Stella McCartney 2026年サマー コレクション、革新素材が映す、女性の二面性
ステラ マッカートニーの長年の主題であるサステナビリティと倫理的ファッションの信念を中心に据えた今シーズンは、近現代アートを中心とした複合文化施設「ポンピドゥー センター」にて開催された。ショーの幕開けでは、オスカー俳優のヘレン ミレンがビートルズの名曲「Come Together」の一節を朗読。サステナブルな未来への想いを分かち合おうと、来場者に語りかけた。コレクションの核には「自然・動物・人類との共生」というテーマが一貫していた。「Come Together — 人類、動物、そして母なる地球のために」という明確なスローガンを掲げ、動物由来素材の排除や植物由来の代替素材の採用など、これまでの<Stella McCartney>の取り組みをさらに推し進めた姿勢がうかがえる。
今シーズンは、光と影のあわいを行き来するように、“二面性”という言葉に手を伸ばした。彼女が描こうとしたのは、男性的でありながら女性的でもある人物像。均衡を保とうとするその姿は、どこか現代を生きる私たち自身の心模様を映しているようでもあった。
ファーストルックに現れたのは、コーポレートグレーのセットアップ。ビジネススーツとして馴染みのあるその色は、冷たくも穏やかで、規律と理性を纏っている。だがステラ マッカートニーは、その硬質さをほんの少し歪ませてみせた。ジャケットの肩は丸みを帯びて、冷静さの中に潜むやさしさを思わせた。ベルトでウエストを締めると、服は緊張と解放を行き来しながらリズムを刻む。裾にはペプラムが添えられ、歩みとともに揺らめき、現実にそっと紛れ込む幻想のようだった。
アイコニックなサヴィル ロウ仕立てのダブルブレストジャケットは、深く落とされたラペルが静かな自信を湛え、かすかに風を孕む。構築的でありながら、どこか人の体温を感じさせる威厳とやわらかさ、両方の呼吸が共存していた。続く80年代のイタリア風シャツは、ゆったりとしたシルエットで軽やかに身体を包み込む。
アップサイクルされたデニムのウエストバンドは、ドレス、ジーンズ、バッグへと転生し、ひとつひとつのプロダクトの中で過去の記憶を静かに語りかけた。手刺繍で施されたスパンコールは、光を散らす粒子のように服の上に点在し、日常の中に潜む瞬間を掬い上げる。
ドレスやセパレーションに咲き誇る、スパイラル コーンフラワー プリントは、ロンドンのアトリエでスケッチ、ペイント、刺繍が施されクラフトマンシップを感じさせる。軽やかで、奔放で、けれどどこか哲学的なラフィアニットとフリンジは、スタイリングに圧倒的な華やかさを加えた。
素材面では、継続したヴィーガン素材や植物由来のファイバー、リサイクル素材の活用がみられた他、世界初の革新的な素材が使用された。 1つは、美しさ、軽やかさ、そして生命感あふれる動きを兼ね備えたヴィーガン由来のフェザーの代替素材「FEVVERS」。

そして、二酸化炭素や窒素酸化物などの汚染物質を吸収・中和し、それらを無害な化合物に変換する史上初のプログラム可能な素材「PURE TECH」だ。今シーズン、<Stella McCartney>はこれを解体されたデニムに使用し、着用するだけで空気を積極的に浄化する挑戦をした。

コレクションの後半、静かに視線を奪ったのは<Stella McCartney>の象徴的なバッグの数々だった。ブランドの哲学を象徴するアイコンが、今季はひとつの“再構築”として提示されていた。新しいアイコン「Stella Ryder(ステラ ライダー)」は、実用性とクラフトマンシップが融合した大きくて柔らかなトートバッグで登場。アイコニックな「 Falabella(ファラベラ)」は、クラッチバッグ型に進化、チェーンディテールのような象徴的要素も、素材の代替やリサイクルメタルが使用された。「Dartmoor(ダートムア) 」は、アップサイクルされたデニムのウエストバンドが採用され、軽やかで未来的な質感が時代を超越したデザインに新しい息吹を吹き込む。そこには“倫理的であること”が制約ではなく、むしろ創造の出発点であるという、ステラ マッカートニーの揺るぎない信念が息づいている。
動物性素材を避け、環境負荷を抑えるという選択は、決して主張的ではなく、むしろ服の呼吸の中にそっと溶け込んでいる。倫理が美意識と矛盾せず、むしろ美の延長線上にある、そんな思想が、静かな輪郭を描いていた。<Stella McCartney>の服には、いつも「やさしさの形」がある。それは単なる柔らかさではなく、人間の存在を肯定する温度のようなもの。リラクシングな輪郭の中に倫理的な選択が宿り、都市で生きる人々の生活へと自然に溶けていく。布の質感や風の通り道を感じながら、着るという行為そのものが、自分の信念を選び取ることに通じるのだと改めて強く感じたコレクションとなった。
Stella McCartney
元ビートルズのポール マッカートニーの娘であるステラ マッカートニーが2001年に設立したイギリスのラグジュアリー ファッション ハウス。最大のブランド特徴は、創業以来、動物性素材(レザー、フェザー、ファー)を一切使用しない「クルエルティフリー」を貫き、サステナビリティ(持続可能性)を最優先に据えたエシカルなファッションを牽引している点だ。フェミニンで現代的なデザインに加え、リサイクル素材、ヴィーガン素材を使用し、地球環境と動物愛護に配慮したものづくりを行う、サステナブルファッションの先駆者的ブランドとして世界的に高い評価を受けている。
- Edit : Miwa Sato (QUI)
















