QUI

FASHION

NEW GENERATIONS vol.20 - MONDO|Life souvenir shop

Sep 16, 2025
次世代を担う注目クリエイターやアーティストの新たな魅力を届ける「NEW GENERATIONS」。今回は、vol.19で紹介したクリエイティブデュオ・beans.の中本健士郎とLisasが見つけた清澄白河のショップ「MONDO」を取材。beans.とMONDOのコラボレーションを写真家TETが撮り下ろした写真作品とともに、“ライフスーベニアストア”という新しい在り方と、店を形づくる思考の深さに迫る。

NEW GENERATIONS vol.20 - MONDO|Life souvenir shop

Sep 16, 2025 - FASHION
次世代を担う注目クリエイターやアーティストの新たな魅力を届ける「NEW GENERATIONS」。今回は、vol.19で紹介したクリエイティブデュオ・beans.の中本健士郎とLisasが見つけた清澄白河のショップ「MONDO」を取材。beans.とMONDOのコラボレーションを写真家TETが撮り下ろした写真作品とともに、“ライフスーベニアストア”という新しい在り方と、店を形づくる思考の深さに迫る。
Profile
MONDO
ライフスーベニアストア

2025年2月、清澄白河にオープン。5名のクリエイターで運営するスペースでは”Life souvenir”をテーマにアパレル・ジュエリー・写真・家具を揃える。月一度のポップアップスペースにて様々なジャンルの表現を提案。

Instagram:@mondo_kiyosumishirakawa

金子 覚
MONDO オーナー

2021年上野にモノづくりの起点とし、合同アトリエ「FARMILIA」を立ち上げる。アート、洋服、古物、様々な思考から構成する空間として発足。

2024年OARデザイナー吉川と協業で縫製工場を設立。様々な観点より、製造の起点からアウトプットまでを支えるべく運営している。

 

若生 隆人
MONDO ディレクター/Pablo Griniche デザイナー

2017年文化服装学院高度専門士科を卒業後、コンテストの優秀賞によりイギリスのノッティンガムトレント大学へ入学。イギリスの服飾学生の集まるコンテストでもあるGFWにてベスト20に選出。

2022年よりヴィンテージショップの運営を開始。2023A/W 「Pablo Griniche」を立ち上げ、シーズンレスでコレクションを発表し続けている。

Instagram:@wakotakato / Pablo Griniche @pablo_griniche

板倉 北斗
MONDO ショップマネージャー/PETTY デザイナー

大学にて経済学を専攻し、2017年卒業と同時に制作活動を開始。国内の繊維産地を周り、愛知県の製織工場では職人のインターンを経験。現在は旗艦店を上野に構え、シーズン制/展示会での制作を続けている。

Instagram:@hokutoitakura / PETTY @petty__official

(左から時計回りに)板倉 北斗、金子 覚、若生 隆人

“ライフスーベニアストア”という風土を耕す

消費のためではなく、共生のために

ー MONDOという集まりはどのように生まれたのでしょうか。

金子: 上野にものづくりをする人たちが集う“コミュニティスペース”がありました。村づくりのような感覚で、ショップというよりはアトリエとして機能し、現在も続いています。清澄白河のこちらは、ショップとして自分たちの“畑”を持つ。その実験として立ち上がりました。

若生: 私たちは「FARMILIA」という、古着や古物、写真、ブランドが交わるコミュニティを上野で約4年前から運営してきました。そこは育てた畑のような場所でしたが、ショップではない。ショップという形にも挑戦したく、2025年2月上旬に清澄白河で第一歩を踏み出しています。

板倉: 「FARMILIA」ではインプットに適した場だった一方、雑居ビル3階という立地はアウトプットの最適解ではないと感じました。きちんと見ていただける場所をつくろうと昨年から路面を探し、今に至ります。

清澄白河という環境の呼吸に合わせて

ー あえて清澄白河を拠点に選んだのはなぜでしょうか。

金子: 木場公園の自然と現代美術館の文化が共生する。その関係性が、私たちの指針や信条に近いと感じました。

若生: ここはもともと木材置き場だった建物で、大家さん(90歳前後)ご家族の生活の記憶が強く残っています。私は木場に住み、清澄白河に通っていましたが、好きでありながらも「購入体験」に結びつく導線が少ないと感じることが多かった。であれば、家具や食、服が横断的に結びつき、生活に寄り添う購入体験を差し出す場を自分たちで育てたいと思いました。美術館や庭園に象徴される“共生”の重力に引かれるように、話が上がって1週間以内で決めています。フィーリングも大切にするチームです。

若生: 馬喰町や日本橋も検討しましたが、美術館や庭園等のある上野との共通点が多い清澄白河に全員一致で決まりました。

板倉: 私たちのものづくりは大量生産・大量消費の流れとは相性がよくありません。東京の東側のほうが“つくり”に寄り添った評価が得やすいと考え、東側に絞って探しました。

金子: 西は消費、東は生産。始まりの場所を上野に定めたのもその考え方の延長線上にあります。

若生: 東側を盛り上げたいという気持ちも、確かにあります。

記憶を塗り隠さず、躯体の呼吸を残す

ー 住宅地に静かに佇む、重厚感のある世界観はまるで異世界に迷い込んだようでした。店内のアイテムや空間構成について教えてください。

金子: 置いているブランドには日本の文化的背景に向き合う姿勢が通底しています。什器は、欧米のデザイナーがジャポニスムを汲み取って作ったものを選び、日本人としての提案と、インバウンドの視点。その二つのまなざしが自然に交差する配置を心がけています。

若生: たとえば店舗什器の椅子は、日本の宮大工の技法を駆使したピエール・シャポの作品です。ラックの配置は厳密な図面というより、皆で選び合い、共生させた結果の佇まい。内装は躯体を生かす方針で、写真家・大宮の鉄工所での経験を背景に、切り出した鉄板を皆で貼り、色を重ね、錆も含めて“時間”を置いています。壁はあえて塗らずオイル仕上げ。建物は1960年代で、割れた窓やテープ跡さえも記憶としてあえて残しています。

金子: 大家さんのおばあさまは、ご結婚の頃に大工の手ほどきを受け、お一人で壁や木部をつくられたそうです。材木置き場だった背景に敬意を払い、できるだけ手を加えずに使っています。

板倉: 取り扱いは、上野のコミュニティでの入れ替わりを経て今のメンバーで固まったアウトプットです。クラシック、モード、スカルプチャー等々、方向は違っても、目に見えない親和性で共生しています。店内の一部はポップアップスペースとして開放し、同じ価値観を持つつくり手に声をかけています。

攻め・守り・均衡という、見えない編隊

ー つくり手としての“攻め”と運営としての“守り”。役割はどのように分担されていますか。

金子: 板倉は日本各地の機屋を回り、テキスタイルをともにつくる筋力が強い。若生は英国留学の経験もあり、コンセプトを深く掘るタイプ。皆がそれぞれ“尖り”を持ち、欠けを含めて畑に多様な野菜がある状態が健全だと考えています。

若生: 私はときに牙を出す役回りでもあり、板倉は鉄壁のものづくりで“守り”が厚い。金子は均衡を取る存在です。全員が尖りがある中で、集まって球体になる、その球体が社会に所属する。

板倉: 尖りのある個が集まり、互いの凸で支え、凹を補う。私たち5人(金子/板倉/若生/大宮(写真家)/福枡〔PA.LUCE ジュエリー〕)を核に我々の理想とする真円を目指しています。

金子: 例えるなら、板倉が家庭を守る母、私は家にいない親父(笑)。

若生: 役職は便宜上つけましたが、役職に縛られない組織でありたいと思っています。

ー 板倉さんは店舗のマネジメントを担っていますが、店舗運営の現場では、何を大切にされていますか。

板倉: 尖ったメンバーのバランスを俯瞰して取ることです。ディレクションは若生に任せつつ、大黒柱の金子、長男のような写真家・大宮、次男のようなジュエリーデザイナー・福枡(PA.LUCE)のように、それぞれの個性が最も機能する配置を意識しています。日々の運用は“正しいか”よりも、“一番活きるか”。その判断を積み重ねています。

ー 若生さんはディレクターとして、MONDOをどのような場に育てていきたいですか。

若生: 役職自体は好きではありませんが、アートディレクターの役割は重いと考えています。家具や什器、金子のバイイングを踏まえ、世界のデザイン動向を俯瞰し、自分たちの言語へと翻訳する。情報が集めやすい時代だからこそ、人肌の温度を通した落とし込みが必要です。MONDOの語源はラテン語で“地球”。人間由来の制作の豊さを基準に、5人の歩幅に合わせて空間と発信をディレクションしています。

精神の凝りに触れ、時代のノイズを調律する

ー 若生さんはブランド<Pablo Griniche(パブロ グリニチェ)>を手がけるデザイナーでもあります。ブランド名の由来と、シーズンコンセプトを教えてください。

若生: “グリニチェ”は私の中の架空のミューズで、“パブロ”はパブロ・ピカソから。幼少期に出会った最初の芸術家で、多角的に制作する姿勢に影響を受けました。「良い芸術家はコピーし、偉大な芸術家は盗む」という言葉にも背中を押されました。シーズンテーマは毎回異なりますが、今季は人の精神の凝りをヒーリングすること。気持ちを鎮めるだけでなく、時代のノイズに調律をかけるデザインです。表面的な快楽ではなく、根幹的なメッセージを服に落としています。

ー ここまで深度のあるブランドは久しぶりに見たような気がします。ブランドの立ち上げはいつ頃だったのでしょうか?

若生: 2023年、コロナ禍に第一シーズンを発表しました。年1回のペースです。コレクションの着想は自分の感覚や精神状態から立ち上がり、過去の事例と照らし合わせるところから始まっています。コロナ禍にペストを想起したように、忘却に抗う追悼の視点を大事にしています。

ー 先ほどもちらっと話に出ていましたが、若生さんは以前英国に留学されていました。現在の制作やMONDOでの活動にどう響いていますか。

若生: 言語の壁があった分、自分との対話が唯一の手段でした。コンセプトを深く構築する習慣が身につき、作品を通じて言語を超えるコミュニケーションが生まれる瞬間に救われました。MONDOでも対話が生まれる置き方を重視しています。

素材から始まる設計と、産地と歩む粘り強さ

ー 板倉さんはブランド<PETTY(ペティ)>のデザイナーでもあります。どうやら名前の由来は公表されていないそうですね。

板倉: 隠しているわけではなく、学生時代のニックネームです。由来自体は、驚くほど普通です(笑)。

ー ブランドの原点となる服づくりはいつから始めたのでしょうか。<PETTY>のコレクションにはどのような思想が宿っていますか。

板倉:高校卒業前に服が好きになり、一般大学の経済学部へ進学しました。大学4年のインターン先で「服飾学校に行くなら、そのお金で服を作ったほうがいい」と言われ、卒業のタイミングで制作開始。手探りのまま続け、2022〜23年ごろからシーズン制/展示会を本格化しました。ヴィンテージやアンティークに惹かれるのは、そこに文化の圧縮があるからです。縫製が荒いことすら時代観の証左になりうる。掲げているのは「文化に学び、文化を作る」。トレースではなく、現代の背景が読み取れる服を残したいと考えています。50年、100年後に見返されても“この時代だからこう”と香り立つものでありたいと思っています。

ー 板倉さんは“生地オタク”とも伺っていますが、生地へのこだわりは、どのように育ってきたのでしょうか。

板倉: ものづくりの第一歩は素材・テキスタイルだと考えています。日本各地の工場へ自分でアポイントを取り、見学を重ねてきました。背景を隠す風潮がまだ強かった頃から、バイトをしながら月1以上いずれかの産地へ通い続けました。デザインは自分で、パターンは外部のパタンナーと協業。ヴィンテージをモチーフサンプルとして持ち込み、「この生地でこう、ここは変えたい」と相談するところから学びを深めました。

ー 自らの足で繋いできた信頼関係はかけがえのないものですね。何か工場の方々との印象的なエピソードはありますか。

板倉: 資金が乏しい時期は、傷などが入ったいわゆるB反やC反を譲っていただき、工場の方の時間をいただきながら安い生地だけを持ち帰るという数年もありました。その時は大変心苦しく思っていたのですが、昨年末、ある工場で「PETTYさん頑張ってるね。良ければぜひうちの名前を出してくれないか。」と言っていただきました。関係値を築けた実感が、心から嬉しかったです。

意見の着地と、遊びがつくる一体感

ー 意見が分かれたとき、どのように着地点を見つけていらっしゃいますか。

金子: 私たちはそれぞれ個性が強いのですが、ため込まずにその場で意見を言い合える関係です。だからこそ衝突があっても、大きな問題には発展しません。

若生: 実際、衝突はありますよ。でも僕らはすぐにグループで話し、先輩後輩関係なく金子さんにも「今すぐ店に来てください」と言うこともある(笑)。そうやって正面から言葉を交わすからこそ、自然とまとまっていくんです。僕たちを動かしているのは共通の“判断軸”ではなく、むしろ言葉にせずとも全員が感じ取っている見えない理念のようなもの。それを共有できる人間が残り、今の形になっていると感じます。

金子: だからこそ、形式的な会議よりも一緒に遊ぶ時間の方が大切だと思っています。そこでこそ本音が出るし、関係が深まると感じています。

板倉:実際、月1回のしっかりしたミーティングとは別に、月2回ほど遊ぶ時間を設けています。部署で線を引くのではなく、私生活までつながり合う組織でありたい。そういう時間を大事にすることで、仕事も自然と整うんです。

MONDOが育てる循環と、OARという日常

ー そもそもMONDO全体のコンセプトはどのようなものなのでしょうか。

金子: 私たちは「ライフスーベニアストア」という言葉を掲げています。セレクトショップ、コンセプトストアと細分化が進んできたアパレル業界にあって、私たちが大切にしたいのは“共存”ではなく“共生”です。お互いに寄りかかるのではなく、生かし合う関係。その中にはお客様も含まれます。買い物は単なるモノの取得ではなく、体験や感性を持ち帰る行為であってほしいのです。

ー 金子さんのブランド<OAR(オール)>もまさにその考え方を体現しているのですね。

金子: そうですね。約4年前にスタートした<OAR>は、デザイナーの吉川が中心で、彼はパタンナー出身です。上質な生地を用い、自社の縫製工場で企画から製造まで完結。テーマはあくまで日常着。ベーシックに見えながらも一点の変化を宿すことで、生活に近い提案をしています。店内ではワードローブの什器を使い、衣服が暮らしに収まった時のイメージを自然に描けるようにしています。

ー MONDOという空間において、<OAR>はどのような役割を果たしていると感じますか。

金子: 若生の<Pablo Griniche>はコンセプトの鋭さ、板倉の<PETTY>はテキスタイルの粘りを体現しています。その二者に対して、<OAR>は日常への実装力を担っている。三者三様が自然に重なり合うことで、“共生”の輪郭が濁らずに浮かび上がるのだと思います。

ー MONDOの広がりという点では、ポップアップの存在も大きいですよね。

金子: はい。1.5~2か月に一度のペースで開催しています。うちで経験した方やそのお知り合いの方に「次の季節もどうですか」と声をかけています。たまにSNSでの出会いを通じて広がっていくこともあります。これは営業活動というより、畑に種を蒔くような感覚です。セレクトや展示でも、日本の文化や混ざり合い(共生)を意識しています。つくり手が自分の根を掘る姿勢を持っていることが重要で、家具や住居に関しても、当時のデザイナーが掘り下げて形にした造形物への敬意を大切にしています。

もの・人・記憶が循環し、次の季節に芽吹くために

ー 今後、MONDOとして挑戦したいこと、目指す未来像を教えてください。

金子:キーワードは “ビオトープ”です。自然循環のように、人とものと体験がめぐる環境を理想としています。

若生: “ライフスーベニアストア”という新ジャンルを確立させたいと考えています。地方で無垢に買い物できるあの感覚を、規模を拡大しながら広げていく。ここに固執せず、新しい場所の開拓も視野に入れています。

板倉:店の拡張や移転の可能性も含め、ポップアップで外部のクリエイターを招き、新しい要素を取り込み続けます。内側から熱を高め、輪を広げていくつもりです。

 


 

beans. × MONDO : A Vision of Coexistence

MONDOが持つアルチザンの研ぎ澄まされた側面に、beans.の親しみやすさを重ね合わせ、見る人との距離をそっと近づけた。
ハイエンドなものをただ高級に映すのではなく、日常に根差したモチーフを取り入れることで、“身近に感じられるラグジュアリー”を描き出している。

その象徴としたのが、野球のユニフォームに宿る造形美と、プレーの動きに潜む美しさ。
beans.がディレクションからスタイリング、モデルまでを担い、MONDOとの共存の姿を写真に映し出した。

 

Lisas:Tops ¥15,400 (Pablo Griniche)、Rings [Thumb] ¥143,000 , ¥29,700 [Index] ¥23,100 , ¥46,200 [Ring Finger] ¥29,700 (PA.LUCE)

 

Kenshiro:Jacket ¥63,580、Inner Jacket ¥63,580、Shirt ¥37,180、Pants ¥36,080、Cap ¥16,280 (PETTY)
Lisas:Pants ¥47,800 (Pablo Griniche)

 

Lisas:Shirt ¥34,800、Pants ¥47,800、Inner Pants ¥47,800 (Pablo Griniche)、Necklace ¥303,600 (PA.LUCE)
Kenshiro:Vest ¥34,800、Shirt ¥32,800、Inner Top ¥15,400 (Pablo Griniche)、Pants ¥40,480 (PETTY)

 

Creative Direction : beans.
Photograph : TET
Styling : Lisas
Model : beans.
(Kenshiro Nakamoto, Lisas)

 


 

“ライフスーベニア”という言葉は、消費の速度を落とす合図なのだと思う。
清澄白河の躯体に刻まれたテープ跡や、鉄板に浮かぶ時間の層、三者三様の服が重なって生まれる温度。
そこに重なるのは、beans.とMONDOが描き出した、親しさと気高さが共存するまなざし。

そのすべてが持ち帰るべき体験であり、思考の断片だ。
MONDOは「買う場所」である前に、「耕す場所」として存在している。

 

INFORMATION

MONDO
住所:〒135-0023 東京都江東区平野2丁目3−25
営業時間:金曜日・土曜日・日曜日・祝日 各日13:00〜19:00

  • Photograph : TET
  • Interview & Edit : Yukako Musha(QUI)

NEW ARRIVALS

Recommend