【BEHIND THE SCENE】el conductorH 短編映画で変わらない鮮度を目指した2022年春夏コレクション。
シーズンテーマは「Passage」。
今シーズンは、映画を制作し、渋谷にある映画館「EURO LIVE(ユーロライブ)」で作品を上映する形で発表を行なった。
QUIでは、先に行われた映画制作現場に潜入し、デザイナー長嶺氏の映画制作にかける思い、今シーズン追い求めたもの、先シーズンの発表からアカウント数も増え注目を集める同ブランドの現在地を探った。
取材日は撮影二日目。
この日も早朝から撮影が開始された。
撮影現場は、某所の山間にあるコテージ。
一階が撮影現場となり、生活空間がそこにあるかのような内装を作り上げた。
いつの時代なのか、何処なのかわからない不特定な情報を付け足したことも意図されたことだった。
撮影場所のコテージから役者の控室までは、勾配のある山道が続く。
映像撮影と同時進行でルックの撮影も行われた。
強い日差しが燦々と降り注ぐ中、スタイリングも担当するデザイナーの長嶺氏は休むことなく走り回っていた。
今回の映画作品では、映画やドラマを手掛け、長編時代劇『合葬』で知られる⼩林達夫監督がメガホンを取った。
唐田えりか、吉村界人、hibiki (lol)を始め、キャストには個性あふれる面々が並ぶ。
「jan and naomi」のヤン ユリラ サスは、バンドメンバーでの出演だけでなく、作中の音楽も担当した。
撮影の合間、デザイナー長嶺氏が映像作品制作の経緯を話してくれた。
初のランウェイショーが終わり、次回の発表について、新しい可能性について、フラットに考えた。
シーズンを重ねるごとに、洋服だけでなく、発表の手法もアップデートしたいと思い、手法を検討した。
「デジタルが進んでいる中でも結局はそれを着てどこに行けるかが大事。」
従来の映像作品は洋服を見せることがメインだったが、作品に物語があり内容として面白く、その映画を見るために、映画館に足を運ぶ。
そんなエンターテイメント性のある発表で見ている人に楽しみを提供したい。
また、時節柄デジタルで見る人の方が多いことから、見る人に鮮度差が少なく届けられることも映画作品を作る理由となった。
映画作品を作ると決めてからは、監督に表現したいものを伝え、仮で脚本をいくつか作ってもらい、そこから話を膨らませた。
世界観については特に大きい声で伝えたが、ファッション業界、映画業界、それぞれ大切にしている部分が違うことから、特に見せ方の部分では意見をぶつけ合うことがあった。
「お互いの武器を持ち合って一つの作品を作る。」という言葉からは長嶺氏の作品づくりに対するスタンスが窺えた。
2022年春夏コレクションは”現在”のデザイナー長嶺氏が投影されている。
2000年代前半のファッションの雰囲気がしっくりきているという。
2021年現在の感覚、2000年代前半の雰囲気、1970年代のサイケデリックカルチャーの3つの時代感をあくまでもエッセンスとして取り入れた。
13体のスタイリングはデザイナー自身が組み、アイテムの雰囲気が当時の時代感を投影していることから、エレガントなシャツにジャージ、便所サンダルなどスタイリングで新しさを出した。
9/2(木) Rakuten Fashion Week TOKYO 公式スケジュールでコレクションが発表された。
映像発表は渋谷区円山町にある映画館「EURO LIVE(ユーロライブ)」で関係者を招き行われた。
招待状が映画のチケットになっており、細部までのこだわりがより一層期待感を募らせた。
発表された短編映画「something in the air」は、ツアーでコテージに宿泊しているバンド「Effi Briest」の D2(吉村界人)らメンバーに、地元でZINEを作るMEG(唐田えりか)らが取材に訪れるところから、憧れ、苛立ち、嫉妬など、登場人物それぞれの感情が錯綜する。
本編で描かれている登場人物たちの「今」と、セリフのみで表現される「過去」「未来」の描写がノスタルジックな心情を増強させた。
メインとなるキャストは本コレクションで発表された服を纏い、随所に服のディテールが出てくるが、あくまでストーリーが際立っている。
映画のストーリーとコレクションテーマを敢えてリンクさせていない理由は、作品として面白いものにしたく、単なるプロモーションだけにならない映像にしたいと考えたからという。
ただ作中には、「ものは時間とともに通り過ぎていく」というセリフも登場し、コレクションテーマである「Passage(通り過ぎていく)」と部分的にリンクする場面もあった。
「馴れ合いの中で生まれるものはつまらない」というセリフは、<el conductorH>の意志を映し出しているかのように思えた。
公開されたルックでは、それぞれのキャラクターが色濃く反映されている。
ノスタルジックでどこかエモーショナルで強くも儚くもある、映画のワンシーンを切り取ったようなルックに仕上がった。
映像発表後、長嶺氏は「まだ実感は湧かないが一から作って実現できたという喜びはある。今後も常に見てくれる人に楽しんでもらえるように一種のエンターテインメント性も追求していきたい。」と話した。
発表された映像作品、ルックは以下から見ることができる。
短編映画「something in the air」
プロデューサー:鈴木徳至
撮影:石垣求
音楽:ヤン ユリラ サス YUKI YAMA
美術:福島奈央花
ヘア & メイクアップ:友森理恵
制作プロダクション:cogitoworks Ltd.
企画・製作:el conductorH