Rave Rvw 2026年春夏コレクション、花は時を超えて、60年代の記憶と文化を纏う
会場となったのはコペンハーゲンの中心部に位置する「ニコライ・クンストハル教会」。ミラノからコペンハーゲンへと発表の場を移し、1912年に建てられた市内で最も古い教会を会場に選んだのには何か理由があるのだろうか。ステンドグラスと白い柱に囲まれた荘厳な空間で、デンマークの実験系アーティスト FINE(ファイン)の生パフォーマンスによってショーは始まった。幽玄な歌声とセンチメンタルなキーボードの電子音が、清廉潔白な教会を穏やかに包み込む。現代的なドリームポップなサウンドが、クラシックな讃美歌のようにも聞こえてくる。
デザイナーのジョセフィン・ベルグヴィストとリヴィア・シュックは、ファッションと政治が隆盛した1960年代のスウェーデンに思いを馳せた。当時のスウェーデンは、高度経済成長と社会福祉の充実が進み、国民生活が向上、女性の社会進出も進み、労働力人口に占める女性の割合も増加していた。そんな活気溢れる町でジョセフィンが出会ったのは画家で映画監督のマリー・ルイーズ・エクマン、彼女との出会いと作品がコレクションを形作るインスピレーション源へと発展していく。彼女の作品は、漫画やコミックを取り込んだヴィジュアル言語表現やフェミニズムとジェンダーへの批評性を内包した、親しみやすいポップな見た目の裏で、社会問題を鋭く問いかけるユーモアに満ちたもの。こうした表現は、1966年から1976年にかけて存在したスウェーデンのデザイン会社「Mah-Jong」を想起させる。フラワー・ムーブメントの最盛期に、天然繊維や大胆なプリントを取り入れたワードローブを展開し、服に急進的な柔らかさをもたらした。トレンドのサイクルに左右されない「服はかわいくていい」という彼らのコンセプトは、<Rave Rvw>の哲学と共鳴する。
「 私は<Rave Rvw>は別の時代の「Mah‑Jong」のようだと思っていました。彼女たちの仕事は非常に政治的で、ファッション業界をよりフェミニストでサステナブルにしたかった。60年代のスウェーデンでは、サステナビリティというと主に国内の繊維産業を守ることに焦点がありました。今日わたしたちが直面する課題は変わったとしても、目標は同じままです。」— ジョセフィン・ベリグヴィスト

今回のコレクションでは、重要なキーワードの「花」を、女性的な可憐さやカワイイ記号としてではなく、深い歴史やカルチャーとともにある文化的な象徴として捉えていた。デザイナーたちはアップサイクルのヴィンテージ生地のフローラルプリントを採用し、花が持つ本質的な力を表現する方法を模索した。スウェーデン南部に位置するスコーネ地方の小さな町のお祭りの思い出から、オランダのチューリップ祭まで、グローバルな花の祭典のリサーチがアイテムを形成していく。特に、オランダの花祭りの伝統的な女性衣装「フォーレンダムの民族衣装(Volendamse klederdracht)」は構造的インスピレーションとして機能した。黒いエプロン、白いブラウス、花柄の刺繍、ストライプの模様、強い肩のジャケット、スカーフや帽子といった装飾がコレクションを華やかに彩る。
「花は何世代にもわたり世界中で祝われ、明らかに人々に大きな影響を与えています。ブランドにとっても、いつも戻ってくるテーマであり、私たちのデザイン・アイデンティティの重要な部分となりました。」
— ジョセフィン・ベリグヴィスト
ファーストルックは、しわ加工が施された格子柄のビッグシルエットテーラードジャケットに花柄の刺繍スカート、バレエコアを彷彿とさせるフラットシューズが登場。首元に巻き付けられたドット柄のスカーフは、女性のしなやかさと力強さを感じさせる。
生地の多くはファブリックハウスから提供されたデッドストックとブランドが保有するヴィンテージの家庭用テキスタイルのアーカイブから構成された。シフォン、花柄リブ、シアーなシルクジャージー、コットンボイル、ギンガムチェック、シャツ地のストライプなど多彩な素材に目を奪われる。特に注目を集めたのは、熱圧着された花柄のベッドリネンを用いた彫塑的なスーツセット、シャープなピンクのブレザーとペンシルスカート、フォルムとチャームが融合したデザイン。
伝統的なテーラリングは、遊び心を融合させた構築的なフォルムが印象的だ。ワイヤーで固定されたショルダー、パニエのようにフワリと広がるウエスト部分のシルエットは骨格を強調。ギャザー入りのダブルシャツは構造を柔らかさにねじり込んで、折り重なったレイヤーや透けるオーバーレイが透明性とテクスチャーに変化をもたらす。
これらのアイデアは、長い歴史の中で醸成された伝統的なドレスから引き出されたシルエットを通して、儀式的でありながら現代的な衣服へと再解釈された。
- Edit : Miwa Sato




