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LIFE/STYLE

ファッション誌にフォーカスした古書店「マグニフ」|本屋を遊ぶ vol.1

Jun 26, 2023
本は、そこで出会うこと、そこで買うことに価値がある時代へ。ほしい本がなくても遊びに行きたくなるような、ユニークなインデペンデント書店を巡る連載「本屋を遊ぶ」が始まります。

初回は神保町にある雑誌の古書店「magnif ( マグニフ ) 」。数多の古書店が軒を並べる神保町においても類を見ない、ファッション誌を中心にセレクトしたお店です。店主の中武康法さんに、お店のこと、雑誌のこと、そしておすすめの書籍について教えていただきました。

ファッション誌にフォーカスした古書店「マグニフ」|本屋を遊ぶ vol.1

Jun 26, 2023 - LIFE/STYLE
本は、そこで出会うこと、そこで買うことに価値がある時代へ。ほしい本がなくても遊びに行きたくなるような、ユニークなインデペンデント書店を巡る連載「本屋を遊ぶ」が始まります。

初回は神保町にある雑誌の古書店「magnif ( マグニフ ) 」。数多の古書店が軒を並べる神保町においても類を見ない、ファッション誌を中心にセレクトしたお店です。店主の中武康法さんに、お店のこと、雑誌のこと、そしておすすめの書籍について教えていただきました。

マグニフ(magnif)について

大学生の頃に神保町の古本屋でアルバイトを始めて、何年か働くうちにこの仕事が楽しくなってきたんです。特に古いファッション雑誌って、すごくおもしろいなという感覚が芽生えて、やがてそういったものを中心に扱ったお店をつくりたいと思うようになりました。

そして2009年に、ファッション雑誌を中心にセレクトする雑誌の古本屋「マグニフ」をオープンしました。当時と比べると、神保町には海外のお客様がすごく増えましたね。あとは外国人に限らず、日本人でも観光地として訪れる方が多くなったように思います。神保町は書店だけでなく、レトロな喫茶店や有名なカレー屋さんがたくさんあり、見所のあるスポットだということがここ10数年で周知されたのかもしれません。

世間では本離れや出版業界の衰退などが話題になっていますが、マグニフに関してはむしろお客さんが増えているような感覚があります。映画とか音楽とか、芸能的なものには昔からファンがいて、それを扱う書店は何軒かありますけど、マグニフではタレントが載った雑誌でもあくまでもファッションカルチャーという切り口で扱うことがポリシーで、それが他と違う特徴になっています。

その時代のカルチャーやムーブメントを捉えたうえでその雑誌を評価したいんですね。だから希少性や現在の流行にはとらわれないようにしています。たとえば80年代のファッションって、ちょっと前までダサさの象徴でしたよね。でも今それがかっこいいという雰囲気があるわけじゃないですか。80年代のファッションが載っている雑誌は、ちょっと前までは数百円で売れ残っていたのに、ここ数年はみんな何千円も出して買い集めるようになりました。ちょっと前までダサいと認定されていたものが、急にかっこよくなる瞬間というのがすごく楽しかったりもするんです。

今一番顕著なのは90年代ですよね。90年代の『Boon(ブーン)』なんかは、マグニフがオープンしたころは300円でも結構残っていたんですが、今はもう3,000円ぐらいしたりして。スニーカーやストリートブランドの流行の影響もありますが、『Boon』は中身がすごい濃いですから、ファッション業界の方が資料として価値を見いだしている部分もありますね。

 

雑誌文化の変遷について

雑誌って、その時代が横軸でわかるおもしろさがあるんです。映画とか、音楽とか、興味のある内容だけじゃなくて、広告ページを見るとそのころにこんな商品が生まれたんだとか、こんなデザインが流行っていたんだとか。情報をピンポイントで調べたいなら、ネットのほうが有利な部分もありますが、情報を調べるのと同時に時代が全部見えてくるというのは、雑誌ならではだと思いますね。

雑誌の黄金期といえば、70年代という人もいれば、80年代という人もいるし、90年代という人も結構います。個人的には雑誌が本当に世間を動かす影響力を持っていたのは70年代ぐらいなのかなって。雑誌が読者の三歩先を行って、知らないものを提案していたんです。

やっぱりインターネット以前と以降で雑誌の意味合いが違っていて。たとえば70年代まで遡ると、海外の情報を知りたかったら『POPEYE(ポパイ)』や『Men’s Club(メンズクラブ)』の熱の入り方はすごい。今と比べて文字数も圧倒的に多いですし、眺める雑誌でなく、しっかりと読ませる雑誌だったんですよね。

ファッションに興味を持って積極的に古本屋まで足を運ぶような方なら、1936年創刊の『装苑』はいかがでしょうか。服を着る側だけでなく、作る側として読んでもおもしろいと思います。最初は洋裁の雑誌という感じですね。いろんな服の作り方が載っている。60年代ぐらいになるとパリモードを意識して、ピエールカルダンやディオールのルックの型紙がついてきたり。その後プレタポルテの時代になってくるとモードの情報が多くなって、2000年代になるともう完全にモード誌に。それでもやっぱり、今も作り手のインタビューが充実していたりするのは装苑ならではです。

それにしても長くやっていると、いま出ている雑誌もいずれは古くなるということに気付かされますね。自分の中では90年代もすごく最近で、ちょっと前までは2000年代以降の雑誌は買い取れないと言っていたんですけど、今はもうその時代がすごく懐かしいという人もたくさんいる。いつの間にかちょっと希少になってきています。

 

思い入れのある一冊

『mc Sister(エムシーシスター)』という、『Men’s Club』の妹版の雑誌です。今はもうないんですけど、『Men’s Club』と同じように60年代から頑なに古き良きアメリカを追いかけてきた、わりと珍しい女性誌で。46歳のおっさんが思い入れがあるといって女性誌を出すのもどうかと思いますが(笑)。

これは1981年の号なんですけど、フィフティーズ、いわゆるアメリカの50~60年代のロックっぽい格好をリバイバルで打ち出していたころで、このあたりが僕はすごく好きなんです。『アメリカン・グラフィティ』という映画のような、本当に古き良きアメリカという感じで。こういうカラフルなとこは、今のエイティーズブーム、シティポップブームにも繋がっていると思うんですけど。今の若い子が見てもグッときそうですよね。

この雑誌デザインの中心にいたのが、WORKSHOP MU!!という、音楽でいうと大滝詠一などのレコードジャケットを作っていた人たち。当時一番おしゃれだった人たちが作っている。思い入れがあるというか、自分が本当に良いなと思う一冊です。

 

歴史的に重要な一冊

雑誌でなく写真集ですけど『TAKE IVY』はやっぱり外せません。今は逆輸出されて、アメリカでも英語版が出ているほどの本ですけど、以前にはアメリカのオークションサイトでものすごい金額で落札されたという話もあります。

しかもこれ、65年の初版の帯つきなので、かなり希少なものです。内容は復刻版と一緒なんですけど、版を重ねるごとに色合いが変わってきているので、ネクタイの色や柄までちゃんと見たいという人は初版がおすすめです。

VAN JACKET(ヴァンヂャケット)というアパレルショップが、当時アメリカで流行っていたアイビールックを推していたんですね。それが日本の不良たちにちょっと火がついたのですが、ちょっと変な格好で銀座などでたむろして、社会的によろしくない影響を与えていたので、本当のアメリカの大学生のライフスタイルを啓蒙したくて出版したという話があります。当時はそんなに売れなくて、いろんなお店に配っていたそうですが。

そもそもアイビールックは、アメリカの60年代前後、要は良い大学に通ってるおぼっちゃんの、きちっとはしているけどすごく合理的なファッション。こぎれいなボタンダウンシャツを着ているけど、下はチノパンをカットした短パンだったり。そういう健康的なアメリカの学生のかっこよさが詰まっているんですよね。その後の日本のメンズファッションに大きな影響を与えた原点ともいえると思います。

 

ファッション熱が高まる一冊

先ほどお話しした『装苑』もおすすめですが、80年代ぐらいの『anan』は服飾に興味がある人であればすごくおもしろいんじゃないかな。そこに関わっている人たちが本気で時代に向き合って、世界の状況と流行と照らし合わせながら、本当に頑張って「かっこいい」を提案していたんだろうなというのがすごく伝わってくるんです。

『anan』は70年に創刊して、デザイン的にも内容的にも最初からぶっ飛んだ雑誌だったんです。ヒッピーの時代だったこともあり、ウーマンリブ的な内容だったり、海外志向のファッションだったり。でも70年代になると、後発の『non-no(ノンノ)』が国内旅行などに力を入れていた影響を受けて、少し落ち着いてくるんです。それが80年代頭になってくると、また尖った提案性のある雑誌になっていきました。

たとえばこの号の表紙のスーパーカジュアルという言葉。80年代ぐらいにイタリアのファッションが日本に入ってきたときに使われた言葉なんですけど、たぶん『anan』が作ったんじゃないかな。雑誌として流行を作ろうとはしているけど、最終的には自分が思うように着るのが正解というようなメッセージを感じます。服飾業界の方に限らず、世間の流行に疑問を感じているような方は、読んだらすごく刺激を受ける雑誌ではないでしょうか。

 

magnif
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  • Photograph : Naoto Ikuma
  • Text : Yusuke Takayama(QUI)
  • Edit : Seiko Inomata(QUI)

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