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ジュエリーは感情のスイッチ|Panconesi マルコ・パンコネージ

Aug 2, 2025
パリ発のジュエリーブランド<Panconesi(パンコネージ)>は、彫刻のような造形美と、感情に寄り添う繊細なアプローチで注目を集めている。創設者でありデザイナーのマルコ・パンコネージが、自身のバックグラウンド、ジュエリーに込める想い、そしてこれからのブランドの展望について語ってくれた。

ジュエリーは感情のスイッチ|Panconesi マルコ・パンコネージ

Aug 2, 2025 - FASHION
パリ発のジュエリーブランド<Panconesi(パンコネージ)>は、彫刻のような造形美と、感情に寄り添う繊細なアプローチで注目を集めている。創設者でありデザイナーのマルコ・パンコネージが、自身のバックグラウンド、ジュエリーに込める想い、そしてこれからのブランドの展望について語ってくれた。

感情と素材をつなぐジュエリーという言語

Panconesi 2019年秋冬コレクション

──まずは、これから知る読者に向けて、マルコさんご自身について、ブランド<Panconesi>について簡単にご紹介いただけますか?

マルコ・パンコネージ(以下、マルコ):はい。私は2018年にパリで自身のジュエリーブランド<Panconesi>を立ち上げました。ブランドの中心にあるのは、身に着けるものに対して“感情的な価値”を再び感じられるようにすることです。積層や動き、質感、自然といった要素を通じて、金属や石、クリスタル、エナメルなど多様な素材を使いながら、毎回異なる感情のレイヤーを表現しています。

──ブランドのステートメントには「伝統と革新」など、相反するものを組み合わせたキーワードが並んでいますよね。それらはどんな考えに基づいているのでしょうか?

マルコ:私自身、古代から19〜20世紀までの伝統的なジュエリー技術や様式にとても影響を受けてきました。世界中の文化や時代から学んで、それを現代の視点で再解釈しているんです。ジュエリーには感情を変換する力があると思っていて、<Panconesi>の作品は、個性やオーラのようなものを宿す“感情の容器”として存在していてほしい。遊び心や個性を引き出し、自分らしい表現を楽しむためのツールでありたいと思っています。

ジュエリーは身体と共鳴する小さな彫刻

──<Panconesi>のジュエリーは、まるで彫刻のような佇まいが印象的です。「彫刻としてのジュエリー」という考え方はどのように生まれたのでしょうか?

マルコ:彫刻とジュエリーの関係は決して新しいものではありませんが、私が特に惹かれるのは、形が身体とどのように関わるかという点です。ジュエリーは、装飾にとどまらず、身体の延長として存在することができる。ごく個人的なスケールの彫刻として、より親密な対話を生み出せる特別な表現手段だと感じています。

──そのような感覚は、ご自身のバックグラウンドにも関係しているのでしょうか?考古学や古典語を学ばれていたとお聞きしました。

マルコ:はい、それは大きいと思います。私にとって創作とは“発見”です。過去から何かを学び取り、それを今の世界へと呼び起こす作業。ローマやギリシャ神話に触れた学生時代には、感情や自然との精神的なつながりに対する意識が芽生えました。今でもその影響は確実に残っています。

──マルコさんはフィレンツェで育ったそうですね。ジュエリーに対する美意識に、街の文化的な背景も反映されているように感じます。

マルコ:はい。間違いなく反映していますね。フィレンツェはまさに“芸術と共に生きる”街。街のあちこちに芸術や建築があり、それが日常でした。最初は貴石博物館で歴史的修復を学びましたが、すぐに「暗い作業室で一生を過ごすのは違うな」と感じました。“美を保存するだけではなく、自分で生み出したい”と思うようになったんです。ジュエリーづくりは、私にとって「美しさ」に没入できる新しい創造の手段であり、<Panconesi>は自分自身の美意識や精神性と強く結びついたプロジェクトになりました。

キャリアの中で育まれた価値観と創造の原点

──これまでに<Givenchy(ジバンシー)>や<Balenciaga(バレンシアガ)>など名だたるメゾンで経験を積まれていますが、その経験はご自身のブランド運営にどう活かされていますか?

マルコ:素晴らしいクリエイターたちと出会えたのは本当に恵まれたことでした。その時に出会った多くは今でも親しい友人であり、コラボレーターでもあります。そうした環境の中で学んだのは、ブランドの成り立ちだけでなく、“誰と仕事をするか”という人間的な選択がいかに重要か、ということでした。

──確かに誰と一緒に仕事するかは、仕事におけるメンタルヘルスの側面から見ても重要ですよね。そんな学びを得ながら、ご自身のブランドを立ち上げようと決意されたきっかけは、どんなものでしたか?

マルコ:何か決定的な瞬間があったというよりは、静かに積もっていったような感覚ですね。他ブランドで仕事をするなかで、心の奥にずっとしまっていたアイデアがいくつもありました。“これは他では発表できない、自分だけのものだ”と感じたんです。それに居場所を与える必要があると自然に思うようになりました。

──<Panconesi>を立ち上げてからも、<Fendi(フェンディ)>や<Swarovski(スワロフスキー)>のプロジェクトにも携わるなど多忙を極めています。異なるブランドのクリエーションを行う際、何か判断軸のようなものはありますか?

マルコ:私はもともと複数のプロジェクトを並行して進めるスタイルに慣れています。大事なのは、自分のクリエイティブな核を見失わないこと。それぞれのブランドで得られるインスピレーションは異なりますが、最終的には“これは自分のヴィジョンと一致しているか”という感覚が常に判断基準になります。

光と影のあわいに宿る感情を表現した新作

Panconesi 2025年秋冬コレクション

──2025年秋冬の新作コレクション「Dusk Till Dawn」は、どんな着想から生まれたのでしょうか?

マルコ:“光と影のあいだにある感情”をテーマにしました。日没と夜明けの間にある静けさや余白には、とても豊かな感情が宿っていると思うんです。その雰囲気を、肌に溶け込むようなエナメルや、色を抑えたミュートトーンで表現しました。黒曜石やシトリンといった石も、光と闇の緊張感を映し出す存在として取り入れています。

Panconesi 2025年冬コレクションより、『Dusk』ピアス

──今回、特に印象的な技術やピースはありますか?

マルコ:『Dusk』ピアスですね。赤瑪瑙を極薄にカットして、まるで光を通す“窓”のように見せています。この技法は非常に難しく、イタリアの工場と一緒に何度も試作を重ねました。最終的に、透明感と精度の高いシルエットに仕上げることができました。

過去の技術を未来へ、そして広がる表現の場

──<Panconesi>のジュエリーには、古典的な技法の再解釈も多く見られます。

マルコ:はい。“どう作られているか”を知るだけでなく、“どう作られてきたか”を理解することが、創造において非常に大切だと思っています。伝統に向き合うことで、新しい形や意味を見出せる。それは<Panconesi>のDNAの一部です。

──毎回キャンペーンビジュアルも非常に印象的です。ビジュアルの構築プロセスについて教えてください。

マルコ:出発点はいつも、“ジュエリーが私たちにどんな感情を呼び起こすか”。そこから、同じ感覚を共有できるアーティストとコラボレーションし、物語を視覚的に広げていきます。ビジュアル表現はデザインの延長。ジュエリーが語るストーリーが、そこでもう一度息づくのです。

──<Panconesi>のジュエリーは、まさに“身につけるアート”であると同時に、視覚的アートでもありますね。

マルコ:その通りです。ジュエリーを通して感情を表現すること。そして、その感情をさらに広げていく視覚的手法。両者は切っても切り離せない関係です。

“自由な表現”を求める人へ届けたいムード

──<Panconesi>は、特定の性別像ではなく、“ムード”で人々を引きつけていますよね。どんなエネルギーが共通していると感じますか?

マルコ:“自由”です。自分の感情を、身につけるもので表現することの自由。自然素材の美しさ、手触り、色。それらを通じて、感覚的に何かを感じたい人たちが、<Panconesi>に共鳴してくれているのだと思います。

──以前他誌のインタビューでジュエリーを“感情のスイッチ”と表現されていたのが心に残っています。

マルコ:ジュエリーを身につけた瞬間、何かが“変わる”と感じることがありますよね。自分が“見られている”と意識したり、ふと自分とつながるような感覚になったり。まるで内面の光が灯るような、その瞬間こそがジュエリーの魔法だと思っています。

広がる創造領域と、これからのPanconesi


ジョーダン・ロブソンと取り組んだ2025年春夏コレクション『Facets』

──現在<Panconesi>はジュエリーにとどまらず、バッグやホームオブジェクトなどにも展開していますが、今後挑戦してみたい分野はありますか?

マルコ:もちろんです。ブランドの“デザイン言語”を拡張していきたいと思っています。映像作家であるパートナーのジョーダン・ロブソンと取り組んだ『Facets』では、インテリアピースも制作しました。今後はファインジュエリーの分野にも本格的に取り組んでいきたいと思っています。

──それはとても楽しみですね。空間インスタレーションなど、より大きなスケールへの展開も考えているのでしょうか?

マルコ:はい、考えています。オブジェクトと空間、身体の関係性に惹かれているので、ジュエリーから空間へという展開は、とても自然な流れだと感じています。

“感情を刻む”というタイムレスなあり方

Panconesi 2025FW COLLECTION

──よくジュエリーは“一生もの”と言われることが多いですが、<Panconesi>にとっての“タイムレス”とはどういう意味を持ちますか?

マルコ:私たちは、その考えを少し違った角度から見たいと思っています。投資的価値のような物としての価値ではなく、その人にとって“個人的な意味”を持つこと。ある瞬間に感情を揺さぶられるようなピースこそが、本当の意味での“タイムレス”だと思います。

──最後に、今後10年で<Panconesi>をどんなブランドに育てていきたいですか?

マルコ:難しい問いですね笑 根本にあるのは“美しさと希望”を届けること。そのビジョンが、物質的にも、感情的にも人々の心に響くようにしたいです。どんな形を取るにせよ、既成の価値観に問いを投げかけ、考えさせるような存在でありたいと願っています。


 


マルコ・パンコネージが語るジュエリーのあり方は、単なる“装飾”を超えて、感情と対話し、内面に光を灯すものだ。彫刻として、そして感情のスイッチとして、<Panconesi>のジュエリーは、未来のクラフトを再定義する“かたち”となって私たちの心に刻まれていくだろう。

Panconesi
Web:https://marcopanconesi.com/
Instagram:https://www.instagram.com/panconesi/

 

  • Interview & Text : Yukako Musha(QUI)

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