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東京都美術館「デ・キリコ展」レポート – “不思議いっぱい”10年ぶりの回顧展

May 4, 2024
4月27日(土)、東京都美術館にて「デ・キリコ展」がスタートした。日本では10年ぶりとなる大規模な回顧展だ。当時も現在も「唯一無二」と評されることが多いジョルジョ・デ・キリコ。その世界観を、存分に堪能してきたので早速レポートする。

東京都美術館「デ・キリコ展」レポート – “不思議いっぱい”10年ぶりの回顧展

May 4, 2024 - ART/DESIGN
4月27日(土)、東京都美術館にて「デ・キリコ展」がスタートした。日本では10年ぶりとなる大規模な回顧展だ。当時も現在も「唯一無二」と評されることが多いジョルジョ・デ・キリコ。その世界観を、存分に堪能してきたので早速レポートする。

ジョルジョ・デ・キリコとは何者なのか

《ヘクトルとアンドロマケ》1970年 ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団
© Fondazione Giorgio e Isa de Chirico, Roma © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

1888年に誕生し、1978年に没した画家・ジョルジョ・デ・キリコ。彼の名は「形而上絵画」の生みの親としてよく知られている。

形而上……つまり“形のないもの”と形容されるその作品は、幻想的かつ神秘的。日常的でありながら、非日常なギミックを取り入れることで「不思議」を表現した作家だ。

彼の作品は、のちにアンドレ・ブルトンによって立ち上がる「シュルレアリスム」に大きな影響を与えた。デ・キリコと他のシュルレアリストとの思想は違う部分も多いが、「日常のなかの非日常」という面ではとてもよく似ている。

またその後のポップアートから、現在のクリエイターにもデ・キリコのファンは多い。とにかくその幻想的な世界観で、今でもあらゆる人を魅了し続けている画家だ。

 

形而上絵画の時代から新形而上絵画まで

《沈黙の像(アリアドネ)》1913年 ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館(デュッセルドルフ) © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

今回の展覧会ではデ・キリコのキャリア全体を流れで確認できるのが楽しい。世界各地から集まった100点以上の作品で構成されている。

当時のヨーロッパの画壇から高評価を受けて、一気にスターダムまで駆け上がった「形而上絵画」の時代。そこから、ルネサンス絵画やバロック絵画に影響を受けた「古典絵画への回帰」の時代。また新しい表現に果敢に取り組んだ「新形而上絵画」の時代までの変化を楽しめる。

全体を通してあらためて現地で感じるのは、デ・キリコがあくまで自己実現にしたがって進化し続けていたことだ。キャリア序盤の形而上絵画で一定の評価を得たが、そこに固執をしていない。

当時、画壇で大きな発言力を持っていたギヨーム・アポリネールから「他の誰にも似ていない作品」と形容されたが、そこに甘んじることなく1920年ごろからは一転して古典的な表現に舵を切った。

つまり「誰も実践していなかった」形而上絵画の真逆を始めたわけだ。この作風の転換には、当時、批判も集まった。しかしデ・キリコは反応を受けて、かつての栄光に戻らなかった。この姿勢がかっこいい。ピカソのように、自己実現のベクトルで次々に作風を変えていった画家だ。

 

形而上絵画の名作が来日

今回は当時、世界に驚きを与えた形而上絵画の名作がいくつも展示されている。「イタリア広場」「形而上的室内」「マヌカン」の3つに分けられている。

イタリア広場は、デ・キリコが得意としていた舞台だ。「人がたくさんいるはずの広場に誰もいない」。こうした日常の舞台における非日常に、幻想的な雰囲気が表れている。また広場に、存在するはずのないモチーフが置かれるのも、デ・キリコの得意な表現だ。

《バラ色の塔のあるイタリア広場》1934年頃 トレント・エ・ロヴェレート近現代美術館 (L.F.コレクションより長期貸与)
© Archivio Fotografico e Mediateca Mart © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

形而上的室内は、第一次世界大戦中に配属されたフェッラーラで見た文房具やビスケットなどを組み合わせて描かれた。広場とは違い、室内画となっているのが特徴だ。普遍的なモチーフが奇妙に組み合わされて描かれており、非日常的なムードに溢れている。

「マヌカン(マネキン)」は、デ・キリコがよく使うモチーフだ。まるで人間のように頭と体があるマヌカンだが、そこに表情はない。この歪さが幻想的な雰囲気を作り出している。

《予言者》1914-15年 ニューヨーク近代美術館(James Thrall Soby Bequest)
© Digital image, The Museum of Modern Art, New York / Scala, Firenze © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

《形而上的なミューズたち》1918年 カステッロ・ディ・リヴォリ現代美術館(フランチェスコ・フェデリコ・チェッルーティ美術財団より長期貸与)
© Castello di Rivoli Museo d’Arte Contemporanea, Rivoli-Turin, long-term loan from Fondazione Cerruti © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

マヌカンは年を追うごとに、だんだんと人間に近い体になっていく。今回の展示では時系列でマヌカンの変化を確認することができる。この変化も見ていておもしろい。

《ギリシャの哲学者たち》1925年 ナーマド・コレクション © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

 

古典絵画から新形而上的絵画へ

先述した通り、デ・キリコのキャリアで最も高い評価を受けたのは、キャリア初期の形而上絵画の時代だ。

そのため、古典絵画への回帰を意識していた時代の作品や、老年期の新形而上絵画は「これ、本当にデ・キリコの作品なの?」と意外に思う方も多いことだろう。それほどまでに作風が違う。

また古典主義に回帰していた時代でも1930年代にはルノワール的な表現だったのに対し、1940年代ではルーベンスを想起させるようなバロックっぽい描き方をしている。

展示風景 © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

全体を通して「デ・キリコってこういう絵も描けるんだ……」と感嘆しながら見ていけるのもおもしろい。

また中盤ではデ・キリコの絵画以外の仕事も紹介されている。バレエ作品などの舞台美術で、衣装デザインなどを担当した。今回の展覧会では、スケッチと実際の衣装が展示された。

ここにもデ・キリコの強烈なキャラクターが反映されている。

展示風景 © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

展示風景 © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

また彫刻も多く展示されている。

展示風景 © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

デ・キリコの得意なモチーフであるマヌカンが立体になっており、金メッキや銀メッキを施された立体は、どこかかわいらしさもある。

立体で見ると、より人間っぽさがわかりやすく見えるのがおもしろい。こうした絵画以外の作品が来日するのもレアだ。

 

デ・キリコへの愛が伝わる会場

また作品そのものだけでなく、会場のディレクションも素晴らしかった。広場の舞台でよく描かれていた建物が使われていたり、あえて錯視を起こさせるような壁のデザインをしていたりと、デ・キリコの「不思議」を体現するような仕上がりとなっている。

展示風景 © Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

作品を見つつも、鑑賞者が楽しめるギミックが施されているので、このあたりにも注目しながら楽しんでいただきたい。

「デ・キリコ展」は4月27日から8月29日まで東京都美術館で開催。終了後は9月14日から12月8日まで神戸市立博物館に巡回する。現代美術好きな方はもちろん、近代美術に関心のある方、哲学が好きな方など、幅広い方におすすめできる展覧会だ。

 

デ・キリコ展
会 期:2024年4月27日(土)〜8月29日(木)
会 場:東京都美術館(東京・上野公園)
住 所:〒110-0007 東京都台東区上野公園8−36
休 室 日:月曜日、5月7日(火)、7月9日(火)〜16日(火)
※ただし、4月29日(月・祝)、5月6日(月・休)、7月8日(月)、8月12日(月・休)は開室
開室時間:9:30〜17:30、金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
観覧料:一般 2,200円、 大学生・専門学校生 1,300円、 65歳以上 1,500円、高校生以下無料
土曜・日曜・祝日及び8月20日(火)以降は日時指定予約制(当日空きがあれば入場可)
公式サイト:https://dechirico.exhibit.jp
公式インスタグラム:@dechirico_japan
公式Twitter(現X(エックス)):@dechirico2024

  • Text : ジュウ・ショ
  • Edit : Seiko Inomata

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