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意味のない日々に愛の歌を。映画『街の上で』

Apr 24, 2020 - FILM
大ヒット映画『愛がなんだ』の今泉力哉監督による最新作『街の上で』。下北沢を舞台に、古着屋と古本屋と自主映画と恋人と友達についての物語を描く。

『愛がなんだ』の今泉力哉と若葉竜也、そして成田凌が再集結

角田光代による同名小説を原作にした大ヒット映画『愛がなんだ』の今泉力哉監督が、オリジナル脚本で制作した最新作『街の上で』。今泉監督の人間愛とカルチャー愛、そして下北沢への愛で溢れた渾身の一作になっている。言葉を選ばず感じたままに言えば、とても静かに愛が爆発している。ゆるゆるな愛おしさが止まらない。

過去の今泉作品が好きな人、それに『愛がなんだ』がハマったという人には自信を持って推せるのはもちろんだが、どちらかというとこれまでハマらなかった人にこそ観てもらいたい。そして「『愛がなんだ』ってなんだ」って人にも当然観てほしい。

職場の古着屋と自宅を往復するだけの毎日。ときどき立ち寄るライブハウス、顔なじみの古本屋と狭い飲み屋。すべて下北沢で完結してしまう主人公・荒川青の小さな日常に、美大生で自主映画の監督を名乗る女性から突然の出演依頼という事件(?)が舞い込んでくる。下北沢の街の上で、青と、青が出会う4人の女性たちが過ごす、可笑しくて愛おしい、ちょっぴり切ない日々と、微妙に変化していくそれぞれの関係を描く。

主人公の青を演じたのはこちらも『愛がなんだ』でナカハラくん役の好演が話題の若葉竜也。本作でも、どこかほっとけない役柄を見事に演じきっている。さらに成田凌が友情出演で駆けつけており、撮影・録音スタッフまで含めてまさに『愛がなんだ』のチームが再集結した形だ。

青が出会う4人の女性たちも、曲者揃いで全員がとても魅力的だ。恋人の雪を『少女邂逅』で主演を務めた穂志もえか、青が通う古本屋の店員を『十二人の死にたい子どもたち』の古川琴音、物語の展開を担う自主映画の監督を、以前QUIでも取り上げた『転がるビー玉』の萩原みのり、映画後半にまさかの重要な役どころとなる衣装スタッフを新鋭の中田青渚が演じる。

4人それぞれの個性を際立たせながらも全員を魅力的に映す今泉監督の演出もさすがだが、それぞれの相手の前で微妙に表情を変える青を見事に演じた若葉竜也の繊細な演技もやはり見逃せない。

 

圧倒的な会話センスは今泉映画の真骨頂

いくつもの細い糸がつながり結びついていくような人間関係の描出には、相変わらず今泉監督らしいセンスが光る。つながる糸、つながりきれなかった糸、ほどけていく糸、絡まり巻き込まれていく糸、ぷつんと切れてしまった糸。映画のなかではそれらがゆるやかな伏線となって、想像の斜め上で結ばれていく。劇的ではないささやかな日常を静かに切り取った作品かと思いきや、不器用に絡み合った登場人物たちの愛がぶつかり合う終盤のシーンは爽快感に溢れ、巧妙に笑いを誘う。

そして、なんといっても今泉映画特有の絶妙な会話は本作でも健在だ。特に印象に残るのは、知りあったばかりの男女2人の、知りあったばかりの男女2人による、知りあったばかりの男女2人のための深夜の恋愛トークだろう。18分近くの長回しで、観ている自分もまるで映画の中の2人と同じ空間にいるかのように感じられるほど、ゆるい温度で会話が紡がれていく。映画の中の本人たち以上に、観ているこちらがその先を期待してしまうような、じれったいような、くすぐったいような、ひたすら愛おしい時間。まったく違和感のない自然な会話でありながら、決して飽きさせることのない圧倒的な会話センスは、まさに今泉映画の真骨頂だ。

 

なんでもない日々の温もりごと包んだ映画

たくさんの劇場とライブハウス、個性豊かな古着屋、小さな映画館、ユニークな古本屋。様々なカルチャーを育んできた下北沢の風景も、毎日少しずつ変わっていく。同じように、変わりゆく街の上で私たちは、今日も誰かとすれ違い、近づいて、そして静かに心は離れていく。だが、変わっても無くなっても、離れても居なくなっても、私たちがここにいたという確かな事実は変わらない。青が言う。「変わっても無くなっても「あった」ってことは事実だから」。

映画が終わっても青の小さな日常は続く。街も人も少しずつ変わっていくけれど、彼らはまたそれぞれの歩みの中で誰かと出会い、特別じゃないけど大切な時間を重ねていくだろう。それは、青たちと同じように私たちのなんでもない毎日が、いつのまにか大切な時間に変わっていることに気付かされるということでもある。

時々思い出して、こっそりきゅんとする名前。親しい仲ではなかったのに、なぜか忘れられない人。何を話したのか思い出せないけど、そんな誰かと過ごした大切な時間。特別な名前をつけられる関係ばかりじゃないけど、すべて確かにそこにあったもの。映画『街の上で』は、誰しもが持っているそんな2度と戻らない美しい日の記憶をユーモアと優しさで精彩に切り取っている。しおりをはさんだまま本棚にしまってある大切な小説のように、ふと思い出して心の真ん中が温かくなるような日々を、その温もりまでまるごと包み込んだ映画だ。

 

 

『街の上で』

2021年春ロードショー

下北沢を舞台に紡ぐ、古着屋と古本屋と自主映画と恋人と友達についての物語。

監督:今泉力哉
脚本:今泉力哉・大橋裕之
出演:若葉竜也・穂志もえか・古川琴音・萩原みのり・中田青渚・成田凌(友情出演)

公式サイト

©『街の上で』フィルムパートナーズ

 

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