新しいお客さんが増えるという想定外のことも起きました。
カテゴライズされたくないのでコンセプトも掲げない
— これは「jackpot」だけに関わることではないですが、時代によってセレクトショップで服を選ぶお客さんそのものに変化を感じたりしますか。
奥山:セレクトショップをコミュニティのように捉えるお客さんがより増えているのではないでしょうか。お客さんの多くがただ服を買う場所と考えていないので、自分たちも距離感がどんどん縮まって、接客時にもファッションとは関係ないような会話をお客さんと楽しんでいますよ。そこから新たな人間関係が発生していったり。
— お客さんとの関係が密になっていくなかで、「jackpot」として変えてきたことはありますか。
奥山:それは特に意識したことはないです。やっていることはずっと同じだと思います。
—「jackpot」に訪れるお客さんはどんな方が多いのでしょうか。中心の年齢層や好むファッションなど。
奥山:それがひとくくりにできないんです。年齢でいえば20代から50代まで幅広いですし、文化服装やモード学園の生徒も来ますし、ファッションビルや百貨店に勤務する同業も多い。夜の街で働く方々も。そこは新宿らしくカオスです。混沌としていますね。
— それだけ幅広い服好きが訪れるショップとして、ブランドやアイテムをセレクトする際に大切にしていることはありますか。
奥山:「jackpot」のお客さんは20代でも50代でも選ぶ服は大きくは変わらないんです。なので「これは20代が好みそう」、「これは50代が選びそう」といった余計なフィルターをセレクトの際にはかけないようにしています。オーセンティックだけど捻りもあって、だけどアヴァンギャルド過ぎない。僕がイメージする「jackpot」のお客さんのファッション感はそんな感じです。いい意味でひねくれているお客さんが多いです(笑)。
— 奥山さんがバイヤーとして惹かれるのはどんなブランドですか。
奥山:アイテムやデザインがベーシックであっても、どこかに新しい解釈を追い続けているようなブランドでしょうか。ぱっと見ですぐにピンとこなくても、デザイナーの服作りの考え方に共感できると手に取りたくなります。
— バイヤー歴も長い奥山さんの目にはデザイナーの考え方というのは時代で変化しているように映りますか。
奥山:デザイナーからショップへのアプローチは変わってきていて、かつては「あなたの作った服を置かせてください」とショップから一方的に交渉するような関係が多かったです。ですが現在はブランドも自分たちの服を着てほしい顧客像があって、その人たちはどこのショップに集まっているのかがSNSなどで可視化できるようになっているので、ブランドから「jackpotに何か一緒やりませんか」と声がかかることもあります。現在、取り扱っている<OHROHEE(オロヒー)>などはまさにそうでした。そういう意味でも、お客さんにも本当に恵まれてるんです。
— <OHROHEE(オロヒー)>を取材したときにデザイナーのパクさんは「jackpot」が好きで、「jackpot」に集うお客さんに着てもらいたいから自分のブランドを置いてほしかったと話していました。
奥山:どのショップに置いてもらうかもブランドのクリエーションのひとつとして考えるデザイナーは増えているという意味で、ショップとブランドの関係性は一方通行ではなくなってきていると思います。
— QUIでは<cobble du(コブルドゥ)>や<OHROHEE(オロヒー)>といったこれからのブランドを取り上げたこともあり、「jackpot」ではそれらと並んで世界的に知られるブランドもセレクトされている。本当に型にはまらないショップという印象です。
奥山:ショップのコンセプトを聞かれたりすることもあるのですが、それも今は言語化されるカタチでは特には持っていないんです。それでもあえてショップの方向性を言語化するなら「カテゴライズされにくいショップを目指す」ということになると思います。ブランドラインナップの幅広さもそんなショップの姿勢の現れですね。
—「カテゴライズされたくない」というのはブランドからもよく聞く声です。
奥山:自分の立ち位置をひとつに決めているデザイナーは少なくなっていますよね。ブランドがメディアなどで紹介されるときにはどうしても「モード」や「ストリート」と分類されることが多いのですが、ブランドとしてはそれだけをやっているつもりはないはずだと思うんです。
— そうだとしたら奥山さんはブランドのことをお客さんにどのように紹介しているのでしょうか。
奥山:デザイナーと話したふとした会話から、自分が受け取ったことや感じたことを、そのまま伝えるようにしています。デザインやテイストといったプロダクト的なことよりも、服作りに向き合う姿勢や考え方といった思想的な部分ですね。アイテムの説明よりも、デザイナーさんの人間性を伝えたほうが、お客さんの興味を引きやすいことも多い気がします。
新しいジャンルはモノではなくコトで広げていきたい
— 奥山さんがバイヤーとして特に思い入れのあるブランドなどはありますか。
奥山:うちではやっぱり、<OUR LEGACY(アワーレガシー)>ですね。服の雰囲気もクリーンで、ビジュアルはアーティスティック。勝手に“繊細で感性豊かなデザイナー”というイメージを持っていたんです。それが実際に会ってみると、メンバーはけっこういかつくて(笑)。そのギャップが、いい意味でかなり衝撃的でした。洗練されている中にもどこか“粗さ”を感じさせるのも、妙に納得というか。僕自身すっかり惚れ込んでいたので、当時から日本での販路は絞っていたものの、何度かショールームに足を運んで、「jackpot」で取り扱うことになりました。
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—「jackpot」ではブランドの入れ替えのサイクルなどはどんな感じでしょうか。付き合いが続いているブランドが多いですか。
奥山:もちろん、今でも取り扱いを続けているブランドはありますし、その一方で期待していたけれどショップで扱うのをやめたブランドもあります。でも、サイクルの話でいえば、自分が可能性を感じたブランドを “1シーズンだけで見限る” ということは絶対にしないですね。
— ブランドの取り扱いをやめるときのいちばんの判断材料はなんでしょうか。
奥山:クリエーションにアップデートを感じられなくなったときですね。変化しないなぁ(悪い意味で)って思い始めると、その空気感って「jackpot」のお客さんたち自身も読み取ってしまうんですよ。逆に、お客さんがなかなか付かないブランドでも、常に実験的な服づくりに挑戦しようとしている姿勢が見えれば、セレクトは続けます(極端な赤字じゃなければね(笑))。いつかこのブランドの素晴らしさが、お客さんに必ず伝わるはずだと思っています。
— 長い目で見るというのは自分の直感を信じてセレクトしたというバイヤーの意地のようなものもありますか。
奥山:それはないですね。バイヤー歴はそれなりに長いんですけど、今でも自分は“洋服の人間”ではないと思っていて。服づくりを勉強したわけでもないですし、バイイングに関する明確な持論があるわけでもないんです。むしろ、この業界を少し引いた目で俯瞰して見られているからこそ、この仕事を長く続けられているんだと思います。
— <Aesop(イソップ)>も置いてありますが、取り扱うのは服だけにこだわらない感じでしょうか。
奥山:もちろん、そういったルールを設けているわけでもないんです。たまたま「jackpot」には<Aesop>を愛用しているお客さんが多くて。本来なら「jackpot」くらいの規模感だと取り扱いが難しいブランドだと思いますが、<OUR LEGACY>の取引を通じて知り合った方にご紹介いただいて、実現しました。
— ビューティーアイテムはなにを愛用しているのか、奥山さんはお客さんのライフスタイルまで見えているんですね。
奥山:アポイントメント制にしてから、そういう部分も見えやすくなってきました。もちろん、服のセレクトには自分の好みも前提としてありますが、それ以上に、顧客のお客さんたち一人ひとりを思い浮かべながら「この人には、きっとこれが似合うだろうな」と買い付けるのが基本です。そうして選んだものが集まることで、「jackpot」のカラーができていくんだと思います。
— 不特定多数のお客さんが満足するような品揃えにして、多くの人が押し寄せれば数字にはきっとつながります。でもショップの個性というのは生まれない。セレクトショップの舵取りって難しいですね。
奥山:矛盾しているようなことですけど、人気が出過ぎたがゆえに魅力がなくなってしまったセレクトショップもあると思うんです。僕たちは小規模なコミュニティだとしても「「jackpot」で服を選びたい」と言ってくれる方たちを大切にしていきたいです。
— 今後は取り扱ってみたいアイテムのジャンルなどはありますか。<Aesop>などはそのひとつでしょうけど。
奥山:新たなジャンルはモノではなくコトで広げたいです。例えば顧客の人たちへ「共有クローゼット」のようなサービスをやってみたくて、「jackpot」がストックしているアーカイブコレクション(過去在庫)を、セールで販売するのではなく、月額制で貸し出したり。服にも旬や鮮度というものはもちろんありますが、コレクション発表から1年経ったらファッション性や品質が落ちるわけではないですからね。
— むしろアーカイブカルチャーのようなものが盛り上がっているぐらいです。
奥山:そうなんです。1シーズン前の服だからといって、セールで放出してしまうのはすごくもったいない気がしていて。あとは、顧客のアーティストさんのPVの衣装のスタイリングを任せてもらうこともあって、今後もそういった他業種のクリエーションにも積極的に関わっていけたらいいなと思っています。
—「jackpot」のオリジナルを作ったりはしないんでしょうか。
奥山:アパレル雑貨や小物など、服以外のものづくりには興味がありますが、服づくりに関しては絶対にやらないと断言できます。服づくりをきちんと学んでいない自分たちの発想なんて、たかが知れていますし。今「jackpot」で扱っているブランドのデザイナーさんたちのデザインを模倣したようになってしまったり、無難でつまらない、“置きにいった” 服しか生まれてこないのは、作る前から想像できますから(笑)。
奥山達也がレコメンドする3ブランド
<OUR LEGACY(アワーレガシー)>
クリーンで洗練された雰囲気を、全てのコレクションから感じ取ることができる。それでいて、クリエーションは止まることなく常にアップデートされている。そこに何よりも魅力を感じています。10年以上取り扱ってきましたが、「jackpot」のお客さんが媒体になってくれたことも、認知度が高まった一因のブランドだと思います。
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<Emily Dawn Long(エミリー・ドーン・ロング)>
「jackpot」では今季から取り扱いをスタートしたニューヨークのユニセックスブランドです。展開カラーも赤を「パリテキサスレッド」と付けたり、プロダクト以外でも楽しませてくれます。カチッと決めるスタイリングというよりも抜け感も演出したいときにおすすめしたいブランドですが、上品さもしっかりと感じさせます。
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<CARTER YOUNG(カーター ヤング)>
こちらもニューヨーク発のユニセックスブランドです。Matthew Williams(マシュー ウィリアムズ)が手掛ける<1017 ALYX 9SM(アリクス)>や<KITH(キス)>で経験を積んだCarter Altman(カーター オルトマン)が、古き良きアメリカの魅力を現代的に再構築しています。決して懐古主義に留まらず、新世代ならではの新たな“アメリカ”を感じさせてくれます。
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jackpot
jackpotは、1994年に東京・新宿でスタートしたインポートアイテム中心のセレクトショップ。ニューヨークの90年代のヒップホップカルチャーを基盤に、スケートブランドからハイエンドメゾンまでを柔軟にセレクトし、ストリートとラグジュアリーが共存する現代的なスタイルを提案する。新宿歌舞伎町の雑居ビル7階に構える“隠れ家的”実店舗ではアポイント制を導入し、落ち着いた空間で洗練された買い物体験を提供している。
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- Photograph : Reina Tokonami
- Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLe)
- Edit : Miwa Sato(QUI)












