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ニットピースを通じて世の中に問い続けた10シーズン|pillings デザイナー 村上亮太

Oct 7, 2025
デザイナーの村上亮太が2014年に立ち上げた<RYOTAMURAKAMI(リョウタムラカミ)>を<pillings(ピリングス)>へと改名したのは2020年。2025年までの10シーズンを節目としたニットピースのアーカイブ展示が開催された。再スタートを意味する改名の理由は、10シーズンのクリエーションの変化は、この先に見据えるブランド像は。QUI編集部は展示会場を訪れ村上にインタビュー。十年の歩みを託した書籍についても話を聞いた。

ニットピースを通じて世の中に問い続けた10シーズン|pillings デザイナー 村上亮太

Oct 7, 2025 - FASHION
デザイナーの村上亮太が2014年に立ち上げた<RYOTAMURAKAMI(リョウタムラカミ)>を<pillings(ピリングス)>へと改名したのは2020年。2025年までの10シーズンを節目としたニットピースのアーカイブ展示が開催された。再スタートを意味する改名の理由は、10シーズンのクリエーションの変化は、この先に見据えるブランド像は。QUI編集部は展示会場を訪れ村上にインタビュー。十年の歩みを託した書籍についても話を聞いた。

モノづくりが変化していきそうな期待感からブランドを改名

2020年から2025年まで10シーズンのアーカイブ展示は壮観ですが、作品を見ると当時のことを思い出しますか。

村上:思い出しますね。その作品がどうやって誕生したかということよりも自分を取り巻いていた環境が鮮明に甦ってきます。ブランドとして苦しい時期だった、勢いが出始めた時期だった、あの人と出会った頃だったとか。

<pillings>の前身となる<RYOTAMURAKAMI>は何シーズン続けたのでしょうか。

村上:そちらも10シーズンぐらいです。

それだけ続けたブランドから<pillings>へと改名した理由は何だったのでしょうか。認知度や知名度ということではゼロからの再スタートになります。

村上:<RYOTAMURAKAMI>もニットが主力だったのでブランドとしてのクリエーションに大きな変化はなかったんです。ただ、<pillings>へと改名した2020年は<アトリエK’sK>という編み物教室を主宰する岡本啓子さんから「何か一緒にできたらいいですね」と声をかけてもらったタイミングでした。<アトリエK’sK>には腕利きのニッターさんが多く在籍するので自分としてもモノづくりが変わっていきそうな期待感があり、ブランド名を<pillings>としたんです。

<pillings>というブランド名にはどんな思いを込めたのでしょうか。

村上:ピリングは毛玉という意味なので、毛玉ができるぐらい長く続くブランドでありたいという想いを込めました。さらに毛玉って不必要に思われがちですがそこにも価値はあって、捨てられるだけの存在ではないことに気づいてほしかったんです。

<アトリエK’sK>と出会ったことでどのようなモノづくりへと方向転換したのでしょうか。

村上:<RYOTAMURAKAMI>の時代は母親が編んでいましたがプロのニッターさんに依頼することで高いレベルを要求することもできますし、これまで以上にニットというアイテムに注力できると思いました。

毛玉を意味するブランド名はニットへの覚悟の表れでもあるんですね。

村上:覚悟とまで言われるとどうかとは思いますが(笑)。でも、<pillings>のコレクションはニットで勝負するという気持ちは持っていました。

<pillings>のファーストコレクションは2020年でしたが強く意識したことはありますか。

村上:コレクションが全てニットということがまずキャッチーですし、さらにショーまでやるようなニットブランドは少なかったので、お披露目だから、ファーストコレクションだからとこちらが強く意識しなくても自分たちの作品を発表することが自然とプレゼンテーションにはつながっていたようには思います。

pillings 2020AW COLLECTION

<pillings>になったことで新たに挑戦したことなどはありますか。

村上:プロダクトとしての挑戦というのは特にないですが、<pillings>のモノづくりには<アトリエK’sK>の技術や経験が欠かせないようになったことで、そういった背景も<pillings>の価値のひとつであることを積極的に発信するようにはなりました。ニッターさんの熟練の技や個性を知ってもらうために制作風景を撮影した動画などがそうです。

 

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ニッターさんごとに得意ジャンルなどはあるのでしょうか。

村上:先ほど「モノづくりが変わっていきそうな期待感があった」とお話ししましたが、まさにそれがあるからクリエーションの領域が広がっていく気がしたんです。このアイデアはあの人に依頼したら実現できそう、この悩みはあの人なら解決してくれるはずだって。そう考えてお願いしたら、こっちの想像を上回るような答えが出てくることもあってそれはすごく面白いです。

<pillings>になったことで村上さんのクリエーションに対して周囲からの声に変化などはありますか。

村上:デザイナーがニットを独学で頑張っているという見られ方をしていたのですが、ずっと続けてきたことや、<アトリエK’sK>との取り組みもあり、ニットの専門性にも着目され始めている気がしています。自分としてはアマチュアリズムで楽しみたい気持ちもあるのですが、そういう訳にもいかなくなっています。自分自身もあれこれ器用にできるようになっていますが、以前の上手くいかなかった時に感じた、「コントロールできないからこその面白さ」は変わらず持ち続けたいです。

<pillings>といえばこちらもニットのプロフェッショナルとして見ています。

村上:<pillings>のコレクションに対して、ハイファッションと捉えているようなコメントもあり、自分としてはハイファッションへのカウンターという立ち位置で作っていたのですが、ブランドの見られ方も変わってきているんだなって、それは発見ですし、勉強にもなります。<RYOTAMURAKAMI>の頃から見続けてくれている方はハイファッションとは思わないはずですが、<pillings>の最近のコレクションだけを切り取って見るとそう映るのかもしれないですね。

コレクションはその時に抱いた「問い」を具現化にしたもの

<pillings>として再スタートして新たな発見なども多かったと思いますが、10シーズンのなかで転機のようなものはありましたか。

村上:突発的な転機はないですが、10シーズンのなかで一貫して変えてこなかったのが「一度に全てをやろうとしない」ということです。モノづくりの背景まできちんと伝えるというのは最初の5シーズンで徹底したことで、その次の5シーズンにやったことはブランドとしての世界観、人間像を確立させることに注力しました。

ブランドの世界観や人間像を確立させるために力を入れたことは何でしょうか。

村上:ショーの演出もそのひとつですし、モノづくりにしてもニットピースに自分の考えや感情を込めてメッセージを発信していきました。ブランドを続けていくうちにモノづくりがよりコンセプチュアルになっていったと思います。

ショーについて強くこだわっていることはありますか。

村上:こだわりということでいえば僕の場合は全方位です。テーマの設定から世界観を生み出すための演出、スムーズなアテンドまで追求します。それを自分一人でコントロールしているわけではなくて、ショーに関わるスタッフと話し合って決めていますし、任せるところは任せます。やっぱり全てのスタッフにショーにやりがいを感じてほしいですし、楽しんでほしいので。

 

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デザインのインスピレーションはどこから得ることが多いですか。

村上:インスピレーション源というのを特に意識したことはないですね。ニットで表現したいことは常に考え続けているので、ふと目にしたものがデザインに結びついたりします。「映画やアートから着想を得る」というタイプではなくて、普通に生活していて思ったり、感じたりしたことをスッと掬い上げたりすることが多いです。

<pillings>のコレクションは「団地」や「my basket」など、テーマも日常的ですよね。

村上:作りたいものよりも先に表現したいこと、発信したいことがあるんです。自分にとってコレクションは全て世の中への「問い」なんです。「僕はこんなことを思っているけれど、皆さんはどう思いますか」って。自分自身がその問いに対する正解を持っているわけではないので、世の中がどのように解釈して答えを出しても構わないと思っています。

 

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2026年春夏コレクションのステイトメント

コレクションテーマがファッションから少し遠いようなワードなのが面白いと思っていたのですが、テーマが難解な造語などでは「問い」を多くの人と共有できないですよね。

村上:ファッションは好きですけど、僕の日常がそんなにファッションしてないですから(笑)。なので自分としての問いかけを言語化すると、すごく普通の言葉になります。<pillings>の服は穏やかさもあったりするので「デザイナーは女性だと思っていた」って言われることもありますが、僕のモノづくりはテーマの言語化もそうですが、ロジックを積み上げていくような男性的な思考だと思います。

この10シーズンでファッションの在り方などが変わってきていると感じますか。

村上:表現においては今はわかりやすさが求められているような気がしています。それはファッションだけではなく、広告もSNSも。踏み込まないと理解できないような難解なものはそのまま素通りされてしまう。ですが世の中が求めるものってぐるぐると周っているので、ファッションの表現にも奥行きが必要になってくる時代は必ずやってくるはずです。時代のマインドを察知していくことで、<pillings>もアウトプットはいろいろ試してきました。

「わかりやすさ」と言っても表層的なことだけでいいというわけではないですよね。

村上:もちろんです。自分が表現したいことが少しわかりにくかったら、それについての説明をいつも以上に増やすとか。わかりやすい服だけを作るということではなくて、伝えるための補い方や努力が必要です。説明しなくても服が全てを伝えてくれるのなら、あえて何も補足しないとか。

10シーズンを振り返る「pillings knitting works 2020–25」

2020年から2025年のコレクションの集大成として書籍も刊行されるんですよね。

村上:「pillings knitting works 2020–25」という2冊組です。ひとつはこれまで発表してきたプロダクトを掲載したもの、もうひとつはそのニットアイテムを製作するための手書きの編み図です。編み図というのは設計図のようなものです。編み図に倣えば<pillings>が発表したコレクションと同じ編み柄、デザインを再現することができます。ただ編み図が鮮明ではないので解読できるかどうかですか(笑)。

デジタルではなく手書きなのに10シーズン分の編み図が残っていたんですね。

村上:100%ではないですが基本的には残っています。自分でもあまり記憶に残っていない編み図もあって、そういうのはおそらく時間に追われていて、ニッターさんと打ち合わせをしながらその場でメモのように書き起こしたものだと思います。編み図を眺めながら<アトリエK’sK>にはたくさん無理をしてもらったなと思い出したり(笑)。

作品集、編み図集のようなものを作るのはずっと構想としてあったのでしょうか。

村上:ありました。<pillings>のモノづくりの背景を伝えていくという意味でもいつかは作りたかったので10シーズンというタイミングがちょうどいいかなと思ったんです。この書籍を見て、編み物って楽しそう、自分でもやってみたいと思ってくれる人が増えたらうれしいですね。ブランドのアーカイブのためだけではなく、この書籍にはニットの面白さやニッターというかっこいい職人を多くの人に伝えたいという思いも込めています。

10シーズンのアーカイブを書籍で俯瞰で眺めたときに新たな気づきのようなものはありましたか。

村上:作品集にはショーピースも掲載されていて、改めてみると「これは日常では着られないな」って客観視できますが、ただ服を作って売るのではなく、創造性をもって表現することがクリエーションのモチベーションだったんですよね。

「自分が作りたいもの」というピュアな思いを大切にしてきた?

村上:もちろん「自分が作りたいもの」という部分は大切にしていますが、当時の僕は心のどこかで「売れる」という気持ちもあったと思います(笑)。

ブランドとしては振り返るばかりではなく先を見据えていると思いますが、次の10シーズンのビジョンのようなものはありますか。

村上:勝負するのはニットというのは変えませんが、次のステップとして布帛のアイテムも始めています。これまではニットピースという一点の強さを提案してきましたが、ニットセーターと布帛のスカートのトータルコーディネートなどで、また新しい<pillings>らしさを生み出すことができるんじゃないかなと。メンズもやってみたい思いはありますが、「一度に全てをやろうとしない」のが信条なので、そこは時間がかかるかもしれません。

pillings 2025SS COLLECTION

最後にあらためて聞きますが「<pillings>らしさ」ってなんでしょうか。

村上:難しいですね(笑)。コレクションを通じて問いを投げかけて、それに対して自由に答えてもらう。そのスタイルは変わらないので、こちらから押し付けることもしないですし、お客さんに無理に意見してもらうつもりもなく、そういう気負わない関係性が「<pillings>らしさ」なのかもしれないです。ずっとそうあり続けたいです。

 


 

pillings

日常に寄り添いながらも独自の視点で再解釈された服づくりを行うブランド。流行に左右されない普遍性と、素材やディテールに宿る繊細な個性を大切にしている。シンプルでありながら奥行きを持つデザインは、着る人の生活や感性と自然に調和し、特別な日常を生み出す。2014年春夏、村上亮太と母・村上千明によって<RYOTAMURAKAMI>として活動をスタート。2018年春夏よりデザインを村上亮太が単独で手がけ、2021年春夏にはブランド名を<pillings>へと改称した。

Instagramはこちらから!
@pillings_

  • Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLe)
  • Edit : Miwa Sato(QUI)

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