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QUI編集部が未知なる才能を追い求めて|OHROHEE デザイナー パク・ソンヒ

Sep 12, 2025
まだ広く知られていないからこそ、コアなファンを獲得しているというブランドが世の中には存在する。独自の世界観とファッションフィロソフィーの副産物として、コミュニティが形成されることも珍しくない。その不思議な引力と影響力は多くの場合が「才能」と呼ばれるが、それが未知であるほど強く惹かれるのがQUI編集部。
今回取り上げるのは<OHROHEE(オロヒー)>。クリエイションについて、デザイナー自身について、バックボーンについて。知られざる魅力を深掘りし、強く発信してみたい。

QUI編集部が未知なる才能を追い求めて|OHROHEE デザイナー パク・ソンヒ

Sep 12, 2025 - FASHION
まだ広く知られていないからこそ、コアなファンを獲得しているというブランドが世の中には存在する。独自の世界観とファッションフィロソフィーの副産物として、コミュニティが形成されることも珍しくない。その不思議な引力と影響力は多くの場合が「才能」と呼ばれるが、それが未知であるほど強く惹かれるのがQUI編集部。
今回取り上げるのは<OHROHEE(オロヒー)>。クリエイションについて、デザイナー自身について、バックボーンについて。知られざる魅力を深掘りし、強く発信してみたい。
Profile
パク・ソンヒ
デザイナー

韓国・釜山出身。90年代の日本の前衛的ファッションブランドに影響を受け、日本に留学を決意。多摩美術大学でテキスタイルデザインを専攻し、卒業後に複数のコレクションブランドで企画デザイナーとして経験を積む。デザイナー自身がファッションを通じて一番長い期間を過ごした日本を拠点とし<OHROHEE>を2025年秋冬シーズンに立ち上げる。

ファッションへの目覚めは日本のブランドがきっかけだった

ご自身のブランドを立ち上げるぐらい、パクさんはずっとファッションが好きだったのでしょうか。

パク:そういう意識は特になかったのですが、今思い返すと幼少期の頃から着せ替えのようにいろんな服を着るのは好きでした。でも、私にとってファッションへの目覚めは中学生の頃にファッションサイト「Style.com」 で見た、<COMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)>や<JUNYA WATANABE(ジュンヤ ワタナベ)>のファッションショーです。

パクさんは韓国の釜山出身ですよね。パクさんが育った環境や幼少期の暮らしは、ファッションとの関わりにどんな影響を与えましたか?

パク:私が住んでいたエリアは新興住宅地で、ショッピングを楽しむようなメインストリートからは離れていたのでファッションは身近ではなかったです。そんな環境だったので私もファッションに対して目が肥えていなくて、<COMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)>や<Alexander McQueen(アレキサンダー・マックイーン)>のコレクションを初めて目にした時は衝撃でした。

パクさんは90年代の日本の前衛的なファッションに影響を受けたことで日本に留学したそうですが、特に影響を受けたブランドを教えてください。

パク:韓国のブランドはクリーンで洗練された服が多くて<COMME des GARÇONS>のようなアートを彷彿とさせるアヴァンギャルドな服はありませんでした。だからこそ強く影響を受けました。

日本への留学は主にファッションについて学ぶためだったと思いますが、その時点で将来的にデザイナーを目指していたのでしょうか。

パク:「なりたい」というより、ぼんやりと「なるんだろうな」と思っていました。自信も根拠も全くなかったのですが(笑)。

日本では多摩美術大学でテキスタイルを専攻されています。ファッションの学びとして専門学校ではなく美大を選んだのは何か理由があったのですか。

パク:文化服装学院も候補としてありました。でも、私が日本のブランドに惹かれた理由が素材の扱いの巧みさだったんです。テクスチャーや色彩、プリントの表現などに日本独特の魅力を感じていました。それでテキスタイルに興味を持っていたこともあって美大を選んだんです。

美大のテキスタイル専攻では主にどのようなことを学びましたか。

パク:服地を作るというよりは図案をオリジナルで起こして、それを立体的な作品に仕上げるようなアート寄りのことが多かったです。

目標は全てのアイテムをオリジナル生地で製作すること

日本に留学して、卒業後は韓国でファションをやるという考えはなかったのでしょうか。

パク:私自身が韓国のファッションシーンに魅力を感じていなかったんです。自分がファッションについてわかっていたとは思いませんが、それでも韓国で流行しているファッションデザイナーのクリエーションに刺激を感じず、自分が思い描くデザイナーズブランドのマーケットも日本ほど整ってないと感じてました。

留学の時点から日本でブランドを立ち上げる方向に気持ちが向かっていたんですか。

パク:日本でデザイナーになるだろうとは思っていましたが、いつか独立をしたい気持ちは常に抱いてました。なのであえて生産管理職につきました。最初に働いたアパレルの会社では販売員でしたし、次に移った会社で素材選びからパターン出し、サンプル作りなど生産に関わるようになって、服の構造や量産などデザイナーズブランドとして必要なことを学びました。そうして私がデザイナーという肩書きを得たのは、さらに次の会社からです。

販売員、生産管理を経てデザイナーと段階を踏むようなキャリアだったんですね。デザイナーになるまでは、個人的に服を作ったりはしていなかったのでしょうか。

パク:自分で縫えるわけではないので服を自作することはなかったです。デザイン画を描き起こすことはあったのですが、結局はカタチにもならないので前に進んでいる実感はなかったです。

デザイナーとして独立して<OHROHEE>を立ち上げたわけですが、ブランド名は韓国語を組み合わせた造語だそうですね。

パク:韓国語で「本質」や「そのままの姿」を「オロシ」というんです。それも文脈によって訳し方は変わるのですが。英語で表記すると「O-ROT-EE」のような感じで、そこに「希う(こいねがう)」を意味する「HEE」を合わせて「OHROHEE」としました。自分の名前とも語感が似ているのでいいなと。

ブランド名に「本質」という言葉を選んだのは素材や縫製、仕立てなど服づくりとして本質的な部分を大切にしたいという想いからでしょうか。

パク:ファッションは気持ちを高めてくれるものでもあるので見た目が可愛い、かっこいいという感覚的なことも大事だと思っています。それを踏まえた上で、本質的な服づくりを大切にしたいという想いです。<COMME des GARÇONS>や<Alexander McQueen>に憧れてこの世界に足を踏み入れたのでディテールなどには凝りたいですが、とはいえ服はアートではなく実用性も重要なので日常や年齢に寄り添ってくれるようなタイムレスな服を作っていきたいです。でもありがちな服は作りたくないみたいな(笑)。

ファッションとしての華やぎもある、デイリーに溶け込む実用性もある、そんなバランス感ということですね。トレンドというのは意識されていますか。

パク:着丈でもシルエットでも時代の空気感というのはあるので、それは敏感に察知していきたいですけど、トレンドにとらわれるような服づくりはしたくないです。流行っているからといって、その要素を<OHROHEE>の服に付け足すようなことはしないと思います。自分らしい、自分ならではの表現は常に意識したいです。

2025年秋冬コレクションで「自分らしい表現」を象徴するようなアイテムはありますか。

パク:このシャツは前立てを閉じるとメンズライクなのですが、ボタンを開けるとレースやタックの装飾が現れます。私はメンズシャツが好きでよく着るのですが、ウィメンズとして女性の気持ちが上がるようなフェミニンさを加えたい、でも甘くしすぎたくないということで装飾を内側に潜めて、見せることも隠すこともできるデザインにしました。これはマスキュリン × フェミニンを自分なりに解釈をしたものです。

美大でも専攻されていたこともあって、やはりテキスタイルはブランドの強みにしていきたいですか。

パク:ブランドとしてこだわりたいところではあります。でも2025年秋冬はファーストコレクションということもあってやり切れたとは思っていません。まだまだ上を目指して試行錯誤していきます。

上を目指すというのは品質を高めていくということですか。

パク:最終的な目標として品質はもちろん、自分たちで考案したオリジナルテキスタイルを作り込みたい気持ちは強いです。

ファーストコレクションに採用したなかでブランドのシグネチャーのようにしていきたいテキスタイルはありますか。

パク:ジャケットやスラックスなど「テーラードシリーズ」と名付けているコレクションに採用している尾州のウール生地があるのですが、それは続けていこうという構想は持っています。でも本当のシグネチャーとなるのはこれから開発していきたいオリジナルテキスタイルですね。

プリント柄もオリエンタルな雰囲気で目を惹かれますね。

パク:柄は韓国の「民画(MINHWA)」の技法に倣って自分で描き起こしたものです。シーズンテーマとして「朝鮮と和洋折衷」を掲げているので、自分のアイデンティティに通じるものを服に落とし込みたかったんです。民画は朝鮮時代から愛されてきたもので画風も様々ですが、私はそれを現代風にアレンジしています。民画についても勉強していきたくて、私の腕が上達したら5年後、10年後は今とはタッチがまるで異なっているかもしれません。

日記に綴っていくように日々の出来事も服で表現したい

デビューとなった2025年秋冬コレクションは韓国映画の「お嬢さん」からインスピレーションを得たそうですが今後も韓国カルチャーを題材としていくのでしょうか。

パク:ファーストコレクションに関しては自分のルーツとして韓国にこだわりたかったです。あの映画は東洋の端麗さと西洋の華麗さが調和したエキゾチックな雰囲気が漂う作品で、「朝鮮と和洋折衷」というコンセプトにも<OHROHEE>が得意とするテーラードアイテムにも通じるので題材として取り上げました。今後も韓国カルチャーと絡めて服づくりをすると決めているわけではありませんが、実は次のシーズンのテーマも韓国が関係しています。



OHROHEE 2025AW COLLECTION はこちら

映画をテーマにしていくということでもないのでしょうか?

パク:それも決めていません。日本や海外の文学を取り上げるかもしれませんし、その時に気になっているモノやコトなど自分の日常の一コマを切り取ってコレクションのテーマにすることもあると思います。日記に綴っていくように、個人的に思っていること、感じていること、なんてことない日々のこともブランドのクリエーションに現れていくような気がしています。

ファーストコレクションのローンチに合わせて都内のセレクトショップ「jackpot」でポップアップイベントが開催されるんですよね。

パク:お披露目会のようなもので、イベント期間中の3日間は私も店頭で接客をします。「jackpot」もレディースを少しずつ取り扱うようになったので、<OHROHEE>をきっかけに女性の顧客さんが増えたら嬉しいなと思っています。

「jackpot」でのイベントはどういう経緯で決まったのでしょうか。

パク:私がプライベートで買い物に行くぐらい個人的にも大好きなショップだったので、<OHROHEE>を立ち上げたタイミングで「ブランドのお披露目となるようなイベントを開催させてもらえないか」と、こちらから声をかけました。今回のイベントの別注としてスカーフも製作しました。スカーフは「jackpot」がプリントの柄を気に入ってくれて、メンズでも使えるアイテムとして決まりました。いいアイデアが浮べば「jackpot」とのコラボレーションアイテムは今後も続けていきたいです。

イベントのメインビジュアルは<kudos(クードス)>の工藤司さんが担当されたんですよね。

パク:工藤くんがデビューする前から知っている友人で「いつか自分のブランドを立ち上げたら、写真を撮ってもらえたらいいな」と話していたんです。それが実現できてうれしかったです。

工藤さんと共作したビジュアルはどのようなテーマだったんですか。

パク:コレクションのテーマとなった「お嬢さん」の世界観をビジュアルで表現するというのがコンセプトでした。撮影は森の中やバーなど映画に登場するシーンと連動するようなロケーションを選びました。

<OHROHEE>としてはシーズンビジュアルなどにも力を入れていきたいですか。

パク:私はコレクションを考えるときにストーリー性はすごく大切にしていきたいので、服そのものからではなく、ビジュアルからもその世界観は伝えていきたいと思っています。

設立されたばかりですが、<OHROHEE>をこういうブランドにしていきたいというビジョンのようなものはありますか。

パク:私自身がデザインは削ぎ落とされたミニマルでマスキュリンなアイテムが好きなので、いつかはメンズまで広げてユニセックスブランドとして展開したいという思いはあります。でも現時点では「できたらいいな」というぐらいの淡い願望です。

ぼんやりとしていたものを実際に叶えているので、パクさんはやってみたいことは必ず実現させるような気がします。<OHROHEE>がメンズラインを展開している未来がとても楽しみです!

ソンヒ:そうかもしれませんね(笑)。実現できるように頑張ります。

 


会期:9月26日(金)〜9月28日(日) ※26日は18時よりレセプションパーティーを開催。
会場:jackpot
住所:〒160-0022 東京都新宿区新宿3丁目22−12 新宿サンパーク 三平本館 7F

 


 

OHROHEE

2025年秋冬シーズンより東京を拠点としてスタート。ブランド名は、韓国語で本質の姿そのままを意味する「O-ROT-EE」と、希(希う)を意味する「HEE」を合わせた造語。過剰な装飾やトレンドに頼らず、服装そのものの本質を追求する。現代ファッションの源流である西洋の服飾文化に深く根ざしながらも、デザイナーのルーツである韓国や日本の、文化や技術を融合させたコレクションを展開していく。

Instagramはこちらから!
@ohrohee

  • Photograph : Kaito Chiba
  • Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLE)
  • Edit : Miwa Sato(QUI)

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