アイウェアへの一途な想いを貫くブレない美的感覚|AHLEM デザイナー アーレム・マナイ・プラット
幼少期からアイウェアのデザインに憧れを抱いていた

—アーレムさんは前職はアパレル関係だったそうですが、そこからアイウェアの世界に転身したのはどうしてでしょうか。
アパレル時代は<Acne Studios(アクネストゥディオズ)>や<MIU MIU(ミュウミュウ)>などで働いていました。それでも小さい頃からアイウェアというものが大好きで、自分でもデザインしてみたいという思いがあったんです。その欲求が抑えられずにアイウェアのデザイナーに転身しました。
—幼少期から好きだったということですが、アイウェアの何がアーレムさんをそこまで惹きつけたのでしょうか。
理由なんて考えたこともないですね。本能的にアイウェアに引き寄せられていたとしか言いようがないです。
—デザイナーということでは洋服をデザインするという選択肢は考えなかったのでしょうか。
それは考えたこともないです。私の頭にあったのはアイウェアをデザインすることへの憧れでしたし、将来的にはアイウェアのブランドを手がけることだけを考えていました。
—<AHLEM>を立ち上げたとき、「こんなブランドにしていきたい」というビジョンのようなものはありましたか。
オーセンティックであること、自分らしくあること、それは意識としてありました。ただ、それをフレームのカラーやデザインで表現したいというわけではなく、「アイウェアとはこういうもの」という自分が描くイメージを具現化することに重きを置いてきました。そういう姿勢を貫いているからかデビューから11年になりますが、クリエーションにブレがないという声をいただくこともあります。

—「アイウェアとはこういうもの」をアーレムさんはどう考えているのでしょうか。
飾り立てるためのファッションとは考えていないですし、単なる道具とだとも思っていないです。それをかけることで最も自分らしくいられるというのが<AHLEM>が考えるアイウェアです。自分らしさを表現するために不可欠なものとして捉えています。
—<AHLEM>らしいデザインとして意識していることはありますか。
<AHLEM>の全てのアイウェアに共通して言えるのは「ディテールで表現する」ということです。リムのカットの角度や彫金細工、艶ありと艶なしの素材をブレンドなど、それらは全て光をコントロールするためです。アイウェアが光を受けて反射することで、その人らしい表情を生み出していく。そこにこだわることでブランドの世界観を構築しています。
—<AHLEM>のアイウェアを目にしたとき、確かにカット面や彫金は印象に残るディテールでした。
彫金という手仕事の技術をアイウェアに取り入れることはずっと考えていたことですし、カットに関しても角度をつけることで光の効果が高まって、例えばアセテートのフレームでも素材の質感だけでは演出できない表情を纏うことができると思っています。私は建築が好きなので、建築の技術を応用したような創作は常に追求しています。
—デザインというのは全て独学なのでしょうか。
デザインにしても発想にしても誰かから教わったということはないです。<AHLEM>を続けていくことで自分自身の表現を進化させています。
日本だけが放つ気のようなものに多くの刺激を受ける

—アーレムさんは日本がお好きだそうですが、日本の建築や芸術からインスピレーションを得ることもありますか。
もちろんありますよ。前回の訪日時には建築物、風景、人の仕草など、あらゆる出会いに刺激を受けて40種類以上のデザインを思いついたぐらいです(笑)。
—日本のどこにいちばん惹かれますか。
「これが大好き」というひとつの大きな理由があるわけではないんです。あえて言葉にするなら日本ならではの空気感や日本という国が放つ気のようなもの、そういう全体感に惹かれます。
―陶芸家の野口寛斉さんの作品も所有されているんですよね。
野口さんの作品はパリのショップに飾っています。

—アーレムさんの目には日本のファッションやカルチャーというのはどのように映っているのでしょうか。
日本の方はアメリカやヨーロッパと比べてもファッションに対する感覚がとても自由だと感じます。<AHLEM>としては女性向けにデザインしたアイウェアであっても、それを男性がうまくファッションに取り入れているのを見かけることもあります。他の国では女性しか選ばないというアイウェアは多いのですが、日本はそこが違いますね。
—女性でも男性でもというのは普遍的なデザインの証しだと思いますが、タイムレスでもあることも<AHLEM>らしさでしょうか。
<AHLEM>には丸型もあれば四角型もありデザインには幅があるのですが、自分が表現したい幅そのものはブランドを続けていくなかで大きな変化はないんです。サイズやプロポーションを少し変化させることはありますが、そのアレンジもあくまでも自分が表現したい幅の範囲内です。そういう考えがタイムレスで普遍的なデザインにつながっているかもしれないですね。
—女性、男性を問わず<AHLEM>のファンはどういう方が多いように感じていますか。
<AHLEM>としてはラグジュアリーだけれどこれ見よがしではなく、主張は控えめだけど華やぎがある女性像、男性像というのをイメージしてアイウェアをデザインしているのですが、まさにそのような方たちが選んでくれている印象があります。
—モデル名にパリの通りや地域名を付けられているのは<AHLEM>のコレクションの共通点ですよね。
パリで生まれて、パリで育って、大好きな街へのリスペクトからモデル名に通りや地域名を付けるようにしたんです。
—いずれは日本の地名などを付けたりはないですか?
もしかしたら、ですね(笑)。
想いが届きやすいようにコレクションにはテーマを設定

—2025年の秋冬コレクションは「フランス映画の不朽の魅力」を掲げられていましたが、テーマというものはどのようにして思いつくことが多いですか。
ひらめきですね。ブランドがコレクションで表現したい世界観を構築していく過程でパッと浮かんできます。
—コレクションテーマを掲げるアイウェアのブランドは少ないと思いますが、<AHLEM>としては必要という考えなのでしょうか。
他のブランドのことは気にしたことはないですが、<AHLEM>では必ずコレクションテーマを設定します。必要かどうかと問われたらなんとも言えませんが、それが自分のやり方ですし、自分の想いを誰かに伝えるためにもテーマがあった方がスムーズですよね。
—確かにテーマがあることでファンも想いを汲み取りやすいですし、モノづくりのチームにもアーレムさんの考えが浸透しそうです。
ブランドを設立してからモノづくりのチームは全く変わっていません。ずっと同じスタッフと取り組んでいるので信頼関係は強固ですし、風通しもすごくいいですよ。
—「フランス映画の不朽の魅力」にはどういう想いが込められているのでしょうか。
70年代のフランス映画の独特の雰囲気をアイウェアで表現したいと思ったんです。それをカラーやフォルム、ディテールなどにピンポイントで落とし込んだわけではなく、アイウェアの存在そのもので表現しました。

—2025年の秋冬コレクションの自信作はどれでしょうか。
全部です。自信のないデザインは発表しませんよ(笑)。
—幼少期からメガネ愛が強かったアーレムさんなので、デザインの考案に産みの苦しみのようなものはないのでしょうか。
ないですね。デザイン案を考えるのは喜びと楽しさしかないです。
—これからブランドとしてもっと挑戦してみたいことなどはありますか。
実は新しい取り組みを計画しているのですが、それは私にとって今やっていることの延長線に過ぎないので、特別な挑戦とは捉えていないんです。ただ、周囲はちょっと驚くかもしれないです。
—ブランド設立から11年で<AHLEM>は世界各国に広がっていますけど、新たな取り組みもあるのなら勢いは続きそうですね。
ブランドが成長しているスピードや規模感というのは自分にとってちょうどいい心地よさです。無理してまで大きくしていこうとは考えていないので、自然な流れで<AHLEM>が世界中に広がっていけばいいなと思っています。

—今回のインタビュー記事で<AHLEM>のことを初めて知る方もいると思いますが、そんな方に向けてメッセージをいただけますか。
日本は世界のなかでも<AHLEM>のファンがとても多い国のひとつです。今回、インタビューでお答えした全てが私からのメッセージなので、たくさんの方に想いが届けばうれしいです。そして<AHLEM>のアイウェアを選んでくれる方が増えたらいいなと思います。
-ブランド概要
デザイナーであるAhlem Manai-Plattはフランスで育ち、アクネやミュウミュウなどのアパレル業界での経験を経て、2014年にAHLEMを設立。彼女のデザインは20世紀初頭のバウハウスムーブメントから強く影響を受け、シンプルで美しく、機能性とファッション性の共存を追求するスタイルが特徴。トレンドに左右されないラインナップは、パリの建築や地域からインスピレーションを受け、モデル名にはパリの通りや地域の名称を取り入れている。デビュー時、プロトタイプの段階からパリ・コレットのバイヤーに高く評価され、同店の導入が決定するなど、その実力は折り紙付き。製造はフランス・ジュラ地方のある小さな町、オヨナの職人によって一つひとつ手作業で行われている。メタルフレームの美しいメッキ加工はジュエラーが使用する工場で施されており、22金のジュエリーのような輝きが洗練された雰囲気を作り出している。
-AHLEM 取り扱い店舗
グローブスペックス
渋谷店、代官山店、京都店
-お問い合わせ先
グローブスペックス・エージェント
03-5459-8326
- Photography : Kaito Chiba
- Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLe)
- Edit : Ryota Tsushima(QUI)